自称錬金術師のオラリオ暮らし!   作:ふぃーあ

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第十三講 錬金術師とユグドラシル

 凄まじい力を【アポロン・ファミリア】に叩き込み、ついでにリリルカのいた酒蔵を突破しようとする【ヘスティア・ファミリア】と協力者に支援をした後ホームに戻る前にパラケルへ戻る行程を踏む。ホームに到着したのはほぼ夜明け前であった。

 

 パラケルへと戻ったラグランジュはふとフィンの忠言……嫌な予感がするからラグランジュになれと言っていたのはこういうことであったかと納得する。

 

 街中で隠すつもりもないとはいえ、ラグランジュは名乗ることもなければ、アルフィアやザルドのように見た目が広く知られているわけでもないので【ロキ・ファミリア】のパラケル・タキオンとは別人として振る舞える。

 

 すなわち、己が力をいかに強大に、威圧的に振るったとしてもロキたちに悪い影響をもたらさないのだ。

 

 まあそれはそれとして報告だけはするのだが。

 

「アポロン、死んだんちゃう? ウチに喧嘩売るよりイカンことしたなぁアイツ……あとソーマんとこにカチコんだってほんまか!? 酒は!?」

 

「正直なところ神ロキには申し訳ないとは思っているけど……まぁ我慢できなかったんだよ……酒蔵からいくらか疑似神酒を引っ張ってきたのでこれで手打ちに「ええんやで」話が早い……」

 

 アポロンやソーマの眷属たちには1ミリも申し訳ないと思っていないあたりまだキレている錬金術師の中の絶対悪であった。

 

「とりあえず……ウチらはこの件については手を出せんからラグランジュに一任する。ウチらに影響の出ない範囲でやるとは言ってくれたしそれならええ。……こういうとき便利やな、【均衡の樹】」

 

「全くだね、【ロキ・ファミリア】のパラケルでは動けなかっただろうからなぁ……」

 

 しみじみと呟く一人と一柱。そして、窓から光が覗き込み、その光でパラケルは立ち上がる。

 

「では神ロキ、夜半に本当にすまなかった」

 

「今はパラケルたんも大事な家族やから。親として見てやるのは神の役目やしええんやで、酒もあればより良いんやけどな!」

 

「今度またいいのを持ってくるよ……」

 

 そう笑いあう。良好な関係を築いているようでなによりだという感じだろうか? 

 

 そんな空気も、パラケルが扉のドアを開こうと歩んだ瞬間に爆発音が響くことでパラケルがラグランジュへと変わり、霧散する。

 

「そうし……ん? 朝からなんや……抗争か?」

 

「…………神ロキ、あの煙の場所」

 

「…………ほんま、なにしとるんやアポロン……夢果たす前に死ぬで、お前」

 

 煙はあの壊れかけの教会から上がっていた。

 

 

 

 パラケルが身支度を済ませ、再びラグランジュへと代わりつつ開け放った窓から比喩なしに飛び立ったころ、また別の一人と一柱が走っていた。

 

「くぅっ! ベル君! 逃げるんだ!」

 

「逃げるって……どこに!? というかこれ僕たちに襲撃かけてきてるんですか!? ラグランジュさんじゃなくて!?」

 

「ボクも多少はそう思ってるけど! たぶん最初からベル君の身柄狙いなんだ!」

 

 そう、【アポロン・ファミリア】の早朝襲撃から逃げているのだ。起きて、ドアを開けたら、魔法が襲いかかってきたという状況である。

 

 ちなみに最初からベルの身柄を狙っているのも正解だが、ラグランジュを狙ったら間違いなく返り討ちとなることが容易に想像できたのもあったのだろう。

 

 ただ、ここで【アポロン・ファミリア】は致命的にもう一度間違えている。

 

「っ!? こっちにも! ……他の道も、ダメか」

 

「八方塞がり、かぁ……ボクはベルくんを手放さないからなぁ……!」

 

 ヘスティアが固めた悲壮な決意は、次の一瞬で同じく教会を破壊された激情を宿す一人の女が不要と断ずることとなる。

 

「がっ!?」「ぐぁ……!」「……!?」

 

「あなたたちが死ぬだけで、失われた私の思い出を贖える訳がないので殺しはしませんが……あといくつ、あなたたちは私を怒らせる地雷を踏むんですかね」

 

 白いローブ、昨日の宴会で暴言を吐かれた時よりもなおキレている。初手に【アイグレ】を装備しているあたり本気度が伺えるというモノだ。

 

「尻尾を巻いて逃げても良いです。あるいは立ち向かってきますか? それもまた一興です! 太陽神の眷属……この私、ラグランジュが【歪みきった秩序】(エソテリック・オーダー)において正すのみ!」

 

【アポロン・ファミリア】の行動は迅速に行われた。魔法を整っているものから全てその場で発動しての全力の逃走である。

 

「アレがラグランジュか……団長さえどうにもならなかったという……確かにこれはどうにもならん!」

 

「無駄に冷静ですね、そのまま残ってくれればいいものを……魔法を誘引する! 【ラグランジュ・ポイント】!」

 

 紫の球体に炎、氷をはじめとした魔法や矢が集まる。その光景を見たヘスティアは唖然とし、ベルは思わず呟く。

 

「それそんな使い道があったんですね……」

 

「なぜか魔力にも重力干渉ができるようで……」

 

 魔法の効力が終わるまで魔法を浮かせたままにしておきながら、ラグランジュはベルの呟きに答えを与えて、それから心底から心配した様子で尋ねた。

 

「お二人とも、怪我は?」

 

「大丈夫です!」

 

「ボクもさ、ベルくんと君のおかげでね」

 

 心配したことにはなっていないと言いきる2人に安堵してから、ラグランジュはヘスティアの前に膝をついた。ヘスティアが目を丸くしていると、ラグランジュは口を開いた。

 

「さて神ヘスティア。思えば一方的にこちらが認知していただけの存在かと思いますのでご挨拶を。私は真理の究明者を僭称する、ラグランジュという者です……元、【ゼウス・ファミリア】の眷属でもあります」

 

 実にシンプルな話である。自己紹介をしていなかった、それだけだ。だがアイサツは大事であるのは古来よりいい伝わることなのでしっかりとするように、と己の主神は言っていた。

 

 あの神の堂々と挨拶して女湯に入ってくる勇気をふと思い返すことになったので二度と思い出さないと決意する。

 

「あぁ……なるほどね! ベルくんの手紙あたりから君の名前と事情は把握してるよ。ボクはヘスティア、竈を司る処女神さ! ついでに君の主神の義姉ということになるのかな!」

 

「……大変でしたでしょう?」

 

「君もね……本当にお疲れ様」

 

 どこかゼウスについて話すときだけは共通した負の感情を感じさせる2人であったが、すぐに修正して話をまとめる神と一人の手際のよさもあり簡単に話をまとめあげる。

 

「つまりボクたちはヘファイストスのところまで君に送ってもらえるんだね?」

 

「そうなります。相手にレベル2が数多いたとしても私の前では雑兵に等しいはずですし……私が送ればそもそも陸路を使う必要がもうないんです」

 

「うん? それはどういう……それ、なに?」

 

 ラグランジュの言葉に訝しむヘスティアの前に紫の球体が出現し、思わずラグランジュに問う。

 

「【ラグランジュ・ポイント】にはちょっとした小技があるんですよ……ポイントとポイントの位置をポイントの影響を受けたものごと入れ換えるっていう代物です」

 

 ラグランジュから帰ってきたのは特定二点間を瞬間的に移動させられるという答えであり、ヘスティアは「やっぱりこの子もおかしいじゃん……」という呟きを心に秘めておくことにした。おそらくかなりの英断だ。

 

 ちょんちょんと指差す先の紫の球体にヘスティアとベルが触れたのを確認して、詠唱。

 

「【空間よ歪め、入れ替われ】……【ポイントチェンジ】」

 

 

 

 二人の姿がかき消えて、転送完了。なんとも便利な代物だ……実際、【ゼウス・ファミリア】はこれを用いて高頻度での深層探索を実現していたのだが、と考えて、声に背を打たれる。

 

「やぁ……その様子だと終わったみたいだね? ラグランジュ」

 

「団長? 何のご用でしょう」

 

「【均衡の樹】、セフィロトの伝承、世界樹」

 

 背後から現れたフィンから放たれた単語は私の根幹を知ろうとした結果わかった物事なのだろう。

 

 私にとっては己の秘密を掴まれているに等しい羅列だ。

 

「……どこで、その伝承を? もはやカバラ信仰なんてものはこの世に存在しない。神は実在し、神に近づく最たる手段を神自ら恩恵として差し出す……そんな中で、誰が知るというのですか」

 

「ロキもリヴェリアも、そういうところは詳しいみたいだよ……特にロキは天から見下ろしていたみたいだから」

 

 その言葉を聞いて、困ったような笑みを私は浮かべる。

 

「そうですか。では、忘れてもらえます? 申し訳ないんですけどね」

 

「悪いけどそれだけはできない……これは僕らのエゴだけれど、君が向き合うべき事象でもある。違うかい?」

 

 忘れてくれ、その懇願は届かない。やっと逃げきれたはずの因縁……いや、未だ目を反らしていただけの因縁と、再び向かい合う必要があるなどと、私は決して思わない。

 

 やめろ、その名を呼ぶなと動悸がする。認めてはいけないと身体が疼く。フィンがその名を口にする。

 

「【アトラクシア・ユグドラシル】……これが君の真名だ。君の名乗っているラグランジュという名さえも【均衡の樹】で受け継いだ身体の名だ……君のすべては、【均衡の樹】によってもたらされた虚飾以上の意味を持たない。……この推測、なにか間違っているかい?」

 

 推測にしては確信に満ち溢れていて、核心をついていて。

 

「いいえ、いいや、違わない、なにも間違ってない……美しいくらいに外れてなくて……あぁ! まったく入るファミリアを間違えたか?」

 

 私は、気付いてくれたという想いと、気付かれてしまったという想いと、胸の奥に秘めたもしかしたらという想いが混合していることを自覚する。

 

「いいや、間違ってないさ。来るべくして時が来たんだよ、アトラクシア。君を僕らは解き明かす……君の根源にある諦観を討ち果たす。【闇派閥】が、他の国が、あるいはもっと身近な他のファミリアが、ユグドラシルを狙うとしたって、僕らは家族だ」

 

「その言葉、嘘はないなら。いいよ、私の、アトラクシアの持つ情報を全て話すだけ話すよ」

 

 思ってもいなかった言葉、あるいは期待どおりの言葉に揺れる。

 

 改めて、ユグドラシルとは、己とはなんなのかを

 

 ──ユグドラシルとは、世界樹の化身だ。

 

 世界樹に選ばれた、草木や大地に宿る意思や想いが、世界樹の加護を受けて人型を為し、生を受ける存在。

 

 ユグドラシルに眠るのは無尽蔵の魔力と生命力、ユグドラシルを捕らえて【使え】ば世界すら容易い……そう言われ、【使われ】て捕らわれて、いつしか滅んでいった、それだけの存在。

 

 世界樹は失望した、愚かしい人類に。ユグドラシルに持たせた使命は、世界全体に世界樹の加護を振り撒くために生きることであったというのに、人は世界樹の加護を簒奪したのだ。

 

 だが、失望しきってはいなかったのだ。そして、世界樹は最後のユグドラシルを作り出すことに決めた。ありあまった自然の意思を、己自身が振り落とした芽に与え、意思を【引き付け】(アトラクト)てなお【平穏】(アタラクシア)に生きることができるユグドラシルを。そう、世界樹は願っていた。

 

「らしい、ですよ? 私が生まれたときに持っていた記憶ですけど」

 

「おおまか、理解した。君を利用したがる存在の排除、といっても君がやられることは早々ないわけだが……改めて、【闇派閥】の殲滅は必要か」

 

「彼らの目的がなにであったとしても、私の力はあって損はないはずですからね……最後に、見せておきますか。ユグドラシルとしての私の姿の一つくらいは」

 

 そう言って、私は【均衡の樹】を完全解除する。周りに舞う光粒。どこか木漏れ日のような雰囲気を纏うそれの中で。

 

 緑を基調としたドレスアーマーとふわりとしたスカートが舞う。銀髪碧眼、その上にはティアラ。腕を振るう度手にした武器を切り替える。そのすべてが樹木を思わせる意匠であり、杖、斧、槍、弓と切り替えて、腕を最後に振り切った時には、剣を。

 

 足元から植物を発芽させ急成長、その上に腰かけて見せる。フィンにも何気なくその椅子を勧めつつ、語る。

 

「これは、反則に反則を重ねたみたいなもの……そもそもラグランジュになるのに大変なエネルギーを消費するのに、そこから禁則を解放する、なんて。故にこの姿で戦闘できるのは短いですけれど……」

 

「わかるさ、僕にだって。今のオラリオにこれを止められる人間なんか居やしない……悔しいけどね」

 

 フィンすら認める覇気。長く永く生きたユグドラシルとはそういう存在なのだ。あるいは神格に近いと言われるほどに。

 

「【均衡を破る我が身を縛れ、均衡の樹】」

 

「それがもとに戻る詠唱か。さ、僕に話してくれてありがたいけど……悪いがあと一回話してもらう必要があるんだ。ロキとリヴェリアにね!」

 

「……わかりましたよ、いまさら引きはしませんけど、でも……面倒だ」

 

 神格的存在でも、本物の神格の面倒さには勝てないと改めて感じることとなるまで、あと10分。

 

 ついでにリヴェリアの発狂が見れるまで、あと12分のことであった。

 

 

 

 

 

 

 

フィンの一目惚れイベント。想いは届くのだろうか?リリルカは…

  • フィンの想いを受け入れる。
  • フィンの想いを拒否する。
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