バカと無情の試召戦争 ~番外編という名の復習ノート~   作:Oclock

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~前書きRADIO~
零次「どうも、双眼零次だ。今回でようやく、復習ノートの1さつめが終了だ。次回から再度本編に復帰するから……。まあ……そこそこに期待して待っていてくれ。」



αクラス入部試験 ~後日談~

----文学(ふみがく)新聞 号外----

新設、αクラス!入部試験の実態にせまる!

 

 4月xx日(土)に文月学園新校舎3階にて、『αクラス』の入部試験が行われた。

 『αクラス』とは、今年新しく設立された部活動であり、主な活動内容は『個々人の学力向上を目的とした自主学習』としている。

 今回の入部試験の監督を務めた、αクラスの副代表の近衛秋希さんは、「文月学園では、学力で生徒のクラス分けを行っています。それにより授業のレベルを教室ごとに変えることが出来て、授業についていけない生徒を減らし、つまるところ教室内での学力差を縮めているのです。」と語った。

 それに続けて、この試験の総監督であり、αクラス代表の双眼零次さんは「しかし、教室内の学力格差を無くしたところで、学年全体の学力差が埋まる訳ではない。それどころか、学力の差を所属するクラスやその設備などの形で明確に可視化した結果、上位に位置した一部の奴らが傲慢不遜な態度をとる始末だ。そこでαクラスは、そうした学級の差に捉われず、己の実力向上のために切磋琢磨し合える学習環境を目指している。」語っている。

(中略)

 αクラスの入部試験では、どのようなことが行われたのか、説明していく。

 

・一次試験

 

 入部試験の一次試験では、当初「生活態度を基準とした選考」が予定されていた。αクラスでは、入部希望者の試験直近一週間の行動を調べ上げており(手段は不明。情報収集を担当した近衛秋希さんからは『企業秘密です』とはぐらかされた。)、要件に満たない生徒には退部届が渡された。

 しかし、当然ながら一部生徒が反発する事態となり、試験内容が試召戦争に変更された。総勢50名以上が束になって双眼零次さんに挑むも、近衛秋希さんの横からの援護により、すぐに鎮圧された。

 この騒動について、双眼零次さんは、「この騒動が起こることなど、想定の範囲内だ。それよりも、素直に退部届に記入している奴らがいた方が驚きだった。」と語っていた。

 

・二次試験

 

 二次試験では「口頭による質疑応答」が行われた。この質疑応答では、一人あたり1~3問程度の問題に答える形式がとられ、規定以上の点数を取れば合格という内容であった。

 双眼零次さんはこの試験に関して、「この二次試験の質問は我々αクラス現8名全員がそれぞれ一問ずつ考えた。その全てに、不合格となり得る要素が含まれている。どれも学校の勉強だけに注力しているようでは解けない問題であり、普段からあらゆる物事に疑問を持つことが重要となる。」とコメントしている。

 以下に実際に使用された問題を示す。

 

『1+1はいくつか?また、その理由を答えよ。』

(作問:双眼零次)

 

 第一問目に共通して設定された問題である。

 この問題のポイントは、前半ではなく、後半部分である。『1+1=2』を解答することは簡単だが、『どうして1+1=2となるか。』その理由を正確に答えることが出来た生徒は、一人だけだそうだ。

 

 なお、この問題に限らず二次試験全ての問題において、その問題を軽視するような発言をした者は問答無用で不合格とされた。

 詳しい配点としては、次の通り。

 

 ・適当に答える…0点

 ・素直に「わからない」と答える…1点

 ・数学的観点から、説明しようと試みる…2点

 

『今年で25周年を迎える「ファイナルクエストシリーズ」。作問者はこれまで13タイトルもの、タイトルに「ファイナルクエスト」と付くゲームプレイしてきた。その中で、最もクソゲーだと評価したゲームのタイトルを答えよ』

(作問:吉井明久)

 

 第二問目に出される問題のうちの一つである。

 この問題が出される際、出題前に作問者が明かされ感想を求められた。この時点で「楽勝だ」と感じた者は、その時点で不合格とされた。

 この問題の肝は、答えるのは名前に「ファイナルクエスト」を含むゲームであり、それが「ファイナルクエスト」シリーズのものとは限らないところにある。もっとも、正答自体そこそこマイナーなゲームのため、それを答えた人は一人しかいなかったとのことである。

 なお、この問題の詳細として、問題の製作者である吉井明久さんから、各ゲームの評価を別紙にて紹介する。

 詳しい配点としては、以下の通り。

 

 ・別紙にて『良作』または『神ゲー』と評されたタイトルを答える…0点

 ・素直に『わからない』と答える…1点

 ・別紙にて上記以外の評価がされたタイトルを答える…2点

 ・正答を出す…2点

 

(中略)

 

・試験結果

 

 今回のαクラスの入部試験では総勢103名が受験に挑んだ。その結果は以下の通りである。

 

 ・遅刻による強制退部…42名

 ・一次試験(戦死)…15名

 ・一次試験(自主退部)…4名

 ・二次試験(一問目)…9名

 ・二次試験(二問目)…22名

 ・二次試験(三問目)…9名

 

 これらの結果より、最終的にαクラスに正式に入部となったのは、2名のみとなった。

 この結果について、二人はそれぞれ次のようにコメントを残している。

 「正直、合格者が出るとは思っていなかった。だが、逆に考えれば、この試験がはじめから全員退部させるための出来レースではない証拠にもなるだろう。」(双眼零次)

 「零次に同じく。全滅すると思っていた入部試験を、突破した生徒がいるのは予想外でした。あんな理不尽だらけの試験に、文句を何一つ言わず、自分の持ちうる力の全てを使って挑んだ姿は、他の入部試験を受けた人全員が見習って欲しいものですね。」(近衛秋希)

 

 最後に、双眼零次さんから、「これからも定期的に、αクラス主催でこのような催しを行うことも視野に入れている。実現するかどうかはまだ不明だが、もし形になった時は、今回の入部試験のことを反省し、それを行動で示す姿が見れることを期待している。」とコメントを頂いた。

 私達は、これからもαクラスの活動を追っていく。今後のαクラスに期待である。

 

(執筆者:青葉文、花沢ちゆり)

(編集:木地標示)

 

---------------

 

 

・・・

 

 

秋希「……で?どうだった?青葉先輩と仲直りできた?」

 

零次「仲直りも何も、元々喧嘩してた訳でもないし、あのでっち上げ新聞もヘイトは青葉先輩より新聞部に向いていたしな。大して変わらんよ。」

 

秋希「喫茶店の評価は?」

 

零次「青葉先輩の様子から、スイーツは悪くはなかったな。だが、コーヒーをおかわりした時に、2杯目以降はラー油をトッピングしてくるサービスは、さっさと廃止して欲しいな。どこに向けた需要なのか、さっぱり分からん。」

 

 あの理不尽な入部試験……否、『退部試験』を終え、その次の日には青葉先輩と共に、話題の喫茶店で退部試験の追加の取材(近衛も同日に花沢から取材を受けていたらしい)。そして迎えた週明けの月曜日、αクラス全員が補習室に集まっていた。ここは俺が文月学園で数少ない安全地帯とする場所であり、αクラスが校内活動をする部室として設定した場所だ。

 

零次「……さて、先日はαクラスの退部試験、ご苦労だった。後から思っても、まあ随分と捻くれた試験だったろう?」

 

 少々自嘲気味な口調で語りかける。

 

零次「……正直なことを言うと、だ。こうして俺達αクラスに新しいメンバーが加入するとは思ってなかった。俺の文月学園の生徒の印象は最悪だった。少し点数が良いだけで、他人にマウントを取る者。自分に都合のいい情報だけを仕入れて、都合の悪い情報には蓋をする者。自分の常識を他人に押し付け、気に食わないことがあると、怒り狂い周りに当たり散らす者……。そして自分が正しいことをしていると陶酔し、制裁と称し暴力を振るう者もいた。全部俺がこの目で見てきた文月学園の惨状だ。」

 

 去年起きた出来事一つ一つを想起するように目を閉じて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。顧問の西村先生からしたら、少々後ろめたい話だろう。

 

零次「そして、その印象は約一年経った今でも、変わることはなかった。去年ほど酷くはなくなったが、去年を100としたら、97とか98……百歩譲っても91とか、そんなレベルでしかない。……そんなイメージしか抱いてなかった所を、君達二人は見事、その先入観を裏切ってくれた。喜ばしいことだ。」

 

 そう言いながら教壇へと上り、一息入れて、次の話題に移る。

 

零次「それでは、改めてαクラスの生徒番号を振り直す。まず1番、近衛秋希。2番、真倉ねるの。そして0番の俺だ。」

 

 このαクラスが部活としての形を成す前。はじまりのメンバー3人に元々の番号を付け直す。

 

秋希「はーい。」

 

ねるの「……ふぁい。」

 

零次「次、10番、久保利光。11番、工藤愛子。12番、佐藤美穂。13番、影山幽也。そして14番、吉井明久。」

 

 今年に入って新たに集め、そしてαクラスを部活動にするに至ったメンバー5人に、新しい番号を与える。

 

利光「……なるほど、これからもよろしく頼むよ、零次。」

 

愛子「はいはーい。」

 

美穂「はい。」

 

幽也「………………。(コクッ)」

 

明久「……せ、精一杯…………頑張るよ、零次。」

 

 明久だけ声が震えてたな。まあ、周りのメンツがアレだから、萎縮してしまうのも当然だがなぁ……。

 

零次「ま、今ので大体理解したと思うが、各世代……というか入部時期……のリーダーにあたる奴に、下一桁『0』の番号を与えている。αクラスは最初、三人だけの勉強会だったものが、今年になって5人が賛同してくれて……。そして、君達二人が正式に入部となったわけだ。」

 

 新しくαクラスに加入となった二人は、深く頷く。

 

零次「というわけで、発表するぞ。栄えある20番はお前だ。1年Bクラス、木戸藍蘭(きどあいら)。」

 

藍蘭「……至極、光栄。」

 

 金髪碧眼の女子生徒が言葉少なく感謝の意を示して、頭を下げる。演劇部との兼部している生徒なのだが、彼女は二次試験で近衛の作った意地の悪い『ビジュアル問題』で唯一正解を叩き出しているのだ。

 

零次「そして21番は3年Eクラス、潮村渚(しおむらなぎさ)先輩だ。」

 

渚「は、はいぃ……。」

 

 肩の辺りまで伸びた黒髪をサイドに纏めた、頼りない雰囲気の生徒がオドオドしながらも頷く。こちらも、二次試験で俺が用意した『計算問題』を唯一完全正答した人だ。なのにEクラスということは……、いや、αクラスに入った以上、考えるのは無意味だな。

 

 ……にしても、だ。奇しくも、また個性的な奴らがαクラスのメンバーになったものだ。

 片や外国人にしか見えない、日本生まれの日本育ちである女子生徒。もう一方は秀吉以上に女子っぽい見た目の男子生徒。

 もっとも、それ以外のメンバーも双眼零次(『死神』)近衛秋希(偽善者)真倉ねるの(寝坊助)久保利光(隠れ同性愛者)工藤愛子(性知識のヤベー奴)佐藤美穂(……多分唯一の常識人)影山幽也(実体持ちの幽霊もどき)吉井明久(純度100%のバカ)だからなぁ……。

 

零次「……さて、それでは早速、新生αクラスの活動を始めるとしようか……。あと一、二週間すれば、文月学園の文化祭『清涼祭』が始まる訳だが、そこからすぐに中間試験もある。既に試験期間に入ったと思って、気を引き締めるぞ。」

 

「「「はい!!!」」」

 

 こうして、俺達の新学年始まりの一ヶ月が終わりを告げるのだった。

 

 これが俺達αクラスの真に本格的な、新たな一歩。

 スローガンは……『常に頭のアップデートを』とするか。


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