初陣
――――――転送前
「今回の相手は吉里隊と間宮隊。油断は良くないけど、今までやってきた成果を出せれば問題なく倒せる相手だと思う」
試合が始まる少し前、速水隊控室では作戦会議が行われていた。初試合ということもあってどことなく全員ぎこちないが、それでも不安そうな隊員はいない。
「時刻とMAPはどうするの?」
オペレーター星崎天音が問う。彼女も他の隊員と同じように玉狛で宇佐美と共に特訓し、オペレーターのいろはを叩き込まれた。元々大のゲーム好きで機械操作や並列処理に優れていた彼女は、オペレーターとしての基本や機材の操作方法を覚えると目を見張るほどの上達を見せ、今では師匠の宇佐美に迫るほどの実力を持っている。
「初戦だし変なことしても仕方ないからね。時刻は昼、MAPは市街地Bで行こうと思う」
「市街地B?変なことしても仕方ないっていうんならAじゃないの?」
天音は疑問を感じた。もちろん市街地Bは、傾斜がきつくスナイパーが大幅に有利な市街地Cや戦闘のほとんどがMAP中央の大型ショッピングモールで行われる市街地Dほど特徴的なMAPではないが、ランク戦で基本となるMAPは市街地A。MAPを使って特殊なことをしないのであれば市街地Aを選ぶのが自然だ。
「それには理由があってね......桜、僕たちのチームの強みはなんだと思う?」
「それはやっぱり......接近戦かな、わたし達は三人とも近距離特化だし...」
アタッカーの花柳桜が答える。他の三人の隊員が研究者気質、バトル大好き、わがままと厄介な性質を持つのでただただ明るい光属性の彼女は速水隊の要にして清涼剤となっている。出会って数日、いや数時間で初対面の京極や玉狛の面々と打ち解けた彼女は、ある意味速水隊で一番の"できるやつ"なのかもしれない。
「じゃあ弱いところは?」
「うーん強いて言うなら遠距離が弱いかな、わたしと秀にいは一応狙撃トリガー使えるけどちゃんとしたスナイパーの人ほど上手くないし......。撃ち合いになったらだいぶ不利かも......」
「そうだね、このチームの強みは近接。だからこそどうやって近接に持ち込むかが大事になってくるわけだけど......」
「ああ、そういうことね」
「えっ!どういうこと?」
未だに分かっていない京極と違い、オペレーターで宇佐美の指導によって全MAPの特徴を頭に叩き込まれた天音は秀の言わんとしていることに気づいたようだ。
「京極......あんたまだMAP覚えてないでしょ」
「うう......だって全部同じに見えるんだもん.....」
「あんた世界史やってるときも同じこと言ってたじゃない...」
「まあまあ、それはおいおい覚えていけばいいですよ。市街地Bは高い建物や中で戦える大きめの建物が多いんです。だから射線が切りやすく、中・遠距離で戦う隊員は仕事がしづらい。逆にアタッカーは敵のスナイパーやガンナーをあまり気にせずに戦える......。市街地Bは僕たちにとってこれ以上ないほど有利なんです」
「へぇー!なるほどね!よく考えてるんだね」
「・・・・・・あんたが考えてないだけでしょ」
やっと秀の意図を理解した京極に天音が悪態をつく。天音と京極は同級生で、いつも京極の勉強を天音が見ているためか少々当たりがきつい。それは仲がいいことの裏返しでもあるのだが。
「これからもMAP選択権があるときは基本市街地Bを選ぼうと思っています。幸い吉里隊は中距離メインで戦うし、間宮隊は全員シューター。事前に決めた戦術が通用するかどうかの試金石にはもってこいです。・・・京極先輩、事前に決めた戦術は覚えてますよね?」
「流石に覚えてるよ!確か桜ちゃんが偵察とか罠を仕掛けてたりしてサポート、ぼくたち二人はとにかく近づいて敵を切る!だよね?」
「・・・まあ大雑把だけど大体そうです」
少々怪しいが、さすがの京極もそれは覚えていたようだ。秀は少し胸を撫で下ろした。
「・・・・・・ちょっと脱線してるんじゃない?まだ試合の具体的なことについて全然話せてないわよ」
天音がしびれを切らしたように口を開く。そもそも話が脱線したきっかけを作ったのは彼女なのだが、それには言及させないような鋭い目で秀を見る。
「ごめんごめん、そうだったね」
「しっかりしなさいよ、まったく......」
(ジー
「・・・なによ」
「いやなんでも......」
なにか言いたげな表情で天音を見ていた京極だったがその圧に負けすぐに目をそらす。京極もMAPのことを覚えていなかったので天音とそう変わらないのだが...。
「・・・じゃあ具体的な作戦言っていくね。転送位置にもよるけど、まず合流を目指そう。その後、できればハウンドストームが厄介な間宮隊から倒しに行きたいけど......まあそこは臨機応変に行こう。とにかく射線を切って近接に持ち込む、これを徹底しよう」
『転送開始まであと30秒』
「・・・そろそろ時間だね。これが僕たちの初試合だ。気合入れていこう!」
秀が最後の声掛けをする。隊員たちはその自信ゆえか、みな微笑んでいた。
『転送開始』
ついに転送が開始される。B級ランク戦ROUND1、速水隊の初陣となる試合が始まる―――
―――――――――
その男、吉里雄一郎はB級16位 吉里隊の隊長を務める銃手だ。前シーズンの結果はB級16位と中位へあと少しで手が届く位置まで上り詰めた。隊員も元A級部隊 影浦隊所属の数少ないマスタークラス銃手北添尋の弟で、自身もB級下位では珍しいオールラウンダーの北添秀高、A級7位 三輪隊のオペレーターである月見蓮の妹の月見花緒と成長株が揃っており、試合前にも今期こそは中位に上がるぞ!!と隊員たちと目標の再確認をしたところだ。中位入りへの大事な大事な初戦。対戦相手は前シーズンで何度も戦った間宮隊と今日がデビューのルーキー。ルーキーの情報はほとんど無く、それ故最大限警戒してはいるが吉里には勝つ自信があった。だが.......
「なんっだよ これ...」
目の前には空を舞う二つの首。物陰から突如現れた女に、反応する間も無く自分以外の隊員が落とされた吉里の顔は驚愕に歪んでいた。
転送位置が良く、試合直後に合流できた吉里隊は自分たちから見て北に1人でいる浮いた隊員をレーダーで捉え、全員でその隊員のもとに向かっていた。東には自分たちと同じく固まった3つの反応。人数が合わないことから2人、間宮隊が3人のうち2人だけバッグワームを着ているとは考えづらいので、おそらくルーキーの速水隊の隊員がバッグワームで消えていると考えた吉里隊は奇襲には十分警戒していたはずだったが......
(強いらしいとは聞いてたけどここまでとはな......)
目の前には一瞬にして2人を倒したルーキー。吉里は銃を握る手に力を込める。
(最後に一矢報いてやる...!)
吉里は銃を着地して無防備な状態のルーキー 京極優華に向け、引き金に手を掛ける。
・・・・・・が、その指が引き金を引く瞬間は訪れなかった。
ザクッ
「なっ.......!?」
吉里は突如死角から飛んできた"何か"に首を飛ばされた。京極ではない。彼女は全く動く素振りを見せなかった。では誰が......。吉里は空中の、反転した視界の中で自分を倒した相手を捉える。
(くそっ......奇襲に気を取られて接近してきたのに気づかなかった......)
自分の後方約10数mにいたのは一人の少女。方角からして元々吉里隊が倒しに向かっていた北にいた1人。
『戦闘体活動限界 ベイルアウト』
吉里隊が二人のルーキーによって全滅したのは試合開始から、僅か5分後のことであった...。
「やりましたね!京極先輩!」
「ああ、桜ちゃんもよくやったよ!」
初試合。たった2人で吉里隊を倒すという素晴らしい結果に思わず笑みをこぼす。2人の笑顔は僅か数分前に一つの隊を壊滅させたとは思えないほど、朗らかだった。
「京極先輩の奇襲さすがでしたね!」
「桜ちゃんのスコーピオン手裏剣も中々上手くいったんじゃない?」
「ありがとうございます!」
花柳桜は忍者に憧れる少女。スコーピオンを手裏剣状に変形させて投げる変則技、スコーピオン手裏剣を褒められたことで、今日一番の笑顔を見せる。京極も後輩に褒められ、まんざらでもなさそうだ。
「・・・さて、こっちは終わったけどうちの隊長の方はどうかな...」
現在のスコアは3対0対0。試合の結果は、未だ姿を見せないルーキー部隊の隊長と彼らを万全の状態で待ち構える3人の射手に託された。
次回 秀VS間宮隊