本物を求める青年と救いたい少女   作:ばやす

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第15話

 

 

「私は…、弁護士葉山直次は、今回の裁判において被告人を弁護するという責務を放棄させていただきます。」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

「被告人代表1名は前に出てください。」

 

そう言われて雪ノ下が前に出る。大人が代表でも良かったと思うのだが、中心人物は雪ノ下、由比ヶ浜、平塚先生辺りなので妥当であろう。平塚先生は余計なことを言いかねないので雪ノ下が前に出たのだろう。予想通りだ。。

 

「名前はなんと言いますか?」

 

「雪ノ下雪乃です。」

 

「住所はどこですか?」

 

「千葉県○○市××××です。」

 

「それではこれから千葉市立総武高校でのいじめに関しての裁判を行います。検察官は訴状を読み上げてください。」

 

「それでは、訴状を読み上げます。」

 

いよいよ裁判が始まる。検察の方が訴状を読み上げてくれている間、いくつもの嫌な目線を感じる。総武の連中がこちらを睨んでいるのが伺える。こんな事態になってなお反省すらしていないとはなかなか強かであると思う。いや、頑固なだけか。傍聴席にも勢揃いしていて鬱陶しいことこの上ない。ただ、その場にいる三浦だけは全く別種の視線だった。少し気になるが、今は裁判に集中することにする。

 

「以上について、審理をお願いします。」

 

検察の方が訴状を言い終えた。さて、アイツらがどう出るのかが楽しみだ。

 

裁判長は自身の発言がいい意味でも悪い意味でも証拠になりうることを注意した上で訴状の通りかを質問した。

 

「はい、概ね事実です。しかし、それら全ては原告、比企谷八幡が全ての原因であると断言致します。」

 

この発言で辺りがザワついた。いじめに関してを訴状でこと細かく説明したが、その原因が全て原告にあると聞けば、そうなるのも必然と言えるだろう。あと、俺はもう比企谷じゃねぇ。しかし、流石に公衆の面前では弁えているのか、クズ谷やゴミ谷など、侮辱するような発言はしなかった。

 

「静粛に。それでは雪ノ下さん、訴状の内容を認めていますが、八幡さんが原因であると言いましたね?根拠を教えて貰えますか?」

 

「はい、彼が学校中から暴言を受けるのには理由がありました。それが、文化祭での出来事です。」

 

雪ノ下が文化祭での出来事をこと細かく説明していく。虚言は吐かないと言っていたのは事実のようで、その発言の中に嘘は一切見られない。

 

「という訳です。よって彼は暴言を吐かれても当然であると主張します。」

 

しかし、嘘偽りが全くないというのは今回は下策だ。なぜならその供述の中には文化祭実行委員が揃わなくなったことも、委員長がエンディングセレモニーに来なかったことも含まれていたのだから。

 

「それでは、検察官は質問をどうぞ。」

 

検察の方は立ち上がって質問を始める。

 

「まず最初にですが、訴状を確認した時に総武高校のほとんどの生徒が八幡さんに暴言を吐いていたとありますが、その中に来なくなった実行委員の方々も含まれていたのですか?」

 

その質問にはいと答えたことにより、辺りはまたザワつく。雪ノ下が供述した時に俺は実行委員をサボっていなかったこともしっかりと明言していたので、この時点で俺が原因でないことは証明された。

 

「ありがとうございます。しかし、その答えが本当だったとすると…、その時点で八幡さんが暴言を吐かれるのはお門違いだと思いませんか?」

 

彼女の嘘をつけない性格が仇となった。雪ノ下は何も答えられずにいる。しかし質問はまだ続く。

 

「…答えられないようですので次の質問に行きますね。実行委員長がエンディングセレモニーに来なかったので八幡さん一人に探しに行かせた、との事ですが、どうして八幡さん一人に行かせたのですか?大人数で探した方が効率的だったのでは無いですか?」

 

「それは、委員長を探す為の時間を稼ぐ必要があったからです。エンディングセレモニーが近づいていて、そうしないと到底間に合わないと思って私たちで時間を稼いでいたので比企谷君一人に行って貰いました。」

 

「ふむ、そうですか。…しかし、他にもやりようはあったのでは無いですか?今の答え方からすると、時間を少しでも稼げば八幡さん一人で広い校舎の中から一人を見つけ出してくれると言う事だと取れますが?例えば、ほかの実行委員の人に協力してもらうとか。」

 

そう言われると、雪ノ下はまた黙り込む。

 

「最後です。八幡さんが委員長に屋上で暴言を吐いたと言いましたが、あなた達も同じことをしていますよね?」

 

雪ノ下の顔が真っ青になった。

 

「ちょっと!ゆきのんに酷いこというなし!」

 

由比ヶ浜が茶々を入れる。しかしこのタイミングは逆効果だ。

 

「雪ノ下さんに聞くなとの事なので、代わりに由比ヶ浜さんに聞きますね。どうして八幡さんが屋上で委員長に暴言を吐いたことは悪とみなされ、自分たちが八幡さんに暴言を吐くことは当然だと言えるんですか?」

 

ここでは黙り込む、という選択が最善だろう。しかし、由比ヶ浜はそんなことは考えられなかった。

 

「はぁ?そんなの当たり前じゃん!ヒッキーは悪口言われて当然でしょ?修学旅行でも姫菜に嘘告白してたし!」

 

由比ヶ浜ここで考えられる限りの最悪手を打った。黙っていればただ言い返せないだけであった。しかしここで原告を馬鹿にする発言は被告人として反省をしていないと発言しているも同義だった。

 

しかもここで、俺が訴状には一切書かなかった修学旅行での事を暴露した。この話題は奉仕部メンバーとも密接に絡んでいて、尚且つ俺が家族に絶縁されたことにも絡んでくる、被告人としては絶対に触れさせたくない話題に自ら踏み込んで言ってしまった。これをアホの子と言わずしてなんと言えるだろう。校長先生や教頭先生は何も知らされていないのか首を傾げている。その一方で雪ノ下と平塚は顔を真っ青どころか真っ白にしていた。

 

そしてこの話題に検察官の人が食いつかない訳が無い。

 

「修学旅行のこと?なんです、それは?聞かせて貰えますか?」

 

雪ノ下と平塚先生は目線で止めようとするが、それに気がつく由比ヶ浜ではなく、自信満々に話し始めた。それはもう、余すことなく全て。自分から受けようと言って奉仕部メンバー全員に無理やり告白を失敗させないという依頼を受けたことから俺が絶縁されたことまで全て。

 

被告人サイドは既に放心状態だった。

 

「弁護士の方は、何かありますか?」

 

裁判長は被告人の放心状態を悟ったのか弁護士に話を振った。

 

「 …今回の件について、何か証拠となるものはありますか?」

 

証拠を求められたので数ある証拠の中の数個を検察官が選んで提示する。そして葉山弁護士は口を開いた。

 

「私は…、弁護士葉山直次は、今回の裁判において被告人を弁護するという責務を放棄させていただきます。」

 

辺りは更にザワついた。弁護士が職務を放棄するようなものだ。そうなっても当然だろう。

 

「静粛に!葉山弁護士、理由をお聞かせ願えますか?」

 

葉山さんは堂々と発言する。

 

「私は、弁護士の責務について、無実の罪を着せられた被告人や、事を起こしてしまったが己の行いを悔いて反省している被告人に救いの手を差し伸べることだと考えております。」

 

「しかし、今回の件はどうでしょう。裁判が始まる前の打ち合わせでは無実だと平塚さんから聞き、それを信頼した上でこの場に弁護士として立ちました。しかし法廷で話を聞くと、全く違うではありませんか。弁護士として信用するべき被告人からは虚言を吐かれ、法廷の場においてそれが発覚してなお反省の意を見せない被告人がいる。このことから、私は今回の裁判において弁護を放棄させていただきます。」

 

この後はサクサクと話が進み、証人を呼ぶ必要もなく判決を言い渡される段階まで来た。

 

「判決を言い渡す。雪ノ下雪乃は名誉毀損罪にあたる発言を何度も行った、また、原告と家族の関係を断ち切った張本人として罰金50万円を言い渡す。」

 

雪ノ下は先程からずっと真っ白な顔で放心状態のため特に反応しない。

 

「由比ヶ浜結衣は雪ノ下と同様の罪、また、反省の色がないと見なし罰金60万円とする。」

 

由比ヶ浜はギャーギャー喚くが裁判長の修羅のごとき静粛にを受け押し黙る。

 

「平塚静は自身の生徒への暴行罪、傷害罪及び恐喝罪。弁護士への虚偽報告罪、また、軽犯罪法違反として、これは極めて悪質であると判断し、執行猶予無しの無期限の懲役とする。」

 

平塚は聞いた途端にこちらを思い切り睨みつけるが、今更痛くも痒くもない。

 

「それ以外の学校関係者は、悪質な生徒の噂を流した、またそれを止めなかった為軽犯罪法違反として、総額五千万円の罰金を命ずる。これにて閉廷!」

 

 

上手くいったな。由比ヶ浜が修学旅行の話を持ち出してくれるとは思わなかったがラッキーだった。

 

「検察の方、葉山さんも、ありがとうございました!」

 

そう言って頭を下げる。この二人には本当にお世話になった。

 

「気にしないでくれ。検察として、当然のことをしたまでだ。しかし、まさか君があそこまで重い過去を持っていたとは思わなかったよ…。」

 

検察の方はそう言って苦笑する。俺は検察の方が見てきた中でも類を見ないほどの不幸っぷりらしい。しかし、今思えばそんなことは無い。

 

「今となっては、そこまで不幸では無いですよ。失ってしまった縁もあったけど、得た縁もあることが事実です。しかも前よりも大切にしたいと思えるほどの。だから俺は多分幸運なんだと思いますよ。」

 

と言うと検察の方はまた苦笑して強さだねと返した。

 

「まぁ、縁とは不思議なものだからな。俺も雪ノ下家の顧問弁護士として雇われて縁を得たけど、結局今回その縁を切った。でも、俺が弁護士になったのは法廷でも言ったが裁判官の様に自分の良心に従って正しい人や己の行いを悔いている人を救いたいからだ。だから、俺がしたいことをしたんだ。君が礼を言う必要は無いよ。」

 

本当によく出来た人だと思う。まさに弁護士になるべくして生まれた人だと本気で思ってしまう。

 

「ところで八幡君、君が親から絶縁されたと聞いたけど、もし良かったら、君を引き取ろうと思うんだけど、どうだい?」

 

これはありがたい申し出だ。しかし、俺には帰る家がある。だから、受けられない。

 

「すみませんが、帰る家があるんです。居候ですけど。だから、受ける訳には行きません。」

 

「そうか。でも、親権を引き継ぐだけだから、居候先に居ても構わないよ。苗字はあった方が便利だし、それに何より、これは俺からのお願いで隼人と一緒に編入先の学校に行って欲しいんだ。」

 

葉山さんはずるい。俺はさっき葉山さんにありがとうございましたと頭を下げた。この時点で俺は少なからず葉山さんに恩を感じているという表明になったわけだ。つまりお願いと言われてしまえば、俺としては応えなくては気が済まない。

 

「…葉山さん、ずるいですね。」

 

「法廷で戦ってきたからね。」

 

サラリと返されてしまった。

 

「お願いとあらば、仕方がありませんね。受けます。」

 

と言うと、葉山さんは嬉しそうにうなづいてくれた。

 

「うん。それじゃあ今日から葉山八幡だね。僕のことは父さんと呼んでくれたまえ。あと、敬語も禁止だよ。」

 

少し気恥しい気もするが、父を苗字呼びするのもおかしな話だから仕方がない。

 

「わ、わかった、父さん…。と、ところで、編入先の学校ってどこなんだ?」

 

父さんは声高らかに告げる。

 

「宮益坂女子学院だ!」

 

「……は?」

 

 

 

ヒロイン別でルート分けた方がいい?

  • 分けろ。色んな人との付き合いが見たい。
  • 分けるな。1本でいけ。
  • その他。この質問にその他ってある?
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