開幕B級ランク戦
「ボーダーの皆さんこんばんは! B級ランク戦初日昼の部!実況は私、海老名隊オペレーター武富桜子が務めさせていただきます!」
小さめの映画館ほどの広さの部屋に少女の声が響く。ランク戦初日ということもあって、B級ランク戦下位グループの観戦ブースはいつもより多くの人で賑わっている。もっとも、いつもは座席の半分も埋まらないこの部屋に多くの人が集まっているのは、初日だからという理由だけではないのだが...
「解説は現B級1位部隊 二宮隊の犬飼先輩と草壁隊の緑川くんでお送りします!」
「「どうぞよろしく〜」」
14歳にしてA級4位部隊に所属するアタッカー緑川と、元A級でマスタークラスガンナーの犬飼がにこやかに答える。
「ついに始まりましたランク戦!解説のお二人は今シーズンに向けて何か意気込みなどありますか?」
「オレはとにかく活躍して迅さんにいいとこ見せたいな〜」
「ほんとに迅さん好きだね...」
過去迅悠一に助けられた過去を持ち、熱心な迅ファンの緑川に犬飼は若干呆れながらも答える。
「犬飼先輩はいかがですか?」
「俺はとりあえず今期もB級1位キープかな〜。影浦隊が落ちてきたから結構厳しいかもだけど」
心の中でまあ負ける気は全然無いんだけどねと思いつつも、そのことは一切顔に出さずにこやかに笑う。もしこの場に影浦がいたらその場で殴られていてもおかしくなかっただろう。
「桜子ちゃんはどうなの?」
「私は我が隊初の中位入りが目標です!」
「応援してるよ、頑張ってね」
「ありがとうございます!」
実況席でなごやかな会話が行われている中、一人の少女が観戦ブースの扉を開き中にはいる。
「お前が下位の試合見に来るなんてめずらしいじゃねーか、木虎」
「米屋先輩こそ」
人の目を引くような赤い隊服に身を包んだ少女 木虎藍は、おそらく自分と同じ理由で来たであろう男 米屋陽介と軽く会話を交わしながら席を探す。あたりを見回すと、自分たちの他にも何人か正隊員が来ているようだ。
(やっぱりみんな同じ理由で来たのかしら...)
しばらく探していると気を使ったのか米屋が話しかける。
「席ねーみたいだしここ座るか?いいよな?奈良坂」
「...ああ」
「...ありがとうございます。」
米屋の言うとおり近くに座れそうな席が見当たらなかったので座らせてもらう。
「お前もあの話を聞いてきたのか?」
「そうです。先輩たち...いえ、ここにいる正隊員のほとんども同じ理由でしょう」
―――それは少し前から正隊員の間で語られていた噂。いや、正確にはもう噂ではない。少女たちの視線の先には目の前に広がる大きなモニター。そこには"B級21位 速水隊"という文字。
(やはり本当だったのね...)
チームに所属していない在野のB級隊員でありながら、ボーダーでは、正確には主に正隊員の間でよく知られていたある二人の隊員が、隊を組んでランク戦に出るという噂。
「あの二人がチーム組むとはな〜。ちょっと意外だったぜ。」
「そうですね...まさかあの二人が」
木虎がそう思うのも無理は無い。速水隊隊長の速水は普段からほぼ研究室に籠もっており個人ランク戦にもほとんど現れなかったし、逆に京極は個人ランク戦には入り浸っていたもののこれまでにいくつかのチームからの勧誘を断わっている。
「あれ?そういえばお前ってあの二人と関わりあったけ?」
「米屋先輩が知らないだけでそれぐらいあります。」
木虎にとって速水は巻き取り式スパイダーの開発に携わった一人であり、今でも継続的にトリガーのチューニングを頼んでいるエンジニア、京極は同じ学校に通っていて、たまに個人ランク戦をすると決まって勝負を挑んでくる少々うっとうしくもあるがどこか憎めない先輩、という関係だ。
「冷てーなー。もうちょっと優しくしてくれてもいいんじゃねぇの?」
「......二人ともそのくらいにしておけ。そろそろ試合が始まるぞ」
三輪隊所属でNo.2スナイパーの奈良坂が口を開く。奈良坂にとって速水は短い間とはいえ狙撃を教えた弟子。何か思うところもあるのだろう、その目は静かにモニターを見据えていた。
モニターの方を見ると、転送開始まで30秒を切っている。
「注目の新設部隊、速水隊のデビュー戦!対するはB級16位吉里隊とB級17位間宮隊!いよいよ転送開始です!」
『転送開始』
「MAP『市街地B』 時刻『昼』 各隊員転送完了しました!」
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「さあ、戦闘開始だ」
転送を終えランク戦の舞台に降り立った男は、静かにそう呟く。上を見れば、太陽が燦々と輝き、雲一つない青空が広がっている。その顔は確かな自信に溢れていた。
桜と天音はこの時点でほぼ無名なのでその存在はほとんど知られていません。
なので噂の内容も速水と京極がチームを組むらしいというだけで、ほか二人についての情報は全くない状態です