まふゆが俺の手を取った瞬間に駅に向かって走り出した。まふゆの両親はまだ状況が呑み込めていないのか、はたまたただ茫然としているのかは知らないが追いかけてはこなかった。奏の体力が思った以上に無く、100メートルも走らないうちにバテてしまったのでこの結果は僥倖だった。
「奏…、お前もうちょっと体力付けた方がいいぞ。」
俺がそう言うと、絵名と瑞希も頷いた。4人が平然と立っている中、奏だけは手を膝について呼吸を荒くしていた。
「いや…、でも……、普段はこんなに…、走らないし…。」
しゃべるのも途切れ途切れだし、これは本格的に運動を奨めた方がいい。
奏の回復を確認した後で、主に絵名と瑞希が喋りながら再び駅の方へと歩き出す。フェニックスワンダーランドについたらショーを見た後何のアトラクションに乗ろうかだとか、お土産は何を買うかだとか、パレードが楽しみだとか、今日この後のことを話す。話題が変われば、今日はいつもよりは気温が高くて暖かいだとか、奏の体力作りはいつにしようかだとか、どうでもいいことを駅に着くまで話す。その間、まふゆだけは一言もしゃべらずにただ黙って歩いていた。
「ねぇ、なんでそんなに私に構ってくれるの?」
駅に着いたときに、まふゆは心底不思議そうな顔で口を開いた。
まふゆは今まで、他人から本当の自分を見てもらったことがなかった。よく言えば優等生のまふゆ、いい子のまふゆとして、周りから認識されていた。最悪な形で表現してしまえば、自分の理想を押し付けられる相手として、手間のかからない相手としてまふゆは見られていたのだろう。もちろん見ていた相手は全員「無意識のうちに」だろうが。
だからこそ、今まで優等生を演じてきて、演じないと誰も私を必要としないだろうと思っていたまふゆにとっては全く分からなかった。いや、わかったつもりでいた。
あの日、セカイで閉じこもっていたときに八幡や奏、絵名、瑞希が来てくれた。特に八幡は一週間もの間まふゆに付き添い、本当の、優等生ではないまふゆを真正面から受け止めたうえでそっちの方が好きだと言ってくれた。その後から来たみんなも同じことを言ってくれた。心配したとも言ってくれた。今日顔を合わせるのが初めてのはずなのに、涙まで流してくれて、虚無に還ってしまった心が少しだけ温かくなった。
それでも今回のことは分からなかった。だって、八幡たちがセカイまで来てくれたのは、まふゆが行方不明になっていたからだ。急に音沙汰がなくなったからこそ探しに来てくれたのだろうと思った。
だけど今回は違う。まふゆは今回、家で勉強するからと言って断った。行方不明になったわけでもないし、迎えに来てほしいと言ったわけでもない。だけどみんなはまたしても来てくれた。面倒なくらい過保護なまふゆの両親に一歩も引かずに、まふゆのために口論を続けてくれた。その理由が、どうしても分からなかった。
まふゆの問いに、全員で答える。
「「「「5人揃って行きたかったから」」」」
この答えは4人で一言一句違わずぴったりそろった。
「え…、そんな理由で、来てくれたの?」
まふゆには今までそんな経験はなかった。遊びに誘われることがなかったのだ。優等生はそんなところにはいかないと決めつけられた。一緒に行きたいと思われても、誘われることは絶対になかった。
「おう。なんだ、もしかして不思議か?」
まふゆはこくりと頷く。
「なら、俺と同じ元ボッチだな。まふゆ、友達いなかっただろ。俺なんてむしろ誰からも話しかけられなかったまである。」
「八幡と一緒にしちゃだめだと思うな…。でも、まふゆに友達がいなかったってところはボクも同意見かな。」
「大体、まふゆが優等生なんてありえないでしょ、このグループ一の問題児!」
「絵名が言えたことじゃないと思うんだけどなぁ…。」
「ちょっと瑞希、今なんて言った?」
そうしていつもの絵名と瑞希の口げんかが始まる。
「5人で行きたいっていうのは本当だよ。だってニーゴは、1人でも欠けちゃだめだから。」
その奏の一言に俯いたまふゆに近づいてミュージックプレイヤーを渡す。
「これ、なに?」
俺がミュージックプレイヤーを渡したのを見て、絵名と瑞希は口げんかを止める。
「俺たち4人がまふゆのためだけに作った、この先一生世に出回ることのない曲だ。」
まふゆはすでにプレイヤーに取り付けていたイヤフォンをつけて再生する。最初は普通に聞いていたまふゆだったが、最後にはうっすらと涙を浮かべていた。
「そっか…。これ、私が初めてKの曲を聴いた時の感じと似てる。いや、それよりもっと凄い。」
俺たちが全身全霊を込めて作った曲は、まふゆの心に届いたようだった。
「これが、救われるってことかな…。今、心が温かいの。」
「届いたか?これが、俺たちの総意だ。」
絶対に もう二度と 一人にさせてあげないから
「私もみんなみたいに、誰かを救いたいな。」
この時にまふゆが涙ながらに浮かべた笑顔は、真夜中を象徴する月のように明るいものだった。
はい、今回はあとがきがあるんですよ。珍しいこともあるんですね。今回から、タイトルは「本物を求める青年と救いたい少女たち」になります。この作品を開くときのタイトルはネタバレを避けるためそのままにしてますが。(ネタバレも何も目次から見れるんだから関係なくね?と思ったそこのあなた。お口チャックしててください。
理由なんですけど、ニーゴってまふゆだけは明確に誰かを救いたいという思いを持っているとは自分は思わないんですよ。それが今回明確になったことに伴い、タイトルも2文字だけ変更しました。え?瑞希?少女ですよ?
ヒロイン別でルート分けた方がいい?
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分けろ。色んな人との付き合いが見たい。
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分けるな。1本でいけ。
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その他。この質問にその他ってある?