※この受話器の話ではないです(⌒-⌒; )
どこかの建物の中。
固定電話が鳴っていた。
留守録の再生中の表示が点灯している。
しかし誰も出ない。人の気配もない。かと思いきや、誰か人影がのそりと立ち上がる。
さっきまで床に吸い付くように横たわっていたその彼女はポタポタと口から赤い液体が垂れている。
鳴り続ける電話。
彼女はしばらくそれを見つめ、次の瞬間バシッと受話器を払った。ぶらんと伸び落ちる。そしてペタペタと触り親機のデジタル表示が再生中に変更される。
『おい、おい、おい。おい! 聞こえるか!? 逃げろ! 洒落になんねーぞ! 隔離施設が全滅した! おい、聞こえてるかよ○○○!?』
伸び落ちた受話機を見つめる彼女。その目はどちらも小さく出血している。足元には誰かの身分証が転がっていたが彼女のものではない男のもので、陸上自衛隊のカード型身分証だった。
『全くとんでもねえ厄日だ。俺が配属されたのはまえに言った通り隔離施設のある病院の保安業務だ。例の病院の騒動だよ。あのあと生き残っていた患者を移送したが、移送中に何人に感染していたかな。しかし肝心なのはそのあとだ。同僚がトチって感染者の食事提供中に噛まれたらしい。どうやら噛まれると感染する。発症までに個人差はあるが、今回は特に早かった。同僚は元々うちの部隊ではエリートなんだ。あいつの凶行だけで僅か一日で壊滅した。おい! 聞こえるか? 返事はいい。もう感染は市街に広がってるはずだ。一応あいつは俺の手で始末したさ。しかしやばかった。感染者には個体差がある。とくに普段から鍛えている奴には注意しろよ。死後硬直がない。いや、細胞が死後再生してるやら、医者もパニクってたさ。いいか? 通常の経口感染にも気をつけろ。手はまめに洗えよ。外の物はあまり触るなよ。除菌剤は効かないと思え。手に付着したら水で流すしかない。あとはそうだな、今すぐ外出できるなら、そのまま西に向かえ。この区域はまもなく封鎖される。上層部の話だと抑えきれないようなら……だ。なあ○○○。俺たち付き合って何年目だ。そろそろいい加減一緒に』
直後、鋭い回し蹴りが受話器を捉え、本体ごと宙に滑空する。電話線も引っこ抜けた。
壊れた電話機は更に足で踏みつけられた。ぐしゃぐしゃにされた後、彼女はそれに噛み付いて食い始めた。
彼女は笑いながら電話線に齧り付いた。
そうして程なく室内にまた静寂が戻る。彼女はどこかに出かけようと、玄関に向かう。すると何かに蹴躓いて転んだ。大柄な男だった。横たわっていた。
彼女が倒れると、今度は彼が呻きながら彼女に覆い被さった。