あるルーキーたちの軌跡   作:ふーの

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ベール・アウト

「衝撃の決着!!速水隊長の旋空弧月で間宮隊が壊滅!!」

実況の桜子は信じられないといった様子で叫ぶ。

 

「生存点も含め一挙8得点!? この一戦で一気に12位まで順位を上げ、中位グループ入りを果たしました!!」

「おおー」

 

解説の犬飼はさも意外そうに反応するが実際は全く驚いていない。彼にとって速水隊が勝つのは試合前から分かりきっていたことだった。

(むしろ遅いぐらいだね...。もっと早く倒せただろうに)

 

「衝撃のデビューを果たした速水隊!!解説のお二人はこの試合振り返っていかがでしたか?」

「やっぱり最後の旋空だよね〜」

 

A級4位草壁隊所属の緑川はアタッカーとして最後の旋空に言及する。緑川にそこまでの意図は無かったが、結果としてこの場にいる隊員の殆どが気になっていた点に触れた形となる。その点とは......

 

「速水隊長の最後の旋空...。あれはいわゆる"生駒旋空"なんでしょうか...?」

 

桜子はその場にいるC級たちの気持ちを代弁するかのようにそう尋ねる。最後の旋空の射程。あれはゆうに3()0()mを超えていた。旋空は弧月の射程をアップさせる効果を持つオプショントリガー。射程をアップさせると言っても普通の隊員ならせいぜい15~20mほど。あそこまで伸ばせるのは過去に居合を習っていた経験のある生駒隊隊長 生駒達人のみ。ではなぜ他の隊員は伸ばせないのか。それは発動時間と伸ばせる射程が反比例しているからだ。ほとんどの隊員が旋空を15m伸ばすために1秒起動する。だが"生駒旋空"の射程 40m伸ばそうとすると発動時間を0.2秒に絞らねばならない。それを成立させられるのは尋常ではない剣速と完璧なタイミングで相手を斬る技術を持つ生駒のみ。だからこそ"生駒旋空"なのだ。少なくとも桜子やその場にいるC級は生駒以外にあれを使える隊員がいるなど聞いたことがない。

 

「あー、桜子ちゃんと駿くんは最近入ったばかりだから知らないかもしれないけど...」

桜子と緑川はボーダーに入ってまだ1年も経っていない。知らないのも無理はないね。2〜3年前からボーダーにいるそこそこ古参の犬飼はそう思いながら解説を続ける。

 

「速水隊長は昔イコさんに弟子入りしてたことがあるんだよね」

「そうなんですか!?」

その場にいるC級隊員たちの反応も概ね桜子と同じだ。辺りがザワザワとし始める。ただ桜子と同時期に入隊したはずの緑川に驚いた様子はない。

 

「あれ?駿くん知ってたの?」

「うん。前にイコさんに聞いた」

 

いつかの個人ランク戦終わり。何気なく「イコさんは弟子とかいるの?」と聞いたら「今研究室におる速水ってやつが俺の弟子やで」と。それを聞いた緑川はその日のうちに秀に個人ランク戦を挑みに行き、そのまま倒された経験がある。たしかあのあと口止めされたんだっけな〜。緑川はあのときのことを懐かしく思いだしていた。

 

そう、それが桜子や間宮隊そしてC級たちが生駒と秀の師弟関係を知らなかった理由なのだ。

秀は個人ランク戦が終わったあと緑川に、このことを他の隊員に話さないように言うとその足で生駒隊室へと向かい緑川にこのことを話した本人を問い詰めに行った。その理由は師弟関係がバレたら緑川のようなやつがひっきりなしに挑みに来て研究の時間が削られてしまうから。弟子に詰められた生駒はそれ以来無闇に師弟関係をバラすようなことはしなくなった。ちなみに秀が、実は弟子入りした瞬間生駒が周りの人間に自慢しまくりA級とB級中位以上のほとんどの隊員は師弟関係を知っているという事実を確認したのはその数日後である。

 

「あの旋空は撃つまでの道筋づくりも良かったね。」

 

犬飼が緑川の解説に補足を加える。

 

「対間宮隊の戦法はハウンドストームをした瞬間に狙撃するっていうのが主流ですからね。間宮隊もバッグワームで消えてた速水隊長をスナイパーだと勘違いしていたんでしょう。ほとんど情報の出揃ってないデビュー戦だからこそできた技だと言えるかもしれません。」

 

「なるほど!犬飼先輩、他になにかありますか?」

 

「確かに旋空も良かったけど他の二人の動きも悪くなかったね。特に花柳隊員とかBに上がったばかりでしょ?あれであの動きができるなんて、これからが楽しみだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり速水隊の勝ちだったな」

 

実況席で総評が行われる中米屋たちも試合を振り返る。

 

「当然でしょう。あの二人がいるんですから」

 

木虎がいつもどおりの澄ました顔で答える。隊長は自分がボーダーに入ってから初めて完全敗北した相手。隊員の1人は自分がたまに個人ランク戦をすると決まって挑んでくる相手。B級下位程度で負けるはずがない。

 

(むしろ遅いくらいだわ...)

木虎は心の中でそうつぶやくが、顔は心なしか試合開始前より緩んでいるように見えた。

 

「秀と京極の強さはよく知ってたけど...他の二人も意外とやるな。」

「・・・そうだな」

 

奈良坂が米屋に相槌を打つ。奈良坂自身もほとんど情報がなかった他の二人の隊員の優秀さに少し驚いていたところだ。

 

「もう一人のちっこいやつは発想が面白いな。スコーピオンを手裏剣にするなんて大分ぶっ飛んでる」

「オペレーターも優秀だな。秀の動向が他の隊に一切バレなかった。路地裏や建物の中を上手くオペレートしたんだろう。」

 

A級部隊三輪隊の二人から見ても速水隊の強さは想像以上だったようだ。米屋の顔は少しワクワクしているように見えた。

 

「これなら意外と直ぐにこっちに来るかもな」

そのつぶやきは実況の声にかき消され、二人の耳に入ることはなかった。

 

「・・・・・・・というわけです」

木虎たちが話しているうちに総評を終えた実況席ではまとめに入ろうとしていた。

 

「鮮烈なデビューを飾った速水隊!!水曜日に当たる第2戦の相手は...

暫定10位荒船隊、暫定11位漆間隊、そして暫定14位柿崎隊です!!」

「これは...おどろいたね」

「いきなり四つ巴かー!」

 

2戦目からまさかの四つ巴。正隊員も含めた観客たちがざわつき出す。

「でも...逆に良かったかもね」

「どういうことですか?」

「四つ巴は大変だけど逆に大量得点のチャンスだからね。このままの勢いでいければ十分勝機はあると思うよ。」

「なるほど!この勢いでどこまで行けるか速水隊!!次回も波乱の展開となりそうです!!」

 

「解説のお二人ありがとうございました!!」

「「ありがとうございましたー」」

 

 

 

 

解説も終わり多くの観客が帰り始める。少し遅れて席を立った木虎は隊室への帰路の途中、速水隊のこれからについて考えていた。

(次は四つ巴...。しかもB級中位。大丈夫かしら)

 

速水隊には縁深い先輩が二人いる。何だかんだ言いつつ少しは心配しているようだ。

 

(いや...きっと大丈夫ね)

木虎は少しだけ次戦を楽しみにしつつ嵐山隊のドアを開けた




木虎は鳴り物入りで嵐山隊に入ったあと、気まぐれで入った個人ランク戦で同じく気まぐれで入った秀に初めてボコボコにされました。それと巻取り式スパイダーの研究に携わったことである程度秀のことを意識してる。もちろん京極も学校の先輩なので意識してる。

あと漆間隊は最新話の展開次第では修正するかも
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