本物を求める青年と救いたい少女   作:ばやす

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第5話

 

喫茶店から出たあと、雪ノ下さんに連れられて携帯ショップに言った後、スタジオに来た。前の携帯は既に解約されていたので、雪ノ下さんに買ってもらった。もちろん抗議したが、携帯はお詫び、音楽はお礼という事で押し切られてしまった。

 

スタジオは何でも楽器が一通り揃っているらしく、初心者にはピッタリの場所らしい。しかも自販機にはマッ缶もある。

 

「さ、それじゃあ早速基礎からおぼえようか!」

 

手始めにピアノとギターの基礎から習う。ピアノの楽譜の読み方などはある程度小中学校で習っているため割とすんなり覚えられたが、ギターの楽譜は見たこと無かったので少々手間取ったが、1時間ぐらいかけて音楽記号まで何とか全て覚えることが出来た。

 

そんな感じで授業を受けていると、あっという間に夕方になってしまった。

 

「今日はありがとうございました。」

 

「うん!だけど八幡君、覚えるの結構早いね?驚いちゃったよ!」

 

他の人がどれだけかかるのかは分からないが、かなり早いらしい。

 

「明日は講義があるから、次は明後日ね!」

 

分かりましたと返して、スタジオから去る雪ノ下さんを見送る。

 

完全に背中が見えなくなった後、少し飲み物を買おうと思ってスタジオ内の自販機に向かう途中、テーブル席に望月さんが座っているのが見えた。俯いていて表情は分からないが、何か嫌なことでもあったのだろうかと思って、たまたま自販機に並んでいたマッ缶を2本買って望月の座っている席に近づく。

 

「相席、いいか?」

 

望月さんは驚いた様だが、直ぐに落ち着いてどうぞと着席を促してくれた。

 

はっきり言って、今回の行動は個人的には怖かった。

 

雪ノ下さんには救われたと言って貰えたけど、それは無意識のうちに…、それも何気に避けていたにも関わらずだ。それに対して今回は自発的に相手に近づき、傲慢なことに自分の手で救おうとしているのだ。それも今日会ったばかりの相手をだ。

 

怖い。誰とも関わりたくない。出来るなら一人で生きていきたい。でも…

 

こんな俺でも誰かを救うことが出来るかもしれない。

 

そう知ってしまった。そう知ってしまったから、今俺は心のどこかで天狗になっているのかもしれない。舞い上がっているのかもしれない。傲慢になっているのかもしれない。自覚している。でも…

 

目の前に途方もなく悩んで、落ち込んでいる他人(知り合い)を放っておきたくない。

 

俺が救える可能性なんて、きっと小数点以下だろう。でも、ゼロじゃないと知った。

 

俺じゃなくてもいつか望月さんは誰かが救ってくれるだろう。誰かではなく時間が解決してくれるかもしれない。

 

でも、それが…、その誰かが俺でもいいんじゃないかと思ってしまった。

 

らしくない。他人の一言で変わってしまうなんて俺らしくない。かつて、俺は自分が好きだと言った。変わらない俺の事を。何もせず、ただ本物だけを求め続けていた傲慢な俺のことが。

 

だけど、今の俺は今の俺自身のことが…、誰かを救いたいと思う傲慢な俺が好きだ。

 

ここで、過去の俺とは決別しよう。これからはただ待つんじゃない。俺自身の手で、本物を掴み取りに行くんだ。

 

「急にごめんな、望月さん。」

 

そう声をかけてMAXコーヒーを渡す。

 

「あっ、ありがとうございます。」

 

受け取ってはくれたがプルタブを開けようとはしない。彼女の顔は今日奏の家に来た時の6割増で暗かった。

 

「なにか、あったのか?」

 

単刀直入にそう聞くと、望月さんは少し驚いたような顔でこちらを見た。そして、ポツポツと喋り始めた。

 

曰く、かつて、仲のいい幼なじみが3人いたらしい。毎日のように一緒に遊んだり、バンドを組んだり楽しい毎日を過ごしていたらしい。

 

しかし、幼なじみの1人が入院してしまってから、その関係はガラッと変わってしまったらしい。

 

二人は何とか関係を修復したいと話しているが、もう1人は3人を避けているような感じで、望月さんはどうしてももう1人が気になってしまって本当の思いを言えずにいるらしい。

 

「こんな感じかな…。ゴメンね?普段ならこんなこと言わないんだけど、やっぱり私も参っているみたい…。」

 

望月さんは、きっと強い女の子なんだろう。誰かを気遣って本音をひた隠し、普段なら悩みがあっても決して誰かに打ち明けたりはしないような人間なのだろう。

 

それでも、今日会ったばかりの俺にこんな事を話すなんて、恐らくもう限界なのだろう。

 

「…これは俺の友達の友達の話なんだがな?」

 

奉仕部にいた時から、俺の黒歴史を語る時はいつもこの言い回しを使っている。

 

「かつてソイツは本物を求めていたんだ。たとえ言葉を交わさなくても…、目を合わせなくても分かり合える関係をな。」

 

望月さんは黙って俺の話を聞いてくれている。

 

「でも、ソイツは何時しかそんな関係なんて存在しないと悟ってしまったんだ。そいつはいつだってボッチだったからな。本物どころか、普通の関係すら築けなかったんだ。」

 

「だけど、高校2年のある時、部活に入れられて人と関わる機会ができたんだ。ソイツと部員は軽口を叩き合う関係で、ソイツはそんな時間を大切に思っていたんだ。そして、勘違いしてしまった。こいつとなら本物の関係を築けるかもしれない、とな。」

 

「しかし、そんなことは有り得なくて、今ではお互いに憎み合うようになってしまった。ソイツは本物を求めるあまり、自分の考えを…、自分の気持ちを伝えることを疎かにしてしまった。その結果だ。」

 

望月さんは先程よりも少し俯いているが、耳を傾けてくれている。

 

「で、俺が言いたいのは、自分の気持ちを伝えないと、いつか必ず後悔するってことだ。」

 

そう言うと、望月さんは顔をガっと上げた。何か、大切なことに気づき始めたように。

 

「相手とどんなに親しい関係だったとしても、考えを相手に伝えない限りは決して伝わらない。最悪の場合、ねじれ曲がって相手に届く事だってある。だから…」

 

俺は、自分のかつての高校生活を思い返しながら言葉を紡ぐ。

 

「失ってしまう前に…、後悔してしまう前に、自分の思いを相手にぶつけるべきだ。それに、人間ってのは不思議なもんでな。関係の修復は不可能でも、ゼロから始めることは不可能では無いんだよ。」

 

彼が過去を伝え終わったと同時に、望月さんは涙を流しながら顔を上げ、1人の少女が近くの席からガタリと音を立てて立ち上がり、二人の少女はただ口を結んで望月ともう1人の少女を心配そうに見ていた。

 

「そっか…。そう、ですよね。うん、私、もう自分を偽るのはやめます。今はただ…、この想いをあの子たちに伝えたい!」

 

望月さんがそう高らかに宣言したと同時に、三人の少女は望月さんに抱きついた。

 

「みんな…、あのね、私、伝えたいことがあるの!」

 

そんな彼女を見て、彼はそっと席を立ちスタジオを立ち去った。もう、心配は要らないだろうと。

 

「私も…。今まで言えなかったけど、どうしても言いたい事があるの…!」

 

ただ後ろだけを見ていた…、誰かに気を使いすぎるあまり自分を見失った一人の少女が。

 

どうしても素直になれず、もう一度今までのように友達と話したかったが冷たくあしらってしまった少女が。

 

もう一度、今までのように仲良くするために自分の思いを伝え続けた二人の少女が。

 

今までずっと離れ離れだった四筋の流星が、今やっと寄り添い合い、流星群の輝きを取り戻した。

 

彼にお礼を言おうとした少女は、今やっと彼が居ないことに気が付き、手元に残った一本の缶コーヒーを胸に抱いた。

 

 

 

 

ヒロイン別でルート分けた方がいい?

  • 分けろ。色んな人との付き合いが見たい。
  • 分けるな。1本でいけ。
  • その他。この質問にその他ってある?
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