自称錬金術師のオラリオ暮らし!   作:ふぃーあ

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不定期に更新していきます。

今回はかなり好き嫌い分かれると思いますがぜひご意見のほうをお聞かせ願えると嬉しく思います。


第七講 錬金術師と女子会

 清々しい晴れの日の昼下がり、【黄昏の館】のとある部屋の中で2人の女が話していた。

 

「女子会の誘い……?」

 

「はい、女子会の誘いです」

 

「レフィーヤ君、人選ミスじゃないかい?」

 

 その部屋の主……パラケルは首を傾げた。自分はそういった物事には無縁の人類だと固く信じていたのだから、誘われるとは思わなかったというのが本心だ。

 

「皆さんファミリアに入ったばかりのパラケルさんと仲を深めたいんですよ。それに聞きたいことも各々あるほうでして」

 

「ふうん……? まあいいさ、参加しよう。明日の夜からだということだが、場所はどこかね?」

 

「会議室を借りられるようにリヴェリア様が手配してくださってます!」

 

「そうかい……わかった。多少つまめるものもあったほうがいいだろうし、準備をして向かうよ」

 

 パラケルはそう提案し、レフィーヤもそれを受け入れた。

 

 

 

 時は移り、翌日の夜。調理当番の持ち回りを交代してもらい、女子会に差し入れるつまみを作るパラケルの姿が

 厨房にあった。

 

 芋は芽を抜いて薄切りにした。そうしたら短時間水にさらしておき、この間に未成熟な大豆を茹でておく。

 

「油も煮えた、豆もこんなところでいいだろう」

 

 そうしてパラケルは薄切りにした芋を高温の油で揚げ、揚げたそれを皿分けして塩や胡椒を振っていく。

 

 女子会のおつまみには、ポテトチップス。

 

 神々……というか定期的に昔の主神ことゼウスを訪ねてやってくるおぞましい形相の女神が珍しく随分と上機嫌な時に、パラケルにもたらした至高のつまみだ。

 

「んっんー、やはりこうでなくてはね! あとは……つまみというには少々重たいがせっかくだし私の貯蔵庫から……」

 

 魔石を取り出し欠片で虚空を引き裂き、貯蔵庫と呼ばれる空間から下準備が万端な揚げるだけの鶏肉を取り出す。

 

「いつもいつでも油さえあれば揚げられる素敵な唐揚げスタートキット……問題は私しか使えないことか」

 

 この女、好物は鶏肉である。ウィッチクラフトの術体系の習得のために何匹も鶏を殺しては臓器を利用したが、残りを捨てるのも勿体無いと食べるようにしてから、淡白な肉質にハマってしまったのだ。

 

 彼女が調理当番を勤める日の晩飯はだいたいの場合鶏肉の○○焼きか○○揚げと相場が決まっている。今日は照り焼きだったわけだが、そんなことはどうでもいい。

 

 なぜなら。

 

「できたてだ……さあ、持っていくぞ。揚げ物は熱いうちが華、冷めても旨いが熱ければなおよしというものだ!」

 

 彼女の料理が終わったからだった。

 

 

 

 会議室……という体になっているがよく小規模な集まりをする際に用いられる多目的室になりつつあるその部屋のドアをノック。

 

「パラケルだ、開けてくれないか」

 

「ん、待ってた……それは?」

 

「アイズくん、これはおつまみというものさ。そこのテーブルに持っていきたまえ」

 

 出迎えたアイズに唐揚げを持たせ、テーブルを囲んでいた残りの4人……リヴェリア、ティオネ、ティオナ、レフィーヤの目を釘付けにする。

 

 手招きするレフィーヤの隣、不自然な空席……恐らくそこが己のために空けられているのだろうと考えたパラケルはそこに腰を下ろした。

 

「お待たせした。いやはやつまみ作りに少々手間取ってしまってね」

 

「いや、問題ないぞ。こちらもまだなにも入れていない、始まったばかりのところでね」

 

「ほんとだよー? まだ今夜の話題すら決まってなかったんだから」

 

 良かった、まだそんなに遅れてはいないか。そう安堵の息を内心でついた。

 

「それじゃ、今夜の話題決め……なんだけど、これはみんな一致を見ているということでいいかしら?」

 

「いいと思いますよ、パラケルさんへの質問タイム」

 

「ほう……そういえば各々に聞きたいことがあるとレフィーヤくんが誘いに来たときに言っていたね。いいだろう、酒でも入れながら楽しもうじゃないか」

 

 そう提案すると、全員が賛成の意を示す。

 

「私は果汁のジュースを持参している、これがあればいい」

 

「私たち2人はいつも通りにいつもの銘柄のお酒を持ってきてるからこれ注いでしまうわね」

 

「私は「アイズ、私の持ってきたジュースを飲んでくれ。……頼むから」……わかった」

 

 各々に飲み物を注ぐこの時間が、ある意味においては楽しみでもある。集まりというのはちょっとした場面に楽しみを見るものだなと感じてから、隣席のレフィーヤへ声を掛ける。

 

「レフィーヤくんはなにを?」

 

「私はいつもこれ……弱めの果実酒です! パラケルさんのそれは……? グラス……というかジョッキですよね?」

 

「ジョッキだね、私は麦酒が好きでね……これがまた今日作ってきたつまみによく合うんだよ」

 

 6人が飲み物を準備し終え、杯を持ち掲げる。

 

「乾杯の音頭は……今日はリヴェリア様ですね」

 

「む……わかった。今日までみな良く頑張ったな。今日は【ロキ・ファミリア】女子会というわけで、ひとつ夜半までお付き合い願おう! 乾杯!!」

 

「「「かんぱーい!」」」

 

 グラスやジョッキが鳴らされて、小さな宴が始まった。

 

 優雅に杯に口づける2人、杯を勢い良く傾ける2人。そして、ジョッキを豪快にあおり、ドンッと音を立てて置く1人。

 

「っぷぁっ……いいねぇ、酒とはこうでなくてはならないよ。やはり楽しく愉しく酒を嗜むことはいい!」

 

「すごい飲みっぷりね……」

 

「パラケルの意外な一面、とでも号すればいいのか?」

 

「酔った時のアイズみたいだね!」

 

「私、あんな飲み方してたの……!?」

 

 そして、それぞれに酒を片手につまみに手をのばす。アマゾネスの姉妹が最初に食したのはやはりというか、唐揚げであった。

 

 揚げたての衣と柔らかな鶏肉とが歯にたまらない歯応えを送り込み、思わずと言ったようにして2人は手元の酒を一口。

 

「美味しい……これを団長に作ってあげたい……パラケル」

 

「レシピくらいなら差し上げよう、気に入ったならなによりだ」

 

「うん……うん! 美味しいねー! お酒と合わせて最高最高! 柔らかいし味付けも不思議な感じー!」

 

「東方の国の伝統的な調味料……ミソというらしいが、ミソをたれに使ってみた。いい出来だろう?」

 

「うん! 毎日食べたいくらい!」

 

 アマゾネス姉妹が味噌唐揚げを非常に美味しそうに食べる横、アイズはマイペースにポテトチップスに手を伸ばしていた。

 

「……! 美味しい!」

 

 塩の良く効いた揚げた芋は、一度手を伸ばせば二度三度と手が出る美味さだった。サクリとしてまだ熱く、心地よい熱が手に伝わる。その感触すら気分を良くする。

 

「む? アイズ、次から次へと食べているな……それは美味いか?」

 

「ん……美味しい、よ?」

 

「どれ、私もひとつ……おぉ!」

 

 リヴェリアはアイズとは異なる皿のチップスに手を伸ばし、そして目を見開いた。

 

「なるほど、別種のチップスという奴か。これは硬い……だがそれゆえに歯応えの楽しさがあるな! アイズ、こちらも食べてみるといい」

 

「ん……リヴェリアも、こっちの食べて?」

 

 リヴェリアが手をのばしたのは、塩で味付けされているが揚げかたを変えてあるもの。堅あげなどとも呼ばれるそのポテトチップスは、まさしくリヴェリアにとって久しく出会わなかった外の世界の未知とも言える。

 

 アイズとリヴェリアは互いに推しのポテトチップスを交換し、笑いかける。

 

 ふと、リヴェリアの脳裏に残り1人の同胞のことがよぎった。レフィーヤはなにをしているだろうか? と気になり、目線をやると。

 

「~♪」

 

 なにやら楽しげなリズムを口ずさみつつ緑色のさやからより鮮やかな緑の豆を取り出してはつまみあげ、2個3個と食べながら果実酒を嗜む少女の姿があった。

 

「レフィーヤ?」

 

「~♪ この豆美味しい……枝豆、だっけ? どこで手に入るかなぁ……いっぱい食べたい……」

 

「レフィーヤ!?」

 

「っは!? も、申し訳ありませんリヴェリア様!」

 

「そんなに固くなくていいと何度言えば……まあいい、なにを食べているんだ?」

 

 復活したレフィーヤは、皿に乗った枝豆をいくつかリヴェリアに差し出すと、美味しさについて語り始めたが、あまりに長いのでここでは割愛する。

 

 宴は続き、それぞれに盛り上がる頃合い。話題は料理から本来のものへとシフトした。

 

「で、質問といっていたが……何が聞きたいんだい?」

 

「ふふ……全員が同じ質問を共有しているのですよパラケルさん! でもリヴェリア様は神秘について聞きたいこともあるそうですが」

 

「おーけぃ、神秘のほうから……」

 

「ダメです! 私たちの質問からです!!」

 

「あ、あぁ……わかったよ……なぁアイズくん、レフィーヤくんというのはこのような子だったかな?」

 

「……お酒が入ると?」

 

「なるほどな……」

 

 いろいろと言われてしまったレフィーヤは話を聞かれていないことにぷんすかとしながら、全員の胸に共通してあった女子会らしい質問をした。

 

「パラケルさんは、好きな男の方とかいらっしゃったんですか!?」

 

「あぁもしその肉体ではないというのなら別にラグランジュのほうの好きな男でも構わん、私たちはお前に色恋というものがあったのかなんとなく気になってしまったんだ」

 

 好きな人はいるのか、あるいはいたのか? という問。恋バナは女子会の華だ。

 

「……いたさ、今でも思い返すほどに胸を締め付けられるようだ。覚えているよ」

 

 問に対する返答は肯定だった。沸き立つもの、目を見開くもの、反応は各々。

 

 しかし、続く独白は盛り上がりを虚無に帰してしまうほどに静かだった。いつのまにか、白衣がローブに代わり、浮かぶクッションに腰かけたラグランジュがパラケルのかわりにいた。

 

「あれは……遠い、遠い夢だったんです。……リヴェリア、どうか愚かな恋に狂った愚者を笑ってください。貴女たちが私のことを【絶対悪】と呼んだとき……私は心から嬉しかったんです……あの人と同じ名を得れたんだ、って!」

 

「まさか、お前の好きだった者とは……!」

 

「お察しの通り……【暴喰】のザルド、その人です」

 

「……本当に、驚いた。笑うなどできようもない」

 

 ラグランジュの想い人。それはエレボスとともに襲来し、オラリオに絶望をもたらし……次代に希望を託した戦士。

 

「あの人と同じ、『次代の英雄のため』に生きたわけではありません。私はまだ、生きている……生かされて、いる……だから、あの人の言葉を今も年甲斐もなく信じているんです」

 

「その言葉ってー?」

 

「ティオナ……!」

 

 ティオナが問いかけ、ティオネが軽々しく聞くものではないと静止する。

 

 だがラグランジュは、気にするなと軽く首を振って、託された言葉を噛み締めるように口にした。

 

「『いつか』……『いつか、お前のためだけの英雄がお前の前に現れる』……『俺は、お前の英雄にはなれそうもない』。『だからお前は俺を忘れろ』……ずるいですよ、ザルド……こんなにも私の心に刻まれて……こんなにも刻み付けておいて……」

 

「ラグランジュ……?」

 

「こんな……女々しいものでもなかったんですけどね……見苦しいところを見せました」

 

 そして、ラグランジュは信じられない言葉を次に続けた。

 

「ホムンクルス……パラケルの肉体に使われた男性側固有遺伝子は、ザルドの物なんです」

 

「なっ!?」

 

「「「えーっ!!?」」」

 

「…………!!?」

 

「私の身体は、子を産めない、孕めない体質でして。その体質上『滾った』戦士の相手をすることもそう少なくはありませんでした。不義の女と呼ぶならそれも受け入れますとも」

 

「……それが、どう繋がる?」

 

「一度、たった一度だけ、ザルドにも抱いてもらったんです」

 

 ラグランジュはその時を思い出すかのように目を閉じ、はらりと涙を流す。

 

「優しかったあの人との一時は幸せでした。でも、子は孕めない。体質のおかげで抱いて貰えて、体質のおかげで一番の願いが叶いませんでした……そこで、私の身体に残ったザルドの遺伝子と私の遺伝子を混成しホムンクルスを作り上げたんです」

 

「それが、パラケル……」

 

「そうです。パラケルは、ザルドとの子と呼んで差し支えなかったんですよ……パラケルの肉体に入っていれば、あの人を感じられる……あの肉体は、あの人からできているから……」

 

 その目には狂気が満ちていた。いわば、それが錬金術師、神秘学者としてのラグランジュの狂気に満ちた人生の頂点、到達点だったのだろう。

 

 狂気の錬金術師、パラケル。その狂気は、確かにラグランジュも有していたものだったのだと、全員が理解した。

 

「死者を蘇らせる……そんな夢をかなえるために、より神秘に注力しました。でも……死者は帰ってきません。帰ってくることを望みません」

 

「ラグランジュ……」

 

「ザルド……教えてください。私は……あなたを越える男に出会えますかね……?」

 

「ラグランジュ!」

 

「っ……すいません、本当に何度も見苦しいところを」

 

「こちらこそすまない、聞いてしまって……」

 

「いつか話さなくてはならないことでしたから。ありがとうございましたというべきです……夜はまだ長いです。飲み直しましょうか……」

 

「存分に付き合おう……色々と語らうべきこともあるしな」

 

 そしてレフィーヤたちもまた、ラグランジュの飲み直し宣言に声をあげる。

 

「私たちを忘れないでください!」

 

「ん、飲む……!」

 

「ちょっ! アイズ!? ダメだってばーっ!!」

 

「あぁもう! どうしてこう……締まらないのかな……!」

 

 リヴェリアとラグランジュは苦笑いしながら、そっと再びジョッキとグラスをぶつけた。

 

 

 

 

 




【tips:ラグランジュの体質】
まだそもそも【ゼウス・ファミリア】にいなかった初期も初期、自身に戦闘の才能がないとわかり、どのファミリアにも受け入れられず落ち込んでいた頃に彼女はオラリオでその身体を売っていた。

何度『仕事』をしても、何時『仕事』をしてもなんの異常もきたさないことなどから医療系ファミリアの診察を受けたところ判明したのが不妊体質である。

彼女が泥の底とも呼べる最後の手段で日々の金を稼いでいたある日に、手を差し伸べた1人のサポーターは、紅い瞳をしていたらしい。



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