自称錬金術師のオラリオ暮らし!   作:ふぃーあ

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第三講 錬金術と対話

 

 ロキの部屋、その直中で2人の女が対話をしている。

 

「あの日、うちらはお前を殺した、そのはずやった」

 

 ロキは硬く苦い顔を隠そうともしないまま、ラグランジュと対話を続ける。

 

「えぇ。ですが私は永久の命を縮めて【永命】と名付けられた者ですから、少しばかりしぶといのですよ」

 

「しぶとい……? リヴェリアの他にも一級品の魔法使い20人以上による絨毯爆撃、骨のカスひとつ残らず消え失せてもおかしくはなかったアレを耐えたんか?」

 

「いえいえ、死にましたとも。再び戻ってくるからこそ命は永遠のサイクルなのです……行き着いた者にとって、死とは通過点、行き着かぬ者にとって、死とは終わり……私は行き着いてしまった者ですから」

 

 己は殺されても死なぬ、そう言ったラグランジュはどこからか取り出した浮遊するクッションに腰掛けていた。

 

「……タネは【均衡の樹】やな?」

 

「それは私を不死にあらず不滅にする……最悪のスキルですよ。死ぬ痛み、死ぬ苦しみはいつとて同じ、でも滅されることはない。なんて残虐でしょうか?」

 

 もはやその痛みも薄れてしまって、死ぬのも慣れきってしまって。とラグランジュは薄い笑みを浮かべ、ロキにもクッションを押し付けた。

 

「……【均衡の樹】はとある条件を満たした人物に己の魂と知識、記憶、恩恵といった己の全てを移動させ、新たな己の肉体とする魔法。発動条件は術者の死亡、詠唱は不要……とんでもないくらい、残酷なスキルでした」

 

「死ねる、が新しく始まるのか……しかも人の人生を踏み台にして」

 

「私は死ぬたびに他の人の身体を奪ってきたわけではありません……条件のひとつに、同じ【神の恩恵】を受けている、というものがあります。これを利用して、人工の錬成生物……禁忌たる、生命の創造。【ホムンクルス】を作ったんです。死ぬたび、死ぬたびに新たなホムンクルスに乗り移り、人の人生だけは奪わない、と決めていたのです」

 

 二つの禁忌、どちらを犯すかを迷ったのだと、ラグランジュはそう呟く。ロキにも理解できた。人を殺めるか、人を創り出すか。どちらも許されることではない。それでも生きたいほどの信念がラグランジュにはあったのだと、パラケルの人格とラグランジュの人格をわずかに見ただけでも十二分にわかったのだから。

 

 そうしてロキは、諦めたように大きくため息をついた。

 

「そうか……信じてええんやな……うちに、胸襟開いてくれてありがとう。あの日のことは、すまんかったと思っとる……今度、フィンとガレス、それにリヴェリアにも話つける場を用意したいな」

 

「ふふ……場を設ける必要は、なさそうですよ。私の神様」

 

「なんやて?」

 

 ラグランジュはクッションに乗りふわふわと浮かびながら、ドアへと近付くと一気に開け放った。

 

「どうぞ、お三方。お入りください」

 

「っ……」「なんと……」「ほぉぅ……?」

 

 そこにいたのは、話題に上がった三人……すなわち、フィン、ガレス、リヴェリア。あの日……【ラグランジュ討滅作戦】決行にあたるまでの真実を、ファミリアの中ではこの三人だけが知っている。

 

 一気に部屋の中の人の数は3つ増え、5となった。

 

 そして、重い沈黙を破ったのはラグランジュ。

 

「お久しぶりですね、三人とも」

 

「本当に久しぶりだよ、ラグランジュ……そして、もう会うことはないだろうと思っていたから会えたことを複雑に思う」

 

「でしょうね……私個人としては会えて嬉しいのですけれど」

 

 フィンの答えが三人の総意であるのが明らかなだけに、ラグランジュはなんとも言えないといった表情をしていた。

 

「だいたい、話は聞いていた。すまない、ロキ……」

 

「……まあ、話が早くなったってことで許すわ。他の子が聞いとったら大変やったが……まあフィンたちならな」

 

 フィンは、ありがとうという思いか一礼するとラグランジュに向き直った。そして、その目を見て。

 

「最初から、敵対するつもりもなかった君を倒しに走った愚か者たちがここにいる。だがあの作戦の立案者は僕でね。だから、愚痴も報復も僕が受けよう」

 

「では。あの日のあなた方は英雄に他ならなかった……【闇派閥】の構成員十数名と、【絶対悪】を破滅させ、オラリオが平和となる一因を作り出した。あなた方の判断に敬意を表するとともに」

 

 ラグランジュの声が途切れる。小さく、目元を拭うと、ラグランジュは再び声を出した。

 

「救えずに逝った私の患者たちに、ほんのわずかな冥福の祈りをもらいたいんです……彼らの行いに罪あれど、彼らの在り方に罪あれど、罪はその命の価値を下げることはない……安穏たる世の礎に埋め込まれた彼らに、どうか」

 

 それは懇願。あるいはこれもまた祈りなのだろうか。フィンはその言葉を聞くと、祈りの姿勢を取った。

 

「僕は【闇派閥】……彼らが残していったもの。エレボスや、アルフィア、ザルドたちの想い、そういったものの全てを忘れないと改めて誓う。この世は僕たちが導く……存分に眠れ」

 

「……感謝します、フィン・ディムナ。あの日の怨恨、やっと果たせた気がします」

 

「そう……か。それはなによりだが」

 

「私が望むのはただそれだけでしたから……ああいや、もう1つありましたっけね」

 

 フィンは顔を上げた。疑問の表情が隠れていない。

 

「なに、簡単なことです……これからは、パラケル共々よろしくという話ですから。フィン、リヴェリア、ガレス……迎え入れて、くれませんかね?」

 

「お前のような人間、放っておけるか馬鹿者……副団長、リヴェリア・リヨス・アールヴはパラケル・タキオン……及びラグランジュ……家名はあるのか?」

 

「ふふ……実はラグランジュの方が家名でしてね。名前は誰にも明かして居ません。知っているのはゼウスくらいなものでしょう」

 

「そ、そうか……とかく、ラグランジュを改めて歓迎する」

 

 リヴェリアが苦笑しながら視線を二人に向ける。口を先に開いたのはガレスだった。

 

「儂もリヴェリアに同意するぞ。いずれサシで呑むか?」

 

「お誘いあらば、参りますとも……ザルドさんが、貴方と呑むと如何なる酒とて旨いと言っていたのを思い出します」

 

「呑むか、よし。儂も歓迎する……さて、フィン」

 

 ガレスはしれっと呑みに誘いつつ、最後の一人……フィンへとリヴェリアと共に目線をやる。ロキもまた、視線を向けるので三人の視線が集まる。その口が開いた。

 

「僕、フィン・ディムナは個人として、そして【ロキ・ファミリア】団長として、君のすべてを歓迎する……君に残酷なことをした僕が言うのもなんだと思っていたが……これから、よろしく頼むよ」

 

「えぇ……貴方と肩を並べられる日が来たこと、心より嬉しく思いますとも。ラグランジュ、パラケル。二つの名と身体を以て、ありとあらゆる困難を撃滅することをここに誓います……よろしくお願いしますね?」

 

 それに満足したようにロキは大きく頷いて1つ手を打つ。目線が集まったところでロキは次の議題へと移る。

 

「さて……パラケルの謎も大分解けたところで打ち合わせやな、みんなにどこまで情報を出すのかとかパラケルとラグランジュの使い分けとかやな……ちなみにどうなっとるんあれ?」

 

「パラケルの方に知識欲とかそういう学問関連の欲を集約させてラグランジュの方に残りの欲を残しておいてる状態です」

 

「つまり?」

 

「演じるとかそういうレベルの問題ですね」

 

 場の空気がコミカルな物へと変わる。その夜の話し合いは長引いたために、要点のみを集めるとこうなるだろうか? 

 

「パラケルとラグランジュ、使い分けは自由にしよう」

 

「「「賛成」」」「いいんだ……自由に使って」

 

「だってラグランジュといえばこの格好、ってのは伝わっとらんからなぁ……」

 

「なるほど」

 

 ということで服装などの切り替えは存分にできるように。

 

「名義はパラケルで通そう、ラグランジュだといろいろと面倒では?」

 

「ぶっちゃけうちとしてはラグランジュも神々には公開すべきやと思っとる。神々は知っとるからな、そしてラグランジュは別に絶対悪呼ばわりされても平気なガラやろ……それに正直な話今ラグランジュの評価伸びとるんよ」

 

「……もしかして治療師関連ですかね?」

 

「心当たりあるようやな……まあとにかく、今のタイミングならラグランジュのネームもだいぶマイナスイメージは減ってきてるんや、なんせ治療師関連からあの日の真相が漏れ出したからな……パラケル・ラグランジュとかでどうや」

 

「「「初耳だぞロキ!?」」」

 

 とにかく、名義もわりと使い分けられるらしいということで、最初の気苦労だと思い込んでいたロキ以外の四人は一斉に脱力することとなったのだ。

 

 

 

 時間は飛び、朝の鍛錬場。

 

「ふっ……ふっ……」

 

 剣を振るう少女は、新たに入ってきた白衣の女のことをふと考えていた。

 

 底知れない強さ、それでいてレベル5。さらに朝食の際に明かされたいつかの敵、【永命】のラグランジュであるという真実を抜きにしたところで凄まじいものがあった。

 

 戦ってみたいが己もまた手玉に取られるのが精々だろう。もっと強くならなくてはとアイズは剣に風を纏わせようとして……考えていた女の声が耳に届き、向き直る。

 

「やぁ、朝からご苦労様だねアイズ・ヴァレンシュタイン」

 

「アイズで、いいです……おはようございます、パラケルさん」

 

「ならこちらこそパラケルでいい……呼びづらければ別にタキオンでもいいがそれだと無性に身体がむずつく、別に敏捷のステータスが高くないのに走らなければならないような気がしてね。ケルとかパラじゃ味気ないような気もするし……」

 

「……?」

 

「あっとすまない、今朝から練習しているみんなの姿を見に来ようと思っていただけなんだ、気にせず続けてくれると嬉しい」

 

「はい……ふっ! ……やぁっ!」

 

 アイズの鋭い剣筋を見ながら、手元の紙に何事か書き付けるパラケル。それからも腰の試験管ラックに入れている液体をときおり混ぜ合わせ、あるいは試験管を揺らしながら、どんどんと増える人の鍛錬をそれぞれに見ていたのであった。

 

 鍛錬場の隅でそんなことをしていれば気になるのが人情というもので、1人の団員がパラケルに声を掛けた。

 

「あの……なにをして……?」

 

「これはそれぞれの鍛錬において人のどの筋肉が使われ、逆にどの筋肉が使われていないか、伸ばすべき部分はどこか、弱点となりえる部分はどこかをリサーチしているんだよ。君たちの鍛練の効率を高めることも、非戦闘要員として果たすべき大役の1つでね」

 

「つまり、俺たちの鍛練をより良いものにするアドバイスの準備、ってことっすか」

 

「要約すればそうなるのかな」

 

「わかりました……ところで、俺の改善点ってのは……」

 

 その団員の問から始まり、多くの者たちがパラケルに己の鍛練の効率を高める方法を教導されていく。

 

 思わずその群れに飛び込み、パラケルまで辿り着いたアイズもまた、アドバイスを受けようとしていた。

 

「パラケル、さん」

 

「アイズくんじゃないか、君も?」

 

「はい、私はもっと強くなりたい……」

 

「君の鍛練に不足するところはない。だがモンスターに対しての技術は存分でも人に対するところはどうだろうか? そうだね……ベート・ローガくん! いるかい!?」

 

 その声に応じたものか、狼の獣人が歩み寄ってきた。

 

「んだよ」

 

「アイズくんと模擬戦でもしてみないかと思ってね」

 

「……わーった、やりゃいいんだろ?」

 

「物分かりがよくて助かるよ。それじゃアイズくん、行ってくるといい」

 

「はい!」

 

 そうして、様々な人物にアドバイスをつけ、時に模擬戦を組みなどとしていると、後ろから肩を叩かれた。

 

「やっほーっ!」

 

「昨日は楽しかったわ、パラケル」

 

「ヒリュテ姉妹か、おはよう。こちらも楽しかった、グッドゲームという奴だ」

 

「私もいるのだがな……おはよう」

 

「リヴェリア副団長……珍しいじゃないか、こっちに降りて来ることは少ないのだろう?」

 

「ふん……用があるのは実はお前のもう片方でな……大丈夫か?」

 

 静かに頷いて詠じるパラケル。

 

「【均衡の樹】」

 

「えーっ!?」

 

「なっ!?」

 

「いつ見ても驚きだな……」

 

「で、このラグランジュになんの用件ですか?」

 

 ヒリュテ姉妹の前では初披露であったから驚きもひとしおだろうが、全く関係ないと割りきってリヴェリアに用件を問う。

 

「いや、次の遠征にはお前も連れていく。それにあたってお前がLV7であることを証明してほしくてな」

 

「まわりくどいですよ……シンプルにレベル6三人相手に勝てと言えばいいでしょうに」

 

「ほう……私、フィン、ガレス、悉くを粉砕すると」

 

「望みとあらば」

 

「それじゃあ行こうか、バカ2人がお前を待っている」

 

「嫌だなぁ……」

 

 すぐさま、この模擬戦の知らせはファミリアに行き渡った。

 

 ヒリュテの姉の方と戦った時以来1日ぶり二度目の光景な訳だが、ラグランジュを見るのが初めての者も多いのでむしろそこに注目が集まっていた。

 

「白いローブ、モノクル……かっけぇ……」

 

「すでに圧があるわ……あれがLV7、【猛者】に並ぶ者なのね」

 

 そんな人々の声を聞きながら、笑うラグランジュ。その前に相対するはガレス、フィン、そして飛び入りのアイズ。

 

「そーんな大層なものでもないんですけどねぇ……?」

 

「嘘を言え……お前が大層なものでなければ儂らは塵芥よ」

 

「全くこれに関してはガレスに同意だ……やれやれ、アイズ、先走るな」

 

「わかってる……!」

 

 リヴェリアはというとやはりというかなんというか審判を務める様子であった。

 

「というか私こっちの姿でも魔法寄りなんですが物理三面に魔法単騎ってヤバくないですか?」

 

「知ったことか……レベル7のお前だ、なんとかする手の二つ三つだろう」

 

「バレてますかそりゃ……」

 

 そして、三人が構える。盾を、槍を、レイピアを。

 

 そして、一人は浮かべる。それは宝珠。

 

「じゃまぁ、さっさと終わらせましょう……この姿燃費悪いので!!」

 

「そうは問屋が卸さんぞ」

 

「【吹き荒れろ】……!」

 

「さ、始めてくれ、リヴェリア!」

 

 模擬戦の火蓋が、切って落とされるのはもうすぐだ。

 

 

 

 

 

 




『tips:ラグランジュの評判』

最近なぜか改善の方向に向かっている。とある筋によれば、【ミアハ・ファミリア】のナァーザ、【ディアンケヒト・ファミリア】のアミッド・テアスナーレをはじめに、多くの治療師や薬師の言葉を纏めあげると大抵がラグランジュを偉大な人物や師として担ぎ上げるものだったらしい。

冒険者の中で広まった悪評が、そのままオラリオ全体に広まったわけではなかった。ダイダロス通りの市民は頼りにすれば救われるラグランジュを好んでいた。

また、治療師の多くは彼女の言葉と彼女が残した薬のレシピを調べるところから治療師の道が始まるともいわれ、治療師の中では最高の評価を持っている。

人により作られた悪は、その本質を知るものには通じない。

『tips:ラグランジュとパラケル』

パラケルはラグランジュの錬金術により生まれたホムンクルスの最高傑作である。ラグランジュが乗り移る前はもっと大人しく、メイド的な従順な性格だったのだが、ラグランジュの精神を【均衡の樹】の力で受け取った際に現在の状態になった。

が、ラグランジュ本人が制御しているので結局はそのキャラで行かないと若干違和感があるかな、くらいの状態になっており、気分次第では口調を変えるのも容易らしい。

LV5なのはパラケルを連れてラグランジュがパワーレベリングを敢行したためで、恐らく当時のパラケルの意識が残っていれば高らかに「もう二度とやりたくない」と言うであろう過酷な内容であった。

例え禁忌に触れて産み出された人造の人でも、ラグランジュは己の分け身として愛し育てた。

故にこそパラケルは自我を持ったとき、ラグランジュにその身を捧げると決めたのだ。

フィンの一目惚れイベント。想いは届くのだろうか?リリルカは…

  • フィンの想いを受け入れる。
  • フィンの想いを拒否する。
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