バカと無情の試召戦争 ~番外編という名の復習ノート~   作:Oclock

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1さつめ 先輩と戦後と入部試験
清く正しい広報部を目指して


 文月学園には、様々な部活が存在する。

 

 運動系の部活を挙げるなら、メジャーなスポーツである野球部やサッカー部、全国大会常連のテニス部にバレーボール部、学園内ではそこそこ有名な卓球部に廃部寸前の相撲部などがある。

 文化系の部活なら、どの学校にもありそうな吹奏楽部はもちろん文月学園にも存在するし、他には最近将棋のプロの孫だという生徒が入ったと噂されているボードゲーム部(部員らは『盤上遊戯部』と呼称)に、これまた廃部寸前の美術部……。

 

 そしてわたし、青葉文(あおばあや)が部長となって、早半年ほど経ってなお、一部の生徒から不信がられている広報部が挙げられる。

 

 二年のFクラスがAクラスに喧嘩を売って、二日が経った今日。この日は8名ほど新入生が入部して初めての広報部活動の日だ。

 

文「…………よし、全員揃ってるな~。……どうも!わたしがこの広報部の部長にして、3-C代表!青葉文です!」

 

 ただでさえ狭い部室に私の大声が響く。

 

文「そして、隣にいるノッポのメガネが副部長の木地標示(きじしるし)君です!」

 

 右耳を押さえながら、180cm超えのヒョロ長の男が軽く会釈をした。

 

文「えー、皆さん、先程も言いましたけど、わたしが!部長です。木地君はAクラス所属に対して、わたしはCクラスと天と地ほどの学力差がありますが、わたしが!部長です。大事なことなので二度言いましたよ!もう一度言いましょうか?わたしが……。」

 

標示「部長、三度目は流石にくどいですよ。後、声量落としてください。新入生の鼓膜を破る気ですか。」

 

 そう言って、手に持ってたノートで頭を叩かれた。ちくせう。

 

標示「えー、副部長の木地標示です。私個人のことなど、話すことなんて無いので代わりに部長についてでも。」

 

 そうかなあ?木地君の特徴はそれなりにあると思うけど。例えば、喋るときは棒読みっぽくて早口になるとか。

 

標示「青葉部長は去年から、優れた洞察力と文章の表現力を以て広報部に貢献しています。ですので、広報部部長として彼女は信用していますし、信頼もしています。」

 

 おや?木地君がわたしをここまで誉めるなんて……。さっきノートでわたしの頭を叩いた人と同一人物とは思えないなぁ。

 

標示「ですが……、尊敬はしてません!」

 

 うおおおおい!なんだその一度上げてから落とす手法!さっきの感動を返せコノヤロー!

 

標示「彼女はネタの予兆を察知すると、その場所に急行しないと気が済まない性格なのです。本来なら美点と称賛すべき探求心なのですが、部長としてはやるべき仕事を放り出して現場に向かうものですから、我々の悩みの種の一つなのです。ですので、私からは一つお願いを。青葉部長が部室を飛び出しそうになったら、全力で取り押さえてください。」

 

 くっ、全て事実だから、ぐうの音も出ない。

 だけど、新聞のネタは部室で生まれてるんじゃない。現場で生まれてるのよ!読者に正確な情報を与えるためには、直接現場に赴き、関係者に徹底取材、必要ならば自分の考察も載せつつ、中立の立場で物事を語る。

 これがわたしのジャーナリズムよ!

 

 その後も、唯一の二年生部員である『新野すみれ』さんに始まり、一年の後輩の自己紹介もスムーズに行なわれた。

 それにしても皆真面目だなー。逆に言えば特徴が少ないとも言えるから、わたし個人としては、一人くらいぶっ飛んだ奴がいてくれると嬉しかったんだけどなー。

 

文「それじゃあ、早速で悪いけど、取材に行ってきてくれないかな?対象は二年のAクラスとFクラスの代表。人数は……二人ずつでいいかな?我こそは、と言う者は挙手をお願いしまーす。」

 

 ………………全員の手が挙がった。皆手を挙げないという最悪の事態だけは無いとは思ってたけど、逆は想定外だったわ。

 仕方がないから、フィーリングで適当に四人を選抜。皆やる気があるから、誰を選んでも問題ないよね?

 

文「ふう…………。なんとか決まったね。それじゃ、残りの人達は、木地君の指示に従ってね。取材班はAクラスとFクラス、どちらの取材に行きたいか選んで頂戴?」

 

 これは流石に予想できる。従来のFクラスなんて、関わりたくない相手だ。皆Aクラスの人から話を聞きたいと思うだろうね……。仮に話し合いで2対2に分けようとしても、十分はかかるんじゃないかな?

 そう思ってたら、一分も経たずに割り振りが決まった。

 

文「…………わーお……。なんと言うか……その……君達優秀だねー……。いや、私の予想があまいだけか……?」

 

 なんとキレイに2対2にちゃんと分かれた。さっきといい、今といい、私の予想を見事に塗り替えている。

 

「ぶ、部長?」

 

文「あー、やや、何でもない、何でもない。それじゃあ、早速活動開始ね。と言っても、どっちもアポとか取ってないから、突撃取材みたいな形になるけど……。」

 

 わたしの場合はそれで強引に押し切ることが多いけど、相手の予定もあるわけだからね。ま、あの二人に予定なんてあるようで無いものだと思うけど。

 

「……分かりました。出来る限り頑張ってみます!」

 

「そうだな。親父も言ってた……。良いことも悪いことも経験して大人になっていけって……。」 

 

 なんてポジティブな後輩たちなんだ。

 

「けども、問題はFクラスの方だな……。話が通じる相手だといいんだが……。」

 

文「あー、それは問題ないわよ?確かに問題行動が多いけど、話が通じない相手ではないから。むしろ………………Aクラスの取材の方が困難を極めるわよ?」

 

「ど、どうしてですか、部長?」

 

文「…………。」

 

 さーて、どう切り出そうか……。2-Aの代表は『死神』という異名を持っていた双眼零次君。2-Fの代表の坂本雄二君も『悪鬼羅刹』なんて恐ろしい異名を持ってるけど、問題は異名(そこ)じゃない。

 双眼君とわたしは去年の『ある出来事』がきっかけで深い溝ができている。それも、わたしがどう謝ろうが埋めることのできないほどに深い溝だ。これを事細かに説明していたら、部活の時間が無くなってしまう。わたしたちが発行している『文学(ふみがく)新聞』の締め切りに間に合わなくなるのは、部長として避けたいところ。

 

文「そうねー……。じゃ、時間がないから簡潔だけども、その理由を説明するわ。まず、私が去年所属していた部活について。……………………。」

 

 結局苦渋の決断……って程ではないけど、零次の取材が難航する理由となる出来事について話すことにした。

 ……補足のほうは、悪いけど零次君に丸投げしようかな……。

 

 

・・・

 

 

零次「断る」

 

すみれ「そこをなんとか!!」

 

 Fクラスとの戦争から二日あけた日の放課後。俺の気まぐれでαクラスをAクラスに召集し、いつも通り勉強会を開いているところに、真倉ねるのと同じCクラス所属で広報部の新野すみれが、一年生であろう男女二名を引き連れて、取材のお願いをしてきたのだ。……なぜか俺に。とりあえず勉強の邪魔にならないように場所を変えたが、正直言うと面倒臭い。

 

 ここには今いないが、霧島に聞きたいことがあるというなら、話は分かる。去年まで、学年首席の座を守り続けた生徒だ。今はその座を俺に奪われた訳だが、成績は現状維持……いや、微量ではあるが、上がり続けている。王座奪還も決して夢物語で片付けていいものじゃない。

 一歩譲り、久保に取材したいというのでも分かる。去年まで霧島・近衛・姫路の三名に続き、男子生徒では最も得点の高い生徒だ。今年に入ってから、俺との付き合いがかなり増えたからそのついでに俺からもコメントを貰いたい、というのなら、渋々ではあるが了承した。

 

 だが、奴らのメインはどこからどう見ようと俺のようだ。…………まさか、青葉先輩は『あの出来事』を話してないのか?

 

零次「その取材に一体何の意味がある?去年みたいにあることないこと適当にでっち上げて書けばいいだろうが。」

 

「そんなことできませんよ!」

 

「そうだ。親父も言ってた……。平気で噓をつく人間にはなるなって……。大体、そんな出鱈目新聞、誰が手に取ると言うんですか!」

 

 そう語ったのは、一年生二人組だ。ご丁寧にネームプレートも提げている。

 

 まず、俺の言葉に真っ先に否定を入れてきたのが、『花沢ちゆり』という女子生徒。栗色の髪に、赤・白・黄色の髪留めをしている。パッと見で入って来た情報はこれくらいだが、きっと一年の間では優等生として有名なんだろうな。

 もう一人は『近藤太一』という男子生徒。運動部にいた方が自然なくらいがっしりした体系と、それに見合う太めの眉に、それらに見合わないつぶらな瞳を持つ生徒だ。発言から察するに、父親を大分尊敬しているようだ。

 

 ……彼女らの紹介はこんなところでいいだろう。

 話を戻そう。でっち上げばかりで嘘八百並べた新聞をとる奴がいるのか、だったな。

 

零次「…………取ってるぞ。この学園の七割の生徒が。」

 

「なん…ですと……。」

 

「…………もしかして、『文月新聞』のことですか?」

 

零次「なんだ、聞いてたのか。」

 

 あの先輩のことだから、てっきり教えてないものだと思ったんだが……。

 

「はい。去年まで発行されていた学校新聞で、現在では廃部になっている新聞部が記事の作成に関わっていた、ということくらいですが……。」

 

すみれ「というか、そんな記事も書いていたのね。私が知っているのは、『彼女にしたくない女子ランキング』とか『モテそうな男子・女子(同性愛編)ランキング』とか、訳の分からないランキングを作っていたことだけど……。」

 

「え……。何なんですか、そのランキング。一体どこに需要があるんですか?」

 

零次「文月新聞の読者の過半数だろうよ。アイツらは、他人の不幸をオカズにご飯をおかわりするような連中だからな。」

 

 文月新聞には、他にもどこかのサイトから文章を丸パクリしてきて書いたような記事や、明らかに盗撮した写真を使ったゴシップ記事などが掲載されていた。

 新野が言ったランキングも、『平気で人を殴る』や『不潔な人』など、人となりの方向性を示すものではなく、実名を出さなければ無効票扱いという質の悪いものだった。

 

 俺にとって、そんな新聞は非常に不快なものだった。当然、新聞部に質の改善を要求する投書を何度も送った。だが、その要望が届くことはなかった。近衛から聞いた情報では、俺の他にも同様の意見を書いた生徒が十数人いたらしいのだが、それでも聞く耳持たずだそうだ。

 そのため彼らの間では、当時の部長が八木先輩、顧問教師が八木沢先生だったことから、『読まずに食ってるのではないか』という噂が広まっていた。

 

零次「とにかく、俺は文月学園の新聞をよく思ってない。だから、お前達の取材を受けたくないんだ。どうしてもというなら、他を当たれ。…………勉強の邪魔だ。」

 

「……そういう訳にもいきません。私達は部長から、必ずあなたに取材をしてこいと、言われているので。」

 

 俺の威圧に対して、それほど間を開けず、花沢が口を開いた。

 正直、そんな言葉無視してさっさと勉強に戻りたいが、残りの二人が震えている中、一人臆せず立ち向かう勇気は称えるべきだろう。……それにしても、彼女と同級の近藤はともかく、先輩であるはずの新野がこれでいいのか?それとも、花沢がおかしいだけか?

 

零次「部長(うえ)に言われから、仕方なく俺から話を聞こう、という事か?そうやって、上司の機嫌取りをするための取材なら、協力なんてしない。そこの二人を連れてさっさと帰れ。」

 

「……そうでした。あなたは処暑中学出身でしたね。あの学校のことはよく分かりませんけど、先生のことを敬わない不良校だってことは知っています。」

 

零次「……お前は二つ誤解している。まず一つ、俺ら処暑中学生でも尊敬する人くらいいる。ただ、あそこの教師が俺達の教育を半ば諦めていたが故に、俺達も彼らを尊敬しなかった。要はお互い様だ。」

 

 文月学園(ここ)だって、去年は別の意味で尊敬できない先生が大半だったからな……。

 

零次「もう一つ、俺は別に組織において、上の立場の人間に従うこと自体、悪く言うつもりはない。だが、そうやって上司に盲目的に従い、自分の意見を伝えられない奴が、俺は嫌いだ。部下の意見を聞かない上司はなおさらな。……新聞部こそがいい例だ。」

 

 八木先輩はとにかく人の話に耳を傾けない人だと、近衛から聞いている。正確には、自分に都合のいい話、興味のある話しか聞かない人だ。

 そのため、今から二年前に文月学園が設定した『とある事情』によって部長となった、八木先輩はやりたい放題。逆らう奴はあらゆる手段を用いて部を辞めさせ、気に入らない内容の記事はその場で破り捨てることも多々あった。後でコッソリ記事を改竄することも常習化していたが、八木先輩の圧力を恐れて誰も逆らえなかったのだ。

 結果、溜まりに溜まった不満を爆発させた青葉先輩の手によって潰されたのだ。

 

「そうですか……。ですが、私達は新聞部ではなく広報部です。私達のプライドにかけて、皆に見てもらえる新聞を作って見せます!」

 

すみれ「それ、今日入部した花沢さんが言える台詞じゃないから。……まあでも、彼女の言う通りよ。文月新聞のようなものを、私達は絶対作ったりしないわ。」

 

 ようやく立ち直ったのか。もっとも、今更後輩に賛同したところで、俺の評価は変わらんぞ?

 

「俺も同じです。部長も言ってた……。新聞記者の祖父の威信にかけて、たった一つの真実を皆に伝える、と!」

 

 色々混ざってないか?そのセリフは……。というか、去年のあんな記事を許してる時点で、祖父の威信も何も無いだろ……。

 正直、俺の意見は変わらない。コイツらの取材など受ける気などないんだが…………。同時にコイツらの目を見るとNOと言い難いの事実なんだよな……。だったら、受けてやるか。

 

零次「……分かった。いいだろう、取材を受けよう。」

 

「え?本当ですか?」

 

零次「ああ。ただし、条件がある。」

 

すみれ「なんですか?後輩たちに何をさせる気ですか。」

 

零次「そんな大したことじゃない。既に青葉先輩なら掴んでいると思うが…………。お前達から、ちょっと伝言を頼まれてくれないか?」

 

 

・・・

 

 

文「あややー。本当、君達には驚かされますねー。きっと、うまい具合に取材が進まず、落ち込んで帰ってくると思ったのですが……。」

 

 時刻は17:30。わたしはAクラス取材班から、結果報告を受け取りました。まさか、あの双眼君との取材を成功させるとは……。

 

「いや、本当ですよ。取材はスムーズに進みましたけど、そこに行き着くまでが大変でしたよ。」

 

「それより、青葉部長。まさかとは思いますけど、最初からあの……Aクラスの代表には取材不可能だと思ってませんでした?」

 

文「あ、あややや。そんな訳ないじゃないですかー。」

 

 見透かされてるー!

 

「…………そうですか?あ、それと双眼先輩から、伝言を貰っています。『来週土曜日にαクラスの入部試験を行なう。是非とも取材をお願いしたい。』……だそうです。」

 

 …………さて、これはどう受け取りましょう……。字面通り捉えるなら、単なる取材の招待文。でも、双眼君が文字通りの意味で完結させるとは思えません。となると恐らくは…………挑戦状か……。

 

文「……よーし、分かりました。なら、その入部試験とやらに潜入調査といきましょう。」

 

「つまり、実際にその入部試験を他の入部希望者と一緒に受けるのですね。」

 

文「理解が早くて助かります。おそらく、向こうもそのつもりで伝言を頼んだのでしょう。……詳しい取材交渉は……花沢さん、お願いできます?」

 

 先の取材報告からして、一番双眼君からの評価が高いのは花沢さんのはず。二度目ですし、彼女なら今回の交渉もスムーズに進むでしょう。

 

「わかりました。と、言いますか、私しか出来ないでしょうね……質問もほとんど私がして、太一君はビビってたので。」

 

「こ、このこと親父に言わないでくれよ!?女の子の隣でメソメソしてたなんて知れたら、親父、大泣きしちゃうから!」

 

文「あやややや……。とにかく、二人とも。ここからが本番です。文学新聞を双眼君にも見てもらえるような記事の作成、よろしくお願いしますよ!」

 

「「はい!」」

 

 これがわたし達、広報部の活動。

 そのスローガンは『清く正しい広報部』。





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