自称錬金術師のオラリオ暮らし!   作:ふぃーあ

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第八講 錬金術師と階層主

 それはある日のダンジョン中層……

 

「フゥーハハハハハッ!! 甘い! 甘いぞゴライアス! 久しいがやはり! そのデカさと的具合は七年前からなにひとつ変わってやしないねぇ!」

 

「グォォォォォッ!!!」

 

 世界線を変えてしまいそうな笑い声とセットで謎にキレッキレのスピンを見せて白衣を翻し、ゴライアスの攻撃を避けるついでに挑発する錬金術師。

 

 と。

 

「えぇ……」

 

「おい、俺たちいるか? これ。なぁ、なんか言えよベル、リリ助」

 

「……私、これから非戦闘員って名乗れるんでしょうか?」

 

 遠くから傍観する【ヘスティア・ファミリア】の面々。

 

 なぜこうなったかといえば、しばし時を巻き戻す必要があるだろうな、と錬金術師……パラケルは思いを巡らせた。

 

 

 

 皆が遠征に行き、多くの団員たちと同じように残された……理由は彼女がラグランジュになるための魔力スタックの不足を主因に遠征に行くことを断固拒否したからなのだが……とにかく残ることにしたパラケルは、とある事案に遭遇していた。

 

「なんだって……素材不足!?」

 

 パラケルは柄でもなくすっとんきょうな声をあげて頭を抱え、仰け反った。

 

「すまないねぇ、先日ので最後だったんだよ……あとはまた入り待ちだねぇ」

 

 普段御用達の店のばあさまは、パラケルに普段の研究に必須としている薬剤の素材たる草の不足を告げたのだ。

 

「何階層であの素材は取れるのだったかな……」

 

「中層の滝でなら取れるんじゃないかねぇ……無理はしてはいけないよ」

 

「ばあさま……私のレベル、覚えているだろうに」

 

「わかっているさね、だが一人じゃあちょーっと不安ってもんさね」

 

 パラケルはレベル5である。そして今やオラリオでは公然の秘密となった彼女の【裏】はレベル7だ。が、一人である以上は万一、億一があるやもとばあさまは引き留め……ようとしてあきらめた。

 

「だが……まああんたはそういうやつだ。研究ができればどんな努力も惜しまない」

 

「必要経費、というものだ。安心して研究できないというのはよろしくない」

 

「そうかい、そうかい。死んでくれるなよ、この老いぼれよりも先にさ」

 

「無論無論。さて今日の分の錬金薬剤だ、お納めあれ……」

 

 とまあそんなやりとりのもと、彼女はダンジョンに向かったのだ。

 

 が。

 

 こういう時は、ろくなことがない。

 

 それは、ダンジョンのとある階層で、のんびりと進行していたパラケルと炉の女神の眷族との邂逅。

 

「【ファイアボルト】!」

 

 聞き慣れた声がして、パラケルは採集を控え顔をあげた。そして、その方向へと足を進める。

 

 その方向へ向かったパラケルの、真正面から。

 

「ベル様、前方人影です」

 

 かわいらしい女の声が聞こえてきた。

 

「やぁやぁ……なにやら大変そうじゃあないかい?」

 

 思わず声を出してしまう、先頭の少年は市壁の上で幾度となく見てきた少年だったがゆえに。

 

「あなたは……! パラケルさん!」

 

 幸運の兎はこういうところでも幸運だろう。なにせ今いちばん居て欲しい存在に本当に出会えてしまうのだから。

 

「久しいね、ベル・クラネルくん……ランクアップおめでとう。幸先はどうだい? と聞きたいが……それは皮肉になるね?」

 

「ありがとうございます……その通りです、不幸で……」

 

 その不幸という言葉に鼻を鳴らして、小人族の少女が怒りとこちらへの期待を込めた言葉を紡ぎだした。

 

「パラケル様、我々は【怪物進呈】を受けた後階層の崩落に巻き込まれたんです……もしお持ちならポーションの類をいくらか都合して頂けませんか?」

 

 その願いに、パラケルは。

 

「パルゥムくん「リリルカ・アーデと申します」リリくんでいいかね? 君の望むポーションだけど……そんなものよりも効き目がいいものがある。サービスだ、2分でそこの着流しを完全回復させてやろうじゃあないか!」

 

 彼女の期待以上の言葉で返したのだった。

 

 数分後。

 

「どうにか、助かったと呼ぶべきでしょうか」

 

「すげぇ……俺の身体が……」

 

「私の薬は良く効くし苦くもない。パーフェクトってね」

 

 その言葉の通りに、ヴェルフと呼ばれた着流しの男の折れた足をはじめとした、【ヘスティア・ファミリア】の負った肉体的損耗を悉くパラケルは治療した。

 

 そしてパラケルは、ベルたちを地上に送り届けようと声をかけようとして……ふと、気付く。

 

「思えばリリくん。まっすぐこちらに向かっていたということはお目当ては18階層の【安全地帯】……リヴィラに向かおうとしていたのかな?」

 

「はい。リリたちは先ほどまで状況的に【安全地帯】での休息しか生き残る方策がありませんでしたから……ですが今、パラケル様のご同道を願えるなら、あるいは……」

 

 その言葉にパラケルは首を横に振った。

 

「いや、君たちは肉体だけが傷付いたわけではない。精神面的な休養も多少は必要だし、経過観察はさせてほしい……ひとまずは主治医の判断というものだ。それに万一があってはベルの主神……私の元主神の義姉らしい彼女になんと言われても申し開きがつかないというのもあるんだが」

 

 パラケル同行のもとリヴィラまで行く、という意味となる長々とした言葉をリリは受け止め、そして頷いた。

 

「わかりました。いずれにせよ、同道願えるなら何よりです」

 

「無論。一度診た患者は必ず生かす……私の拘りだよ」

 

 こうして、嘆きの大壁とも呼ばれるフロアまでパラケルの援護のもと無事に辿り着いたわけだが……

 

「……! 【階層主】……! もう復活してたんですか!」

 

「ふぅん……どれ、私が引き付けようか、せっかくだ……ベル、耳を貸せ」

 

「はい! ……なんでしょう?」

 

 ベルの耳に顔を寄せ、囁く。

 

「市壁の上では済まなかったな……これは詫びだ」

 

 そこまで囁いてから、残り二人の方へと振り向いて、にこやかに笑いかける。

 

 そして、こう高らかに謳うのだ。

 

「見ておけ竈の眷族たちよ! これが【叡知】の、私の力だ。見ての通りのデカブツには私は滅法強くてねぇ!」

 

 その声を聞きつけ、巨人が吼える。

 

 白衣を翻し、【叡知】が、パラケルが走り出す。

 

 

 

 そうして、今の……すなわち。

 

「だから甘い! 大振りでは当たるものも当たらないだろ!?」

 

「グォァァァァァァァァッ!!」

 

「無駄無駄無駄無駄……!!」

 

「「「えぇ……」」」

 

 竈の眷族たちをドン引きさせる状況となったのだった。

 

「状況確認……準備完了! ではこちらから行くぞ? 耐えて見せろタフネス自慢!」

 

「なんだ……? 今なにか落としたぞ? 見えるかリリ?」

 

「紙……? 札、でしょうか? 先ほども同じものを落としていたような気がします」

 

「リリ、ヴェルフ。パラケルさんはリリの見つけたのと今のを合わせて合計で4つ、アレを落としてる」

 

「4つも、ですか……?」

 

 そう考えるリリの疑問は、ただの一言にて解へと変わる。朗々と、詠唱が紡がれ始めたために。

 

「【大いなるものたちよ、我をして集え。魔術と結合する神秘、今ここに、汝、四元の極致を見よ】! 【四方天陣】!!」

 

 次の瞬間、落とされて、地面にある4つの札……パラケル本人がそれなりに長い時間を使って刻んだ魔法陣が、彼女の足下から広がる陣と触れる。その瞬間、光がそれぞれの魔法陣から放たれ、パラケルの身体に集約され……

 

「久しぶりだよ、これを使うのも。多少は使っておかないと、ね!」

 

 足に風を纏わせ、右手から少し離れた場所に焔を浮かべる。背中には水で出来たとおぼしき翼があった。

 

「【我が左方に土天使】」

 

 そう宣言し左手を掲げる。と同時、地面が隆起してゴライアスを包む。ゴライアスはその剛力を以て砕かんとする……が。

 

「【土】【土】足して【硬化】、【水】【土】加えて【保存】! 四元よ、壊せぬ壁をそこに建てよ!」

 

「ガッ!!?」

 

 その拳が壁を抜くことはなく、ゴライアスは壁に封ざれた。

 

「地面の隆起時点で前に走れば間に合ったものだ……力を過信しすぎるのも、デカブツにはよく見られる行動でね。さて、あとは文字通り煮るなり焼くなり……とそこでだ諸君」

 

 悠然と振り向くパラケルは笑っていた。

 

「「「はい!?」」」

 

 そして偶然に3人の声が揃う。

 

「なに、回復させてやったんだ、削りもしてやる。トドメは任せた、という話さ……任せられる程度の火力はあるだろう?」

 

「はい……ですが、あと3分ください」

 

「奇遇だね……この硬化の効果の持続は残り三分と十秒だ。更新はなし。好きにやりたまえ」

 

 それを聞き、ベルは手に光を集めながら、ヴェルフへと振り返ることなく声をかける。

 

「ヴェルフも、お願い」

 

「任せろ」

 

 その言葉を聞いて、ヴェルフは頷いた。刀を引き抜き、刃を煌めかせる。

 

 そしてカウントを刻む鐘の音に合わせ、刀の先端を確かに確固たる意思と共に硬質な土の壁に向ける。

 

「3分だ、行けるか?」

 

「任せて、ヴェルフ! ……パラケルさん!」

 

「【我が前に風天使】、【祝福あれ】」

 

 2人の後ろから、優しく強く風が吹く。

 

 パラケルの前、彼らの後ろの魔法陣に、人ならざる大いなる気配。魔力的な神秘、神威とは異なるものだ。

 

「追い風、というやつさ! 行くといい!!」

 

「ッ! 行くぞ! ベル!!」

 

 ヴェルフが先に地を蹴った。己が出せるはずもない凄まじいスピード、敏捷のステータスに大きな補正を与える風の天使の加護を受け、鍛冶職人は疾走する。

 

 そして。

 

「オォォォオオォォッ!!!!」

 

「……グァァァァァッ!!?」

 

 速度の乗った剣閃、返しにもう一閃。

 

 刀を振るい、確かに【階層主】の分厚い肌を傷つける。

 

 小癪な黒の着流しに、【階層主】は咆哮する。潰してやる、ここで殺す。確かな殺意を向けて。その瞬間確かに、【階層主】の意識から。

 

 消えてはならぬ強敵への意識が、消えた。

 

「…………【ファイアボルト】ッ! 行きます!!」

 

「クッ……ふっ……ふはっ、あっははははっ!! 本当に、本当に面白いねベル・クラネル!!」

 

 ドンッと、ベルの姿が掻き消える。

 

 パラケルはそれを見て笑う。無駄のない、直線を刻む雷光。

 

 奔る炎雷と共に、いや置き去りにして、ヴェルフに振り下ろされた拳をヴェルフがすでに回避していることに安堵しながら、ベルは拳から腕へ、肩へ……わずかな間に、駆け抜ける。

 

「ハァァァァァァアッ!!!」

 

 肩を蹴り飛ばし、巨人の正面宙空。

 

 ゴライアスが咄嗟に伸ばした腕は遅れて奔る炎雷が弾き、彼方から飛んだ弩の矢が巨人の目を射貫かんとして巨人は防御にもう片方の手を回す。

 

 かくしてゴライアスは、2人の英雄に胸から腹までをさらけだすに至る。

 

「「行っけぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」」

 

「【我が右方の炎天使】、【絶対の加護を】!!」

 

 パラケルの宣言により2人の英雄の刀とナイフ、それぞれに炎が纏わり付いて。

 

 ヴェルフは、下から、左上に刀を振り上げるように。

 

 ベルは、上から、右下に落下の勢いを乗せてナイフを。

 

 ゴライアスの身体に寸分違わぬ斜め十字の傷、魔石を奥に見ることすら容易。

 

 着地したベルの砲声が巨人に引導を渡す。

 

「【ファイアボルト】!!」

 

 炎天使の加護を受け強化された炎雷は、巨人の魔石を砕ききる。

 

 消えていく巨人の前で2人は顔を見合せ笑い、振り向いて、リリルカにサムズアップした。

 

 リリルカもまた、嬉しそうに笑う。

 

 そして、パラケルはそれを眺めやって満足げに目を閉じたのだった。

 

 リヴィラの街の前で、パラケルが【ロキ・ファミリア】の旗を見て見るからに嫌な顔と称される顔になるまで、あと10分のことであった。

フィンの一目惚れイベント。想いは届くのだろうか?リリルカは…

  • フィンの想いを受け入れる。
  • フィンの想いを拒否する。
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