なぁ、カーソン。俺に隠していること、あるよなぁ・・・?
デスペナルティ明けにログインして第5形態に進化したことを報告してきたカーソンに、すかさず正座を命じて説教ムードを醸し出す。
カーソンの若干空回りしている溌剌さの裏に隠しきれぬ緊張と罪悪感がある事を俺は見抜いていた。
ダラダラと汗をかいて視線をウロウロさせる露骨な都合の悪いことを隠そうとする努力を見ていると、すっかり呆れて溜息がでる。
孵化から相当な場数を踏ませている筈なのだが、腹に一物置く腹芸はまだ出来ないらしい。
隠し事が出来ないところを長所と見るべきか短所と見るべきか賛否両論だろうが、とりあえずこれは今大事な事では無い。
大事なのは俺のエンブリオであるカーソンが何を隠しているのか、という事だ。
「悪い事をしたらごめんなさい。これは人付き合いの基本だと俺は思っている。花瓶を割ってしまった考えが足りない餓鬼のように隠蔽工作に走るのは俺のエンブリオとしてどうかとは思うが・・・」
カーソンの目をジィイイっと見つめて圧力をかける。
傍目から見たら明らかなパワハラ上等の圧迫面接だし、実際これは尋問だ。
「まさかカーソンはそんな不誠実なエンブリオじゃあ無いよな?カーソンを俺は信用している。マスターとエンブリオは一心同体だもんな?」
実際のところ信用していないのだが。カーソンは明らかに隠し事をしている。それも俺に不都合な事を。
カーソンは読心するまでもなくルンバが疑っている事をビシビシと感じていた。圧力をかけてくるのは信用していると言っている人間の態度では無い。
腹芸が出来ないカーソンですらルンバの猜疑心を見て取れるし、実際カーソンには疚しい事があるので背中が冷や汗浮かんでいた。
何故ならマスターがその道に通じている事を知っているから。
ルンバはカーソンのように他者を読心することは出来ないが、稼業の一環で訓練された暗殺者やスパイを幾人も拷m・・・尋問にかけて情報を吐き出させてきた実績がある。
尋問中に折れたフリをして悪あがきをしようと頭を巡らせる人間の反応など幾らでも見てきたし、命惜しさに全て洗いざらい吐く人間の顔を幾人も見てきた。
それに比べればカーソンの努力など子供騙しどころか子供ですら騙せるかどうか怪しい。
隠しきれぬと観念したカーソンがゲロった。
レジェンダリアの変態集団と異常極まる〈アクシデントサークル〉に身の危険を覚え、進化の予兆という名目の仮病で今まで紋章に引き篭もっていたことを。
俺は笑顔でカーソンの肩を叩いて言った。
よく話してくれた。だから俺もそれを踏まえて大人の対応を心掛けようと思うのだ。
ーーー全部カーソンが罪状を精算してからだが。
「処刑!」
俺はカーソンを不意打ちの薬品を染み込ませたハンカチで【昏睡】させた。
動かなくなった受刑者を紋章に仕舞い込み、俺はレジェンダリアの樹海に消えていった・・・
ザクザクと草を掻き分け道なき道を歩きながら誰も聞いていない独り言を零す。
「護るべきマスターを単身〈アクシデントサークル〉に送り出したお前に地獄ってもんを見せてやるよ・・・」
俺は動かないカーソンを巨木に縛り付けて持参した蜂蜜を塗りたくり、巨木の近くで【魔蟲寄せのお香】を焚いた。
そして【ぷれいどっぐ】を装備して穴を掘り始めた。特等席から処刑を見届ける為だ。
そしてこの辺は温厚な魔蟲が数多く生息している事を事前に確認している。万が一の時のために肉食性の魔蟲が寄ってきたら排除する為でもある。
お香と蜂蜜に誘われて蟲達が寄ってきた。タイミングが良いのか悪いのかカーソンが身の危険を感じて目が覚めたようだ。
「ん?ここは・・・?」
縛られている蜂蜜まみれの自分の身を確認して押し寄せる蟲の姿に顔を引き攣らせる。
きっとカーソンは魔蟲がトラウマになるだろう。
「!?!?マ、マスター!悪かったのじゃ!謝る!謝るから助けt」
必死の助命懇願も虚しくカーソンが魔蟲の群れに飲み込まれた。
裏切り者に制裁を。穴の中の着ぐるみのプレーリードッグはカーソンの懇願に一切の反応すらしなかった。
レジェンダリアの人気がない暗い樹海で甲高い悲鳴が響き渡って消えていった・・・
・・・・・
魔蟲の群れから救出したが精神的ショックで【気絶】しているカーソンを横目に〈DIN〉レジェンダリア支部が発行している新聞をアイテムボックスから取り出して見開きのページを見る。
レジェンダリアの樹海の一部が綺麗な円状に粉砕されたという記事。推定〈神話級UBM〉の新しい縄張りの周知だ。記事によると複数人のマスターが特典目当てに挑むが全て殲滅されているようす。
あの怪物は移動せずにその場を縄張りにしたようで被害は拡大していないらしい。《不幸》を起こすエンブリオによって呼び出された怪物なので、まだ油断は出来ないが。
これから【ゴーリー】の起こした《不幸》として動き出す可能性があるからな。
因みに【ゴーリー】のマスターは国家指名手配でデスペナルティ中にログインポイントが無くなっているので、デンドロにログインしても【監獄】の中だ。
リアルで〈DIN〉の要職に就いている奴に連絡を取って情報の裏取りと国家上層部に報告してもらったので、あの異常者に二度と会う事は無いだろう。
何が起こるか誰が対象なのかすら分からない《不幸》を撒き散らすマスターなど殆ど災害と変わらない。
ましてやその脅威が『〜ぐらいの被害が起きる可能性』という机上の空論の段階ではなく〈神話級UBM〉として現実に出ている以上、国も放置する理由は無いだろう。
願わくばリアルでも会わないことを祈る。
接した時間こそ短いものの、《不幸》の発生が無差別無制御無制限のエンブリオを孵化させる人間性とあの異常な振る舞いからしてリアルもヤバいパターンだ。
余りにも人間性とエンブリオがシナジーしているからな。黒い卵同様、他者に齎す被害をなんとも思っていなければエンブリオはそうならない。
マスターのパーソナルを反映するエンブリオは、マスターのパーソナルから意識的、無意識問わずリミッターが掛けられる。
それは良心であったり道徳であったり保身など善悪を問わない、人間が持ち得る未来への恐怖を源泉にしている。
それらは第n次被害、指名手配確実といった制御や条件がないエンブリオの能力を使用した場合、マスターが被る不利益を想定したものだ。
それに対してマスターが否定的、忌避感を覚える人間性であればエンブリオが自らリミッターを設ける。覚えないのであれば設ける必要がない機能として設定する事はない。
エンブリオはマスターの究極の賛同者でありマスターを反映する鏡だからだ。エンブリオはマスターがどんな人物かを、時に抽象的で迂遠だが如実に表している。
だからこそパーソナルの詮索の禁止というinfinite dendrogram特有のタブーが出来た。誰だって踏み込まれたくない自分だけの領域(パーソナルスペース)というのはあるから。
まぁアイツに気遣いなんてするだけ無駄だと思うが。対象を選ばない《不幸》を楽しむ人間が一般的に幸福を望む人間と噛み合うはずが無い。
会話を試みるのは時間の無駄の極み。さっさと《不幸》が起きる前にデスペナルティにしてデンドロからリアルに追い出すに限る。
異常者の奴なら、きっと【監獄】に収監された《不幸》すら嗤って受け入れるだろうから。
記事から目を離してインターフェースからエンブリオの項目を呼び出して第5形態の変化を確認する。
《不幸》にも第5形態に進化したタイミングがデスペナルティ中になってしまったのだから。
いつもならカーソンから進化の内容を聞いているのだが、肝心の本人が乙女がしてはならない顔で【気絶】している。俺がカーソンを紋章に収納したのはせめてものの慈悲だ。
第5形態で変化したのは融合形態の選択と融合枠の増加、カーソンのステータスとサイズ上昇、そして新しい固有スキルのようだ。
俺的には融合形態の選択が一番嬉しい。なんと融合しても人型のままであったり、大きさを調整出来るようになったのだ。
これが意味することは日常的な融合が可能になったという事。しかも【忌騎融鎧】の人馬形態も融合すれば人型に変えることができる。
人馬形態は背中がガラ空きなのでストレスだったのだ。しかも人混みは潜りにくいし。緊急回避に後ろに跳ぶことすらままならない。
その欠陥っぷりに特典のアジャストはどこ行ったとクレームを送りたかったほどだ。
市街はカーソンの巨体では活動できず、融合していないが故の特典破壊による装備スキルの使用不可に陥る可能性も消えた。
今の俺は普段から不死身のシナジーを発揮できるし、カーソンの人外のステータスを扱う事が出来る。
カーソンに任せていた【もかでぃあ】と一体化することも可能だ!(最重要ポイント)
俺が飼い主なのに実際は母親が世話するような構図からようやく脱却出来る。捨て犬拾った子供かな?
大抵親に飼いたいと頼んだが世話をしないから母親が仕方なく面倒を見る王道パターンだな。
皆もペットの面倒は可能であれば自分でみよう。俺の場合は不可抗力だった。
【もかでぃあ】は飼おうとしても、実体化しているのはストレスになりやすい繊細さと非実体化の維持には人外レベルのカロリーが必要だった。
俺が直接面倒見るのは【もかでぃあ】が進化した瞬間に実現不可能になってしまったのだ。
流石にフードファイトはキツい。精神的にも肉体的にも。
《窮鼠精命》で【肥満】のデメリットは相殺できるから戦闘には的がデカくなる以外のデメリットしか出ないが、アバターをデブにするのは心理的な抵抗感とそれにかかる食費を考えて断念した過去がある。
だから今回の進化でようやく飼い主としての面目も果たせるというものだ。
あと進化で増えた固有スキルだが、【◾️◾️◾️◾️】と一切の表示がない。
一部の特典武具の装備スキルのように未だ隠されているようで条件解放なのだろうと思っているが、カーソン本人に聞かねばわからないので保留となっている。
それに関する事だが、【霊公形代 スゥチェング・ヘイワン】の装備スキルがようやく解放された。
前回【瘴鼠衛衣】と【故旧賦活】をあの怪物に破壊されたのがトリガーだったらしい。
・・・どうしてそんな条件になってたんだ?
【ヘイワン】が言うには〈古代伝説級UBM〉以上のモンスターによって特典武具を破壊される事が解放条件だったらしい。
破壊されるのは【ヘイワン】以外でも良いと特に破壊する特典武具に指定は無かったが、スキル解放条件の指定がエゲツない。
普通に考えて超常の怪物を前に装備スキルを解放するために特典武具を破壊するなど自殺行為だ。
どうして自殺紛いの条件になってんだと首を傾げていたが、【ヘイワン】が『・・・マスターは他者と比べて頻繁に死んでいるからな。』と呟いていた。
なんで頻繁に死ぬ事と自殺紛いの行為が【ヘイワン】の中で繋がっているんだ?
で、スキルの内容だが、認識阻害だった。まぁ、特典武具の説明文に書いてあったからね。
でだが。【ヘイワン】は夢幻から現実の認識に干渉していたのだが、精神保護されていたマスターである俺を効果対象内に収めていた。
他にも精神世界を操ったりと、もろに精神干渉系の能力持ちのUBMだったんだが、より具体的に言うと世界の情報を操っていると言う事のようだ。
色々とシステムを操っている【もかでぃあ】の同類がここに居たのか。と思ったのだが、【ヘイワン】曰く違うらしい。
【ヘイワン】は夢幻世界という名の認識の中にいた精神生命体であり、そこから現実世界を認識していた。
だから【ディアプラン・キャンドル】は夢幻世界で現実世界の体から引っこ抜かれた【メガプランテスト】の精神の子孫を残すという認識によって生まれた精神生命体になったようだ。
非常にややこしいが要は精神だけの奴が精神だけのリソースを持った存在を生み出したとでも思っておけば良い。
話が逸れたが要は解放されたスキルは認識そのものに干渉する為、マスターの精神保護による無効化の対象外のようだ。
デンドロの幻術は光学的、錯覚、精神干渉など複数の種類があるが、精神干渉はマスターの保護機能で無効化される。◯輪眼のように幻術で洗脳は出来ないという事だ。
だが【ヘイワン】の認識阻害はマスターでさえ洗脳出来るだろう。俺がサブマスターを洗脳教育したようにマスターでも洗脳すること自体は可能だ。
洗脳っていうのは極論を言ってしまえば説得や教導といったコミュニケーションの一種とも取れなくも無いからな。
脳をクチュクチュするタイプの洗脳(物理)は無理だが。
あれはやったことは無いがどうせ脳を直に弄ってもマスターはデスペナルティで元に戻るから意味がないと思われる。【猛毒王】を脳味噌だけで生かした実績がある【設計王】なら知っているかもしれないが。そもそもマスターには〈自害〉があるから出来るかどうかとは思うが。
なんで俺はデンドロで洗脳について考えているんだ?
今更ながらになって我に帰った。なんか俺の脳内がいつの間にかダーティーでディストピアな世界観になっていた。
自覚も無しに自分の部屋の模様替えをした時の感覚に似ている。
これはとある夢のVRMMOの物語。
※以降はこの話を書いていた時の作者のポルナレフ風の独白です
あ…ありのまま 今 書いてて思ったことを話すぜ!
「自覚も無しに 自分の部屋の 模様替えを した時の 感覚に似ている」「シックな部屋が 突然 ヘヴィメタルな 部屋に なっていた」
な… 何を言っているのか わからねーと思うが
俺も 自分が何を言っているのか よくわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった… 催眠術だとか超スピードだとか
そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…
子供の教育方針はどれにする?
-
蠱毒にぶち込む
-
普通の子供のように育てる
-
子供の為だけの揺籠()で育てる
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放任主義。子供は勝手に育つ
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帝王に愛など要らぬ!!