この溢れる執筆意欲。
取りあえず、年末年始の創作セールはそろそろ終わりですかね。
結構、頑張った。
私は唐突にソフィーさんに呼ばれ、彼女の屋敷に。
その途中でウィリアムさんに出会う。
「ああ、イオリ。ソフィーさんに呼ばれたのかい?」
「ええ、まあ……」
「気を付けて下さい。最近はハイドも気が立っていてね」
「前から思ってましたが、いつも言ってるハイドさんはどこですか?」
私の言葉にウィリアムは首を振る。
「僕の中に、知ってるだろう? ジキルとハイド。いつの間にか現れてしまうから気をつけてくれ」
ジキルとハイドーー多重人格の犯罪者の話だったか。
そんな気はしてた。
彼は隠そうともしなかったから。
「ジル君には感謝してるよ。僕にも居場所をくれたからね」
「そうですか。……私と一緒だ」
姉上はきっと行き場を失くして人を救ってる。
そう私は感じた。
きっとみんな隠しているだけでここにいる人はロクでもない連中で、どうしようもない連中だ。
直感で感じている。
だけど――救いがあってもいいとそう思う。
「それでは」
「ああ、またねイオリ」
ウィリアムさんと別れを告げて、そのままソフィーさんの書斎へ。
ノックをして部屋へ。
「お呼びと聞いて」
「ええ、単刀直入に言いましょう。今度、香港に行って貰うわ」
机でチェスを動かしながら淡々と告げる。
その言葉に私は疑問を抱く。
香港、どうしてこの時期に?
「少しばかり動いて貰いたいの。汚れ仕事だけど」
「いつものことですね」
「今度キアも香港でオペラをするでしょう。ミアも一緒」
「そんな予定は聞いてませんが」
「スケジュールから計算しただけよ」
出ましたね、ソフィーさんの未来予知とも言える『計算』。
私は彼女がその頭脳と舌先一つで物事の流れを変えること知っている。
「それと、キアの秘密を知っておきなさい」
「秘密、ですか?」
「妹が歪んでいるのに姉が正常だと思う? それは大それた見当違い、計算違い。誤答ね」
……そんなはずは、と思った。
ここに来て3ヵ月は経とうとしているがキアさんはそんな素振りは一つもない。
オペラのスタッフにも慕われており、運転手のチャールズさんにも愛想よくしている。
どう見てもおっとり系のお姉さんだが――
「秘密なら誰でもあるのでは?」
至極当然の私の返答に、ソフィーさんはチェスの
それから何もかも見通していながら、覇気のない目を向ける。
「秘密を知ることで親密になれる。何より彼女はあなたを気に入ってる。秘密を知って欲しいと思いつつも、それが恐ろしいのだと心で計算してる」
今よりも親密……?
ただですら風呂を一緒に入ろうとか、ベッドにミアさん含めて一緒に寝ようとか、着替えをやたら私にさせたがる現状以上に親密になれと?
これ以上親密になったら私の貞操が一刀両断されそうなのだが。
「死にはしないわ。痛みは伴うかもしれないけど。どちらにせよ知ってしまう。いや、彼女の計算の内にハマってしまうと言った方がいいでしょう」
何だか不穏な話が進んでいる気がする。
しかし……計算の内にハマる。
確かにミアさんは何か意図して私にアピールじみた行動をしてる気はする。
私に"そっち"の気はない、はずだ……
「香港に行く前に仕事の内容は話しておくわ。今日はまだ、その時ではないの……明日は長い夜になるから」
ソフィーは別れ際にそれだけ告げた。
ということがあり、後日に夕方のロンドンへと戻ってきた。
ミアさんも1人でキアさんを護衛してるだろう。
護衛と言うよりもただの家族
ソフィーさんに言われたことが引っ掛かる。
確かに2人の過去の事を考えれば何かしらの人格破綻があっても仕方ない。
それ程までに2人の経験した傷跡は凄絶だ。
しかし、ミアさんはともかくキアさんはどう見てもは真っ当に働き普通に生活してる。
キアさんの居住場所であるアパートへと上がる。
護衛の期間中はここが私の住まい。
部屋も空きがあるので自由に使わせて貰っている。
流石に姉の隣は譲れないのか、ミアさんのもう1つ隣でキアさんから2つ離れてる部屋だが。
玄関を開ければ小さいリビングとキッチンが一緒になった場所でキアさんはいた。
「あら? イオリさん?」
「はい、ソフィーさんに呼ばれた件は終わりました」
「そう、それは良かったわ。ミアは買い出しに行って貰ってるの。いつも申し訳ないのだけれど――」
「分かっています。お風呂とCDのセットですね」
キアさんの日常のサポートも契約内容なので、いつもの内容を確認する。
彼女はいつも寝る前にCDを――音楽を聴きながら寝るのだ。
「今日は一番下の棚、右から4番目。モーツァルトの『魔笛』をお願いします」
「分かりました」
上の階へと昇り、電気を点けてキアさんの部屋へ。
それから主にオペラのCDを収納してる棚へと目を向け一番下の棚に手を掛ける。
ズラリと並ぶCD。
これの配置をキアさんは覚えてるのだからスゴイと思う。
右から4番目、確かにパッケージは英語で『魔笛』とある。
中身を空け、CDのカセットに入れようとしたところで違和感を覚える。
CDのディスクには『魔笛』らしい表示がない。
――『
お気に入りの曲を編集したものだろうかと思い、特に気にせずそのまま入れる。
リクエストの曲でないとキアさんは機嫌が少し悪くなるんですよね。
オペラをこの家にいる間に何度も聞かされているので多少なりとも、何の曲かは判別できる。
そのまま静かに再生する。
特に最初は何の音もない。
だけど、10秒経っても序奏すらないのはおかしい。
そう思ったが――
カツン、カツンと何かの靴音。
中身が違うのでは、と思い停止しようとした。
『やめて……お願い……』
か細い女性の声。
それが聞こえたと思った瞬間、肉を抉る音。
『あ"ああああッ! いたいッ! あ、フッ……ぅぅぅううううう!?』
何かを締め付けて、折れる音。
『腕、折れッ……が、あぁぁぁぁあぁ!』
……明らかにこれがソフィーさんが言ってたキアさんの秘密だと心の中で感じている。
だけど、同時に寒気を感じる。
これはすこぶるマズイ。
それに心のどこかで信じてはいなかった。
キアさんの振る舞いは一般人のそれだ。
盲目にも関わらず、気高く美しい精神の人だと……思っていた。
「知ってしまったのね」
慌ててCDプレイヤーの停止ボタンを押して振り返る。
扉の前ではキアさんが杖を持っていつもと変わらない表情をしている。
「まあ、私が誘導したのですけれど……そろそろイオリさんにも私の秘密を知って欲しくて。でも、同時に引かれるとも思ってました」
キアさんは電気を消し、ゆっくりと扉を閉め、カチャリと何故か鍵を閉める。
言葉が出てこない。
何かを握られているような感覚がする。
「私も歪んでるの。本当は」
「どうして……今なんですか?」
このタイミングで何故、それを告白したのか分からない。
「3ヵ月の契約ですから」
そう言えばそうだった。
まずは3ヵ月の契約。
その後の働き次第での更新との話だったが……キアさんはこの節目に自分の秘密を知った上で私に選んで貰おうと。
確かにとんでもない秘密ではあった。
だが、妹であるミアさんが『ロンドンの死神』と言われる犯罪者であるので、大して驚きが無いのが我ながら悲しくもある。
「どう、思いました?」
不安そうな顔でキアさんは尋ねる。
こんな秘密は確かに人には言えない上に、ドン引きされるだろう。
正直私もコメントに困る。
「えっと……そうですね。よく分からないというのが私の回答です。だけれどキアさんがそうなったのも理由があるのではと」
「そうですわね。恥ずかしい話なのだけれど――昔の奴隷生活での
確かにキアさんのミアさんには凄惨な過去がある。
そこで何かしら歪んでてもおかしくはない。
「妹の声がね、耳から離れないの」
キアさんは徐々に私に距離を詰めてくる。
それからもたれ掛かるように私の胸に。
「妹が滅茶苦茶にされている光景が、声が……どうしても離れなくて。大切にしてる人の声に、どうしても興奮してしまって――」
徐々に彼女の歪みが私に露わになっていく。
「目を閉ざしてからも私の耳は……命の歌声を、求めてしまう。ダメだと分かっていても……人が命を燃やして発する声がどうしても聞きたくて、聴きたくて――」
それから自分の不安をさらけ出すようにキアさんは私を見上げる。
「こんな私でも受け入れて下さる?」
彼女の気持ちを受けきれるかどうか。
私はある意味試されている。
きっと、彼女は愛に飢えているんだ。
その歪んだ愛情を妹に向ける訳にはいかない。
だからこそ私なのだろう……その言葉で要領を得なかったソフィーさんの助言が頭に響く。
――痛みを伴う。
その言葉で彼女を受け入れた後の展開が少々予想できてしまう。
肯定的に答えてしまえば、最後――
私は、恐怖で固まる。
彼女の愛を受け止められるかどうかを。
「やっぱり、ダメですわよね……ゴメンなさい。急な話で」
諦めたような表情のキアさん。
その言葉に私はふぅ、と息を吐く。
そんな悲しげな表情をされると、捨て置けない。応えない訳にはいかない。
姉上が私を捨てなかったように。
私は部屋を出ようとする彼女の手を取る。
「イオリさん?」
「いいですよ、受け入れます。だから悲しそうな顔をしないで下さい。ミアさんを傷付けたくないのでしょう?」
私の言葉にキアさんの顔は歓喜に染まる。
同時に、赤く……まるで恋する少女のように。
「ありがとう、イオリさん」
ドンと突き飛ばされ、ベッドに仰向けに倒される。
そのままキアさんは馬乗りになり、私の上で何かを振りかぶる。
光るのは針、いや……千枚通しのようなピック。
振り下ろされる
でも、ここで拒絶すればッ……きっと彼女の歪んだ感情は行き場を失くしてしまうッ。
恐怖と反射的な行動を理性で抑え込む。
「ぐっッ!? あく……」
左の鎖骨辺りに熱い痛みと異物。
それを受け入れた瞬間に、キアさんはゆっくりと顔を近付ける。
「ゴメンなさい、本当に……」
それからポロポロと涙を流す。
謝罪するなら最初からやめて欲しい、んですけどッ。
でも、こうしないといけない感じがした。
痛みを堪えながらも息を吐く。
「年上なのにみっともなく泣くんですね」
「だって、知らないんですもの。愛する人を傷付ける痛みと興奮なんて」
愛する人って何ですか……
家族愛的な愛情ですか?
だとしてもこんな歪んだ家族愛は知らないんですが。
「ところで……終わりですか?」
「まだ聞き足りない……イオリさんの歌をもっと聴きたいの」
告白に似た
一度受け入れてしまったのだ。
断りたい、心底断りたいが……そんな切なそうな表情されたら何も言えない。
武偵高での生活から一変、こんな体験をするなど夢にも思いもしなかった。
私は静かに目を閉じて覚悟を決めて頷く。
それからキアさんは蠱惑的に囁く。
「ゴメンなさい。生活に支障が出ないようにしますから」
ミアさんが帰って来るまで長い夜になった。
……いつの間にか明け方。
我ながらショック死しなくてよかったとぼんやりとしながらも心から思う。
というか、途中から記憶がない。
確実に失神してた。
頭も痛い。
隣を見ればキアさんが……
……キアさん?
「いった!?」
思わず跳ね起きそうになって、鎖骨の痛みで起きれなかった。
しかし同時にぼんやりした頭が覚醒する。
こ、この人……下着でなんで私と一緒のベッドにいるんですか?!
看病なら別でミアさんとかに任せればいいでしょうにッ。
私は……別に下着姿ではないみたい、ですけど……パジャマと言うか、寝間着と言うか。
ともかくラフな姿にはなっている。
「………………」
そして、様子を見に来たであろうミアさんがいつの間にか扉の傍で立っている。
心底面白くなさそうな、ゴミを見るような目で。
冷や汗が出てくる。
この姉妹に何故私は板挟みにされてるのか……
「んぅ……起きたの? イオリさん」
何だか戦場染みてきた雰囲気の場所なのに、キアさんはのんびりと起きる。
布団から出てくるきめ細かな肌がすごい煽情的だ。
女子である私ですら生唾を飲み込む光景。
それから目の見えない彼女は手探りで私の体に指を這わせる。
思わず傷口に優しく触れられるものの、それでも痛い。
「んッ……」
「大丈夫、かしら? 一応、応急処置はミアにも手伝ってもらったのだけれど」
「その前に妹さんの視線が痛いんですが」
「え? ミア……?」
そのままミアさんはずんずんと怒っているような足音を響かせて、
「きゃっ!?」
キアさんをお姫様抱っこでベッドから引き剝がした。
「……ハァ」
それから私を見て、今日は見逃すとばかりに呆れ気味に息を吐いた。
私はようやくゆっくりと体を起こす。
すると、ベッド近くの小さなスタンド机に置かれた私の携帯が鳴る。
相手は姉上。
「はい」
『やっほ、そっちでは明け方かな?』
だけど声は快活な女性の声。
相変わらず同じ人とは思えないですね。
「ええ、まあ……」
『どうやらキアの秘密を知ったらしいね』
昨日の今日ですよ?
情報が早い。
『家族なら私はお見通しなのさ。って言うのは冗談で、お姉ちゃんから聞いてね。どう? キアの歪んだ愛情は受け入れられそう?』
「もう受け入れましたよ。不安そうだったので」
『わお、イケメン。以織ってば王子様気質だ』
「切りますよ、姉上」
『あっと、その前に……香港には来るのは知ってる。何をするかは知ってる?』
「何も知らされていませんよ」
本当に香港に何をしに行くのか。
汚れ仕事と言うならロクでもない話なのは間違いない。
『じゃあ、現地で説明だね。久しぶりに会えるのを楽しみにしてるよ。それじゃあ』
と、それで姉上は通話を切った。
何とも、退屈しない日々ではありますね。
痛みを伴うのは勘弁ですが。
女の子メーカーでキアのイメージを作ってみた。
キア・イレーヌ・アドラー
【挿絵表示】
イメージを形にするのは難しい。
https://picrew.me/image_maker/1333071
ちり子式ふわ髪女の子メーカーより、作成させて頂きました。
便利ですね。
問題は解釈違いを起こさないかですが。
パーツの組み合わせなので、細かいイメージまで再現できないのが残念です。