ゾンビ•セルフ•ダイアリー   作:ゾンビのモブ

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そして誰もいなくなっていた

 人の気配がない。

 息吹がない。自分の音以外の音がない。 

 

 何も聞こえない。

 でもあちこちでつけっぱなしになっているテレビの音。民家やマンションのそこかしこから置き去りにされた電化製品が音を立てている。

 

 カンコンカンと鉄階段を降りて行き、アパートの隣でいつも世話になっている自販機の横を通り過ぎ、

 

「とりあえずコンビニか?」

 

 他にない。他に思いつかないのは俺の頭にはいつも行き帰りの学校かバイトか食料と日用品の買い出しくらいしか詰まってなかったからだ。

 

 アパートから出てしばらくしても人通りはおろか、屋内にいる気配さえない。

 音がしない。しかし他の音はするから、異常知覚は健在だった。

 

 しかしいちいちそれらを気にかけているのも面倒で、さっさと十日ぶりくらいのコンビニに入って店員にトイレを借りようとした。歩いていて丁度思い出したのだ。行き忘れていた。

 

 出るかはわからない。しかし飯はかろうじて喉を通過した。消化されているかも謎だが、少なくとも何かが収まる空洞はある。

 

 軽快なメロディとともに自動ドアが開く。

 

「あ?」

 

 俺を待ち受けていたのは、無音だ。

 

「なんだ?」

 

 わからないが、今ここには誰もいない。それがわかった。買って知ったるコンビニだが、系列が違うし勝手にバックヤードを訪ねるわけにはいかない。

 

 気にせず商品をカゴに。

 

「お?」

 

 ない、ない、ない。おにぎりも菓子パンもカップラーメンも弁当もガムもチョコもビスケットも食料品となのつくものが全て。

 

「ない」

 

 一瞬混乱するがすぐに平静になる。辛うじて天然水が二本とミニカップラーメンとうまい棒が3本残っていた。それを手に取りついでに雑誌コーナーから暇つぶしに漫画本の最新刊をとってレジにいく。

 

「すいませーん!」

 

 応答はない。

 

「すいませーん! ん? すいませーん!」

 

 ずっと待つ、が誰も来ない。

 

 すると、しばらくして。

 

「○○くん。○○くん。うっひぎい」

 

 変な声がした。バックヤードから。俺はまた呼んだ。すると、ようやくガタりとものが動く音。

 もう一度呼びかける。

 

「あ? だれ? あなた」

 

 変な言動だなとは思ったが、気にせず、

 

「会計おねがいします。あ、袋は全部一緒でおなしゃす」

 

 すると幽霊のように近寄り突然ズサッと速くなりレジに倒れ込むと起き上がり無言で袋詰めをしていく少女。大学生くらいだ。髪型がこの前と違うが全体的に輪郭が似ているので前のバイトの子かもしれない。

 

「大丈夫すか? あ、ハシ付けて下さい。いや全部で」

 

 言った直後ぴたりと静止した少女はしばらくして、あ、はい。とだけ返事してまた詰めていく。とはいえ品がそんなにない。すぐに袋詰めがおわるやいなや、

 

「は? え? え? 何?」

 

 袋詰めはおわらない。というか空気詰めというと語弊だが、ようは何かを詰めていくフリだけ続けていた。

 

「はい。はい。○○くん。ごめんなさい」

 

 ちらっとだけ顔を、ちゃんと、見た。

 

「4500円です。あ、あ、お釣りはいりません」

 

 目の周りが落ち窪んで眼球が片方だけ陥没していた。

 手が老婆のように皺だらけで、青い血管が全て内出血を起こしたように手に広がる。

 

 先日までよく見た似たような風姿だ。

 鏡で。

 

 俺は聞かなくてもコンビニの商品くらい実際にいくらかは、暗算で大体わかる。

 俺は少し多めに450円を払ってそこを出た。

 

 帰り際に店員さんは、またきてねけんくん、と言っていた。聞き間違いじゃない。俺はけいいちだ。惜しいが別人。

 

 けんくんってのは多分、あの日病院にいると言っていた彼氏かなんかだろう。

 

 何故かそう思っていた。

 思うというより断定していた。

 

 それと人はいた。コンビニ店員が一人。

 誰もいなくなったわけじゃない。

 

 では他のやつらはどこいったのか。

 

 俺は再び次の建物に走った。

 

 自動ドアは何かに引っかかって閉まらなかった。

 よく見るとそこに白い歯みたいなものがいくつも転がって丁度開かなくなったようだった。

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