これはとある夢のVRMMOの物語。   作:イナモチ

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問われる意思

人間範疇生物と人間範疇外生物、双方の力を持つモノ

 

存在の本質を“とある特殊超級職”によって“変性”された“◾️◾️”達。

 

 

《◾️◾️◾️◾️》はあらゆる《クリエイト》系列のスキルの極点であり、世界の理に反した特異存在を生み出す力だ。

 

それはプロトタイプである2人の【魔王】と【◾️◾️】のみが扱うことを許されている。

 

逆に言えば◾️◾️達は歴史上で幾度も、何体も発生したが、自然発生する事は一度も無かった。

 

人間が外法と呼べる術によって人外の力を得ようとすれば転げ落ちる様に破滅し、人外はどこまで人に近づこうと人外以外の何者にもなる事は出来ない。

 

だが、既に【ヘイワン】からその存在について聞いていたルンバはーーー”其れが己ならば実現可能である“と確信していた。

 

 

何故なら【死霊王】の本質はーーーアンデッドに変化するだけでは無いからだ。

 

アンデッドになるだけなら《死霊術》を使うなり怨念に漬かれば良い。

 

単なるアンデッドと【死霊王】の違い・・・それは人外でありながらジョブに就ける事にある。

 

【死霊王】とは人間範疇外生物の力を持った人間範疇内生物になる為の超級職。

 

人でもモンスターでもないナニカ。

 

重篤な精神汚染によって狂い、世界に仇なす存在。

 

その在り方は“◾️◾️”と呼ばれるソレと酷似していた。

 

しかし【死霊王】が“◾️◾️”になったという事例は存在せず、【死霊王】という特級の呪詛に満ちた器に魂を冒された彼等の最期は決して、穏やかなものでは無い。

 

何故なら怪物では無く人間として死ねるだけマシであったり、精神崩壊した者達が当たり前のように存在していたからだ。

 

自らの力によって破滅する宿命。

 

それが人間範疇外生物の力を手にした代償だった。

 

 

 

・・・・・

 

 

ーーーかつて荒野で行き倒れた時のような飢餓。

 

ーーー体感時間が加速して粉雪のように降り、口に入った血肉が耐え難い衝動を満たした。

 

一瞬、カーソンの姿が脳裏に過ぎった。

 

天使の血肉はとても喰えたものではなく、口にした瞬間ゲシュタルト崩壊を引き起こす。

 

だが・・・今の俺はカーソンが食品偽装した深海ウミガミのスープの形容し難いあの味が極上の御馳走に思えてしまっている。

 

それが明らかな異常なのに今はそれが自然の事のように思えてしまう事にカーソンの黒い影が垣間見えて、現在進行形でバーサークしている俺は一瞬真顔になった。

 

やはり、俺の体はカーソンに何かされている。

 

融合という特性を以ってすればカーソンが俺のアバターに何か細工していてもおかしくない。

 

・・・まさか味覚さえカーソンの血肉を美味に感じるように魔改造されるとは思っていなかったが。

 

研究所でウイルスが突然死滅した異変も、その細工の一側面だったのだろう。

 

多分、俺はカーソンの細胞を植え付けられている。

 

カーソンの血肉を微量でも摂取する度に体が疼く事から、それはもう否定しようの無い事実だった。

 

 

いつか遠い存在になっていたカーソンの狂気の端片を少しだけ理解出来た気がした。

 

 

カーソンは嘘偽りなく俺を愛している。

 

だがその愛情表現には極度のムラがあり、初心で未熟な少女のように青い好感から狂った神格の如きドス黒い執着心まで上限と下限のギャップが天変地異を起こしている。

 

人前で抱き寄せて顔を赤らめ、年相応に恥じらうこともあれば次の瞬間首をマッチ棒のように素手でへし折り、船の上でnice boatに移行してもカーソンにとっておかしいことではないのだ。

 

カーソンの複雑怪奇な恋愛観念を理解するのは非常に難解で、悪魔崇拝について描かれた禁術指定の魔道書を解読している気分にさせられる。

 

ネクロフィリア(死体性愛)にカニバリズム(食人嗜好)、アクロトモフィリア(身体欠損性愛)、エメトフィリア(嘔吐性愛)・・・他にも数えきれない程の複数の重篤な異常性癖を拗らせ、被虐や加虐のどちらもいけるというオールマイティ。

 

そして、本当に種族が天使なのか疑わしい程に魑魅魍魎が潜む万魔殿が如き禍々しさを放つ、純愛のアブノーマリティに執着されているのが俺である。

 

それでも残された良心が存在するのかカーソンが積極的に他者に対して危害を加える事はなく、娼館で娼婦を抱いてきた場合、浮気(そもそも結婚していない)した俺の体に溜め込んだドメスティックバイオレンスな欲望をぶつけるのだ。

 

サドっ気のあるカーソンに調教された俺にとってそれすら一種のプレイになっている辺り、どちらがマスターなのか時折分からなくなる。

 

多分俺は・・・もう、手遅れだ。カーソンに生殺与奪と財布の紐をどうしようもないレベルで握られている。俺の生命線は彼女になってしまった。

 

怪異に取り込まれたNPCのようなセリフが俺の口から出てもおかしくないほどに、俺の余命は幾許もないように感じた。

 

 

・・・・・

 

 

ーーー俺は一体何処に向かって、終わりを迎えるのだろう。

 

あてもなく彷徨う旅人のように俺はふとした瞬間、そう思った。

 

終着点が定まっていない旅路。

 

俺は違法薬物を流通させる地下組織のボスにも、流離の修練者にも、色欲に溺れた零落者のどれにもなれる。

 

その気になれば人間を辞め、怪物として生きるか。

 

もしかしたら区切りをつけてinfinite dendrogramから離れるかもしれない。

 

逆に貯蓄は十分だと仕事を辞め、ニートに転向し廃人になることも出来るだろう。

 

 

マスターとして自由を与えられた俺はカーソンを連れて世界を巡った。

 

現実ではあり得ない綺麗な景色を見た。自然の作り上げた壮大な光景を見た。度し難い馬鹿どもと変態達を見た。ギャンブルで有金を悉くスった。UBMに取り込まれて、マスターのパーティを蹂躙した。世界は違えど変わらない人の営みを見た。初めてのティアンの友人と枕を共にした。獣人の風俗嬢を口説いて頬に真っ赤な手形を付けた。テロリスト達を穴に埋めた。酒に酔って船舶を破壊し借金を負った。ライバル的な狂人を二度殺害した。鯉と一体化し右腕が石になった。何年も引き篭もってた奴を無理矢理連れ出した。得体の知れない種を育てて危うく街を崩壊させかけた。旨い酒を飲み交わす友人が各地にできた。料理のレパートリーが増えた。カーソンが芋を喉に詰まらせた様子を観察した。サイコパスと罵られた。才能を見出した孤児を弟子にした。工業用エタノールを飲んで倒れた。

 

 

俺は何がしたいのか。俺自身にも分からなくなる。

 

人に会い、酒を呑み、戦に酔い、色に溺れ、宴を開き、呪を学び、武を磨き、獣を殺す。

 

人の中に居るのは心地良い。されど野の獣のように解き放たれたい。

 

 

白鯨の遺志に囚われた純白の天使が暴れ狂う。

 

 

俺は呪殺の呪詛を籠めた竜王気を纏い、カーソンを確実に仕留める瞬間を待つ。

 

 

石化していた右腕からぱらぱらと小さな欠片が脱落した。

 

 

誰もソレを見ていた者は居なかった。

 

 

右腕に僅かに生じた亀裂からーーー“黒い金属”が覗いていた事など。

 

 

これはとある夢のVRMMOの物語。

決断の時来れり。

子供の教育方針はどれにする?

  • 蠱毒にぶち込む
  • 普通の子供のように育てる
  • 子供の為だけの揺籠()で育てる
  • 放任主義。子供は勝手に育つ
  • 帝王に愛など要らぬ!!

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