翼をください 作:目からスライム
僕の名前は
僕が生まれた地域は過疎化が進んでいて、学校の総生徒数はたったの七人。僕の上に三人いて、下に二人、同級生は一人しかいなかった。そして全員男子という切ない現実……でもまあそれはそれでいいかと僕は田舎生活を楽しんでいた。
数が少なかったせいか僕達中学生はいつも一緒に遊んでいた。夏は水着に着替えて川で遊んだり、冬には雪合戦でよく窓を割ってお母さん達に怒られたものだ。
でも、もうあの世界には戻れない。
何故なら僕は異世界というところに飛ばされたからだ。
正直異世界に飛ばされたときは何が起こったのか分からなかった。突然足元が光ったと気づいたときには僕は如何にも魔術師らしい服を纏った人たちに囲まれていて、隣にいたパーカーを着た男が「異世界転移……?」と呟いたのを聞いたことでやっと現状を理解できた。
心なしか身体が軽くなった気がしたし、非現実的な現象に少しワクワクしてたのも事実だ。でもその高揚はすぐに消え去った。恐らく僕と同じように異世界転移したであろうパーカーの男が、急に魔術師っぽい人達に殴りかかったのだ。
拳一発で頭が吹き飛び、そこからは阿鼻叫喚の地獄絵図。イノシシとかの狩猟で血には慣れていたが人間の血はまったくの別物だった。いつの間にか周りにいた人達は惨い姿で転がっていて僕とパーカーの男だけが残った。
恐怖で身体が動かなくて、次は僕が殺されるのかと思ったけど何故かパーカーの男……
ぶっちゃけ凄く怖かった。うん、ちびりそうになったよ。漏らさなかった僕を褒めて欲しい。血に濡れた手で握手とか求めてくるんだ、触りたくなかったけど次に僕が殺されかねないからひきつった笑みのままちゃんと握り返したよ。触った感触は血でネチョネチョしてて、その下にはゴツゴツとした厚い手の平があった。たぶん武道とかを習ってたんじゃないだろうか。蹴りとかパンチとかサマになってたし。
それからラーゼンとかいうお爺さんがやって来て状況を収束してくれた。すごいよね、大量殺人事件を目のあたりにしても眉一つ動かさず冷静にいられたんだ。それからラーゼンさんが変な呪文みたいなのを唱えると体が動かなくなってしまった。これにはこの惨況をつくりだした田口くんもビックリ。
その後も一悶着あったんだけど……まあ話すことではないだろう。
☆
転移から早くも一年が経ち、僕は僕をこの世界に転移させたエドマリスっていう王様に呼び出されていた。
王の間に続く廊下を歩きながら、隣を歩いていた糸目の青年に声をかける。
「ねぇ
「そうだね……やっぱり、国境の防衛強化じゃないかな?」
防衛強化ね。でもここ最近は魔物の侵攻も減少してるって聞くけど状況が変わったのかな。それともドワルゴンが攻めてきたのだろうか、ぶっちゃけ人間同士の戦いは嫌なんだけどなぁ。
「最近はあんまり戦闘許可も出ていないしね」
そう言って少し口角を上げる恭弥。なんだろう、凄く怖い。
彼は僕と同じ転移者で、二年程前に召喚されたと聞いている。本名は
「む、遅すぎるんじゃないか?」
王の間に着くと既にいつものメンバーが集まっていて、その中の一人であるフォルゲンさんが少し非難を含んだ声で注意をしてきた。
時計などの時間を確認するものが支給されていないので無理があるよねと思いながらも一応上司に当たる人なので素直に頭を下げとく。
「すみません、少し用事があって」
「ふん……次はないぞ」
そのセリフ今回で五回目だぜ?と心の中で悪態を吐く。もちろん声には出していない。もし聞かれたら僕の首と胴体はお別れの運命に遭うだろう、
フォルゲンさんに促され用意されていた椅子に座る。
「全員集まったようじゃな」
ラーゼンさんが全員いることを確認し、王座に座るエドマリス王に目を向ける。エドマリス王はその視線に対して小さく頷くと口を開く。
「皆の者。現在、ファルムス王国は滅亡の危機に瀕している」
へえ……え、マジで?
「これまでファルムス王国はドワルゴンとの唯一の貿易国として大いに潤ってきた。だが、近年ジュラの大森林に興ったテンペストという国にその利益が奪われつつある」
テンペストってスライムが興した国だったっけ。最弱のモンスターって聞いてたけどもしかして強いのかな。今度ラーゼンさんに聞いてみよう。
エドマリス王が話を続ける。
「テンペストは魔物の国と聞いている。我はルミナス教徒として信条に従い、彼の魔国を滅ぼすことに決定した」
確か魔物の生存は認めないっていうやつだね。ぶっちゃけ僕としては人語を喋る魔物とは戦いたくない。風の噂ではテンペストでは魔物が人間のように生活しているらしいし、僕自身争いは嫌いだ。話し合いで解決できないのかな。
「じゃあ魔物ぶっ殺してもいいのか?」
「ああ、そこは好きにやってよい。ただし我々の指示には従ってもらうぞい」
「けっ、俺達が逆らえないことを知ってるのによく言うぜ」
田口くんの質問にラーゼンさんが応える。
質問の内容物騒過ぎない?どんだけ殺戮衝動に駆られてるんだよ……今度差し入れにニボシを送ろう。カルシウム大事だからね。
僕も疑問に思っていたことを聞くことにする。
「その、話し合いでは解決できないほどの問題なんですか?」
「話し合う以前の問題じゃ。魔物と交渉など出来るわけがなかろう」
バッサリと切られて終了。魔物に対しての信頼性低っ。
「他に異論はあるかの?」
ラーゼンさんがそれぞれの顔を見渡す。
誰も口を開けずに沈黙しているため、異論はないと受け取ったのかラーゼンさんは椅子から立ち上がり良く響く声で告げる、
「決戦は一週間後、各々準備を済ませておくように。それと異世界人組には別行動の任務があるためここに残ってくれんか」
「了解した。行くぞ」
その言葉にフォルゲンさんと他の部隊長さんたちは速やかに王の間から退出する。きびきび動くなぁ、正に騎士の鏡ってやつだね。これからしようとしているのは大量虐殺だけど。
「はぁ~?ちょ~だるいんですけどぉ。アタシさぁまだネイル終わってないから早くしてくれないぃ?」
ちょっと間伸びいた声で抗議するのは
彼女の言う通り、僕もまだ用事が残っているので早く帰りたい。だからといって抗議しても時間の無駄にしかならないので、素直に口を挟まず聞くのが得策だ。それなのに水谷さん……貴方僕よりも年上ですよね?
「まあまあ。きっと僕らにしか出来ないことなんだよ」
「つってもぉさぁ~」
「うるせぇぞキララ。ほら、早く要件を言ってくれよラーゼンさん」
恭弥が宥めるもなお抗議を続ける水谷さんに田口くんが若干キレ気味で告げる。でも彼の顔は獲物を見つけたかのようにギラギラしていた。まさに女の子を狙う肉食男子……怖っ。
「すまぬな省吾。貴様たちにやってもらうことは―――――」