ゾンビ•セルフ•ダイアリー   作:ゾンビのモブ

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雨中の憂鬱

 結局なんでもないの太鼓判を押された俺は隣の薬局にいき、処方箋と保険証を出して大して待たされずに薬を貰ってそこを後にした。

 

 外をしばらく歩いていると雨が降ってきたが、バッグを被っていたので大して濡れはしない。バッグの有能さに思わず嘆息する。

 

『これからどうする?』

 

 道を行く俺の頭に雨が降る。バッグは防水じゃないからあまり長くはもたないだろう。

 

『なんでもないって事は家に帰るか?』

 

 それしかない。警察の件は正直そこまで本気で考えていたわけじゃない。

 

 思うと俺は雨中の街中で足取りを早める。脳と身体があまり連携していないが、あくまでも感覚だけであり実際には動く。

 

 道行く人々は傘をさしていた。バッグを被っている俺を皆奇異の目で見ていくが、晴れていた時より大分ましな視線だ。

 

 俺の手は今青黒い。でも見ようによっては顔料で手を汚した変人画家に見えなくもない。

 

 そうこう考えているうちに俺は無意識に自宅(アパート)の階段を登っていた。

 アパートはスレート屋根の鉄筋で階段は手すりから何から腐食している。

 

 帰宅する。部屋に入ると、俺はすぐに何かをせずにとりあえずベッドに寝転んだ。

 そのままテレビをつけようとしたが、やめる。

 

 まただ、と耳を塞ぐ。

 異常知覚。耳を塞いでみたが、それでも聞こえる。

 まず、一階の角の大家さん。不在だが、猫が留守を預かっている。ペット禁制のはずだが、大家は別なのだろう。

 

 一階は他に三世帯。全員顔を合わせた事はないし、不在だ。

 2階がやや騒がしい。西側角部屋の俺の隣は独身のガテン仕事の男性でたまに挨拶していたが、今日は平日昼間なのに家に居てゲームをしていた。

 

 その更に隣では両親と子の高齢家族だったはずだが、喧嘩をしていて、異常知覚によりよく耳に響いた。

 

 東角部屋にはよくわからないが外国人の集団が暮らしていたが、今は皆で仲良くトランプ遊びに興じていた。笑い声が聞こえる。

 

 これら全てがまるで自分の手の届く範囲で全て聞き分けられる。

 それが今の俺の状態である。なんだか良さそうに聞こえるが、50メートルの範囲はわりと広く、耳も塞げないので地味にきつい。

 

 それでも観念してテレビを付けた。

 

『えー、○○区○○で50台前半の男が民家に刃物で押し入り、自宅で寝ていた当時20歳の男性を』

 

 付けながら携帯を弄る。そういえば、少し横になってリラックスしたせいか、心なし気分がよく体が軽い。

 病院で大丈夫と言われたからかもしれない。

 

 あの時無意識に書いた『神経症』の字面を思い出して軽く笑う。

 

『次のニュースです。昨日未明、○○山林で発生した大規模火災ですが、本日昼に無事鎮火したとの』

 

 2階の家族の喧嘩がようやくひと段落つき、ガテン系の男が便所に入り、外人が勝って雄叫びをあげていて、一階で猫が鳴く。

 

 勿論これ以外の音も聞こえるはずだが、意識的にシャットアウトしている分厚い外壁数枚を挟んだ場所は知覚を薄くできるようなのだ。突然ですがと前置きしたテレビのキャスターに俺は目線を変えた。

 

『緊急速報です。本日正午。病院で何者かが窃盗に入り、薬が盗まれるという事件が発生しました』

 

 ガバリと起き上がる。いやまて、と突っ込む。緊急でやるようなニュースじゃない、

 

『現場には警察官が駆けつけました。すぐに捜査が始まるかと思われましたが、病院はしばらく後に病院をロックダウンしました。以降一切の応答が途絶えました。現在外部の警察が中と連絡を取りあっていますが、繋がらないそうです』

 

「まじかよ」

 

 思わず声が出て、俺は立ち上がった。

 

『警察は何らかの事件が発生したと見て、現場の人数を増やして対応しています。今テレビカメラに病院の入り口付近に沢山のパトカーと救急車が止まっているのが見えますでしょうか!? まもなく機動警察隊が現場に突入するとの話です!』

 

「これ、俺、無関係……じゃねえよな」

 

 関係があってもなくても、今の病弱な自分にできる事はない。見守るばかりだ。

 でも近い。ここから病院までは距離にして十分。

 

 途中にコンビニがあるし、今は昼だ。まだご飯を食べてない。すっかり忘れていたが、金は先日の合コンで使い切り、財布にはないが携帯にまだ電子マネーが入っていた。

 

「気晴らしにいくか、コンビニ」

 

 喉がおかしいのは相変わらずだ。これで飯が喉を通過するのか疑問だがやってみるしかない。

 

 俺はタンスから服を引っ張り出して全身着替えた。

 着ていた服はまた血が滲み出していたからだ。下着を重ね着して誤魔化し、靴下も二重に。手袋もつけて、サングラスをかけた。

 

 ニット帽を被りマスクをする。

 

「完璧じゃねえか」

 

 鏡を見て震える。誰も俺が病人だって気づかないだろう。傘もさして少しるんるん気分で外に出た。雨中だが先程までの憂鬱は収まっていた。

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