父が変わった。
豹変しているのは、父に違いない。

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偉大なる神、ど………の永続なる……の支配に栄光あれ。


彼我双方虚偽であるか?

父が変わったのは、何の変哲もない、冬の夜のことであった。その時私は、父に手伝えと言われ、カレーとご飯を皿によそろうとしていた。ご飯は今レンジであっためているので、カレーを先によそろう。そう思いカレーをよそろうとした時、「何でそういうことをするんだ!」父の声だ。父が今まで聞いたことの無い、地獄の底から湧き上がるマグマの様な声で、冬だというのに汗をかきながら怒鳴った。その時、私の感情を支配したものは、疑問。ただただそれだけであった。普段穏便で、私が不登校になった時にもしっかり理由を聞いてくれた父。無理やり、学校に行け等言わなかった父。そんな父が、「ご飯より先にカレーをよそろうとした」だけでこのような怒り方をした。

味が濃いカレーを食べた後、私はSNSで父について投稿した。いつもの如く10いいねしかつかなかった。

次の日は日曜であった。起きてSNSを開いて見ると、ダイレクト・メッセージが届いている。なんとあの名門大学、「帝国院東京大学」の考古学部公式アカウントからだ。彼らが言うには、私と同じような体験をしている人が、近年増加傾向にあり、それについて調べるために、私と会い話をしたいらしい。なぜ考古学とは関係なさそうな調査をやっているのか、公式とはいえ、SNSで知り合った人間と接触することへの抵抗等、諸々の行かなくて良い理由はあったが、やはり父がー最近は独り言も増えてきたー心配であったので、藁にもすがる思いで会うことにした。今の父に精神科の類を進める勇気は、私にはなかった。

待ち合わせ場所のカフェで、ブラックコーヒーを飲んでいた青白く細長い男は、私が彼の前の席に腰掛けるとこう言った。「貴方が、hg0803さん?」「はい。本名は樋口俊和です。あなたは?」「私は帝国院東京大学考古学部の、中田裕二、と申します。」ひとしきり自己紹介を終え、いざ本題へと入った。「ダイレクト・メッセージでも申し上げた通り、」中田裕二、そう名乗った男は、話が本題に入ると、多少興奮した様子で話し始めた。「樋口さんのように、身近な人間…貴方の場合は父親でしたね…が、突然性格が変わり果て、些細な事で怒るようになってしまった。そう主張する人が、近年増加傾向にあります。」「あの」私は話の腰を折る形で口を挟んだ。「そもそもなんで考古学部がこんなこと調査してるんですか?」「まあ落ち着いて聞いてください。」軽く煽るような口調だった為、少しカチンときたが、ここは抑え話を聞くことにした。「…実はですね、その身近な人の変わり方に、ある共通点があるんですよ。」共通点か。「それはね、さっきも言った、些細な事で怒るようになる。っていうのともう一個あって、汗をかきやすくなるっていうものなんです。」なんだそれは。バカにしているのか。大体増加傾向も何も、具体的な数字、グラフ、なにも情報を出されていない。なんたることだ。「…バカにしてます?」私は極力感情を殺しながら言った。「まあそう言いたくなるのも分かりますよ。そりゃ資料を何一つ提示されなけりゃ信じたくないですよね。」よくわかってるじゃないか。「まだお時間あります?大学にお連れして、資料をお見せしましょう。そしてもっと詳しい話もしましょう。」正直一切信じられなかったし、できるだけついて行きたく無かったが、このまま収穫0で帰るのも癪なので、ついて行く事にした。

大学に入り、ソファに座るなり中田はこう言った。「資料はね、全部無くなっちゃったんですよ。」よし、帰ろう。そう立ち上がった私を中田は制止した。「あー!待ってください!ここから続きがあるんです!」物凄い剣幕だったので、仕方なく話を聞いてやる事にした。「あれは2ヶ月ぐらい前の事です。突然それらに関係する資料が、ひとつを除いて全部無くなったんです。当時は結構な騒ぎになって、誰が盗んだんだとか、どこに置いてきたんだ、とか色々あったんですけど、とりあえず監視カメラの映像…丁度そこのカメラですね…を確認することになったんです。」言いながら中田は私の右後方天井にあるカメラを指さした。「思い出すだけでも身震いしますよ。当時資料は私の背後にある、この木の棚の中に入ってたんですね。インタビューの回答とか、報告した人の数字とか。それでカメラの映像を見たんですけど、」「幽霊?泥棒?」「…何も異変は無かったんですよ。」は?こいつは一体何を言っているんだ?「どういう事ですか?」「どういう事と言われましても、何も無かったんですですよ。」それって、つまり。「そう。棚に入っていた資料は、棚が開くこと無くどこかに行った。そういう事です。なんならカメラの映像見ますか?棚に入れたとこから現在までの記録が残ってますよ?」ありえないだろう。しかし、この自信だ。嘘をついているとも思えない。念の為確認したが、本当であった。ただただ平和な映像であり、彼らが棚を開いて、資料の消失に気づき、騒ぎ出すシーンまで映っていた。位置関係上、棚の中も見えたが、やはり謎の写真1枚しか、残っていなかった。「その残った資料を見ることは?」「できますけど、まずこの話を聞いてからですね。この話は、なぜこの件を考古学部が担当しているのかという、貴方の疑問の答えにもなりますから。」そう言って彼は話し始めた。「私達は国の援助の元、鳥取砂丘を調査していました。少し掘り進めると、武将達の白骨死体が出てきて、私達は歓喜しました。一目で鎌倉時代末期の武士だと分かったからです。外傷は多かったのですが、致命傷という訳でもなく、モンゴルとの戦いを終え、故郷へ戻る途中で傷と体力の限界で力尽きたのかと思われました。しかし、そこで変なものが眼中に入りました。その武将は、謎の石版…粘土板とも言える異様なものを持っていました。直感的に、モンゴルからの戦利品か!と思いました。砂を払い、少し掃除して詳しく見たところ、謎の彫刻がされているようでした。記念撮影をして、更に詳しくその謎の板を見ると…アメーバ状の何かが、その体を四つに伸ばしその体の中心は空虚な穴が空き、穴の周りには何もかも切り裂いてしまいそうな邪悪な牙、のようなものがありました。その邪悪な姿に、一瞬寒気と恐怖を感じたものの、その場ではモンゴルはイスラムのあたりも略奪してたから、その時奪った宗教上の何かだろう。ということとなり、結局、帰ってから詳しく調べよう。となりました。これがその時の写真です。」見せられた写真には、砂丘で大勢の男達の前でしゃがみ笑顔で映る4人の男がいた。「1番左が私で、その右が青山。次が敷島。そして岩井。この部の主要メンバーでした。」そういえば、中田以外の人間の姿が見えない。広い部室には中田と私だけだ。「今この方達はどちらに?」

「全員行方不明になりました。」

…なんとなく、なんとなく察してしまった気がする。一体何が起こったのか。

「帰ってからまずおかしくなったのは青山でした。彼は元々繊細な所があったのですが、それが1層酷くなり、些細な事に小言を言うようになりました。次は岩井でした。温厚で、大食いで、そのガタイの良さから帝国院森のくまさん。なんてあだ名がつけられたりもしました。彼は日に日に目付きが鋭くなり、やつれていきました。敷島はそんな2人の相談にのっていたようです。いつも彼らと話していました。彼らの狂気の秘密を探るために、集めた資料…もちろんあの板も含まれる…が無くなった2週間後、彼ら含めた他の部員は一斉に行方不明になりました。いなくなる前彼らはね、全部ひとつになる!とか叫んでたんですよ。私はね、樋口さん。どうしても真実が知りたいんですよ。彼らが一体何を知ったのか、どうしてもね。 」返す言葉がない。壮絶すぎる。「に、ニュースとかになってないですよね。」「そうなんですよ。彼らが一斉に行方不明になったのに、ニュースにならないんですよ。教授も、友達も、話題にすらしない。というより、そもそも鳥取での武将の発見すら、なぜかニュースにならなかったんですよ。なんででしょうねえ? 」彼は少し笑いながら言った。「わ、笑い事じゃないですよ!おかしいですよこんなこと!みんな居なくなったのに誰も騒がないなんて!」「私はね、思ったんですよ。」私の抗議を無視して、彼は話を始めた。「もしかしたら、狂ってるのは俺なのかもしれないってね。」どういうことだ。「もしかしたら、変わったのは、狂ったのは、青山でも、岩井でも、貴方の父親でもなく、」まさか「私と、貴方と、同じ声をあげた人達かもしれない。」

そんな。嘘だ。嘘に決まってる。ご飯より先にカレーを入れただけで今までにないキレ方をするなんて…まて、今までってなんだ?それは誰に作られた?誰か作ったのか?ダメだ。何も考えられない。ふらつき、倒れ、地面は歪む。その部屋には誰も居ない。中田裕二といったか。あいつは、存在していたのか?存在とはなんだ?そんんんんざいいいいととははなんですか?おかしいなあ。今まで分かっていたことが、わからなくなっているよ。あははははは。おかしいなあ。世界は、暗く閉ざされた。




群馬県に住む、樋口俊和(18)さんが行方不明となった。樋口さんは、帝国院東京大学近くのカフェに入店すると、2人分のブラックコーヒーを飲み、その後同学に1人で不法侵入し、同学の考古学部の部室に入った後消息が分からなくなった。部室には××××が残されていた。樋口さんの父親は、「仕事でピリピリしており、息子のささいな行動で少し怒ってしまった。頼むから帰ってきてくれ。」とコメントしている。

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