「あの……皆揃って、どうしたの。怖い顔して……」
シンジがクラスメートで委員長の洞木ヒカリから呼び出されて、駅前の某有名ハンバーガーチェーンに行ってみると、男子二名、女子二名に出迎えられた。トウジ、ケンスケ、ヒカリ、マユミの四名だった。みな、シンジへの視線は冷たい。
ヒカリが切り出した。
「自分の胸に手を当てて考えてみて。この山岸さんが見たって言うのよ」
マユミが頭を下げた。
「山岸マユミです。みんな私のこと覚えていないかも知れないけど、クラスメートです」
「いや、ちゃんと覚えてるから……」
とシンジは影の薄い眼鏡の女子生徒に慌ててフォローする。黒髪の長い少女は、転校生だからからか、まだクラスに馴染めていないのを気にしてる様子だった。
「そやな。センセなら覚えてるやろな」
「とっとと大人の階段を登っている裏切り者だからな。周囲の女の情報把握には怠りないさ」
とトウジ、ケンスケの態度はにべもない。
「話が見えないよ……山岸さんが何を見たっていうの」
マユミはかなり言いにくそうにしてたが、
「山岸さん、勇気を出して」
「とっとと、コイツに引導を渡してやったらええ」
と促され、重い口を開いた。
「あの、私、見たんです。駅前のホテル街で、碇君と惣流さんがホテルに入るところを……」
「えっ……」
シンジはあっという間に顔面蒼白になる。
「その反応、どうやら事実無根という訳では無いようだな」
とケンスケは追い詰める。
「不潔よっ、碇クン!」
「ちょっ、ちょっと待ってよ!あれは……僕は嫌だって言ったのに、アスカが無理やり……」
「女の子のせいにするの!碇クン、男らしくないっ!アスカを泣かせたら許さないんだから!」
「そやでシンジ。男はこういう時、潔さが肝心や。スパーっと男らしく認めんかい」
周囲に責め立てられて、シンジは観念したようにうなだれた。
「毎週、アスカとホテルに行ってるのは事実だよ……」
「つまりは、週末ごとに彼女とヤりまくっている、という事だな。そこの所をぜひ詳しく……微に入り、細を穿ってだな……」
「相田クンは黙ってて。詳しく説明しなくてもいいわ。アスカとのこと、真剣なんでしょうね……」
「いや、僕が、というより、アスカが、別に恋人じゃない、とか言うんだ」
「はぁ?恋人じゃないって……でも」
ヒカリは困惑を隠せない。
「うん……僕とアスカは恋人じゃない。幼なじみで親友だって言うんだ。だから僕もそう思ってたんだけど……」
シンジは俯く。
「僕は、アスカの中では将来結婚する相手らしいんだ。だからホテルのは、予行練習だって言ってた、結婚生活の」
恋人でもないのに結婚するというのが、どうもヒカリには解せないが、それはひとまず置いて、シンジに話を促す。
「い、碇クンの気持ちはどうなの?」
「僕は、アスカとは仲良しだし、話も合うし、子供の頃はきょうだいみたいに育ってきたし、最近はキレイになったな、って思うし、別にそういう関係になってもいいと思ったんだけど」
「どこまでも受け身やなあ……」
「ごめん」
「ワシに謝ってどないすんねん」
「で、どうしてこういう事になったんだよ、結局」
ケンスケに促され、
「二人で部屋に居るときにアスカに押し倒されて、そういう仲になった……」
と恥ずかしそうにシンジは告白した。
「カーッ、抵抗せんかったんかい」
「だって、嫌じゃなかったから……」
「ああ、アスカ!碇クンがどこまでも受け身だから、女の子の方から恥ずかしい思いをしてまで、自分から……。碇クン、やっぱり最低じゃない!」
「ごめん……」
「責任を取って、ちゃんと改めて告白とかしたんでしょうね」
「いやしようとすると、アスカがそういう話は聞きたくないって言うから」
「ど、どうして」
「好きとか嫌いとかそういう関係じゃない。生まれたときからアンタと結婚すると思ってた。アタシはたとえアンタがアタシの事を嫌いでも、一緒になるって」
「……」
四人は返す言葉もなく、沈黙している。
「あと、そういう関係になってから告白されても嬉しくないって言われた」
「なんや急に、結構ヘヴィーな展開の話になってきたで。こんなんワシら聞いてええんか」
「そうだな、俺たちもう帰った方が……」
「ダメよ!皆で碇クンをきちんと更生させましょう!アスカが歪んじゃったのは、どう考えても碇クンのせいだわ!聞けば聞くほど、ひどいじゃない」
「でもこいつがマトモになるんかい。どこまでも受け身やで。もう惣流の好きにさせたらええんやないか」
「ぼ、僕だってちゃんと考えてるよ。告白は嫌がられるから、その……キスは僕からって思ってるし……」
その言葉に周囲の時が止まった。
「え、碇クン、アスカとまだキスしたことないの?」
「キス、まだなんか、シンジ」
「キス、まだなのか、碇」
「キス、まだなんですか、碇クン」
「……そういう天丼はいいよ。うん、まだアスカとキスしたことない」
「そやかて、お前惣流とはヤりまくりちゃうんか」
「そうだけど……でもキスはしたことない」
シンジはなぜか、少しふてくされているようだった。
シンジを取り囲む四人がすっくと立ち上がった。
「碇クン、ちゃんと自分からアスカにキスして貰うわよ、絶対にね」
「ワシらが、そのためのお膳立ては考えてやるさかい」
「ふふっ、腕がなるな。実は、俺はラブコメの脚本にチャレンジした事もあってな」
「微力ながら、私も目撃者としての責任を最後まで全うします」
めいめいが好き勝手な事を言い、高い目線から座ったままのシンジに圧をかけてくる。
「えっえっえっ……」
四人を代わる代わる見て、シンジはこれから自分がどんな事をさせられるのだろうと、ただただ不安になるばかりだった。