【ロキ・ファミリア】本隊と合流してから数日がたった。
リヴィラの街で多くの物品を購入し、ほっくほくの顔をしているパラケルの目にどこかで見た青い紐とこれまたやはりどこかで見た帽子の長身が映った。
「うん…?うん!?間違いないよねぇあれ!?なんでここまで!?と…とにかく合流しようか」
パラケルは全力で走り出した。
ちなみにパラケルの全力疾走は今のところドーピングなしではアイズのものの1/3以下である。
しかしそれ以前に神は零能の存在ゆえにどうにか追い付くことに成功する。
「はぁーっ…おいついたぁ…」
「必死に走ってきたから何事かと思ったよ…俺たちになんの用だ?」
「誰だろ…あーっ!思い出した!君はベルくんの言っていた錬金術師くんかー!いつもボクのベルくんがお世話になってるよ!ボクのベルくんが!」
なぜか力強くボクのという部分を強調するヘスティアに呆れた笑みで返し、言葉でも返しつつ本題に入るパラケル。
「……?別にベルくんの貞操を狙っているわけではないんだが…?まぁいい、なぜ神がダンジョンにいるのかな?」
「ベルくんを探しに来たんだ!タケ…あぁ、タケミカヅチのところの子供たちと一緒にね!」
「ご安心あれ、神ヘスティア。彼は現在帰還準備中だ、じきにお送りできると思われる。神ヘルメスもいるということは【万能者】もいるのだろうし問題はないだろう」
「本当かい!?ベルくんは生きてるんだね!?ありがとう、錬金術師くん!」
ひどく嬉しそうなヘスティアを見て、パラケルは子供思いはどの神もだが、ヘスティアはひとつ格が違うと思うこととなる。
この会話を最後に、その日は別れる。パラケルは次の1日を研究に費やし、多くの外でのアクシデントなどを完全に無視していた。
曰く、水浴びに兎が混入したとか。
曰く、厄介な連中に兎が目をつけられているらしいとか。
そんな話を聞いても特になにも思うところのなかった…あるいはたぶん彼ならなんとでもなるだろうと思い出立を遅らせようとしていたパラケルは、二つの事によって考えを変えさせられる。
一つ目は、フィンからの伝達だ。【万能者】と共に護衛につき神々を守り抜けという伝達。その伝達には従ったほうがいい、とさすがに判断したわけだ。
二つ目は、街外で実験を行っていた彼女の耳に飛び込んできた不穏当な言葉である。白兎、調子に乗っている、新米ごときが、ベテランの俺たち、上下関係。このあたりまで聞いて、大体彼らがなにをするつもりかが理解できてしまったのだ。その言葉通りと言うべきか、なんというか。
「しまった、俺の透明マントが盗まれた!」
「神ヘスティアが拐われた!ベル・クラネルに単身で来いと…!」
事は起こった。【ロキ・ファミリア】本隊が先に出立、比較的少ないリスクで神々を帰還させる策を講じたのを見計らい、裏の思惑もあって、ヘスティアが誘拐された上でベル・クラネルを呼び出す卑劣な策が動いていた。
一方的に撃たれる、打たれる、射たれる、悲しみの兎。
「ぐぅっ!」
「おら、立てよ!神が大事なんだろ!!?あぁっ!?」
「クッソぉ…!」
自称ベテラン冒険者の彼らは愉悦に浸っていた。自分達より遥かに才能のある奴らをこうして潰すことは、彼らの才能の無さを一時的に忘却させる。己がこれだけ戦ってきてなお燻る種火でしかないことを、忘却させる。
パラケル・タキオンは高所からそれを見つめていた。愚かな冒険者たちを見下ろして、見下していた。
「あぁ、結局私はお人好しすぎるのかもしれないな」
その地へと、足を踏み出そうとして…身体が止まる。
「戦いをやめるんだ」
【神威】。強大な神という超越存在の力。いつの間にか彼女が救われていたこと、神威を使うことに対する驚きはヘスティアの子供思いな一面で納得へと。
冒険者は散り散りにその場を離れようとしていた。
パラケルは、黙して地面を蹴った。
それは逃げ惑おうとして愚痴っていた。
「あぁクソ!神を縛ればなにもできねぇ、そのはずじゃぁねぇのか!あいつらはなにを…!」
「そうだ!俺たちは…クソが!」
てんでんに走り出そうとして…目の前で、横で、後ろで、一斉に試験管がくだけ散る。
一人の女が地上に降り立ち、殺意を放つ。
「神威を放たれるだけなら逃げられる…少しでもそう思ったのなら大間違いというやつだ。私もかなりイラついててね…手加減はできない」
「ロ…【ロキ・ファミリア】の紋章!?だ、だがてめぇなんざ聞いたことの無い無名冒険者だ…やってやる!お前ら構えろ!……お前ら?」
彼は恐る恐る、後ろを振り向いた。振り向いて、しまった。
全員が眠っていた。あるいは気絶していた。彼もまた、振り向いたことを確認してから首元に一撃を加えられ、昏倒した。
「試作錬金薬の失敗作だ…ある種の薬品煙と混合すると睡眠状態に陥る無色無臭の煙。側面に投げたのはその薬品煙、これまた無色無臭のね。巻き込まれかねなくてボツになったんだがいいところで処分できたな」
そう聞こえもしない解説をとりあえずしておくパラケル。解説の終わりと同時、フロアから光が薄れ、天井の結晶が割れ…見たことのある階層主の、あり得ない黒い巨躯が落ちるのを見た。
「なんだ…!?なんにせよ向かうしかない…黒き身体は不赦の証、神を憎む迷宮の意思…あの言い伝えは迷信でもなんでもない、事実だったのか?」
ともかく、パラケルはその身に四元より風を宿し、スピードを出して駆けていくのだった。
顔を隠していた、酒場のウェイトレス…リュー・リオンとヘルメスの右腕たる【万能者】アスフィ・アル・アンドロメダは、ベル・クラネルらと共に黒い巨人と対峙するその場においてのほぼ無二の戦力らしい戦力であった。
「くっ、強い…凄まじい強化のされかた、これが黒いモンスター!」
「ただでさえタフなアレがより一層タフにパワフル…冗談もいい加減にしてほしいところですね」
「さすがに同意見です…面倒な!」
多くのリヴィラの冒険者たちも共にあるが、正直なところ咆哮に抗えていないがために戦力かというとあまりにも頼りないのだ。
戦況は著しく不利、そう思ってアスフィはわずかに思索を巡らせる。思わず独り言が口をつく。
「こんなときにあの人はどこでなにをしているんでしょうか…!」
「ゴミの処理に手間取ったんだよ、きっとね」
「ゴミの処理って…そんなことっていうかパラケルさん!?」
噂をすればなんとやら。いつも貴方の隣にそっと試験薬、錬金術師パラケル・タキオンだ。
「待たせたね…で?あれのスペックは?」
「LV5相当、耐久力はそれ以上、片っ端から再生する…この程度ですけど」
その言葉に頷き、続く言葉。
「わかった。支援に入る、私が支援に入る以上はもう死者は出さない…それと、これを頼むよ。点を四つ結んだとき、私を中心にしたひし形になるように撒いてくれ。完成すればこの不利をひっくり返せる」
不利状況を返すと宣言したパラケルにアスフィは切り札を解禁する。
「承りました、それではまああまり見せたくもないですが…【タラリア】!」
「そこの覆面!奴の牽制を頼めるか!?行ってくれるならこの薬を持っていってくれたまえ!ダメージを負ったらすぐ使ってくれよ!」
「やってみましょう!薬は使わずに戻ります!」
同時、リューにも命が下り、リューもそれを受けたのであった。
最前線にて木刀を振るう。アルヴス・ルミナは木刀のわりに耐久力もピカ一の逸品だ。素材が果てしなくいいというのも間違いないだろうが。
自在に攻撃し思うように攻撃させない。まさしく妖精のごとく舞う。わずかなミス、炎雷が飛んできてそれをカバー。ベル・クラネルのものに間違いなかった。
リューは自分にもわからないほど小さく頬を上げて、獲物を振るうのだった。
アスフィはそんなリューをみやりながら、正確に、されど支援を行いながら己に与えられた陣形成の仕事を果たす。
黒いゴライアスの裏を大きく回り込み、一つ目。逆さUの軌道で戻り、二つ目。流れるように軍団最後方よりも後ろに三つ目を置き、二つ目の対角線に四つ目を置く。
アスフィは声を張り上げた。
「パラケル!!」
「ありがとうアスフィ!【大いなるものたちよ、集え。結合する神秘、今ここに、汝、四元の極致を見よ】。【四方天陣】!」
ベルにとって二度目の、他のものにとってはじめての感覚。
「【我が右方に炎天使】、【我が前に風天使】」
「っ!身体が軽い!それに…武器を振るのに普段よりも力が強くなっている?この陣は強化魔法か!」
「なるほど、これほどまでの強化…これならば確かに戦力として頼れない彼らとて…!」
「そうだ、俺たちもやれる。【万能者】、役目をくれ」
「ふふ…逆転、ですか。では、あなたたちも前へ!あの黒いゴライアスを打ち倒す…その切り札になるんです!」
冒険者の威勢が、熱気ある声が打ち上がる。
「使える強化は一度に二つ…防御を固める土天使と回復になる水天使は使いにくい。そして…【デミウルゴス】もある。これも切り札になる…が、この戦いはあの白い光剣が切り札になる!」
パラケルはそこまで考えを呟いていた。研究時の癖だ。だが、それを下がってきたアスフィが耳にしたことにより。
「ベル・クラネルが必要ですか?」
「手詰まりになればね。今はまだ必要じゃないかもしれないが、気を配ってくれ」
「わかりました、タイミングはそちらから指示してください。一任します」
パラケルはいつでもベルのチャージ準備にいける状態に置くことができたといえる。が。
気を配ってという会話の最中。
「おおおっ!!」
「ぐぅっっっっ!!」
盾を構えたタケミカヅチの眷族とともに吹き飛ぶベルを見て2人はまずいと思わずぼやく。
「アスフィ!この薬を彼らに!!バフ切って回復というわけにも行かないだろう!」
「っ!行きます!」
どうやらタケミカヅチの眷族が庇ったおかげでベルは即座に治ったようで、アスフィに運ばれてきた。
「ベル!私の前でやってみせたあれ、使えるかな!?」
「はい!チャージさえできれば大丈夫です!」
「おーけぃ!アスフィ!時間稼ぎに入ろうか!」
「全員守りの体制に入れ!切り札を溜めるぞ!!」
「「「おう!!」」」
リン、リンと鐘の音が鳴り出す。パラケルは声を張り上げた。
「【我が左方の土天使】!【我が後の水天使】!」
「傷が癒えていく…凄まじいな、俺たちがあのゴライアスになっちまったみてぇだ」
「おい見ろ!あれ!盾役としてずっと目をかけてたが…あのドワーフ、ついにゴライアスの拳を盾で止めたぞ!?これも支援の力か!?」
「すべての冒険者が英雄譚の一ページになれる!英雄たちよ、英雄が最後のページを飾るため、活躍で他のページを彩れ!!主役は!君たちもだ!!」
小さく微かな鐘の音は、今や鳴り響く大鐘楼の音へ。
ベル・クラネルは、魔法陣の中央に立ちこちらに振り返る錬金術師に、目線をあわせ、頷いた。
「最後の英雄に道を開けろ!道を作り出せ!最大火力を解き放て!!【我が前に風天使】!【我が右方に炎天使】!【炎天使よ絶対の加護を】!!」
走り出すベル。その瞬間、大きく砲声する声2つ。
「行け(行ってください)!ベル(様)!!【火月】!!」
パラケルに見せるためと手持ちの魔剣と全く同じものを作成したヴェルフは、その片方をリリルカに持たせ、同時に振るった。
黒いゴライアスの影響で呼ばれたモンスターたちを消し飛ばす炎。
「【今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤(ちりば)む無限の星々 。愚かな我が声に応じ、今一度星火(せいか)の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を。来れ、さすらう風、流浪の旅人。空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ。星屑の光を宿し敵を討て】、【ルミノス・ウィンド】!」
リューの魔法でゴライアスは怯み、目を狙われたことで頭をかばうようにおさえる。すなわち、ゴライアスの胴体はフリーになった。
「【中央の偽神の怒りよ】!【土】3つ、【水】足して【泥土の足枷】!縛れ!!」
【中央の偽神の怒りよ】の詠唱によって与えられるバフは、次の指定した人物の攻撃に発動しているバフ効果の倍加。【絶対の加護を】により倍加しているものをさらに倍加するかわり、その攻撃終了と同時に【四方天陣】は終わる、必殺を期す一撃に使う技である。
そして、チャージもまた、バフとして認められている。精神力は上乗せ消耗することなく、チャージされた時間の倍の威力へと至っている。
後退ろうとしたゴライアスの足には泥が固形化して簡単にははずせぬ足枷がつく。地面から離れることも許されない。
ナイフに纏わりつく光はもはや極光の域。逆袈裟懸けに、辿り着いたベルは振り上げる。
なんの傷もなかったようにすら見えるほど幾度も再生した表皮は再生したばかり故に比較的薄く。
轟音が響き、煙が立ち込め…
「消し飛ばした、のか。あの、ゴライアスを…!」
「我々の勝利です!!」
「「「うおおおおおっっっっ!!」」」
煙からうっすらと出てくるベルと、灰と化しつつあるゴライアスの下半身。その場に、狂喜の歓声と勝利の喜びが満ちた。
煙から出てきたベルに、なぜか【暴食】を思い出したパラケルは、目を幻想から解き放つためにいくらか目を擦るのだった。
黒いゴライアス、撃破。
無事地上に戻ったパラケルに、事情聴取が5回ほど行われることになるがそれはまた別の話だ。
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フィンの一目惚れイベント。想いは届くのだろうか?リリルカは…
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フィンの想いを受け入れる。
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フィンの想いを拒否する。