融合。
それはガードナーとマスターのステータスを足し合わせるという、固有スキルにしてはオリジナリティがなく、状態異常耐性を含めて考慮しても飽くまでも“凡庸”なスキルだった。
【星浄巫蠱】はそれほど優秀なエンブリオでは無い。
ステータスの加算とステータス依存の状態異常耐性、特典武具に対する多少の強化に弱点の克服など些か地味で堅実であり、特記すべき点が存在しない。
ルン・バ・ンルが上級職の身でありながら神話級UBMを討伐せしめたのはメイデンやアポストル特有の緊急進化もあるが、その地力となった数ある特典武具の力とジョブのシナジーがあった面が大きい。
ステータスに対する倍率も、補正も、特典武具に対する強化も、やはりどれをとっても同格のエンブリオと比較しても劣るどころか総合力でさえ届くことは無い。
能力が分散したから劣るのかと言われれば・・・そういう訳ではない。
たとえ同格のガードナーが同じ状態異常耐性とステータス、強化、補正等を備えていたとしても【星浄巫蠱】は総合力で劣っていた筈だ。
だが、【星浄巫蠱】を置換した【双胴白鯨】は劇的な進化を遂げた。
それは何故か。
そして、上記に挙げたガードナーを置換しても劇的な進化を遂げず、結果は違っていた筈だ。
そもそもの話、彼女の融合とガードナーの融合は計算式の時点で異なっていたのだから。
通常のガードナーの融合が“加法と乗法の複合”ならば彼女は“加法のみ”。
故に融合対象に対して倍率も掛からず、“元々あったものを足し合わせる事しか出来ない”のだ。
彼女は無から有を作れない。
彼女に出来る事と言えば、元々存在していた有と有を合わせ操る事だけだった。
だからこそ、彼女は異端にして凡庸なエンブリオになった。
彼女のマスターは強かったが故に、彼女は有を生み出すよりも持ちえる力を最大限に引き出す方向へとシフトし、無駄を切り捨てた。
結果、【双胴白鯨】が劇的に進化したように、使い方次第で凡庸な特性はあっという間に特異点に化ける。
【双胴白鯨】と【星浄巫蠱】は加法を超えた相乗効果を生み、異色のシンギュラリティに達したのだ。
気体操作が単なる燃焼に留まらず光学迷彩や固形化という形に発展するように、力の譲渡ではなく存在を確立する境界線を超えて改竄してしまう力なのであれば。
碌に抵抗も出来ない残骸というリソースが豊富な存在は、彼女にとって“素材”に過ぎなかった。
腐敗と誕生、死と生、衰退と興盛、ありとあらゆる存在は熱力学第一法則に則した有限の循環関係にあり、無から有を生み出さぬ限り創造は現状の破壊を伴う破壊的創造から生じる。
彼女のモチーフは食物連鎖という自然界の循環に関与する海洋生物学者だった。
ありのままに存在する自然を前に天秤に掛けられた善悪聖邪はなく、皆等しく命を手放し、朽ち果て、生を得る。
その在り方は日本の神道における表裏一体の二つの側面、和御魂と荒御魂の関係性に近い。
終末が破壊という側面を色濃く表したように、彼女は創造という側面を宿した矛盾の化身。
彼女は捕食者にして分解者であり────惑星を生まれ変わらせる分野において規格外を誇る再生者。
彼女は生態系の頂点、王権神授の如く、並び立つもの無き無比の王冠の輝きを放つ者。
故に、王冠を戴くべき半身は『王』として君臨するだろう。
そこに玉座たる世界がある限り。
『王』は不滅となり、その存在は輝き続ける。
・・・・・
人生で底無しの穴を見る機会は何度あるだろうか。
光が反射しないある程度の深さが有れば、それこそ好奇心で深い井戸を覗き込めば、底がないように思える穴を覗いた機会はそう少ないものではあるまい。
では、人生でブラックホールを見る機会は何度あるだろうか。
事象の地平面、重力の特異点、崩壊した星の成れの果て、最速の光をも捉える宇宙最強の引力。
光学観測出来ないブラックホールは天文学者にならない限り決して見る機会は無いだろう。
しかし、過去に黒禍の化身が襲来したように、現代においてもブラックホールに酷似した事象を目撃した存在が居た。
残骸は死んだ。
死んでその身を災いに転じようとした時点で終末の影響下に落ち、無数の蛍火となって吸収されるかに思われた。
世界でマスターという特異性を除く不死がいたとして、既に詰んでいるこの現状で復活を遂げる存在は居ないだろう。
魂も、肉体も、全てリソースに変換され、リソースは敵に掌握されている。
魂だけでの転生もままならず、一度きりの殺害で終末は能力に胡座をかいた不死を完膚なきまでに殺し尽くすだろう。
たとえば。
終末の同系統、つまりリソースを直接操る事でコントロールを奪い、魂ではなく存在そのものを担保に有を操る力を行使する存在が居たとしたならば。
その存在は同格以上のコントロールの奪い合いをブラックホールを擬似的に再現した一点集中を以て制し、世界から直接リソースの供給を受け、異能の発露たる白き花弁を散らし、輪廻をその身一つで体現し、魂は蘇り、精神は復元され、肉体は有から造られ、崩壊した器は破壊を以て創造されるだろう。
それは魂の死を否定するのではなく、受け入れ、超克するという奇跡の領域だ。
滅び、存在し続ける。
その真の脅威を。超常を。存在を。
二度の復活を経た終末は理解させられた。
恐れ、驚き、畏敬を超えた感動さえ抱き、
そして、この存在を真に殺すには己しか居ないことを悟った。
終末は理解していた。
三度目はありえない事実を。
巨大過ぎる破壊衝動が己にも牙を剥くほどに破壊に特化してしまった己には。
二度も短期間で大幅に存在を変革させてしまった己には。
絶対に三度目の置換の負荷に耐え切る事が出来ない。
全て入れ替えてしまったが最後、テセウスの船の如く【双胴白鯨】は【双胴白鯨】である事を立証出来なくなってしまう。
だが、己の存在意義に比べれば何を迷う事があろうか。
破壊するのだ。目の前の全てを。世界を。己でさえも。
未来は要らない。世界は要らない。
全てを零にしたい。壊す方法はたった一つだけ。
ならばそうしよう。壊してしまおう。
そうあれと己に誓ったのだから。
己はそうなりたかったのだから。
畸形の白鯨は誓う。白氷の兵器は定める。虚霧の仔鯨は祈る。終末の神獣は殉ずる。
存在意義と自らが望んだ結末を。
それらは、奇しくもかつての決戦兵器が殉じたものと酷く似通っていた。
・・・・・
置換。
殺傷力の欠片も無いその能力を【双胴白鯨】は必殺へと昇華させた。
壱 蒼海と紅海の置換。無尽蔵の再生と不可視の溶血。
弍 白き禍痕と白の虚霧。吸収と減衰司る海属性の極限。
参 白鯨戴冠 黒之終末。置換と融合の相乗、その成れ果て。
最後の肆は終極へと至るもの。
再生と溶血、吸収と減衰、置換と融合、【双胴白鯨】を象る全ての集大成。
《
無敵の黒鎧は灰のように脆く崩れ去り、龍を殺すであろう天使の軀は赫焉業火に灼かれ、終末がいた痕跡は全て白い花弁となって消えていく。
それは、己の存在意義を懸けて全存在を引き換えにした呪い。
憎悪でもなく、愛憎でもなく、使命感でもなく、純粋で迷いが無い。
故に最も強く効果を発揮する祈りの形。
それは因果を超えて対象を【双胴白鯨】に置換し、創造を負と破壊で打ち消し、逃れえぬ滅びを齎す。
故に発動に必要な時間はなく、必要なのは発動する意志だけ。
《白鯨戴冠》でルン・バ・ルンバを【星浄巫蠱】ごと置換しようとした時の再現のように。
『王』は内側から凍りつき、蝕まれ、融かされ、穿たれ、喰われ、冒され、黒く、白く、壊れていく。
『王』が『王』である限り、この呪いからは如何なる手段を講じたとしても永遠に逃れる事は出来ない。
ところで、東洋の呪術で最も有名な例を知っているだろうか。
呪いの対象の髪を封じ本人に見立てた藁人形を五寸釘で穿つ『丑の刻参り』。
その対処法として有名なもので藁人形と同じように本人に見立てた人形、呪いを代わりに受ける依代を用意し、同じ名前を名付けるという方法がある。
しかし、呪術とは等価交換の儀式。
呪う側が自らを呪う対価を支払って自らの墓穴に入り、呪いのイメージが確固としている以上、既に発動した呪いの因果は強固となり依代程度では誤魔化せない。
呪う側と呪われる側の両方が自ら呪いを引き受ける依代にでもならなければ。
それは《白鯨置換》を受けた時の再現のように。
【双胴白鯨】に置換された【星浄巫蠱】と【星浄巫蠱】が自らを模して創造した眷属は既に【双胴白鯨】であり、同時に『王』であるが故に。
彼女達には呪いを受ける依代になる資格が十分にある。
憎悪でもなく、使命感でもなく、存在意義でもなく。
心の熱に焼かれて苦悩し、叶わぬ現実に憤悶し。
時に迷走し、時に狂い、時に色褪せ。
理性を蝕み、恋を狂わせ、湧き上がる醜き心の所業。
しかし、故に、だからこそ、艱難辛苦の辛酸を味わわぬ小綺麗な人間の淡い恋よりも。
醜い土壌から穢れ咲く花はこの世のものとは思えぬほどに、何よりも強く、美しい。
愛。
それは特定の状況下において最も強く効果を発揮する自己犠牲の形。
愛されなくても、求められなくても、その献身が誰かに伝わらなくても良い。
求めてはならない。僅かな未練も残さない。
見返りを求めたが最後、それは人を救う無償の愛ではなく人を縛り付ける呪いになってしまうから。
【双胴白鯨】を冠する『王』は夢幻の如く消えていく。
依代は受けた呪い通り、僅かな怨念も残さず零へと還り。
後に残ったのは力を失い、海面に浮かぶ男ただ一人。
別れの言葉は無く。
闘争と破壊の果てに、勝者は無く。
天罰の嵐は過ぎ去った。
穏やかな潮風が水面を揺らし。
雲一つ無い蒼天に白い花弁が舞う。
物語は、終わらない。
To be continued ・・・
これはとある夢のVRMMOの物語。
【<SUBM>【双胴白鯨 モビーディック・ツイン】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【醤油抗菌】、【ゼタ】、【】がMVPに選出されました】
【【】に【滅導界核 モビーディック・コア】を贈与します】
男がいつの間にか握っていた神々しい卵と海色の珠は互いに共鳴し合うかの如く惹かれ合い、一つとなった。
鼓動を刻み始めた生命。混沌の中から芽吹いた無限の可能性。
ただ一つ。
「・・・まさか、予想を遥かに超えてきたのがマスターよりもメイデンの方だったとは。」
言える事があるならば、これから生まれる生命に罪は無い。
「成程、自己犠牲の呪い避け。置換と呪いを組み合わせてしまったのが敗因になったのだな。」
鳥が卵の殻を割って生まれるように。植物の胚が硬い種を割って芽を出すように。
「【死霊王】が元々その方面に長けていたのも一因ではあるのだろうが、結果自滅の形となってしまったか。」
毒を持つ毒虫や毒蛇が根絶されるべき生命ではないように。
「予想外ではあったが怪物に攫われた悲劇のヒロインの献身、それもまた王道にしてヒロイックにふさわしいものだったと言えるだろう。それに今回得た収穫は多い。」
生まれ落ち、母親を殺してしまった赤子に罪がないように。
「特に彼等が見せた進化はかつて襲来した・・・我々と似通っているものがある。やはり異常なのはマスターの方だ。」
悪性、毒性、攻撃性、獣性、神性、忌み嫌われる諸々を持って産声をあげようと。
「それに・・・異常な数値を出したあの卵。色々と混ざってはいるが空間操作と夢幻の複合か?これなら小規模な星程度の、いや・・・そうか、神造迷宮だ!」
「・・・なんということだ。この子は必ずイレギュラーに成長する・・・!!!」
「・・・交わるはずの無い畸形の因子と規格外の血脈。竜王の間で生まれたグローリアの前例はあるが・・・・ここまで極まった特例は類を見ない・・・!」
生まれようとするだけの無垢な生命が世界を滅ぼすのであれば、罪では無く、悪では無い。
「────素晴らしい!!おお、なんということだ!君はッまた私の想定を遥かに超えた!!世界はッ!!まだ見ぬ未知で溢れているッッッッ!!!」
実際、何処かで狂乱しながら喜び狂い、その誕生を喉よ裂けよとばかりに祝福している存在が確かにいるのだから。
その存在にとっては悪ではなく寧ろ非常に喜ばしいものではあったのだろう。
ただ、人はそれを生まれるべきでは無かったと言うだけで。
子供の教育方針はどれにする?
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蠱毒にぶち込む
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普通の子供のように育てる
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子供の為だけの揺籠()で育てる
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放任主義。子供は勝手に育つ
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帝王に愛など要らぬ!!