本物を求める青年と救いたい少女   作:ばやす

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第2話

 

奏に案内された家は東京都の一角だった。地理的には渋谷にほど近く、どうやら考え事をしながら歩いている間に、千葉からかなり離れていたらしい。

 

「着いたよ。さ、上がって。」

 

「お、お邪魔します…。」

 

案内されて入った部屋は、ゴミ屋敷…という程ではないが、かなり散らかっていた。ゴミはキチンと捨てているらしいが、衣類が散らかっていたり、彼女のベッドのシーツがヨレヨレだったり。それでいてシンクは綺麗だったし、埃はあまり舞っていなかった。今日奏の代わりに持った買い物袋から察するに、カップ麺と缶詰だけで食事を済ませている為、皿は必要ないのだろう。埃の少なさについては知らんが、どうやら家事が苦手というのは本当らしい。

 

「かなり散らかってんな…。明日、きっちり洗濯するわ。」

 

追い出される前は専業主夫を目指していたし、家事全般を元家族から押し付けられていたので、家事スキルは人並み以上にはある。洗濯についても、小町や元母の下着を洗濯してきたから耐性は着いている…筈だ。

 

「うん、お願い。あ、洗面所はこっちで、トイレはあっちね。」

 

廊下やリビングの様子を見て、洗面所やトイレもかなり汚れていると思ったのだが、こちらは存外綺麗だった。洗面所に位置するお風呂も同様だ。どうやらここは綺麗に保ちたかったらしい。まぁ、トイレやお風呂が汚かったら萎えるよな…。いや、待てよ?

 

「奏、お前、トイレとか掃除できるんなら、他の場所も出来るんじゃねぇの?」

 

と聞くと、奏は首を横に振る。

 

「ううん。普段は週に2回、家事代行サービスの人に掃除してもらってるの。」

 

なるほど、これなら納得が行く。埃が少ないのも、代行の人が掃除してくれていたのか。しかし、俺が来たことで、もう頼むことも無いのか?まぁその辺は奏の裁量によるな。

 

「なるほどな。まぁ、俺は追い出される前に風呂はいってきたし、宵崎も入ってこいよ。」

 

と言うと、奏は少し不満そうにする。

 

「宵崎じゃなくて、奏。これから一緒に住むのに、他人行儀で堅苦しいのは嫌だから。」

 

なるほど、確かに筋は通っている。一緒に住んでいる人が堅苦しかったら、なんか生活しづらいもんな。

 

「わかった、奏。ほら、行ってこいよ。ベッドのシーツは直しといてやるから。」

 

そう言うと、わかった。とうなづいて、洗面所に入っていった。

 

奏に言ったように、一先ずシーツを直してから、明日洗濯しやすい様に散らかった服やタオルを一箇所に集める。

 

本当は今からでも洗濯してしまいたいが、夜中だし、音が大きくなるので辞めておく。洗濯物については、ブランド品や、モコモコしたような服はなく、ほとんどがジャージなので、仕分ける必要も無さそうだ。

 

下着に関しては、元家族のもので耐性がつくはずもなく、かなりドキドキした。

 

洗濯物を集め終わった頃に、奏が風呂から上がった。

 

「上がったよ。シーツ、直してくれてありがとう。それじゃあ、今から曲を作るから。」

 

おいおい、まさか今から作業を始めるのか?今はもう深夜3時だぞ?

 

「もう3時だけど、寝ないのか?」

 

と聞くと、奏は少し俯いて、

 

「私は、みんなを幸せにする曲を作り続けないといけないから…。」

 

そう返答する奏に、俺は何も返せなくなる。これは恐らく、今踏み込んでは行けない事だ。そう予感する。普段ならこんな第六感を信用したりはしないのだが、今回ばかりは従っておこうと思う。

 

しかし、こんな時間に寝もせずに音楽を作り続ける彼女を見て、いつか自分を壊さないだろうかと考える。

 

過去の俺が精神的自己犠牲だとするのなら、彼女のそれは肉体的自己犠牲といったところだろうか。

 

彼女を縛り付けているものはなんだろうか。そんな考えても分かるはずのないことに思考を回しながら、家事代行の人が用意したであろう冷蔵庫の食材を使って、奏の為に夜食を用意する。

 

本当なら、寝た方がいいと言うべきなのだろうが、集中している彼女に…、何かに縛り付けられている彼女に届く言葉は、恐らく俺ではかけられないだろう。

 

何も言わなくても分かり合える関係。そんなあるはずの無いものを本物と仮定して追い求めてきたが、そんなものはなかった。やはり人間は、言葉を交わさない限り、分かり合うことも…、分かりきった気になることも出来ないのだ。

 

しかし、今の俺では、たとえ言葉を交わしたとしても、決してわかった気になることすら出来ないと予感した。言葉を発した彼女の、憂い気な瞳を一目みて、それを悟ってしまった。

 

彼女は俺を救えても、俺は彼女を救えない。

 

俺はきっと彼女の救いにはなれない。精々彼女の身体に気を使うことしか出来やしないのだ。

 

悔しいと思うが、同時に仕方がないとも思う。過去の俺が誰も救えなかったように、今の俺にも、誰も救えるはずがない。

 

自分の中でその様に結論付けて、俺は特に何も声をかけることなく、歪んだ少女に夜食を運んだ。

 




pixivの方で八幡の今後のアンケートを取っております。集計がめんどくさくなってしまうのでハーメルンでは実施しません。申し訳ない。
内容としては、八幡を

1.セカイの狭間に入れる。

2.誰もいないセカイに入れる。

3.セカイに入れない。

となっております。回答していただける方は、御手数ですがpixivの方に行っていただけると幸いです。

ヒロイン別でルート分けた方がいい?

  • 分けろ。色んな人との付き合いが見たい。
  • 分けるな。1本でいけ。
  • その他。この質問にその他ってある?
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