バカと無情の試召戦争 ~番外編という名の復習ノート~ 作:Oclock
なんとも双眼君らしい、理不尽な一次試験に合格した私。今は先程まで試験会場だった教室で、取材しつつ二次試験の時を待っています。
二次試験の内容は面接……正確には口頭試問、かな。αクラスのメンバーから出される問題に答える。それだけという実にシンプルなもの。この試験の合否で、αクラスに入れるか否かが決定する。
ちなみに合否の結果は各生徒の下駄箱に突っ込まれる。誰かに盗られないか心配ですが、近衛さんがいますからね。その人が来る直前に下駄箱に滑り込ませる、なんて芸当も息するようにやってのけるでしょう。多分。
ガラガラガラ……
美穂「すみません、次は青葉文先輩、2年のC教室に向かってください。」
……と、もう私の番ですか。そして次の試験会場はお隣の教室。さて、次はどう私達の想定を裏切ってくれるのでしょうね……。
・・・
コンコン……。
秋希「どうぞー。お入りくださーい。」
なんとも軽い感じで迎えられましたね。連られて普段通りフランクな受け答えをしてしまいそうですが、今は『先輩と後輩』ではなく『受験者と試験官』の関係。いつものフワフワした雰囲気は一度胸の奥に閉まって、緊張感を持って望みましょう。
零次「……そんな固くならないでくださいよ。二次試験の採点基準は、こちらの質問に対して『正解』を答えられるか否か、それだけです。姿勢の悪さとか、返答の態度の悪さなどは一切見ませんので、『遠慮なく、ごゆっくり』寛いでください。」
文「は、はあい……。」
なんて、胡散臭い。最後の部分をスローペースで、かつ強調して言ったってことは、本当はちゃんと見てるってことでしょうよ。
明久「そ、そそ、それでは、じじじ、自己紹介をををを、おおお願いします。」
そっちはそっちで緊張しすぎじゃないですか!私までに十人近く相手にしてるのに、なんで未だに体が震えまくってるんですか!
文「3年Cクラス代表……広報部部長の……青葉文です。本日は……よ、よろしく……お願いします……。」
……そう、『十人近く』。私がAクラス教室で待機していた二十分ちょっとの間に、それだけの人が二次試験を受けている。…………少し妙な感じがしますが……、その理由もこの二次試験中に分かるでしょう。
零次「青葉先輩、あらかじめ言っておきますが、広報部の部長を務めるあなたをαクラスに入れるつもりはない。しかし、この試験で貴方達の、俺の個人的評価が変わるので、適当に答えることだけはしないよう、お願いしますよ。」
文「はい、分かりました。」
今回私達がこの試験を受けることになったのは、挑戦状的な意味合いが強いと、私は思っています。
私達、広報部の前身となった新聞部はとにかく酷い部で、発行していた『文月新聞』は、『新聞』の名を騙った下世話なネタと偏向報道と自己満足で完結された文章の寄せ集めでした。だから、私達はそんな部活とは違う、生まれ変わったんだ、ってところをこの試験を突破することで見せる必要があるのです。
零次「それじゃ、早速第一問だ。」
さあ、どんな問題が来るのやら………………。
零次「…………『1+1はいくつだ?』」
………………………………………………え?
………………え?待って?それが本当に第一問目?パッと聞いた感じだと小学一年生レベルの問題何ですけど……。
零次「どうした?この程度の問題が答えられない訳があるまい。」
……くう……、とにかく答えるしか無さそうですね……。
文「………………2、です。」
零次「…………何故だ?…………何故その答えになった?」
…………あやや、もしかして、こっちが本題ですか!でも、そんなこと考えたことがありませんよ!『何故1+1=2なのか』なんて。と、とにかくそれらしい理由をでっち上げましょう。
文「え、えーと……。か、漢数字の『一』にもう一つ『一』を加えると、『二』になるから……です…………。」
………………うん、絶対違う。双眼君達の顔を見なくても分かります。だって、『算数』の質問をされて、その理由が『国語』なわけないじゃないですか。
秋希「フフフ…………。思ったより、面白い答えがきた…………。」
ああああああ……。すっごく恥ずかしい…………。
とはいえ、間も置かず次の問題へと移ろうとしていますね。次は一体どう来るか……。
零次「さて、第二問だ。この問題は、そこにいる吉井明久が作ったものなのだが……、自信のほどを聞かせて貰おうか。」
自信?さっきの問題で、もうボロボロなんですが。
文「……いやあ、無いですね、解ける気が。全くと言っていいほどに。」
零次「なに……?」
文「吉井君が作った問題だからって、簡単な問題が出るとは限らないじゃないですか。本人以外答えを知らないような問題でも出されたら、こっちは答えようがありませんよ。」
零次「それもそうだな……。」
その言葉の後に、ククッと笑う声が微かに聞こえてきた。……どうやら、嫌な予感は的中したようです。
零次「では、第二問。今年で発売25周年を向かえ、外伝含め46タイトルも出ている『ファイナルクエスト』シリーズ。明久はこれまで13個もの『ファイナルクエスト』と名前にあるゲームをプレイしたらしいが……、この13のうち最もつまらない、つまり一番『クソゲー』だと思ったゲームのタイトルを答えろ。」
ああやや、これは確かに難しいですね。だって、宣言通り答えが全然分かりませんもん。
そもそも私は『ファイナルクエスト』シリーズがそんなにあったこと自体知らないんです。せいぜい一作目が『国王最後の聖戦』、ゲームの歴史を変えたとまで称賛されている七作目が『近未来のマリオネット』、シリーズ屈指のバカゲーと言われる……確か外伝の三作目が『天下一の葡萄狩り』、それから昨日発売された最新作が『頭に浮かんだ46の言葉』……。最近のサブタイトルがふざけ倒していることに、……。知っていることを並べても、多分『ファイクエ』ガチ勢からしたら、義務教育レベル、基礎中の基礎。知ったかぶりのニワカの烙印を押されること間違いないでしょう。
それに、吉井君がどのゲームをやったことがあるかなんて、こっちには全く情報がない。それにどのゲームの出来がよくって、どのゲームが酷かったかなんて、結局は本人の匙加減です。
双眼君のことを考えると……、いくら強引に退部されるためとはいえ、そんな問題を持ってくるとは思えないんですよねぇ……。
となると、誰もが『これは間違いなくクソゲーだ。』と、酷評するレベルのクオリティの作品が答えになるはずです。しかし、そのレベルまで行ったら、別の意味で有名になるはず。なので、おそらく答えは私が知る『ファイナルクエスト』シリーズの中にきっとあるはず……。
…………いや、待てよ?
文「……双眼君。」
零次「なんですか?分からないなら、素直に言った方が良いですよ?」
文「いえ……、もう一度、問題を聞いてもいいですか?」
零次「…………明久がこれまでにプレイした『ファイナルクエスト』とタイトルにある13個のゲームの中で、最もクソゲーだと思ったものを答えろ、だ。これ以上、聞き直しはナシだらな。」
文「いえ、十分です。答えが決まりました。」
やっぱり、私が感じた違和感は間違いじゃありませんでした!
この問題の答えは一つに絞られた。後は吉井君がこのゲームをやったことがあるか。それだけですが、たとえクリアしてなくても、プレイ自体はしているはず。それに賭けるだけです。
文「答えは…………『オーシャンズマロン・ザ・
私が感じた違和感、それは双眼君が『ファイナルクエストシリーズの中で』と言わずに、『『ファイナルクエスト』と名前にある』と言ったことです。最初にファイナルクエストの話をして、答えがその中にあるかのように思わせたのです。
しかし、他にも『ファイナルクエスト』と名前にあるゲームは存在するのです。それが私の挙げたタイトル、『オーシャンズマロン・ザ・ファイナル クエストリアスの伝説』。
このゲームは、七作目が発売された頃の『ファイクエ』ブームの最中に、それに便乗する形で某大手のゲームメーカーで作られたものです。
しかし、そのクオリティはあまりにも酷かった。支離滅裂なシナリオ。壊滅的としか言い様がない、テンポの悪い戦闘システム。発売時期が数年前ならまだ良かったと言われるほど、出来の悪いグラフィック。それらに加えて、ちゃんとテストプレイをしたのか疑われるほど、とんでもないゲームバランスと大量のバグ……。
さらに悪質なのが、パッケージのデザイン。『ファイナルクエスト』の部分をやや強調するデザインになっていることで、ゲームに疎い親が間違えて買ってしまい、子供に泣かれるという事件が多発したのです。
そういうわけで当時のメディアでは、めちゃくちゃに叩かれたのですが……。『ファイクエ』ブームに乗っかって『ファイクエ』の偽物作った結果、ブームがさらに加熱して本作品が埋もれることになるとは……皮肉なものですね。
零次「なるほど、な…………。」
しばらくの沈黙。これはおそらく、正解でしょう。
零次「……よし、明久。お前は一旦外に出てくれ。」
…………?どうしてここで吉井君を追い出すのでしょう?
吉井君が教室を出ていくと同時に双眼君が口を開いた。
零次「青葉先輩、この教室に入った瞬間に、なんとなく察しているとは思うが、吉井明久もαクラスの一員だ。ここで最後の問題だ。……吉井明久はαクラスにいるべきか否か、正直な意見を述べよ。」
……なるほど。本人に面と向かって、『αクラスにいるべきじゃない』なんて、普通は言えませんし、聞く側も辛いですからねぇ。まあ、一次試験を落とされた連中は、そういう相手の気持ちなんて微塵も考えてないし、なんなら、吉井君よりも双眼君に噛みついてましたからね。
そしてこれが最後の問題というなら、もう答えは一つでしょう。
文「はい……、吉井君はαクラスに必要だと思います。」
零次「必要…………か。いるのか、いらないのかの二択なら、前者だろうが、わざわざ必要とまで言う意図はなんなんだ?」
文「……理由は、あなたが一次試験に言ったことにあります。双眼君、あなたは『共に支えあい知識を高めあう仲間』と『ひたすら上を目指す志を持った生徒』を求めていると言いました。」
秋希「それに……吉井君が当てはまっている……と?」
文「いえ…………。吉井君は正直……私から見ても『知識を高めあえる仲間』だとは思えません。…………でも『上を目指す意志』は、今いるαクラスの中では一番あると思うんです。」
秋希「そのこころは?」
文「今のαクラスで一番、学力が低いから…いえ、それはちょっと曖昧な表現ですね。正確には、彼だけがAクラスに匹敵する実力を持ちあわせてないからです。」
秋希「持ちあわせてないから、って…………。それはαクラスに不要だという理由にならない?」
いつの間にか、話の相手が近衛さんにシフトチェンジしてるけど関係ない。私の話す言葉は決まっている!
文「いいえ、違いますよ。Aクラスの実力からかけ離れているからこそ、もし吉井君が本気で
「「…………。」」
文「勉強を教える立場の人間は……いえ、『勉強に限らず何かしらを教える立場にある人間は、その物事について深く知っている必要がある』。副部長の木地君はそう言っていました。吉井君が相手なら、大抵のことなら他のメンバーは教えられる筈です。」
逆に教えられなければ、その問題への理解が充分ではなかったと気付くことができる。吉井君のような、学力が低い人がαクラスにいることで、教える側と教わる側、両方にメリットを生んでいると、考えられますね。
文「そもそも、偶然か否かAクラスレベルの人材が集まっている部活にさらに同レベルの人を集めたのでは、わざわざ部活にする意味なんて無いんじゃないですか?なのでαクラスが求めているのは上位のクラスにいる人ではなく、むしろ下位クラスの生徒ではないのか、というのが……私の感想ですが、いかがでしょう?」
これで私の言いたいことは言い終わった。出来ればこれ以上の追及は避けたい。一問目で薄々気付きましたが、私はアドリブでの対応が苦手みたいですし……。
零次「……そうか。……分かった。以上で青葉文、あなたのαクラス二次試験を終了する。」
秋希「おつかれさまでしたー、先輩。あとは荷物をまとめて、まっすぐお帰りくださーい。」
文「…………失礼しました。」
こうして、私の入部試験は終わりを告げました。まあ、まだ仕事はありますけど、結果は天命を待つのみですね。
無事、双眼君に認められますように…………。