本物を求める青年と救いたい少女   作:ばやす

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第22話

 

 

 買い物を済ませた後、最近見つけた喫茶店に足を運ぶ。ここは東京では珍しいMAXコーヒーを取り扱っているため、買い物の度に立ち寄っている。チェーン店ではなく個人営業の小さな店だったが、奥の席の窓からさす木漏れ日が心地よい。

 

 最近は楽器だけでなく作詞や作曲にも手を出しているため、ここでの作業が休日の生活のルーティーンの一部になりそうだ。それに、どうやらここの店主の謙さんは店を始める前に音楽をやっていたらしく、俺が手掛けたものを見てよく感想を伝えてくれる。とは言ってもダメ出しは全くと言っていいほどなかったが。

 

 それと、謙さんの娘さんである俺の一つ下の神校の一年生、白石杏にせがまれて、よく店に来る宮女の一年生、小豆沢こはねと一緒に勉強を教えたりもしている。文系科目の国語、英語、社会は俺が二人に教えて、数学、理科は俺が作詞作曲をしている間に小豆沢が白石に教えている。音楽を学んでから、国語、特に現代文が得意になって、念のためということで受けた宮女の編入試験では国語は満点だったらしい。音楽から感情を学んだおかげだろう。理系科目も音楽理論を学ぶうちに人並み以上にはなった。隼人には負けるが。

 

 白石ははじめこそ勉強に対する意欲はまるでなかったが、英語を勉強したら洋楽もうまく歌えるようになるし歌詞の意味も理解できるようになると言ったら集中するようになった。他の科目も同様だ。数学、理科は音楽理論に、国語は歌詞に、社会は時代の音楽の流行に、と言った感じだ。少し無茶が過ぎるかもしれないが。父親に似てなのか音楽は好きらしい。物覚えは悪くないのでこの調子でいけば普通に学年上位に食い込めるようになるだろう。

 

「だぁー!!もうだめだぁ!」

 

 白石の活動限界が来たらしく、断末魔を上げる。勉強終了の合図はいつも白石の断末魔で、今日は店内に他の客がいなかったからよかったものの、普段いるときは目立つことこの上ない。

 

「八幡先輩、今日もありがとうございました!」

 

 小豆沢は成績はかなり良くて、はっきり言って文系科目でも現代文以外は俺が教えられることはほとんどないぐらいだが、白石と一緒に俺の授業を受けて必ず礼を言ってくれる、几帳面な奴だ。しかも近くにいるだけでマイナスイオンを感じるような癒しキャラでもある。小豆沢が俺の妹だったらなぁと常々思う。

 

「いや、気にしなくていい。俺が好きでやってることだからな。」

 

「ハチ先輩!今日も勉強頑張ったんで何か演奏してください!」

 

 二人に勉強を教えた後、ここのピアノで店内の雰囲気に合った曲を演奏するのが恒例となっている。というのも、ショッピングモールの楽器店での一回目の演奏を白石と小豆沢も聴いていたらしく、白石が謙さんに打診して俺の店内での演奏が許可された。

 

 軽く2、3曲演奏して店を出る。時間帯の都合もあってか客が少なかったので少々寂しい演奏会になってしまったが自分的には満足のいく音が出せたので特に悲しいといったことはない。

 

 家に帰るために渋谷のスクランブル通りを歩いていると、2人の高校生がゲリラパフォーマンスをやっているのが目に入った。ショーなのだろうか。一人は何かを演じているように見えて、もう一人は演出係なのか、持ってきたのであろう機械のボタンをポチポチと押している。それに連動して、役者を引き立てるような演出が織りなされている。はたから見ていてなかなかに愉快なもので、立ち止まって見ている人も多くいた。途中で役者のアドリブが入ったのか演出家が少しだけ慌てるもののほとんど予想していたかのように軌道修正に入った。

 

 そしてショーの締めくくりに役者がポーズをとった。次の瞬間、役者の真後ろが爆発した。打ち合わせをしていなかったのかは知らないが、役者は驚いた拍子に足をもつれさせて派手に転んでしまった。なかなかに派手な爆発音だったが、警官が普通に見物しているのを見るに、事前に許可はもらっていたのであろう。

 

「おい、類!こんなの打ち合わせにはなかったぞ!」

 

 なんとも締まらない形ではあったが、ゲリラパフォーマンスは幕を閉じた。人が散っていく中、俺は役者の方に近づいた。

 

「これ、使うか?」

 

 今日たまたま紙で手を深く切ってしまったために購入していた絆創膏を差し出す。

 

「おお!ありがとう…、って、のわあぁぁぁ!!ゾンビだぁ!!」

 

 誰がゾンビだよ。初対面でとんでもないことを叫びだすやつだな。スクランブル通りだから目立ってしょうがない。

 

「司君、こっちは片づけ終わったよ。おや?君、変わった目をしているね。」

 

 先ほどの演出家である類とやらはこちらに向かってきた後、俺の目をオブラートに包んで触れてきた。司君とは大違いだ。

 

「まぁ、目のことはいいだろう。デフォだからどうにもならんし。それより、今日のショー、面白かった。」

 

 そう言うと二人は目を輝かせてお互いを見合ってハイタッチ。羨ましい関係だ。さっきのアドリブともいえる爆発があったにも関わらず怒ることなく、関係も一切こじれる事無く二人で喜びあってハイタッチ。

 

 これが、俺の求めていた、ずっと手に入れたかった本物の関係というものなのだろうか。お互いのことを理解しあって、お互いの自己満足を押し付けあって、それでも一切揺らぐことのない友情。演出家はアドリブをとった役者を平然と輝かせて見せた。役者はアドリブで自分の真後ろを爆破されたにも関わらず、演出家は謝ってもいないのに、平然と…、まるでそれが日常であるかのように接していた。

 

 本当に、心底羨ましい。俺がどれだけ求めて体を張っても手に入れられなかったものが、今目の前にある。しかし、そんな表情はおくびにも出さない。

 

 今の俺には、本物になり得る関係があるのだから。

 

ヒロイン別でルート分けた方がいい?

  • 分けろ。色んな人との付き合いが見たい。
  • 分けるな。1本でいけ。
  • その他。この質問にその他ってある?
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