ゾンビ•セルフ•ダイアリー   作:ゾンビのモブ

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始まりの音

 本日PM二時二十分。重い目蓋をこじ開ける。昨日と変わらぬ曇天が不幸の前触れのように漂っている。

 

 俺は糊を剥がすようにベッドに張り付いた身を起こす。唇も縫い付けたように張り付いて隙間から辛うじて息をしていたらしい。強引に手でこじ開ける。

 

 白とビンテージウッドが基調の壁に草木が生えたこの部屋は、部屋の主の投資家が趣味全開でステッカーを貼りまくり若者風を意識したものだが、俺はわりと好きだった。

 

 起きてすぐ三歩歩いて窓を開ける。空いた手でテレビをつける。

 

 欠伸をしていると室内がテレビの音で賑やかになってきた。ニュースでは先日の病院騒動が報じられている。チャンネルはあれ一色だ。

 

 俺はすぐさまユニットバスに入り洗面台に。鏡をみると痛ましい姿がそこにある。

 

「ゾンビ」

 

 復唱する。

 

「お前はゾンビ?」

 

 顔をベタベタ触りながら、瞬き。息が荒くなり動悸。返事はない。

 

 目を閉じて数秒。祈る様にまた目を開ける。現実がそこにある。

 

 溜め息が重い。ユニットバスをでるとタイミングよく何かの広告が玄関の新聞受けに投げられた。

 

 手に取って軽く目を通す。

 

『市内病院壊滅!? 未知のウイルスか!? 最強の星読みに聞くこれからの』

 

「風呂入るか」

 

 しかし何かから目を逸らすように着衣のまま。温めた湯に浸ったつもりが、何も感じない。それでも気分は紛れる。

 

 自分の身に何が起きたのか整理する必要があった。

 

 突然の身体不調から始まってまだ日が浅い。それなのにこのとうに死んでいるような見た目。これは本当にウイルスなのか。

 

 体調に関しては今に至って良いも悪いもない。動けない程じゃないが麻痺しているし感覚が遠い。首から下に義足を着けたらこんな感じかもしれない。そして見た目的にはバッドだ。

 

 あの大量の薬が効いた可能性も考えたが確証はないし調べようがない。

 

 ウイルスの侵攻具合も見た限りではあの病院が最後にして最大で、既に事は終わってしまった。

 

 誰かが発端でウイルスを撒き散らしたのだとしても、調べるまでもなく終わった。

 

 後はお偉い研究者達が諸手を挙げて後日談として真相を解明するのだろう。

 

 その過程で俺の今の病気も軽快するなり治療法が見つかるなりするかもしれない。

 

 長く浸かっていたが湯冷めはしなかった。夏場なので服は自然乾燥に任せてまた夜になってもう一眠りした。夕方頃にはもうアパートはいつもの住民達の喧騒に包まれていた。

 

 

 

 

 そしてまた目が覚めた。うだるような暑さの中で目蓋をこじ開ける。唇をまたこじ開ける。携帯をみると、

 

「10日……」

 

 10日が過ぎていた。糊を剥がすようにまた身を起こす。暗かった。夜かと思ってみたらまだ昼の二時。太陽は隠れているが、それにしても暗い。気付けば部屋の電気が、

 

「停電か」

 

 街も停電しているのか、やたら静かだった。

 俺はとりあえず買い出しに行く事にした。

 それに後バイトを長らく休んだままだ。

 

 貯金は電子マネーと銀行に少しあるがこのままでは家賃すら払えなくなる。いつまでも休んでいるわけにはいかない。

 

 適当な靴を引っ掛けて外に出る。

 外はやはり暗い。明るいのに暗い。そして静かだった。鳥の声も虫の音もしない。

 

 息を吸うと気管に七月の暖気が入ってきた。

 

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