午前のキングズ・クロス駅……いや、9と4分の3番線は、大勢の人間で賑わっていた。
この中に、純血の魔法使いはどれだけいるのだろうか。
ふとそう思ってから、ドラコは首を振った。
きっと大多数がマグル生まれなのだろう。今の時代、純血の魔法使いというのは数少ない。
実際、これから向かうホグワーツだってマグル生まれが大半を占める。本来なら、純血……百歩譲って半純血……の魔法使いだけにその門は開かれているはずなのに。
……ああ、気分が悪い。
かくしてドラコは気分を紛らわすために、自分の斜め前方にいる姉……レツェリアに目を向ける。
さらりとした金髪に、白い肌、高い鼻。誰もが好感を抱く顔立ち。ちょっと見ないレベルの美少女で、しかも普通の人が一年かけるものをたった半年でマスターする才女? 神が全力を賭して作り上げでもしたのか?
プラチナブロンドに冷たいグレーの瞳、そこそこ頭がいいレベルのドラコにとっては嫉妬の対象になることも多かった。
姉が努力型の天才である事を知っていても、だ。
「ドラコ、どうしたの?」
突然笑みを含んだ瞳でそう問いかけられ、心臓が飛び跳ねる。
深みのある薄紫色の瞳はこちらの考えを見透かされているようで、ドラコは少し苦手だった。
特に、後ろめたい事がある時は。
「いや?……もうそろそろ出発時刻だから、列車に乗った方がいいと思ってさ」
11時二十分前を指す腕時計を見せると、レツェリアは笑みを深めて母、ナルシッサの方を向いた。
「ああ、そういえばそうね……じゃあ母上、行ってきます」
「行ってらっしゃい、頑張って。楽しんで来なさい」
ナルシッサは笑顔でそう言うと、ドラコ達の額にキスをした。
「ルシウスも来られれば良かったんだけどね、部下の不始末の処理をさせられることになったとか何とかで……」
「仕方ないよ、仕事だもの。じゃ、ね。クリスマス休みに帰るよ」
ほおに手を当て残念そうな顔をするナルシッサに、レツェリアは笑顔で手を振り、ドラコの腕を掴んで列車に引っ張り込んだ。
僕の姉は、いかにも儚い美少女です、という顔をしておきながら時々こういう強引なことをする。
「何するんだ」
「だって、あのまま行ってたら母上の長話に付き合わされて列車に乗り遅れちゃってたよ?ドラコだって、入学初日から遅刻した生徒第二号になるよりはマシでしょ?」
まあ確かにレツェリアの言う通りではある。
ドラコの美しき母上でさえも世の母親が抱える悪癖をいくつか持っていた。そう、例えば長話だとか十一歳になる息子達を子供扱いするだとか。
……それにしたって、第二号とは?
「お前より足が速いから第二号にはならない」
「いや、絶対に私がドラコより先に滑り込むから、ドラコは第二号だよ」
堂々巡りの水掛け論に勝利した気持ちになっているのだろう、レツェリアは自慢げに微笑んだ。
どこからどう見ても完璧なそれにため息と呆れ顔を返して、ドラコはポケットから手紙を取り出す。
親しくしている友人からの手紙には、コンパートメントの番号が書かれていた。
レツェリアも似たようなものを貰っていたらしく、つまらなそうな顔で番号を確認している。
「219?うわあ、ここから一番遠い所じゃない。最悪」
つ、と口を尖らせるレツェリアに、ドラコも真似して口を尖らせる。
「だから、先に確認しておけとあれ程……」
「ああ、約束に遅れちゃう!じゃあね、ドラコ!」
お説教の匂いを嗅ぎつけたのかドラコの話を遮り、満面の笑みで手を振ったレツェリアを見てドラコも苦笑しながら手を振り返した。
ほとんど全ての事がよくできる、容姿の整った少女だとしても。
時々強引な事をするとしても。
嫉妬の対象だったとしても。
ドラコはレツェリアの事を姉として愛していたし、レツェリアだって同じ事だった。
あの時までは。