これはとある夢のVRMMOの物語。   作:イナモチ

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似た者同士

俺のエンブリオが進化する時は俺が死にかけの時か、俺に傷害を加えている時だった。

 

UBMに追い詰められて緊急進化を2回もしたし、教会の前で馬乗りになってボコボコにされた挙句牢屋に一時収監された事は鮮烈に覚えている。

 

第5形態は【死源竜肉 ピリア=ネイコス】に聖属性で浄滅されそうになった時だった。

 

まぁ、これ以上のスリリングな進化タイミングはそう無いだろうとたかを括るっていたが、甘かった。

 

第6形態の進化のタイミングは、俺にとって最大の危機だった。

 

「主様よ。これにサインするだけで良いのじゃ。」

 

「大丈夫。これまで経験がない事故、心配事もあるじゃろう。ワシも同じじゃ。」

 

「重荷は二人で共に抱えれば良い。疲れたなら二人共に寄り掛かっても良い。どんな時も寄り添い、支え合う。それが家族じゃ。ワシは主様と家族になりたい。・・・ダメか?」

 

・・・あぁ。ダメだ。ここまでいくとただの屑かもしれんが俺はまだ身軽でありたい。

 

俺は目の前に人生の墓穴が広がっている光景を幻視した。この穴に堕ちれば一生逃れることは出来ないと、本能的に察していた。

 

カーソンが哀しげに瞳を伏せた。その表情は見た者に罪悪感を抱かせるが、俺は危険な光が一瞬宿ったのを見逃さなかった。

 

草食動物が肉食動物の危険な兆候を感じ取る様に、今の俺は極度の緊張で集中力が向上している。罪悪感は微塵も感じなかった。

 

「そうか。・・・主様よ。ならーーー」

 

俺はその言葉を聞き終わる前に全力で遁走を開始した。

 

何故かって?

 

ーーーカーソンが子を孕む特級危険物を隠し持っているからだ。

 

俺がアイテムボックスに封印していた筈だが、カーソンが抜き去っていたらしい。

 

”既成事実“をその場で強制的に成立させる為に。

 

 

 

幸いなことにカーソンのアバターは俺のアバターよりもAGIが低い。

 

このままなら絶対に逃げ切る事が出来る筈ーーーだった。

 

唐突に周囲の時間の流れが一段と速くなり、俺は相対的に俺のAGIが低くなった事を知覚した。

 

カーソンはデバフスキルを持っていない筈だ。第6形態に進化したとは言え、これまでの傾向からデバフスキルが発現する可能性は無い。

 

・・・まさか。第6形態に進化して、遠隔解除が出来る様にーーー?

 

不味い!AGIの差が逆転した!!

 

マスターのシナジーに特化した凖〈超級〉ガーディアンの高ステータスが、マスターに牙を剥く。

 

せめて俺が【獣戦鬼】だったら、融合が解除されてもある程度拮抗できた筈だった。

 

しかし死霊術師の頂点である【死霊王】と戦士系統派生上級職【獣戦鬼】は系統が違いすぎてステータスを上乗せする《獣心憑依》を使用する事ができない。

 

ーーー超級職に就いて強くなった筈だった。いつの間にか俺は、弱くなっていたのか。

 

刻一刻と詰められていく距離は俺の逃れられぬ未来を暗示しているかの様だった。

 

走馬灯の様にこれまでの記憶が脳裏に過ぎる。

 

高揚して頬が赤くなったジーエンの恥じらいの表情だけが俺の癒しだった。

 

マスターが他の女の事を考えている事を女の本能で察したカーソンが嫉妬に狂って加速した。

 

表情こそ微笑んでいるが、捕まったら即座に子作りに移行することは明白だった。

 

お前がパパになるんだよォ!とゲラゲラと嗤う掲示板住人の無駄にリアリティの高い下衆な幻聴を振り払う。

 

俺は諦めなかった。

 

絶望的な状況でも最後まで諦めなかったからーーー気付けた。

 

逃走経路の進行方向に変人が多いデンドロのマスターの聖人枠、チェルシーがいた奇跡を。

 

ーーー神は言っている。此処で死ぬ定めでは無いとーーー

 

某天使のボイスが脳に再生された。しかし、これからやる事は悪魔の発想だ。

 

MPK(モンスタープレイヤーキル)。

 

モンスター()のヘイトを他のプレイヤーに押し付ける卑劣な術だ・・・

 

「チェルシーィィイイイイ!!!」

 

「え!?」

 

突然大声で名前を呼ばれたチェルシーがギョッとした。

 

ーーーチェルシー、カーソン・・・ごめんな。本当に済まないと思っている。

 

俺は下衆野郎だ。可能性の彼方にある未来を掴む為に、手段を選ばない。

 

「好きだーーー!!俺と結婚してくれぇえええーーー!!!」

 

ーーー魂から絞り出したかの如き叫びに、この場にいる俺を除いた全員が凍結した。

 

 

 

ブチっと何か太いものが千切れた音が聞こえた。唖然としていたカーソンの気配が更に禍々しさを増した。

 

ゴンがゴンさんになったシーンの様だ。親愛に潜む狂気の気配は全て殺意の波動に染まっていた。

 

カーソンって本当に種族:天使で聖属性なんだよな?

 

 

 

ーーーグランバロアに天使の殻を纏った邪神が降臨した。

 

 

 

チェルシーは突然の告白に固まったが反射的に己のエンブリオで防御出来たのは、上位決闘ランカーの実力か。

 

とても少女の細腕から発生したとは思えない轟音が鳴った。咄嗟に防御していなければチェルシーは肉塊になっていたかもしれない。

 

「ッ!?」

 

「・・・・・」ゴゴゴゴゴゴ

 

圧巻の無言、無表情だ。感情が昂り過ぎて感情の無い殺戮機構の様になっていた。

 

カーソンの頭上には純白の輪が浮遊し、神々しくも不規則に揺れる為見る者に曖昧な不安感を抱かせる。

 

背中からは一点の穢れも無き白翼が生え、全身から白い花弁が散る。

 

海色の蒼い髪が風も無く緩やかに揺蕩う。今の覚醒カーソンは絵画の天使の姿そのものだった。

 

ただ一つだけ、カーソンの顔に、異様なひび割れが走っていた。ひび割れの中は暗闇に満ちていて、まるで矢を刺したゴールド・◯クスペリエンスだ。

 

そのレクイエムは俺を葬る為なのか。

 

思いっきり天使の地雷を踏み込んだ俺への周囲の目線が険しい。

 

とばっちりで殺されかけたチェルシーは本気の殺意に顔を真っ青にして萎縮していた。

 

流石に強い罪悪感を感じたが何処か興奮するものを感じてしまった俺は屑だ・・・

 

知らない強面のマスターが明らかに原因と思われる俺に対して興奮した様子で詰問した。

 

「おい!お前!」

 

「チェルシーちゃんファンクラブの会員じゃ無いだろ!!俺らのアイドルに何勝手に熱い愛の告白してんじゃボケカスがぁ!バラして撒き餌にすっぞコラ!」

 

え、そっち?

 

てかファンクラブの会員柄悪いなオイ。

 

おい、ヤンキー。今それどころじゃないのは見て分かるな?いや、分からなかったんだな?

 

「知ってらぁ!」

 

そうか。あの天使擬きがアンタらのアイドル殺しかけたんだが・・・どう思うね?

 

「野郎どもぉぉぉォオオオ!!!粛清だぁアアア!!!」

 

「「「「「「死ねぇーーーー!!!」」」」」」

 

一瞬で頭が沸騰して理性を失ったファンという名の狂戦士の群れが禍々しき殺意の波動の発生源に向かって躊躇わず突撃していく。

 

各々の獲物を構えて涎を撒き散らしながら飛び掛かっていく姿は理性と品性を失った世紀末モヒカンの姿そのものであり、明らかに犯罪者の集団であった。

 

その表情は暴力と殺戮の悦びに満ちている。荒んでますわぁ・・・

 

アテレコするならば「ヒャッハーーーー!!!水だぁアアア!!」だろうか。

 

我ながら《世界改創》で精神誘導しながら扇動したとは言えドン引きである。お前ら反射だけで生きてない?大丈夫?脳味噌ちゃんと使ってるか?

 

どうやらファンクラブ関係なくその場の熱気に狂って突撃したマスターも居るが、暴走ファンクラブも含めて凖〈超級〉が入り混じっている。

 

普通なら戦力比が傾いているが故に鎮圧も可能。

 

の筈だった。噛ませ犬達のフラグ建築能力だけは目を見張るものがある。

 

エンブリオの必殺スキルを発動させ、上級職の奥義を発動させたった一人のエンブリオに向けられた暴力装置は、カーソンが振るった白翼でグズグズの肉塊に変貌した。

 

上半身は弾け飛び、下半身だけ残った死体。中途半端に回避して頭の断面が晒された死体とバリエーションに富んでいる。汚ねぇ死に顔だぜ。

 

奴等の特攻は殆ど死にに行っただけに終わったが、十分な時間は稼げた。

 

インターフェースからエンブリオの欄を選び、第6形態に進化した結果を確認し、考察する時間が。

 

インターフェースに記載された情報によると、どうやらカーソンは第6形態になった事で単体戦闘能力を獲得する進化を遂げた様だ。

 

今までカーソンは明確な攻撃手段を持っておらず、俺へのシナジーだけに特化していた。

 

しかし今回は粗方俺のシナジーの補強が完了した事で、自身の単体スペックに注力する余裕が生じた。

 

カーソンは本来、ステータスは高いものの、戦闘に優れたエンブリオでは無い。

 

《星の救世》は汚染地域の環境に適応する為のスキルであり、《生命寿く巫蠱》は浄化が難しい汚染物質を除去する為のスキルだ。

 

次世代の生命に繋げる為に、従来の環境を削り取って、刷新する力。

 

カーソンはメイデン形態での戦闘技術が高く、高ステータスも相まってメイデンの中でも上位の武闘派だ。

 

暗殺者を退け、無法者を鏖殺し、裏切者を粛清した。裏の手練手管に長け、戦闘に必要な天性のセンスを持っていた。それこそ己のマスターを上回る程に。

 

何も持たずとも己が肉体のみで壊す才覚を持ち、死を糧にする。

 

それは《メッセンジャー・アポートシス》という形で表出した。

 

無色透明な暴力衝動。純粋さ故に思慮が挟まる余地が無く、本質が現れる事になる。

 

それはルンバが闘争の境地へと至らせ、

 

ーーーカーソンに他者の死を糧にする力の自覚を齎した。

 

これはとある夢のVRMMOの物語。

アジャスト機能、死後特典化機能。天秤の化身の権能。

 

特典武具とは、UBMの存在を改変した“成れの果て”だ。

 

納得した死だけが全てでは無い。

子供の教育方針はどれにする?

  • 蠱毒にぶち込む
  • 普通の子供のように育てる
  • 子供の為だけの揺籠()で育てる
  • 放任主義。子供は勝手に育つ
  • 帝王に愛など要らぬ!!
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