目を覚ますと、時刻は既に午前十時だった。全く眠った気がしないくらい眠いが、まだ奏に朝ごはんを作っていないので渋々布団から出る。
消えたい、か。小中の時は思い出すだけで恥ずか死にたくなる、存在ごと消えてしまいたくなる黒歴史は沢山あるが、奉仕部の二人に拒絶された時、元家族に勘当を言い渡されたときは、不思議と死にたいとも消えてしまいたいとも思わなかった。生きるためにこれからどうするかを考えていた。だから彼女の…、雪の気持ちは俺には分からない。
彼女のセカイは…、想いは何も写してなんて居なかった。ただただ虚無が広がっているだけ。はたして俺に彼女を救うことは出来るのだろうか。
思考の海に耽っているうちにパンが焼けたので、奏をリビングに呼んで食べ始める。奏も寝ていたらしく、まだ髪もボサボサだ。
パンを咥えながらネットでニュースを見る。その中には、なんと総武高校の事も載っていた。
【全国有数の進学校でいじめ発覚!?】
というありがちな見出しだ。内容としては、文実実行委員のほぼ皆勤で、学校の評判を守り抜いた生徒をサボり扱いし、修学旅行でもひとつのグループを守るために汚れ役を着せて、その上その件で家族に絶縁されるというものだった。
俺にとってはもう関係の無い事だと他のニュースも見ていると、雪ノ下さんから電話がかかってきた。
「はい、もしもし。」
『あ、もしもし八幡君?今朝のニュースは見た?』
「ええ、見ましたよ。雪ノ下さんがやったんですか?」
『いや、私じゃないよ。戸塚君と川崎さんと材木座君、それと隼人のやつが全てぶちまけたんだって。』
葉山が?戸塚、川崎、材木座はともかく、個人よりも全体を守るあいつがそんなことをするとは思えなかった。
『私も隼人がそんな事するとは思えないから呼び出して聞いたんだけどさ、こう言ってたよ。』
『修学旅行が終わってからの学校で、もう比企谷の噂が悪い方向で広がっててさ…。言いふらしたのは大和と大岡だろうし、戸部と海老名も助けてくれた比企谷の事を平然とバカにしてたんだ。ここでようやく、僕が依頼する前に言っていた比企谷が言ってた事の意味がわかったよ。所詮そんなグループ、ただの欺瞞だってね。彼が守ってくれたけど、そんな彼をバカにする連中とは、どうしても上手くやっていけそうに無かったし、そもそもそんな奴らと仲良くもしたくないからね。だから、俺も家族との絶縁覚悟でマスコミにリークしたんだ。これで総武高校もその生徒も…、雪ノ下家も失墜さ。みんな仲良くなんて不可能だって、ここでようやく気がついたよ…。』
まさかあの葉山がそんなことを言うとは思いもよらなかった。
「それで、雪ノ下さんは今どうしてるんですか?」
『雪ノ下家の次女がそんなことをやらかしてるなんて分かった途端にマスコミが即座に駆けつけてね…。今はその対応で必死だよ。ほんとに隼人の奴…。でも、あいつも成長したかもね。』
「…そうですね。ちょっと前まではみんな仲良くが口癖でしたからね。ちなみに、今葉山たちはどうしてるんです?」
「今はいじめが発覚したからリークした張本人ということで警察に事情聴取を受けてるよ。その他の生徒たちもね。」
どうやら葉山は本当に成長したらしい。周りに合わせることしかできなかった人間が、この時、力関係の大小を問わず、正しい人間を庇護できる人間になったのだ。
それに、戸塚、川崎、材木座。アイツらも学校中の噂を信じず、俺を信じてくれたらしい。俺にも味方はいたんだなと思うと胸に温かさが染みる。
「…そうですか。あいつらには、礼を言わないと行けませんね。」
『そうだね。どの道隼人がやらなくても私がこうしてたしね。手間が省けたし、お礼はしないとね。まぁ、これから暫くは全員忙しいから、もうしばらく後になっちゃうけどね。』
「分かりました。それじゃあ片がついたら連絡ください。」
『はいはーい。じゃあね。』
そう聞こえた後に通話が切れる。
「なにかいい事でもあったの?」
と奏が聞いてくる。
「ああ。今日、素晴らしい事があったんだ。」
「そっか。それは良かったね。」
たったこれだけの会話だったが、それさえも幸せに思えてくる。また少し、心の氷が溶けていった気がした。
不思議なものだ。少し前までは、一人でいることが何よりも有意義な時間だったはずなのに、今では奏といる時間が有意義だと思っている。戸塚や川崎、ついでに材木座に葉山にも会いたいとも思っている。ここから俺は本物を得ることが出来るのだろうか。
いや、掴んでみせる。俺の事を心から思ってくれている友達がいる。俺を救いたいと言ってくれる少女がいる。あとは、俺だ。俺が本当に心を開くことができるなら…、きっと彼らと、そして奏と。もしかしたら、もっとたくさんの人達と、本物を掴めるかもしれない。
世界は俺一人じゃない。きっと誰かが見ていてくれる。
そう結論づけて、俺はまだあったことも無い少女を救う方法を考え始めた。
総武side
戸塚・川崎・材木座・葉山
「ハポン!相棒の今までの事をマスコミにリークしただけでまさかここまでの騒ぎになるとはな!まぁ、これも当然の報いというものであろう!」
と、材木座は言う。本当にその通りだ。全国有数の進学校でいじめが発覚したのだ。しかもそこに雪ノ下家の次女が絡んでいるとなればマスコミが食いつかないわけが無いのだ。
「そうだね…。でもまさか比企谷のやつ、修学旅行から帰ってきた次の日からもう退学したなんてね…。」
比企谷が退学したことは、修学旅行翌日に彼の家族から絶縁された事と同時に伝えられた。本来ならば退学の事だけ伝えられるのだろうが、どうやら担任も比企谷の事をよく思っていなかったらしい。
それに、周りも周りだ。それを聞いて優美子以外のやつは平然と笑っていた。俺は今まで、こんなヤツらと仲良くしようなんてほざいていたのかと思うと、自分のことが恥ずかしくなる。
「本当に、八幡の事をバカにしていた人たちもどんよりしちゃったよね。ま、当然だけどさ。」
比企谷が退学してから、戸塚の発言の所々でダークな一面が見られるようになった。まぁ、友達がそんな目にあってしまったのだから無理もないだろう。
「そうだね。俺もこれからは雪ノ下家のこともあるし、暫くは学校に来れないし、下手したら父さんの仕事も無くなって、もう学校に来られないかもしれない。」
「そっか…、少し寂しくなっちゃうね。でも、葉山君っていい意味で変わったよね!」
「うむ!テニスの時といい、修学旅行の以来の時といい、その時は周りの意見だけを尊重し、いざとなったら他人任せにする野郎だったのにな!」
「俺は今までそんな風に思われていたのかい…。」
「まぁ、それは当然でしょ。でも、あんたがこのことを手伝ってくれるなんて思ってもみなかったし、本当に変わったと思うよ。」
と話していると、俺の携帯に着信が来た。陽乃さんからだ。
『ひゃっはろ〜!隼人、随分とエライ事をやらかしてくれたね!おかげでこっちはマスコミの対応からその他諸々とんでもない激務に追われてるぞ!』
「すまないな、陽乃さん。でも、比企谷…、いや、今は八幡か。彼が文化祭を、そして俺のグループを守ってくれたのにあの仕打ちっていうのはどうしても納得出来なかったんだ。だから、親から絶縁されるのも、学校を辞めて働くことも、陽乃さんに思い切り殴られることも覚悟してるよ。」
というと、陽乃さんは今まで聞いたことの無いぐらい優しい声音で話し出す。
『そんな事しないよ。隼人たちがやらなくてもきっと私がやっただろうからね。まぁ、私だったらもっと派手にするけどね!今の家も、雪乃ちゃんも、面白くなくなっちゃったんだもん。』
どうやら今の彼女にとっては、雪乃ちゃんも最早どうでもいい存在らしい。
『忙しいからそろそろ切るけど、最後に一つだけ。あんた、やっと男らしくなったね。』
陽乃さんからそんなことを言われるのは初めての事だったので、思わず涙してしまった。今まで認められたかった憧れに、今やっとこのような形で少しだけ認めて貰えたのだ。
三人の仲間に囲まれながら、成し遂げた男は歓喜の証を、そして、救ってもらった相手を守れなかった悔しさの証を地面にしかと叩きつけた。
ヒロイン別でルート分けた方がいい?
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分けろ。色んな人との付き合いが見たい。
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分けるな。1本でいけ。
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その他。この質問にその他ってある?