高校生二人組に声をかけられる。髪の色が特徴的だったから覚えているが、さっきの演奏の客の一人だ。
「さっきの演奏、聞かせてもらった。素晴らしい演奏だった。」
青髪の方が感想を伝えてくれる。今までは褒められても何か裏があるんじゃないかと疑ってかかったが、音楽を始めてからその癖は無くなった。
「ありがとう。そう言われると演奏した甲斐がある。」
伝えたいことはそれだけ妥当と思って踵を返しスーパーに向かおうとしたがまた止められる。まだ言いたいことを言いきっていなかったらしい。
「あんた、いつから音楽を始めたんだ?」
今度は茶髪の方が聞いてくる。手を見たところ特にタコも肉刺もできていないので楽器はしていないのだろうが、純粋な興味本位だろうか。
「…まぁ、三年ってとこだな。」
平然と嘘をつく。本当は一週間前からなのだがさすがにそれを口にすると反感を買うだろうと思ったからだ。
「三年?三年でギターもピアノも覚えたってのか?」
しくじった。まさかこいつらがこの前のピアノも見ていたとは…。前は今日とは違って思い切り演奏していたのでギャラリーまでは覚えていなかった。
「ああ、まぁ…、講師が素晴らしい人でな…。」
これは嘘ではない。師匠は完璧で自分に足りないものを何から何まで教えてくれた。いつか師匠にあいさつに行かないとな。
さすがにだましきれないかと思ったのだが相手は納得したらしい。
「俺は、貴方のクラシックに救われた。父さんの影響もあってクラシックがどうしても好きになれなかったが、貴方の感性あふれる月光を聴いて、クラシックの素晴らしさを知ることができた。本当にありがとう。」
何気なく絵名に言われて演奏したピアノで誰かを救うことができるとは思ってもいなかった。意図していなかったことだとしてもありがとうや救われたと言ってもらえればこみ上げてくるものがある。
「そしてその上で、俺たちはあなたの音楽を超えて見せます。」
「…それは技術で俺を超えたいってことか?」
「は?」
俺の疑問に今度は茶髪の方が返した。
俺の音楽を超える…。そもそも俺は技術に優劣は会っても音楽に優劣があるなんて思っていない。
カラオケの採点などは技術を数値で競うものだから優劣はあって当然だと思う。
しかし音楽は違う。感じ方や解釈の仕方は人それぞれで、どんな曲が人の心に残って、どんな曲が人を救えるかは数値化できないし、個人によって全然違う。
ランキングなどは一応あるが、一位だから全員を救える曲だとは到底思えない。逆にマイナーな曲が人の心を救うこともあるだろう。
俺にとっての音楽の基準は人を救えるかどうかだ。だから俺は音楽には卓越した技術なんて必要ないと思っている。
「あたりまえだろ。どんだけうまく歌ってどんだけ会場を沸かせられるか。これが俺たちにとっての音楽だ。」
「…あんたとは全然考え方が合いそうにないな。俺にとっての音楽の基準は人の心を動かせるかどうか、人を救えるかどうかだ。例えるなら子供が親に向けて歌うバースデーソング。子供の歌うつたない歌は、関係のない人からしたらそれだけだが、歌われた親はそれだけで心が温かくなる。俺にとってはこれだけでも立派な音楽だ。」
「はっ、そんなのはただの詭弁だ。ステージに立って完璧に歌って会場を熱くする。それが俺にとっての音楽だ。」
音楽への考え方の違い。ミュージシャンは数多くいるが、音楽の考え方が一致しているものと出会うのは至難の業だと俺は思う。その点でいえば俺はラッキーだったのだろう。人を救うための音楽を作るメンバーたちに出会えたのだから。
そして、目の前の青年二人もそうなのだろう。音楽への考え方が一致したからコンビを組んでいるのだろう。だが俺は疑問に思う。
「ならお前らは、うまいだけの歌にあこがれて音楽を始めたのか?」
俺の問いかけに二人は少し訝しんだ後、ハッと何かに気づいたような顔をした。
「…ちげぇ。ただ完璧に歌ってるだけの音楽にあこがれたんじゃねぇ。あの夜のRAD WEEKENDの音楽はそんなちゃちなもんじゃなかった。心に響く何かがあった。それを追い求めて、そしてその上であの夜を超えたいと思ったから俺は音楽を始めたんだ。」
「…俺も気づいていたはずだった。俺はあの夜を超えるために、そしてあの時に感じたものが何かを突き止めるために彰人と組んだんだ。あの夜には父さんの技術だけの音楽にはなかった、心に響く何かがあった。だから俺は音楽をもう一度始めたんだ。」
音楽への考え方の違い。それは音楽を続ける途中でほとんどの人がぶれてしまうものだ。だがしかし、ミュージシャンを目指すもののスタートは全員同じだ。
心に響く何かがあった。
ミュージシャンだけじゃない。ゲームクリエイターを目指す者も、ユーチューバーを目指す者も。それ以外でも人の夢には必ずスタートがあるのだ。それだけは途中で忘れることはあっても絶対に変わることのないものだ。
「俺だって音楽を始めた理由はそれだ。心に響く何かがあった。俺の中で音楽への考え方が変わってもこれだけは絶対に変わることはない。」
二人は妙にすがすがしい顔だった。
「ありがとよ。あんたのおかげで、俺の中での目標を見失わずに済んだ。」
「俺からもありがとう。このままだったら俺もあこがれたものから遠ざかるだけだった。」
「俺としては音楽で伝えたいところだったけどな。」
俺の返しに二人は違いないと笑う。そして茶髪の方が俺に一枚のチケットを差し出す。
「これ、俺と冬弥と後二人で組んでるグループのライブのチケットだ。ぜひ来てくれよ。俺たちの今できる最高を見せてやる。俺は神山高校の一年、東雲彰人だ。」
「同じく神山高校の一年、青柳冬弥です。俺の原点を思い出したうえでもう一度言います。俺たちは、貴方の音楽を超える。あなたよりのたくさんの人の心を動かして見せます。」
「宮益坂女子学院テスト生2年の葉山八幡だ。まぁ、ライブ楽しみにしてる。」
そう返すと二人はふっと笑った後去っていった。
この日の天気は午後からは下り坂の予定だったが、雲一つない快晴で冬にもかかわらず太陽はギラギラと頂点に君臨し大地をギラギラと焦がしていた。
ヒロイン別でルート分けた方がいい?
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分けろ。色んな人との付き合いが見たい。
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分けるな。1本でいけ。
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その他。この質問にその他ってある?