「という訳で・・・海賊船団に一時的に所属する事になった【死霊王】ルン・バ・ンルだ。【死霊王】、もしくはルンバと呼んでくれ。ま、出来る事と言ったら事務員か戦闘要員だな。アンデッドだが聖属性の浄化も出来るぞ。掃除は意外と得意分野だ。」
特大級の訳アリ新人の加入にいつもよりガヤガヤと騒がしい船室。
流石に俺が酔った勢いで特に防御力の高い大型装甲船を沈没させた事が広まっている様で、心無しか距離を感じる。
早くも職場の人間関係に暗い雲行きが見えるようだ・・・。
「ワシはTYPEメイデンの【カーソン】。そこの主様のエンブリオじゃ。こやつは今【契約書】で酒が一滴も飲めない故、安心して欲しいのじゃ。アル中に賭博中毒者の末期患者じゃが、殺しに来ない限り危険は無いでな。」
カーソンの紹介で酒が飲めないと聞いた時点で大人数がほっ、と息を吐いた音が聞こえる。
俺の酒癖の悪さはそこまでなのか・・・。いや、一隻実際沈めてしまっては、ぐうの音も出ないのだが。
「取り敢えずコイツはゼタに任せる。なんかあったらそこら辺の奴捕まえて聞くなりしてくれ。で、コレが海賊船団の船員証な。船員証は【テレパシーカフス】の代わりにもなる。戦闘の時は外しておいて普段付けておけ。」
そして簡単な連絡事項を幾つか通達した後に、解散。
新人教育係に任命されたゼタは珍しくやる気満々である事が伺える。
仮ではあるが、俺の上司様だ。ヨイショしておくに越した事はない。
「教育。駄目人間であるあなたを矯正します。日常的な正しい行動によって人格の矯正を試みる予定です。聖人になれとは言いませんが、一端の船員に鍛え上げる事を約束しましょう。」
上司のゼタさんはいきなりぶっ込んできた。
まず罵倒。そしてあなたの人格矯正宣言のツーアウトだ。正面から殴り合い上等の喧嘩を売っているのかと思ったが、おそらく歯に衣着せぬ正直過ぎる人物であると推測する。
だから今は様子を見る・・・観察に徹するとしよう。スリーアウトからが本番だ・・・。
「教訓。水上戦、水中戦の未経験者ならば最低限水中で活動出来る様に。既に何か水中での活動を可能にする手段があれば言ってください。実際に試して慣らす方が良いでしょう。」
例えば、と言ってゼタは空気を操って気泡を手の平に形成した。
《窃盗》に特化した【盗賊王】に空気操作のエンブリオか。あまり直接的なシナジーは無さそうだ。
「抵抗。デンドロの水の抵抗は現実世界の水の抵抗と比べるとステータスとしてSTRがある為、重要性が低い・・・ですが力を伝達する物質が水だけである以上、水中での加速は地上とは違った物になる点は相違ありません。」
成る程な。ゼタの場合は空気の噴射、或いは身体を包む空気そのものを動かして水中を自在に移動している訳だ。
俺の【竜禍喰匣】と《竜王気》で似たような事は出来るだろう。俺のAGIが水中機動に直接作用しないのが難点だが・・・
「移動。トレーニング用の大型施設で訓練を実施するので濡れて良い格好を用意してください。」
・・・水着か。つまり、ゼタも水着の着用を・・・?
俺はゼタの頭の天辺から爪先までの採点を実施する。
その結果、ゼタは残念ながら選考落ちした。
ゼタは、余りにも若過ぎて身体の起伏が欠如していたのだ。
もしゼタがリアルをモデルに作ったアバターであるならば、将来的に期待出来る顔立ちではある。そして年齢に見合わぬ大人の雰囲気を持つクールビューティーだ。
が・・・彼女に欲情するのはロリコンの謗りを免れない美少女であった。世にも珍しきクールロリ上司。ロリコン大歓喜である。
しかし、あと五年ぐらい経ってから出直して欲しい。その時はきっと合格点を叩き出せる筈だ。
「?」
俺はゼタの頭をポンポンと叩いて彼女の健やかな成長を祈った。
・・・・・
【怨騎融鎧】が生成した怨念を【竜禍喰匣】に流し込む。
同時にそして宿主の意を汲んだ【もかでぃあ】が《竜王気》を展開。
【竜禍喰匣】が怨念を変換して風属性魔力を生み出し、《竜王気》と混成させる。
球状に風の《竜王気》を纏める。
風の結界は完全に水を弾き出し、水圧に反発している。
《竜王気》を動かして体を操作する。体感は車を操縦する時と似ている。
「確認。その状態でどれほど活動出来ますか?」
ふむ。
風の《竜王気》を発動する手間とコスパを考えると【碧風術師】の方が優れているが、MPは【竜禍喰匣】が生産しているので問題は無い。
それに性能的には魔法減衰、物理抵抗能力を持つ風の《竜王気》の方が上だ。
だから唯一消費するSPだけで考えると・・・24時間発動し続けていても問題は無いな。
「戦闘で消耗している状態でも一日中続けられるな。」
「評価。常時コストを生産している様子なので継戦能力は及第点をあげましょう。緊急事態に備えて別の手段を用意するのも忘れずに。個人的には《遊泳》のセンススキルを上げるアクセサリーがオススメです。」
後はこの独特な水中機動と戦闘を噛み合わせる調整か。
「想定。実際にダメージが発生する戦闘訓練よりも、最初はゲーム形式で水中戦を体験。」
ほう。ゲームとな?
「遊戯。設定した得点部位にタッチする事で加点。タッチされた時は減点です。」
時間までに最低でも一点の加点があるならば逃げ回っても隠れても良いとゼタは言った。
心臓、脳、首、肺、腰、各関節、手足。合計で21箇所の得点部位。
スポーツと違って得点判定が多いのは戦闘で優先すべき箇所が多い事を想定しているという事。
まぁ、全部破壊されても俺は問題は無いのだが、敵対者の接触を前提としたスキルを想定した方がいいのだろう。流石に俺は想定の範疇外だと理解している。
そして注目点はそこでは無い。戦闘で気を配る点が多い事など既に理解している以上、得点部位の多寡は問題ではないのだ。
問題は対戦相手が水中戦のベテランっぽい【盗賊王】だという事。地の利はゼタにあり、AGIは当然高い。小細工もしてくると予想している。
《スティール》は俺が全身を装備と融合させているが故に問題はないが、もし水中で《遊泳》や《水中呼吸》のアクセサリーを奪われるとしたら、かなりの脅威となる。
明確に隙が出来る筈だ。
そして特にルールを明言していないという事は妨害もなんでもアリ。しかしゼタが明言した以上、ダメージが発生するものは無し。
自傷は多分セーフだがリカバリーの範疇まで。
結論。ゼタは俺が得点を得ないまま終了すると予想。ゲームを複数回繰り返すと想定している。
ゼタ相手の戦闘訓練を最初にしないのは戦闘で発生したダメージの蓄積で訓練の回数を“減らさない”為だからだ。ゼタはこの時点で既にそうなった未来を想定している。
まぁ、妥当な判断だろうな。
だがーーー
「スタート」
突然の開始の合図と共に、ゼタが水に溶けるように姿を消した。
!?
首筋に衝撃。
「油断。先ずは一点減点。」
近くから声がした。
反射的に腕を振るうが、ピタリと思い止まる。
ーーー俺のSTRで殴ったら殺しかねない。
風の《竜王気》を解除、【竜禍喰匣】に生成させる属性を海属性に変更。
《竜王気》混成。
液体状の《竜王気》を操作して近くにいるゼタを水流で押し流す。
その時、一瞬ゼタの姿が揺らいで見えた。次の瞬間にはもう既に消えていたが。
だが、ゼタが突然消えたトリックの正体は分かった。空気だ。
水と空気の光の屈折現象を、意図的に発生させている。
・・・ゼタのエンブリオはそこまで空気操作出来るのか。
しかしコレで光学迷彩が解ける事を警戒して接近してくる事が無くなった筈。
姿が見えない上、得点を狙い辛くなった。
水中で探り難いが《気配察知》にも反応無し。
スキルレベルが高い《隠蔽》。【盗賊王】ならスキルレベルがEXでもおかしくは無いな。
炙り出しが必要か。
さて。どうする・・・いや、シンプルにいこう。
ーーー質量制圧いくか。
・・・・・
(継続。初動からここまで想定通りの展開。水流の索敵範囲を避けて仕舞えば発見は困難。)
ゼタは距離を取ってルンバを観察している。
先程の水流操作は予想外ではあったが、ゼタの対処可能な範疇に収まる。
海ではあの程度の海流の発生は日常的に起きている。水流がない屋内施設だから突然の変化に《コードⅢ:ミラージュ》の自動調整が狂った。
次は無いし、そもそも接近させる必要がない。
(意外。ステータスは前衛超級職に等しい【死霊王】だが、アンデッドを使役している様子は見られない。そして《竜王気》の様なオーラを纏っていた。あのメイデンは非実体系TYPEの複合なのか・・・さっきから姿が見えない。但し隠蔽系のガードナーの可能性も考慮。)
(備考。【死霊王】が空気操作に水流操作はシナジーという面であまり考えられない。全属性が使用出来る【賢者】を上級職に置いているのか・・・もしくは以前から《鑑定》の発動すら出来ない装備のスキル。彼は、異常な点が多過ぎる。)
(疑問。そもそも何故、先程から全く動きが無い・・・?しかしゲームを放棄した様にはーーー?)
ルンバの手元に黒い物が見えた。
そして、《危機察知》が反応し始める。
(!?)
次の瞬間。莫大な質量が水中を埋め尽くし、押し出された水が大波となって施設を水浸しにした。
・・・・・
《星侵超樹》が吸い上げたリソースを糧に黒い破壊不能オブジェクトが水中を覆い尽くした。
屋内だからフィールドを森で埋め尽くすより、軽いコストで済んだ。実際の海中では無理だ。上下左右が広過ぎる。
そして一箇所。破壊不能オブジェクトが弾かれる場所がある。
ちと強引過ぎた気がするが、【盗賊王】捕獲完了。
そういうゲームじゃねーからという意見には目を瞑る。だってコレぐらいしか出来る手段無かったし。
なんでもありって無言の協定結んだじゃんね。
一旦水から上がって、不満げな表情のゼタ先生はぷいとそっぽを向いて両腕をクロスした。
X。バッテンマークだ。アウトぉー!
「論外。コレは水中戦に慣れる為の訓練です。誰が圧殺する勢いで質量飽和しろと言った。」
オコだ。丁寧な口調が崩れた。
あの黒い樹木でゼタ先生を勢いでプチッと潰しかけたのを怒っているらしい。
そりゃ怒るわ。
俺はペコペコと赤べこの様に頭を上下させて謝意の意を示した。
サーセン、サーセン。マジ反省してますって。イヤ、ついカッとなってやりましたー。
反省はしているが後悔は割としていない。
“勝つ為なら最善を尽くさなければならないのは陸も海も一緒だ”とベラベラとよく回る舌で熱弁する俺は、額に青筋が浮かんでいるゼタ先生に射出されて海に投げ出された。
施設から発射された人間砲弾が海面に着弾。
大きな水柱が上がった事を見張りの船員が観測した。
プカリと水死体の様に浮上したルンバはパクンと鯉に似た怪魚に飲み込まれる。
そして鯉に似た怪魚は満足そうに海に潜行して行った。
お粗末!
これはとある夢のVRMMOの物語。
命は廻る。次の世代へと・・・!
子供の教育方針はどれにする?
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蠱毒にぶち込む
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普通の子供のように育てる
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子供の為だけの揺籠()で育てる
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放任主義。子供は勝手に育つ
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帝王に愛など要らぬ!!