また体調が悪くなっていた。治ったと思ったのは間違いだったらしい。
あれから動いていたら何度か粘液を吐いたが、緑色をしていた。
コンビニを後にした俺は以前にきた内科に再診に行った。しかし生憎鍵がかかっていて入れなかった。
それからは目に付く限りの建物に入った。
書店、ファーストフード、喫茶、スーパー、ホームセンター。どれももぬけの殻だ。今はホームセンターで誰かまだいないか一階と三階を再度行き来していた。
「ウゲぇ。ぷ」
吐いた緑の粘液はしばらくして液体からスライム状に集合し、地面に張り付いている。
「しかし」
いない。あのコンビニの彼女以外。あれっきり誰も見ない。そして商品はある一系統の物だけがごっそり消えていた。
一本だけ残っていたカッターナイフを手に取る。
手に取ったのはほんの疑惑。
何となく何かとんでもないことになっている自覚はとうにある。
しかしまだ脳がそれを拒絶している。しかし確かに自分の中にオカシイという感覚があった。
「ま、あとは、これとこれ」
面白いことにホームセンターには包丁や工具以外は全て揃っている。なぜそれだけないのかはさておき、とある機械を見つけて俺は思わずそれを撫でた。
「ボイスチェンジャーってここにあるのか」
比較的なんでも揃うところで一度訪ねたことはあった。その時は監視カメラコーナーがやたら強くアピールされていたが、
「あー、あー。あー……」
駄目だ、と元の場所に戻しかけて止まる。確かに出てきた声はいわゆる少女を誘拐した犯人のそれだった。
しかし、いまの死人のような声より幾分マシだ。いざという時に役立つかもしれないと、おれは手に取ってレジに向かい、しかし、
「仕方ないから失礼しますよ」
俺はレジ付近のメモを取り出す。
そこに、住所と携番と補足を書き込む。
『非常時だと認識しています。お金は後から払います。よろしくお願いします』
出て行く時も足音一つしなかった。手動でドアを押して開けると、外気がさらに熱くなっていた。
それから死ぬほど歩いた。誰もいない。神隠しにでも、あったように人がいない。
鬱蒼と草木生い茂るジャングルに放り込まれたというよりは、お化け屋敷に一人取り残された気分だ。
こりゃあ、と思わず溢れた言葉を聞く相手もいない。
今倒れたらそのまま孤独死確定だろう。
仕方なく歩いていたが道を誤り元来た駅前広場に戻っていた。
どこをどう歩けば、人、に辿り着くのか皆目検討がつかない。
おれは仕方なく隣駅に向かう。数分で音をキャッチした。
いや、今更というか。遅いというか。
「まじかよ……」
口からモワッと諦念のため息のようなものが漏れる。
どうりで人がいないはずだと思わず得心がいく。
『○○区域は封鎖されています。該当区域にお住みの方でお困りの方、詳しくはお近くの役所や公民館、警察署などにお訪ね下さい。繰り返し』
目の前には長い鉄道の路線に沿うように伸びるニ車線道路と、その奥にある沢山ゴミのように積まれた、
「廃材とバリケード」
潰れた声が漏れる。バリケードは崩れたり積まれたりして騒音を奏でる。
脇の民家や開け放たれたマンションの各室からは漏れ出るテレビのリポーターの鬼気迫る声と、実際にいま何かに襲われているような、悲鳴。
件のバリケード近辺からは目視できないが、人々が口々に士気を上げる声を繰り返す。身構えている、ざわざわとした声。無論、本当にそうかは、断定はできない。
俺は踵を返した。
「よし」
ゆっくりと方向転換し、少し走る。情報が欲しい。何が起きているかこの目で見なければわからない。あのバリケードがある方に進むのは何か嫌な予感もあった。
顔を上げるとさっき悲鳴があったマンションの一室から救難信号のようにライトが動いていた。