緋想戦記Ⅱ   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第十五章・『風操りの魔人』 ほれほれ 儂もまだまだ元気じゃぞ? (配点:風魔)~

 

『あの馬鹿……』

 伊豆半島西側の森。

 上空に浮かぶ葵色の航空艦の後方、山の麓に一機の武神が存在した。

 武神は蒼い装甲の上に迷彩用のネットを装着しており、遠く航空艦の甲板の上に着陸した同型機の様子を見ている。

━━あの馬鹿!

 今度はそう心の中で武神の搭乗者━━正木・時茂は怒った。

 本来の作戦では曳馬が正面の航空艦に気を取られている隙に二機で後方から強襲、そして颯爽と登場する予定だったのに……。

━━馬鹿が我慢できずに先走って、私の出番が無くなったわ……!!

 今更のこのこと出ていくのは嫌だ。格好悪い。

大体いつもそうだ。義康はいつも自分勝手で、里見が羽柴の手に堕ちた時も放置で、それでいて統合事変後にちゃっかり戻ってきているのだから。

━━……やめましょう。そう考えるのは。

 もう七年も前の事だ。

今更掘り返す必要はない。

里見家は形こそ変わったものの再独立を果たし本物の里見一族と共に上手くやっている。

『……でもあのままだったらどうなってたのかしらね?』

 統合事変が起きず、あのまま関東解放が行われていたら。

その時はきっと私は……。

『時茂、そちらはどうなっている?』

『大父様……、こっちはもう始まったわ。色々あって仕掛けるのは義康だけになったけど』

 視覚素子の隅に展開された表示枠。そこに壮年の映る男が頷いた。

『ではお前は情報収集を行ってくれ。武蔵の戦力、実に興味深い』

『Testament.』

通神を切り情報収集用のシステムを立ち上げるとため息を吐いた。

━━また裏方ね。

 ま、それが自分には似合っているのかもしれない。

私は“信”。その名が示す通り上で馬鹿やりはじめた“義”を“信じる”としよう。

 

***

 

「損害状況の確認を完了。甲板が一部破損しましたが損傷軽微です。“曳馬”さ……ま?」

「またですか……、ええ、またですね、ええ。どうしてどいつもこいつも人様の甲板に無断で乗り込んできた挙句、壊して回るのでしょうか?

あれですか? 新品見たらちょっと汚したくなるとかいう人間的真理ですか?」

「ひ、“曳馬”様! 落ち着いてください!! 本当にほんのちょっと罅が入っただけですから」

 そう言い自動人形が振り返ると蒼の武神が狙撃用の主砲を掴み。

『長くて邪魔だな。これ』

 横に押して動かすのだが、その時に先端の装甲が砕けた。

武神は手の中で砕ける装甲を見ながら一言呟く。

『…………すまん』

「…………」

「…………」

 

***

 

━━蒼い……武神!!

 衝撃から逃れる為主砲の後ろに隠れていた天子は甲板に着地した蒼い武神━━“義”を見上げる。

里見家が所有する神格武装級武神。

最後に見たのは里見・義康が里見家に戻る時、見送りの時だったがこう敵として見ると……。

━━凄いプレッシャーね!!

 やはり巨大というのはそれだけで脅威だ。

「お、ペタ子じゃねーか」

 馬鹿が武神の前に立ち、正純が慌てて「おい! 馬鹿!!」と叫ぶ。

「久しぶりだな。元気にしてたか?」

 そう笑みを浮かべて語り掛ける馬鹿に蒼の武神は暫く無言でいると頷く。

それから手を差し伸ばし……。

『すまんな』

 馬鹿を掴んで離陸した。

急速に離脱した武神を見て一同はややあってから……。

「「攫われた!?」」

 あまりに自然に攫われたもので思わず全員一瞬見送ってしまった。

「あの男、相変わらずのヒロイン属性で……」

「そんな事言ってる場合じゃ無いんですのよぉ━━━━!!」

 背後を見れば蒼の武神は森に着陸しようとしており、馬鹿を救出するなら降下しなければいけない。

正純が即座に“曳馬”に降下するように伝えているが前方の里見艦隊の事もあり下手に動けない。

━━どうする……!!

 双嬢が戻ってくるまで待つか?

いや、そんな時間は無い。

 ふと横を見ればあれだけの騒ぎがあったにもかかわらずのんびりとしているアマテラスがおり……。

「これだ!!」

 アマテラスをイッスンごと抱きかかえミトツダイラの方を向く。

「ミト!!」

 アマテラスを投げ渡すとミトツダイラは即座に理解し「Jud!!」と駆けだした。

そして甲板の右舷側から跳躍を行い飛び降りる。

「「投身!?」」

「ああ、筒井の時のですね?」

「ええ、筒井の結界突破するために上から行ったあれ。アマテラスの力なら落下の勢い止めれるからね」

 六人を止めれたんだ。

ミトツダイラ一人ぐらい余裕だろう。

「ともかくこっちもマルゴット達が戻って来たら直ぐに追いかけ……」

 直後、甲板に影が降り立った。

 黒い影は曳馬の主砲の上に着地すると正純の方を見る。

そして口元に笑みを浮かべると消えた。

「……正純!!」

 黒の風と銀の一閃が正純の首を狙い、そして激突した。

 

***

 

「…………むっ!?」

 武蔵の副会長の首元に銀の刃が突きつけられていた。

刃の先端は副会長の首元に迫っており、あと一押しで突き刺さる位置だ。

刃の持ち主は必殺を狙った。

だがその刃が得物に届かなかったのは……。

「何者で御座るか!?」

 忍者だ。

 赤いマフラーを身に纏った忍者が此方の短刀を己の短刀で受け止め、防いでいる。

━━ほほ、良い反応よな。

 甲板に居た面子の中では一番に動けている。

 まあ、潜伏していた此方の気配に気づけなかった点はまだまだ未熟だが、この若造、優秀だ。

 反応が追いついた他の連中が動き始めている。

それを確認すると咄嗟に体を捻り、蹴りを放つ。

対して若造も短刀を構えていた腕を動かし蹴りを防ぐ。

 だが構わない。

もともと距離をとるための行為。

相手の右腕を蹴るとそのまま後方へ跳躍し、後方一回転。

そして右手で甲板を叩き、空中で再跳躍すると最初に着地した場所、主砲の上に戻った。

 武蔵の忍者も此方を追いかけ主砲の上に跳躍すると武器を構える。

「改めて問う。何者で御座るか!!」

 本来であれば名乗りを上げるべきではないのだが、今日は相対戦。

その国の代表として出ているのだ。

ちょっとくらい目立ってもいいだろう。

「関東連合所属風魔衆頭領、風魔小太郎とは儂の事じゃよ」

 

***

 

「風魔小太郎だって……!?」

 甲板に飛び出たネシンバラそう言うと周囲を見渡した。

それから暫く何かを待っていると天子が。

「あんた、今ツッコミ待ちだったでしょ?」

「ネシンバラ君、解説邪魔されるのが快感になっているんですね……」

「違うよ!? というか、何時も君たちが邪魔するからつい身構えちゃうんじゃないか!!」

「今ミトツダイラ様が居ないのでご自由に解説どうぞ。時間もありませんので、ほら、さっさと」

「く、くそ。なんか敗北感凄いぞ!? こうなったら目一杯引き延ばして……」

「「いいから説明しろ!!」」

 ネシンバラは少し落ち込むと直ぐに一回咳を入れ、眼鏡を人差し指で押し上げる。

「風魔忍者は代々北条家に仕えてきた忍者集団だ。北条早雲公の時代から後方攪乱や諜報任務などで活躍していて、百年近く北条家に仕えているんだ。

その中で特に有名なのは頭領の風魔小太郎で永遠と生きていたとかいう伝説もあるけど、まあこれは襲名制だったからだね」

 「でも」とネシンバラは小太郎の事を見ると首を傾げる。

「伝承では風魔小太郎は大男だったと聞いているけど?」

 今相対しているこの風魔小太郎は非常に小柄な老人であり、伝承にある異様な鬼の様な姿をしていない。

「ほっほ、後世に名が残って何より。だが忍びたる者己の姿を後世にはっきりと残してはいかんであろう。

正体不明の鬼・風魔小太郎。その方が戦いでは有利である」

━━か、かっこいい……!!

 これが神代の時代を戦い抜いて来た伝説の忍者か!!

 やっぱりどこぞの忍者とは違うね!!

今度彼を主人公にした小説を書こう!

こう風魔小太郎には実は特殊な力があって鬼を封印した腕で伊賀の百道丹波と壮絶な死闘を繰り広げ……。

「さて」と小太郎は笑みを浮かべると腕を組む。

「儂の相手は貴様かな? 若造?」

 その問いに点蔵は正純の方を向き、確認すると彼女は。

「えー? ちょっと不安じゃないか?」

「こ、ここでそういう事言うで御座るか!?」

「あーでも確かに点蔵君だと心配ですね。昨日の事を考えると」

「これで負けたりしたら点蔵様、更にその、お、お、おち……!!」

「衣玖!! いいのよ! 無理して言わなくて!!」

「確かに点蔵様に出されては困りますからねえ」

「負けること前提で話してるで御座るな!? な!?」

「若造……なんだか苦労しているのう……」

 敵にまで同情されるとか流石だね!! クロスユナイト君!!

そう頷いていると「あ、あの!」と手を上げる人物が居た。

 メアリだ。

 彼女はやや前のめりになりながら力強くうなずき。

「点蔵様は己の責務をしっかり果たす方です!!」

 

***

 

━━…………メアリ殿!!

 流石はメアリ殿。

外道だらけの梅組で唯一の良心!

自分の心の清涼剤で御座る!!

 内心でそう感動していると小太郎がメアリの方を見て首を傾げる。

「あの金髪ボインちゃんは確か英国王女であったな」

「Jud.、 そして自分の嫁で御座る!」

 「まあ」と顔を赤くし両の頬を手で押さえながら睡蓮の花を咲かせているメアリを見、それからこちらを見ると小太郎は「いやいや、冗談じゃろ?」と笑う。

「冗談ではなく本気と書いてマジと読むで御座る」

 暫く小柄な老人は思案し「うっそだあー」と笑う。

「こんな見るからにじみーで甲斐性なさそうで、影薄いのが英国王女の夫? 英国女王の義兄さん(おにいさん)?」

「J、Jud!! そうで御座るよ!?」

 

***

 

・女 王:『おにいさん……?』

・薬詩人:『お、鬼遺産!! 風魔の鬼の遺産と言う意味で!!』

・女 王:『成程。だがそのギャグ、分かり辛かった上につまらなかったので罰ゲームな』

・薬詩人:『Oh…………』

 

***

 

・あさま:『あ、今物凄い勢いで“あの忍者”スレッドが回っていますよ?

英国からのアクセスが一番多いみたいですねー』

・● 画:『それと“急募、狙撃手。伊豆半島まで”ってスレッドも立って賑わってるわね』

 

***

 

 点蔵は冷や汗を掻きながら外道どもの通神を見ていた。

━━また、寿命が縮まった気がするで御座るよ!?

 英国から王賜剣二型が飛んでこないのは向うで誰かが体を張ってくれたからだろう。

 その事に感謝していると小太郎の姿が突然消えた。

「!?」

 “しまった!!”と思うと同時に後方へ跳躍。

眼前に黒の影が現れた。

 敵は空中で体を捻り回し蹴りを入れ叫ぶ。

「金髪巨乳嫁とか羨ましいんじゃあああああああ!! ぼけがああああああ!!」

「年寄りの癖に嫉妬とかみっともないで御座るよ!!」

 小太郎の蹴りを右腕で受け止めると敵は足の甲を此方の腕に掛け、体を地面に対して水平にするともう一回転を掛ける。

「儂だって! 儂だって! もっと若く復活してれば、関東中の女子口説き落としてハーレム作るんじゃ!!」

「夢見過ぎで御座るなあ!!」

 再び放たれた蹴りを顔を引き避けると膝蹴りを敵の背中に入れる。

だが敵はそれを左手で此方の膝を掴む事により食い止め、そのまま片手で体を跳ねらせ距離をとる。

 “軽い”と言うのが敵に対する感想であった。

 全ての動作が非常に軽いのだ。

流れるように次の行動に移し、敵との間合いを自由に操作する。

 風だ。

 そう敵は風のように不確かで軽い。

━━気を抜いたらやられるで御座る!!

 敵は「ほほ」と笑うと主砲の上から飛び降り駆けだす。

それを追撃すると敵は右舷側から手すりに足を掛け、跳躍した。

「逃げた!?」

「いや、違うで御座る!!」

 追いかけた先、右舷の手摺から身を乗り出せば曳馬右舷の装甲に小太郎が立っていた。

彼は此方を見ると笑みを浮かべ手招きする。

━━ならば……こちらも……!!

 飛んだ。

 手摺から飛び出し、曳馬の右舷装甲に足を掛けると駆けだす。

落ちる体に対して常に装甲を蹴る事により落下を食い止める。

そうする事によって曳馬右舷装甲を駆けた。

 葵色の装甲の上で二つの影が交差した。

 

***

 

「そろそろかしらね?」

 小田原に向かう航空艦の甲板から東の空眺め、先代が呟く。

「何が?」

 隣で同じように退屈そうに空を見ていた霊夢に頷くと腕を組む。

「伊豆での相対戦よ。そろそろ始まってる頃ね」

「ああ、今度は里見から二組と北条からあの爺さんでしょう?

里見の連中はともかく、あの爺さんは大丈夫なの?」

「大丈夫でしょうね。何せ、今回出てくる三組の内誰と一番戦いたくないかと訊かれたら私は風魔小太郎を選ぶわ」

「……そうなの?」

 冬の風を肌に感じながら笑みを浮かべ頷く。

「何というか凄くやり辛いのよね。掴みどころが無いというか、なんというか。

達人級の体術と忍びの技、そして長寿の経験。それらを併せ持っているから相当に厄介よ」

 純粋な体術勝負なら間違いなく私が勝てるだろう。

だがなんでもありの戦いになれば勝てると断言できなくなる。

忍者とはあそこまで厄介な連中だとは思わなかった。

きっと今頃己がかつて感じた厄介を武蔵の誰かが感じているのだろう。

「ま、あの爺さんと当たった奴には同情するわ」

 

***

 

 曳馬から飛び降りた銀狼は森に落下する直前に風を身に纏い落下の速度を落とすと地面に着地した。

それから即座に周囲を警戒すると腕に抱きかかえていたアマテラス達を地面に下す。

「助かりましたわ」

「おう。狼のネーちゃん、これからどうすんだ?」

「勿論攫われた我が王を救出しますわ」

 鼻を鳴らし匂いを嗅げば風に乗って僅かに柑橘類の良い匂いがする。

━━これ、喜美が使っていた香水ですわね。

 あの姉弟は同じ香水や石鹸を使うので判別がつきづらい。

だが今、ここで匂うのは攫われた王の匂いだろう。

「オイラたちはどうすればいいだァ?」

「直ぐに回収部隊が来るはずですからここで待っていてくださいな」

「ついていかなくていいのか?」というイッスンの問いに首を横に振る。

「これは私の失態。自分で挽回しますわ」

 そう大失態だ。

王の傍に居ながら王の強奪を許すなど騎士として大失態だ。

 今回は攫った相手が良かったもの、これがもし本当に意味の敵であったなら……。

 背筋が凍る。

・ホラ子:『あ、ミトツダイラ様。馬鹿が攫われてしまいましたが、そちら、よろしくお願いします』

「…………」

 向うも同じような事を考えていたのだろうか?

ホライゾンも喜美も智も心配はあるのだ。

 そして今、自分は王の想い人から“よろしく頼まれた”のだ。

 だから背筋を伸ばし、堂々と。

「Judgment!!」

 駆けた。

 木々の間を颯爽と駆け、銀の騎士が王の救出に向かう。

 

***

 

あっという間に見えなくなったミトツダイラを見送るとイッスンは「相変わらず、すげえネーちゃんだな」と言う。

それから足元で欠伸を掻いているアマテラスを見て「これからどうすんだ? アマ公?」と訊く。

 それに対してアマテラスはもう一回欠伸をし、ミトツダイラが向かった先に歩き出す。

「ん? 追いかけんのかァ?」

 アマテラスは頷く。

何時もポアっとしてのんびりとしている奴だが、こういう誰かが困っている時に率先して動く奴なのだ。

 その事に嬉しさ感じると笑みを浮かべながら頷く。

「うし! じゃあ、オイラたちも行くかァ!!」

 アマテラスが一度吠え、駆けだす。

アマテラス達の後方にある草むらが動く。

 深い森の中を十六の瞳が動き始め、駆けだしたアマテラス達を包囲していくのであった。




伊豆相対戦の始まり。
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