魔女の霊に憑かれた悪役令嬢、牢獄にぶち込まれる   作:松風呂

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小説家になろうにも同時投稿。


プロローグ

 

 一台の馬車が緩やかに舗装された道を駆けていた。

 

 馬車の中、まるで動物園の檻のような鉄製の箱型の部屋には二人の女性が居た。

 

 彼女達は犯罪者であり、今から王都郊外にあるエメラルド女囚刑務所へ送監予定なのだ。

 

 天然パーマの黒髪が特徴的な褐色肌の女性がもう一人に声をかける。

 

「おい、可愛らしい貴族のお嬢ちゃんよぉ。何やらかしたんだ?」

「……新聞とか読まないの? 今じゃ私の事、知らない人の方が少ないけど」

 

 素っ気なく答えたのはプラチナブロンドの髪を揺らしている、透き通るような肌に眉目秀麗な女性だ。一目で貴族の令嬢と分かる高貴な雰囲気を醸し出す彼女の名はセレスティーヌ・フォン・アメトリス。通称セレスである。

 

「生憎、貴族とは縁のない小汚いスラム出身なもんでね。新聞なんてケツを拭く為にしか使ったことねーよ」

「ふーん……。なんか王家反逆罪とか不敬罪とか暴行罪とか、そういう感じ。私もよく知らないわ」

「自分でやったことなのに知らねえのか?」

「私は無実だわ。謂れのない罪状よ。少なくとも私はやって無いのに……」

 

 セレスはため息をつきながらそう言った。全身から恨めしそうな雰囲気と、疲れがにじみ出ている。

 

「ま、よく分かんねぇけどさ。これからは仲良くしてこーぜ。エメラルド刑務所にこうやって一緒に送られるってことは、あたしら多分同室だ。よろしくな。名前は?」

「セレスティーヌ、セレスで良いわ。皆そう呼ぶから。それとあんた、やけに詳しいわね」

「ミラ・フードリアだ。ミラで良いぜ。昔ヘマした時に収監されたことがある。あの時は2年で出戻れたが、今回は10年だ。先の長い話だぜ」

「そう、私は刑期100年らしいわ」

「ヒュー! あたしの10倍かよ! くっく、貴族はやっぱスケール違ぇな!」

 

 その後も、馬車が目的地に到着するまで、セレスとミラの二人は雑談に花を咲かせた。悲壮感があまりないその姿は、これから収監される女囚にはとても見えない。

 

「貴族は嫌いだが、セレスはそうでもねえぜ。なんつーかあんた、良い目してるぜ。絶望とかってーよりは、決意の炎が宿ってるって言うのか? とにかく腐ってねぇ」

「私も貧富の差で人となりを見るわけじゃないけど、ミラとは仲良くやれそうだわ」

「そういや貴族って平民と違って魔法が使えるんだろ? セレスはどんなんが出来るんだ? 水か? 炎か?」

「……魔法は使えないの。うちの家系昔から全員そうなのよ」

「くっく、公爵家だってのに魔法使えねぇのかよ。ま、あっちじゃどっちみち禁止だろうけどな」

 

 馬車の走行スピードが段々と落ちていっている。そろそろ到着するらしい。彼女らにとっての新たな家、エメラルド女囚刑務所へと。

 

「なぁセレス、代われ。今なら間に合うぞ、我の魔法で世紀の囚人大脱出イリュージョンかましてやるわい。のぉ?」

「嫌よ。そもそも誰のせいでこうなったと……」

 

 ここにはセレスとミラしかいないにも関わらず、セレスは小さな声で誰かと会話をした。否、ここにいるのは二人だけでは無い。正確にはもう一人、悪霊がセレスの前でふわふわと浮いていたのである!

 

「おぬしの婚約者と泥棒猫のせいじゃろ。我悪くないもーん」

「何がもーんだ。歳考えろ」

 

 爺さんみたいな喋り方をする黒ローブを纏った金髪美女の悪霊、成人くらいの見た目をした彼女の名はアンリ・マーユ。100年前に存在した大魔女である。

 

 何の因果か彼女はセレスにしか視ることが出来ず。声も聞くことが出来ない。彼女達が出会った、というか取り憑かれたのはつい最近のことである。その辺の詳細は今は脇に置いておく。

 

 そうこう言ってる間に馬車は完全に止まり、別部屋に乗っていた刑務官の男が二人、セレスとミラがいる部屋の扉を開けた。

 

「囚人番号1015と1016! 到着だ。とっとと出るんだこのウスノロめがぁ!!!」

 

 威圧感たっぷりに開口一番怒鳴り散らすのは刑務官の男である。囚人に舐められないように、最初に叫ぶのは彼にとってとても大事なことである。

 

「到着か、案外早かったな。さーて、ベッドはふかふかに変わってんだろうなぁ? 昔はひでーもんだったぜ」

「えっそうなの? やだなぁ私固かったら眠れないのよ。部屋にシャンデリアとかある?」

「くっく、有るわけねーだろ。身体は男受け良さそうなのに、モノを知らねーなセレスは……」

「ん? それ身体関係ある?」

「ふむ、セレスの身体はむちむちなのに、無知無知という洒落じゃな。このミラという女、出来るっ!!」

「きっ……、貴様らぁぁ!! 私語は慎まんかぁぁっ!!」

 

 こうして、元公爵令嬢セレスの、嘆きと絶望蔓延る地獄のような監獄ライフはスタートした。割と箱入り娘の彼女は、これからは箱では無く鉄の檻に入れられるのである。

 

「で、セレスや。いつ脱獄する?」

「早い早い、まだ来たばっかりでしょ。取りあえず成功率を上げる為に3日は様子を見るわ」

「うむ。ちーと物足りんが、脱獄する気はあるようなので良しとしてやろう。おぬしはこんなとこでグダグダしてる暇は無いのじゃからな」

「もう一度言う。誰のせいでこんなことになったと……」

「あーあー聞こえないー! 我のせいじゃない! 我のせいじゃない!」

 

 このお話は女囚刑務所に投獄されることになった公爵令嬢と悪霊のゆるふわ物語である。

 

 何故悪霊アンリがセレスに取り憑いたのとか、何で投獄されたのとか、そのへんの経緯は次話で語られることになるであろう。

 

 まぁそんな感じで公爵令嬢セレスの運命の歯車だかルーレットだかは回り始めたのである。

 

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