千歳くんはラムネ瓶のなか ss   作:アドミラルΔ

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柊夕湖 人には言いたくない気づき

──────

 

夏の空は青く入道雲が遥か彼方まで覆い尽くしているようで、さんさんと照りつける太陽が主役でないみたいだ。パレット絵の具じゃ再現できないその色を私はじっと見つめていた

 

 

 

「今日はみんな予定があるってそりゃないよー…」

 

朔はあの西野先輩に盗られ、陽と悠月は女バスの練習、海人と和希も練習練習、健太っちはほうじ?らしい、おまけに最後の砦のうっちーも今日は家の用事で外せないとの事

 

「暇暇暇暇!」

 

「私ってこういう日何してたっけ…」

 

暇!と朔にLINEを送ろうとしたところで止まった。今日はあの西野先輩と出かけているのだ…間違いなく返信はすぐには来ない

 

「〜...♪*゚」

 

ふと今流行っている曲を口ずさんでみた。うむわれながらなかなか音程があっていると思う。鏡の前でダンスも軽くしてみると様になっているように見えた

 

「そう言えば前健太っちがヒトカラって言ってたっけ…」

 

友達がいない時は一人でカラオケに行ってたらしい。その時は何が楽しいのって思ったけど、持ち回りで歌わずにそのままずっと歌えたら私だけのステージが完成する。と何かインスピレーションのようなものが降ってきた

 

「ママ!ちょっと出掛けてくる!」

 

──────

 

特に誰に見られるわけじゃないから化粧も軽めに服装もラフな格好で近くのカラオケに来た。いつもならみんながいるから大部屋で歌うのだが今はひとりなので小部屋のフリータイムを頼む

 

ドリンクバーもいつもは全部混ぜとかやったりしてそれもカラオケの余興となるのだが私一人でそれをしても面白くない。多人数のカラオケとヒトカラは別のものだと考えなくては思考がこんがらがってしまいそうだ

 

 

「狭い」

 

部屋が狭い。こんなの朔と私が入ったらすこし閉塞感を感じるくらいの手狭さだ

 

「これがヒトカラかぁ」

 

いつもなら持ち回りの入力機ですら私専用となる。NiziUのmake you happyやTWICEのTTなんかを入れノリノリで踊ってみる。これはまあいつもみんなの前でやったりするし悠月や陽もノリが良かったら一緒に踊ってくれたりするから恥ずかしいものじゃない。うっちーは苦笑いしてるけど…

 

 

……

 

「はぁはぁ…KーPOPは…動きが激しいのが難点だなぁ」

 

「運動部の悠月や陽みたいに体力が続かないや」

 

氷をたくさん入れたお茶をぐぐっと飲み干した。火照った身体と酷使した喉に冷たさが染み渡る。カラオケでこんなに汗かいた事なんてないよ…健太っちこんなハードなことしてたの…?

 

 

 

「じゃあ…落ち着いたJPOPを…」

 

あいみょんを入れた。恋をする女子なら共感するというかどちらかと言うと図星をつかれて痛いくらいのラブソングが私に刺さる。でも私はふわふわな歌も好きだし青春を煮つめたようなガーリーなラブソングも好き。朔の前ならそんな曲もいいけど今はキュンキュンした曲よりこういう歌を私は歌いたいと思ったのだ

 

 

「〜♪」

 

歌いながら画面を見ていると歌詞が私の中に飛び込んで恋心を殴りつけてくる。マゾヒスティックなわけじゃないけどこうして嫌でも分からされるとあぁ引けないんだなって思う

 

 

そうだ。私は引けないんだ。うっちーだって陽だって悠月だってあの先輩だって…誰が相手だって私は引けない。だって…だって…私が一番朔が好きだから。たとえその瞳に私が映っていなくたって最後の最後まで私は朔を好きでいたい。今まで恋をするわけないと思っていたのにたった数秒で落ちた恋

 

 

「〜♪」

 

最近ずっと思い悩むことが多かった。悠月の偽装彼氏の一件から西野先輩との逃避行、陽のためのホームラン。朔がほかの女の子と笑いあっているだけで私の笑顔の裏側は真っ白になった

 

 

私には持ってないが多い。料理できないし達観してないし幼馴染じゃないし底抜けに明るくもない。それが原因で朔が取られてしまうという恐怖がふいによぎったりする

 

 

「〜♪」

 

きっと私に出来ることはこの恋心を飾らずにそのまま渡すことだけなんだと

 

 

……

 

 

「はぁ〜楽しかった!」

 

 

2時間ほどで店を出ると夏の日差しが私をじっと照らす。そんな眩しい日を手で遮るようにして歩く。寂しいのに楽しい。一人でいることが珍しい私が一人で遊んで楽しいと思ったのは本当に初めてかもしれない

 

 

 

「恋は魔法の〜スパイス〜♪」

 

 

本当にその通りだと思う。何気ないことでさえ恋が関われば人生において忘れられない最高の出来事へと変貌するのだから。朔は覚えてないけどあの1年生の新学期のことは私は何だって覚えてる。勉強はからっきしなのに朔がしてくれたことはどんなことだって覚えてる

 

 

「はぁ好きだなぁ」

 

そろそろ朔は帰っただろうか。早くLINEがしたい。今日歌ったことを2人で共有したい。私を知って欲しい。朔を知りたい

 

 

なんて朔のプロフィール画面を眺めていると途端に写真が変更された。つ、つ、つ、つつつつつつ2ショット!!

 

私だって朔との2ショットにしたいのに“いや俺との写真は夕湖の評判が下がるからやめときな”って言われて辞めたのに本当はしたいのに!!

 

「むっかちーん!はいLINEします。誰と出かけてようが関係ありません」

 

怒涛の速度でLINEを送った。自分のトーク画面は朔の写真にしてるからそれをスクショして送り付けた。同時に女子会グループに朔の大罪を貼り付けた。既読がついたけど返信が無い。多分標的に向かって飛んでいっているんだろう

 

 

 

 

今度予定があった日は絶対私もツーショットしてプロフィール写真を変えてやろうと遠目の入道雲に誓うのだった

 

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