自称錬金術師のオラリオ暮らし!   作:ふぃーあ

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秘密の鍛練回。偽りはありません()




第六講 錬金術師と秘密の鍛練

 凄まじいスピードのまま、城壁の上で2人の戦士が交錯する。

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

「そこ! ……あっ」

 

「うわっちょっわぁぁぁぁっ!!?」

 

 一瞬のやりとり、急襲するナイフを振るう少年に思わず最大級の反撃を叩き込んでしまった少女。

 

 吹き飛ぶ少年……ベル・クラネルが受け身を取り、立ち上がるのを見て、少女……アイズ・ヴァレンシュタインはほっと一息ついた。

 

「ごめんなさい……ベル」

 

「いいんですアイズさん、その……どうですか?」

 

「スピードがよく乗ってた……私がベルと同じレベルだったら対応できたかわからない」

 

 いつも通りに内心反省をしつつもベルにアドバイスを求められると答えるアイズ。

 

 朝方の城壁の上という誰も来ない場所で、アイズとベルの鍛練は行われている。

 

 少し前の宴でのベートの無礼を詫びるためにフィンやガレスなどの名だたる戦士たちがベルに教えを与え、実戦に付き合ってもいるのだが、ベルの成長はそれでもなお不足を感じていた。

 

 まさしく、才能でできたスポンジ。技術を見せれば、それを水のように吸収してしまう……それが、ベル・クラネルという男の強さであった。

 

 アイズの回避を、フィンの判断力を、ガレスの受けを、リヴェリアの知識を、ベートの体術を。

 

 悉くを欲するままに、気付かぬままに吸収し、少年は強くなり続けていた。

 

 育つベルをある日見てアイズは、己の回避に仲間の技術を掛け合わせ、より発展された技能を目の当たりにして全てを理解し、朝の鍛練を行う提案をしたのだ。

 

 ベルでも、会ったことのない人物の、見たこともない技は学べない。

 

 単純にベルが黄昏の館に赴き、鍛練をしている時間は幹部の最後の一人……すなわち我らが錬金術師のパラケルは実験をしているためにベルと顔を合わせたことすらないのだ。

 

 だが、このアイズの連れ出した訓練先ならば。

 

 パラケルがアイズがなにかをしていると察し、その上で興味を持ったなら……

 

 コツ、コツと。足音がする。

 

「おはよう、アイズくん! 元気だね? そこな少年は……」

 

「ん……おはようございます。こちらはベル……ベル・クラネル、貴女もいつか会うことになるとリヴェリアが言っていたような……」

 

「ベル・クラネルです! ……そちらは?」

 

「ほう……君が、あの。すまない、自己紹介が遅れた。パラケル・タキオンだ……君は君の祖父の言葉を覚えているかな?」

 

「あ……オラリオに出るなら頼るべきって言っていた、【白衣の学者】さんですか?」

 

「うん、それに相違ない。いやぁなんとも奇遇だ。アイズくんが人に教えているのも奇遇、ここで私がやってきたのも奇遇……うん、世は奇妙だ。時に試薬を混ぜわかりきった反応を見るよりもずっとね」

 

 そう一人ごちりながら、パラケルは試験管を数本、試験管ホルダーから引き抜き、アイズに渡す。

 

「アイズくん、これは回復薬だ。自由に使いたまえよ。それではね」

 

「ありがとうございます。その……加えてもうひとついいですか?」

 

「うん? なんだい?」

 

 アイズとベル、2人きりの時間を邪魔するまいと、薬を渡して白衣を翻していたパラケルが、首だけをアイズのほうに戻す。

 

「手加減しているけど……私じゃもうベルの相手には不足している、と私は感じています。だからパラケルさんに、お手伝いをお願いしたいんです」

 

 パラケルはその言葉にもう一度向き直ると、ベルを見た。

 

「ふむ……元より、君がベルに鍛練をつけなければあの大神の願い通り私がつけているつもりだったんだ。望むところだよ」

 

「ベル、これからはパラケルさんも鍛練に来てくれるらしい……頼れる人なのは、ベルもよく知ってるのかな……?」

 

「はい。戦闘に関しては詳しくないですけど……鍛練という面では白衣の学者に見てもらえば間違いないと言われてます」

 

 その後、パラケルはアイズとベルとの交錯を見ながら、ベルにひたすらアドバイスをしていくことになる。

 

 吹き飛ばし気絶した彼を膝枕する楽しみをアイズは失い、貴重な想い人との2人きりの時間をベルは失っている……が、それ以上に充実した鍛練になっていくのであった。

 

 

 

 ある日のことだ。

 

「パラケルさんって学者……なんですよね? どんなことを学んで……」

 

 禁句を、ベルが溢してしまった。

 

 アイズの顔が青くなる。アイズもまた、同じ失敗をした身である。興味というのは、ことパラケルの学びには示してはいけないものであった。

 

「ほうほうほうほう! 私の学びに興味があるのかぁい!? いいだろう! 少しばかり、神秘について……あぁ、そういえば神秘については教導を控えるようにと言われていたんだったね! 失敬、さてなにを教えたものだろう! そうだねぇ、君は敏捷に特化し手先の技と回避でレベルの差を埋める大物殺しだ。であればより効率的に身体を動かしより効率的に敏捷のステータスを発揮するための肉体土台を作り上げる理論なんてどうかなぁ!」

 

「アイズさん……助けてください……」

 

「こうなったらパラケルさんは止まらないよ……うん……」

 

 なぜか空中に浮かぶ亀裂からこれまたなぜか取り出されたように見える移動黒板とチョーク。

 

 2人にとって、パラケルの教導とは己の役に立つことは知っている上でなお勘弁してほしいもの、という共通認識が芽生えたのであった。

 

 教導自体は非常にわかりやすく二十分の間という短い時間で行われる優れた授業なのがまたなんとも言えないところなのだろう。

 

 ちなみにアイズが最近耳にした情報のひとつに、新人の教育係をパラケルが引き受けたというものがある。教育者として彼女は劇物に近いのでは? と思っていたアイズだが、ウケはいい……らしい。

 

「……と、いうわけで膂力を振るうための筋肉とスピードを出すための筋肉とでは基盤の作り方からして違うんだ、わかってもらえたかな?」

 

「「…………」」

 

 両名、轟沈。さすがに情報量が詰め込まれているのでパンクのひとつふたつはするものだ。

 

 

 

 2人がパンクから帰ってきたとき、パラケルは2人にこう笑いながら言った。

 

「いやぁはしゃいでしまったよ……ではね。次回は私も実戦鍛練の相手になろう」

 

 はしゃいでこれなら二度とはしゃがせないようにしようかな、とアイズは一瞬そんなことを考えた。そして前回、私がついうっかり禁句を溢した時も同じことを思ったな、と思い出す。

 

 視線の先ではパラケルがいつも通りに城壁の端から街を眺めるように立ち……そして飛び降りる姿が見えた。

 

 パラケルは日が昇りきる前にどこかへ去ってしまう。それがいつもの鍛練での光景だ。2人きりの時間が心地よく感じるアイズにとっては、ありがたいことでもあった。

 

「じゃ……ベル。続きしようか」

 

「はい……! お願いします!!」

 

 再び、剣とナイフが交錯した。

 

 

 

 町中を歩くパラケルは、その音に笑みを描く。

 

「元気だねぇ……そんなに剣気を漲らせるとは」

 

 とっ、と。

 

 その巨体に見合わぬ軽い着地の音に。

 

「パラケル・タキオン……いや、あえてこう呼ぼうか。久しいな、ラグランジュ!」

 

「会いたかったけど、今じゃないな。【猛者】、出直してくれないか?」

 

「断る……ここを逃せばお前はあの館から出てこんだろう?」

 

 そこにいたのは【都市最強】の【猛者】、オッタル。オッタルの答えに眉を潜めるパラケルは、即座に【絶対悪】に浸り戻る。

 

「【目を閉じよ我が写しの肉体、起きよ我が想い】……【均衡の樹】」

 

 モノクルに白ローブ、ラグランジュの姿へと姿を変える。それはパラケルの姿では実力行使された際に不覚を取る可能性があるためだ。

 

「やはりお前はその姿がよく似合うぞラグランジュ」

 

「おや、他の女にそのような言葉を吐いていていいんですか? フレイヤが嫉妬してしまうのでは?」

 

「ふ……お前に気がある男など相当な好き者か気狂いか……あぁ、最近は治療師もか……一概には言えぬようになってしまったな」

 

「それはそれで失礼ですね……で? その剣で一戦ですか?」

 

「あぁ……因縁だとかで一戦したいのはやまやまなんだがな……次の祭典……武闘大会にあたり、エキシビションで俺とタッグを組める人材を探しているのだ」

 

 オッタルが口にしたのは、次のオラリオのイベント、武闘大会のエキシビションへの招待であった。

 

「えぇ……? それで私ですか?」

 

「あぁ……アレンでも十分だったがアレンが共に戦えなくなった。というか、企画の趣旨的に俺と組めるのがお前かもう一人しかいない」

 

 そこで、ラグランジュの思考がある方向に向けて収束し始めた。もう一人。仮にそれが、今も海の上にいる『アレ』だと仮定する。3人の共通点……そんなものひとつだ。

 

「ねぇ、嫌な予感しますけど……一応、一応聞いていいですか? 私たちVS『何』ですか?」

 

「正確にはだな、レベル7VSレベル6だ」

 

「企画者はバカなんですかね……?」

 

「否定はせんが……発案者は【神会】となっているぞ」

 

「神々はバカばっかり……おっと思わず暴言が」

 

 シンプルに正気ではないタイプの企画だ、とラグランジュは結論づけた。

 

「ちなみに、出場が予想できるのは?」

 

「一応だがレベル6側は出場枠6人。【ロキ・ファミリア】からは【勇者】【九魔姫】【重傑】【怒蛇】【大切断】【剣姫】【凶狼】。この中から3人は出るはずだ……人数が不足すればもっとだろうし我々の中からもアレンやヘグニ、ヘディン……そして噂に過ぎんが【豊穣の女主人】にも内密にアポイントメントを取っているらしいので【小巨人】が出張ってくる可能性すらあるぞ」

 

「ははっ……死地に赴く気分でしょう?」

 

「あぁ……正直な」

 

 乾いた笑いを漏らすラグランジュと同意するオッタル。そして、吹っ切れたようにしてラグランジュはオッタルに向き直る。

 

「付き合いますよ。仕方ない……私は弱いですので戦力としては期待できない……その上にブーイングのひとつふたつどころか万雷のブーイングをされるでしょう。【猛者】……覚悟はありますか?」

 

「悪魔との取引のつもりか? 無意味なことを聞くな」

 

 そう笑って、手を握る2人。

 

「連携を確認しましょう……やるなら勝つつもりで行く」

 

「あぁ。秘密の鍛練といこう……6人といわず、その場全員を打ち倒せる。俺たちならな」

 

 その後、【絶対悪】……【永命】のラグランジュと【都市最強】……【猛者】オッタルのペアと、それに挑む都市にて双璧をなすファミリアのレベル6『全員』という構図が、公式に発表され、都市中を賑やかすこととなる。

 

 このイベントはのちに【双璧融和のエキシビション】と呼ばれ、この街を守る双璧の対立の終焉と和解によりオラリオの守りをより磐石にする一手となったのだが、それを知ることは、無論この時の彼らにはできない。

 

 

 

 

 




『tips:【絶対悪】という二つ名』
なぜか今のオラリオではその言葉をラグランジュに使うものはいない。

なぜかは定かではないが、酒場でその言葉を口にした冒険者が帰り際に裏路地に引き込まれたとか、引き込んだ人物が調合衣を着ていたとか、そういった噂がまことしやかに囁かれている。

「私たちが!ラグランジュさんのイメージを取り戻すんですよ!」
「あのお方を【絶対悪】などと呼ばせてはいけません!!」
「言ってる人を見かけたら…?教育、しましょう!!」

『tips:レベル7』
【猛者】オッタルの他に、メモリア・フレーゼにて言及された二人目のレベル7、海の上にいるとされる【ナイト・オブ・ナイト】が存在している…が、それだけではない。

結局、パラケル・タキオン、あるいはラグランジュの願いは、【救う】ことだ。誰の、どんな病だろうと、傷だろうと…死にさえしなければ、救いだす。それは、彼女の思想に、【死による救済】がなかったがゆえのエゴだ。

【死にたい】という願望を、彼女は決して認めない。

フィンの一目惚れイベント。想いは届くのだろうか?リリルカは…

  • フィンの想いを受け入れる。
  • フィンの想いを拒否する。
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