本物を求める青年と救いたい少女   作:ばやす

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第19話

 

 日野森を見送ってから屋上を後にする。大体の学校の屋上は立ち入り禁止で人が来ないだろうからマイベストプレイス候補の一つだったが、どうやら普通に出入りできるらしいので除外だな。まぁ、総武は緩かったが宮益坂は罰則とかきつそうなのでよかったと言えばよかったかもしれない。

 

 校門まで行くと、まふゆが一人で立っていた。こちらに気が付くと手を振って駆け寄ってくる。まだ周りに人の目があるから「明るく元気な優等生」を演じなければならないのだろう。

 

「どうした、誰か待ってたのか?」

 

「八幡を待ってただけだよ。一緒に帰ろ?」

 

 これまでの学生生活の中で一度も言われたことのない言葉だった。一緒に帰ろう、ほとんどの学生が言ったことも言われたこともあるであろう言葉を生まれて初めて聞いた。

 

「別に、俺と帰ってもいいことないぞ。」

 

 まふゆは別に構わないと言ったので二人で帰路につく。まふゆの優等生の仮面を見ながら歩いていたが、宮益坂の生徒が見えなくなったころ、ようやくいつもの調子に戻った。

 

「ねぇ、学校での私を見て、どう思った?」

 

「…それは客観的に見てか?それとも俺個人の主観でか?」

 

「どっちも。」

 

「客観的に見てならかなりの好印象じゃねぇの。たいていの奴なら感情豊かな優等生って映ると思う。俺の主観からすればうすら寒いものを感じるけどな。はっきり言って今の嘘偽りないまふゆの方が好きだぜ。ちなみにだけど、隼人の奴もまふゆの仮面にもう気づいてると思うぞ。」

 

「うん、知ってる。話しかけたときに「それ、疲れないか?」って聞かれた。」

 

 予想通りとっくに気づいていたらしい。隼人も近くに雪ノ下さんがいたから雰囲気ですぐにわかったのだろう。

 

「まぁ、うすら寒いと言っても俺個人の主観であって、生きる上では大正解だけどな。」

 

 この社会は変わっている奴ほど生きづらいようにできている。身近なもので例えれば多数決。もっとグローバルに言えば移民排斥思想など、大多数は少数をないがしろにする傾向がある。俺の時だってそうだ。周りが俺のことを悪く言うから周りもつられる。大多数に流されなければ今度は自分が少数派として排斥される。本当にクソみたいな社会だ。

 

「そう…、学校ではあんな感じで、今もこんな感じだけど、私と一緒にいて楽しい?」

 

 少しだけ不安そうな顔で言った。感情どころか何の欲求もなかったまふゆに、自己承認欲求が出てきたのかもしれない。少しずつだが彼女も変化しているのだろうか。

 

「楽しくなかったら今頃ダッシュで帰って音楽の虫になってると思うぞ。」

 

 ストレートに言葉にするのは恥ずかしいので遠回しに言う。昔からの癖だ。

 

「そう…。私も多分だけど、八幡と一緒にいると…、楽しいんだと思う。」

 

 初めていわれた。一緒にいて楽しいと。

 

 今日だけで…、宮益坂に一日通学しただけで初めてのことがたくさんあった。俺のことを邪険に扱わない教師に出会った。クラスのみんなや学校中のみんなから大きな拍手をもらえた。日野森と桃井の本物の関係というものを見た。友人であるまふゆと一緒に下校した。一緒にいて楽しいと言われた。

 

 今日というこの日ほど、生きていてよかったと思うことはなかった。しかし、この先はもっと明るい未来が待っているのか、今日の幸せを上回ることはあるのだろうかと未来に期待してしまう。

 

「…今からどっか寄り道していくか?」

 

「…うん。」

 

 こうして俺たちは家に向かっていた進路を変えてショッピングモールに向かった。

 

 

 今日、私が私でなくなってから初めて少しだけ楽しいと思えた。私に変化が訪れたのはニーゴのみんなと出会ってからだ。奏の音楽、絵名のイラスト、瑞希の動画、八幡の楽器。そしてあの日みんなから受け取った温かい言葉たち。

 

 不思議なものでみんなと話したり出かけたりするうちにだんだんと、うまくは言えないけど、自分は自分のままでいいと思えるようになった気がする。八幡は優等生であろうとする偽りの私をうすら寒いと言い、普段の私の方が好きだとまで言ってくれた。

 

 だから、今までの目標だった自分探しはもうやめることにする。過去の私は過去の私で、今の私は今の私、そして、未来の私は未来の私だから。これからの私が何を感じてどう変化していくのか、どうなりたいのかとかはまだ分からない。だけど今私が考えていることは他人の考えじゃないから、少しだけ私に、そしてみんなに期待することにしよう。

 

 そう結論付けて、私は家のドアを開いた。

 

「ただいま!」

 

「あらまふゆ、今日は始業式なのに遅かったじゃない。」

 

「ごめんね、友達とショッピングに行ってたの。」

 

「あら、そうなの?楽しかった?」

 

「うん!とっても!」

 

 いつもの優等生の仮面をかぶって母と会話する。考え方が変わったと言っても、その相手は今のところニーゴのメンバーだけ。親と話していても特に思うところはない。

 

「それはよかったわね!でもね?友達と遊ぶなとは言わないけれど、遅くまで遊ぶような子はまふゆには合わないんじゃない?」

 

「お母さん、まふゆのためにならないとおもうわ。」

 

 お母さんの口癖だ。まふゆのためにならないと思う。私のことを何もわかってないくせに、私のためにならないと決めつける。内心イラっとしながらもそうだねと母に返す。

 

 …イラっと?

 

 そっか…、私は

 

 両親が嫌いだったんだ。

 

 今まで私は親の言いなりになってきた。その結果、私は私を失った。勉強面に関しては惜しみなくお金をかけてくれる。テストでいい点を取ったら褒めてくれる。ご飯は何を食べたいか、など気を使ってくれてる。

 

 だけど、友達のことだけは一度も肯定されたことがなかった。まふゆのためにならないと思う。まふゆのためにならないと思う。まふゆのためにならないと思う。親に友達のことを話すとこれ以外の言葉が帰ってきたためしがない。

 

 うざい、イラつく、腸が煮えくり返る。私は今まで、こんな親を相手に無感情でいられたの?これなら。こんな苦しい感情を持って毎日暮らすぐらいなら…

 

 私は、心なんていらない。

 

 

 この日、求めてやまないものを手に入れた少女は、その日のうちに自らの手で捨て去ってしまった。

 

 

ヒロイン別でルート分けた方がいい?

  • 分けろ。色んな人との付き合いが見たい。
  • 分けるな。1本でいけ。
  • その他。この質問にその他ってある?
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