これはとある夢のVRMMOの物語。   作:イナモチ

56 / 117
〈アクシデントサークル〉

ようやく目的のレジェンダリアンの情報を手に入れたが、当の本人が野に生きるプレイスタイルの所為で山籠りしているらしい。

 

なんでゲームの中で山籠りしているのかは分からないが、とりあえず目撃情報をもとに捜索する事にした。

 

【従魔師】や【獣戦士】などのジョブ構成でテイムモンスターをメインにしているらしいのでコンタクトには気を遣わなければならない。

 

ぶっちゃけどんな性格をしたマスターなのか情報が少ない為、最悪を想定して野生児に会いに行く気持ちで臨むしかない。

 

常識をレジェンダリアンに求めるのは無駄だ。この数日で俺はその事実を悟った。

 

野生化しているのであれば初対面は警戒されてもおかしくない。それにテイムモンスターを傷つけては取り返しがつかないから手加減をする必要がある。

 

【高位調香師】の【鎮静香】も準備した。体をリラックスする状態に移行させる無臭の香水だ。初対面の印象を決定づけるのは外的情報だからな。下手に香りをつけても好印象が得られるとは思えない。

 

それに【鎮静香】には【恐怖】などの精神系状態異常の若干のレジスト効果も付いている。交渉をスムーズにするにはお互いに、実力行使するにせよ万全の状態を期して望まなければ。

 

・・・・・

 

だがやはり俺の認識はまだ甘かった。

 

 

レジェンダリアの〈アクシデントサークル〉は異常な頻度で襲いかかってきたのだから。

 

 

魔力が濃くなった空間で魔法が発動して石礫が飛散した。飛散する石礫は容易く樹木を貫通して大地に幾つもの深い穴を空ける。そのどれもが致命傷たり得る威力を有していた。

 

魔力が全く見えない空間で隠蔽された魔法が発動して、その空間にあった全ての物質が天上に打ち上げられた。樹々は地面ごと逆さまに落下するように飛んでいき、上空で分解されて雨のように降り注ぐ。そのどれもが致命傷たり得る威力を有していた。

 

魔力が異常に集まった空間で得体の知れないモンスターが召喚された。モンスターが目を開いて見たものが樹も土も石も全て純水に変えられていき、森だった空間は湖に変化していた。その視線は万物に対して致命傷たり得る威力を有していた。

 

魔力が薄い空間で無数の塵が生成された。それはこれまでの全ての魔法より小規模だった。脳内に不純物が生成されたモンスター達がバタバタと倒れていく。唯一平気そうなスライムが身動きすら碌に出来ぬモンスター達を嬲り殺した。

 

魔力が渦巻く空間で由縁も知れぬ剣が転移してきた。名も知らぬマスターが手に取って体を支配された。呪われた魔剣は血を求めて持ち主を操るが、見切りをつけたマスターが〈自害〉した事で未然に防がれた。呪われた剣は次の持ち主をドロップしたアイテム群の上で待っていた。

 

俺はそれを見て【グデアメール】に拾わせた。アンデッドの【グデアメール】なら問題なく使えそうだったので持っていく事にした。

 

魔力が溢れ出る空間で1人の男が瞑想していた。身なりはボロボロで尋常ならざる場所も相まってとても普通に見えぬ人物だったが、装備している装備は傷ついても隠しきれぬ上級者の等級だ。彼が目的の人物なのかと近づくも《危機察知》と《殺気感知》で立ち止まった。良く見ると何かがおかしい。こう、言語化するのも難しい感覚的な違和感を彼から感じた。

 

人間を見つけたエレメンタルがふらふらと隙だらけに見える彼に近づいて、

 

突如現れた巨大な口に飲み込まれた。巨大な鮟鱇がいつの間にか出現していた。鮟鱇の頭上には【詐食陸魚】とモンスターの銘が浮かんでいた。恐らく上位純竜級だ。陸に生息する怪魚とは珍しい。

 

擬似餌。装備アイテムは本物なのだろう。しかしその着用者は獲物を呼び寄せる捕食器官。俺も近くに寄るまで全く気がつかなかった。

 

目的の人物ではなかったのでその場を去る。

 

ーーーもっと危険な事が起きると《危機察知》がアラートを鳴らしていたから。

 

出来るだけアラートの音が小さくなるまで離れなければならないと俺は走り出した。

 

ひたすらに直線上に走りながら進行方向の〈アクシデントサークル〉を避けていく。

 

自身のAGIを全開にして数キロメテルは離れただろうか?

 

レジェンダリアの群生している樹に寄りかかる。《危機察知》のアラートはもう聞こえない。

 

俺は遠く離れた場所でさっきの方向からとても大きな音を聞いた。それは巨大な物質が起こす衝撃音に聞こえたし、尋常ならざる獣の咆哮にも、鮟鱇の断末魔のようにも聞こえた。

 

その正体がなんだったのか俺は知らない。もしかしたら鮟鱇が起こした現象だったのかも知れないし、溢れ出る魔力が〈アクシデントサークル〉を発生させたのかもしれない。

 

どちらにせよ俺はまだデスペナルティになるわけにはいかない。山籠りしているレジェンダリアンを探し出して交渉しなければ。

 

ーーー目の前の空間にはさっきまで無かった筈の魔力で満ちていた。もうすぐで臨界点に達する気配がする。それは今にも溢れそうなコップの水を見る時に感じる張り詰めた緊張を振り撒いていた。

 

は?なんd

 

今更手遅れになってから《危機察知》が激しくアラートを掻き鳴らす。

 

俺が正しく状況を理解する前に〈アクシデントサークル〉が発動した。

 

 

・・・・・

 

目を開けるが真っ暗だ。【盲目】か。

 

他にも【骨折】や【出血】が酷い。内臓も潰れているだろう。

 

《窮鼠精命》を使って状態異常で使い物にならなくなった体を無理矢理動かし、周囲の状況把握に努める。

 

《ラスト・コマンド》が無かったら即死だったな・・・。

 

《星侵超樹》が周囲の魔力を吸い上げて体を癒していく。《窮鼠精命》が無くても直ぐに普通に動けるようになったのは、【大死霊】の生存力とレジェンダリアの環境リソースの多さだろう。

 

ふと違和感を覚えて胸元を見るが【霊公形代 スゥチェング・ヘイワン】が無惨な状態になって破壊されていた。丁度光の塵になって消える所だったようだ。

 

状況を見るに〈アクシデントサークル〉で壊されたか。リアルで24時間後にまた自動修復機能で復活するだろうが、他の存在によって特典を破壊された。

 

モンスターにも、ティアンにも、マスターにも俺の特典が破壊される事は無かったが、まさか自然現象で破壊されようとは。

 

黄河帝国でカーソンが【瘴鼠衛衣】ごと俺を起爆符で粉砕した時以来だな。

 

まさか逸話級でも伝説級でも無く今つけている中で耐久力が最も高い古代伝説級の【ヘイワン】がやられるとは思わなかった。正面だったからモロに被害を受けたのだろう。

 

後ろ腰につけていた【故旧賦活】や背中に位置していた【瘴鼠衛衣】は俺が緩衝材になって被害を最小限にできていたらしい。

 

ホント、レジェンダリアは大魔境だよ・・・

 

なんかもう色々とありすぎて面倒臭くなってきたから帰りたくなってきた。適当な変態を見繕って帰ろうかなぁ・・・

 

ていうかなんでカーソンはレジェンダリアに着いてから一度も紋章の中から出てこないんだ?

 

レジェンダリアに着いてからずっと俺ばっかりトラブルの連続に見舞われているんだが。

 

俺だけ不幸な目に遭うのはおかしいよなぁ・・・なぁ、カーソン。俺たちは一心同体の仲だろう?

 

『すまぬが主様よ。最近眠たくてのぅ。進化の予兆やも知れん。』

 

・・・まじか。フゥゥーー。だったら仕方がない。ゆっくり休んでてくれ。

 

『うむ。すまぬが任せたのじゃ。(本当は危険極まりないレジェンダリアに居たくないからなのじゃが・・・まぁいいじゃろう。実際進化の予兆を感じておるのだし。)』

 

さっきまで帰ろうかと思ってたけど、なんかモチベーションが上がってきたわ。

 

もうここまで来たんだし、もう少し粘ってみっか!

 

これはとある夢のVRMMOの物語。

ルンバの決意とルンバのアバターが吹き飛ぶまで、あと30秒。

 

意気込んだ彼の足元に極小の隠蔽された〈アクシデントサークル〉が発動するまで、あと29秒。

子供の教育方針はどれにする?

  • 蠱毒にぶち込む
  • 普通の子供のように育てる
  • 子供の為だけの揺籠()で育てる
  • 放任主義。子供は勝手に育つ
  • 帝王に愛など要らぬ!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。