「全部隊降下完了」
「システム掌握率80%」
「戦闘人形部隊、敵防衛部隊と交戦中」
<<方舟>>の艦橋で各所から送られてくる情報をF・ノバルティスは聞いていた。
━━今の所は順調だねえ。
北条の対応が思ったよりも早かったが誤差の範囲内だ。
敵の哨戒艦隊がまもなく小田原に到着するが、それよりも早く此方の後続が到着する。
“あの船”の力をもってすれば北条の艦隊など恐れるに足りないだろう。
「しかし彼らの世界の技術は非常に興味深いね」
先ほど投下した“封龍柱”。
あれは巫女殿の世界の物を改造したものだ。
あらゆる障壁を無効化し、封じる装備。
それを地脈に打ち込み、ウィルスを流し込むことによって小田原の中枢管理システムを乗っ取る。
今や小田原の防衛システムの大半は此方の手中にある。
元々は敵に直接叩きこむ杭のようなものだと聞いているが……。
『こっちの準備、出来たわよ』
表示枠に赤毛の少女、岡崎夢見が映り頷く。
「γ量産タイプの実戦データ収集、頼んだよ」
『ええ。せいぜい暴れてくるとするわ』
表示枠が閉じられると通神士が「アイオーンγ発進!」と知らせ、前方の大型表示枠に真紅の機体が降下してく様子が映される。
「さて、それではβも動かすとしよう。目標は空港。そこに居る徳川の特務艦と武神を叩く」
そう指示を出すと口元に冷たい笑みを浮かべた。
「楽しみだねえ。四聖武神の一つ、地摺朱雀。私の知識の糧となってもらおうか」
***
「応戦しろ!!」
東側の商店街では北条の兵士と警察が合流した防衛部隊が降下してきた<<結社>>の強化猟兵団と激しい攻防を繰り広げていた。
数の面では敵と拮抗。
しかし此方は戦い慣れていない警察官が交じり、統率にあらがある。
対して敵は身体を強化された猟兵。
統率も武器も向うが上であった。
その上……。
「くそ! 来たぞ!!」
強化猟兵団の後方から侍女型の自動人形達が現れた。
元々は小田原の防衛を行っていた自動人形達。
だが今は敵の側に堕ち、仲間に牙を剝いている。
「躊躇うなよ!! あれはもう敵だ!!」
小隊長の指示に部隊は頷き、応戦する。
長銃や拳銃による一斉射撃によって突撃してきた自動人形達を砕くが、後続の部隊が砕けた仲間の体を盾にしながら突破してくる。
「近接戦闘用意!!」
即座に射撃部隊の後方に居た兵士たちが前に出、槍を構える。
飛びかかってきた自動人形達は槍によって串刺しにされるが、直後爆発した。
爆発により兵士や警察官が吹き飛び、地面や壁に叩き付けられる。
━━自爆か!?
操られた自動人形の自爆により前衛部隊が崩壊、即座に強化猟兵達が前進してきた。
小隊長は負傷した右肩を押さえながら銃を構え、叫ぶ。
「応戦しろ!! 絶対にここを通すな!!」
「いい気概だ」
凛とした男の声が後ろから聞こえ、続いて連続した銃声音が鳴る。
前進をしていた五人の猟兵が倒れると残りの猟兵達が一斉に物陰に隠れる。
「だ、誰だ?」
男が立っていた。
金髪に白い服を身に纏った男は拳銃を構えながら此方に笑みを送る。
「オリビエ・レンハイム。ボクたちが来たからにはもう大丈夫だ」
***
━━と、言ったものの不利なのは此方か……。
奇襲を喰らい指揮系統は混乱。
更に自動人形が敵に回り味方とは離れ離れ。
「ミュラー君、指揮を頼む」
「分かった」とミュラーは防衛部隊の前に立つと近くに落ちていた剣を取る。
「総員持ち場につけ!! 術式盾を前方に展開させ、その間に負傷者の後退とバリケードの構築!
警察官は兵士の補助に回れ!!」
「一時的に指揮を執らせてもらうがいいか?」と肩を押さえる小隊長に訊くと、小隊長は「すまない」と頭を下げた。
「敵! 来ます!!」
兵士の言葉に前方を見れば丸い胴体から四つの足が生えている戦闘人形が接近しており、その数は十を超えていた。
「通常火器で相手にするのはきつそうだ。パチュリー君!!」
「まったく……!! とんだ一日だわ!!」
パチュリーが前に飛び出し、手を空に掲げると火の玉が現れる。
「火金符『セントエルモピラー』!!」
火球は戦闘人形の群れに叩き付けられ、爆発と熱により敵を砕いていく。
炎の中を三体ほど敵が抜けてくるがパチュリーの横を高速で人形が横切り、槍を持った人形達が敵の胴を砕く。
「上海人形しか持ってきてないから、サポートに回るわよ」
パチュリーの横にアリスが立ち、パチュリーが口元に笑みを浮かべる。
「未熟者の力を借りなくても十分よ」
「あら? 接近されたら何もできないくせに強気ね」
二人は嫌味を言いあいながらも隠れている猟兵達に攻撃を加え続け、その間に立て直した部隊が道を塞ぐように術式盾を展開する。
「さて、しばらくは時間稼ぎに徹するとしようか」
そう言うと、全員が頷くのであった。
***
小田原の空港にある第六ドックでは徳川の兵士たちが陣を敷き、防衛体制を取っていた。
既に三度ほど敵に回った自動人形と交戦し、退けているが状況は徐々に悪化してきていた。
「━━敵猟兵団の降下を確認しました。皆様、お気を付けください」
長銃を手に持った“曳馬”の言葉に兵士たちは頷くと、後方から二対の巨大レンチを持った地摺朱雀が来る。
「“曳馬”! 出航は無理そうかい!?」
「Jud.、 今離陸すれば狙い撃ちにされると判断します」
現在曳馬は対空砲台として停泊しており、接近してくる飛空艇の迎撃を行っている。
その為、ここを狙った直接攻撃は来ないが……。
━━時間の問題と判断します。
空港に向かってくる飛空艇の数は徐々に増えている。
このままでは何時か突破されるだろう。
「……この状況、根本から解決しなければ負けるのはこちらじゃ」
「博士、艦内に……」
ラッセル博士は「どこに居ても同じだ」と笑うと表情を改める。
「敵は何らかの方法で此方の中枢管理システムを掌握した。
だがこのシステムは小田原外部からの接続を一切行えないようにしておる」
「システムに接続できるのはどこからなんさね?」
「一つは小田原城からじゃ。そしてもう一つはZCF本社の地下にある管理施設から」
「どちらも侵入は難しそうですね」
此方の言葉にラッセル博士は頷く。
「だが一つだけ小田原城もZCF本社も介さないで中枢管理システムに触れられる方法がある」
「それは……?」
「地脈への直接接触じゃ。小田原全域に伸びた地脈通神網。
そこなら防護障壁があるが小田原城やZCFに乗り込むよりも楽。
となると怪しいのは……」
「<<方舟>>から投下された柱ですね?」
あの黒い柱が投下された直後、通神網が遮断された。
現状あれが一番怪しいだろう。
「原因は分かったとして、どう解決する気さね?」
「恐らくだがあの柱は毒を入れるための注射器のような物。
だったらあそこから逆に治療薬を投入してやればよい」
「そんな事出来るので?」
そう尋ねるとラッセル博士は口元に笑みを浮かべる。
「人が作ったものなら必ず綻びがある。それにワシを誰だと思ってる?」
地摺朱雀の肩の上にいる直政と顔を見合わせると互いに頷く。
「第八ドックに向かった連中が戻ってきました!!」
兵士の言葉に前方を見てみればエステルたちの武器を回収しに行った兵士たちが此方にかけてきている。
「……では、その案で行きましょう。回収部隊は戻り次第、博士を護衛しながら中央広場に移動。それでよろしいですね?」
「うむ。<<結社>>の小癪な兵器などちょちょいのちょいと無効化してやるわい」
そう強く、ラッセル博士は頷くのであった。
***
「!!」
放たれた刺突をミトツダイラは状態を逸らし避けると胸の前を横切る槍を掴む。
そして一気に引き寄せると拳を放ち、強化猟兵の顔面に拳を叩き込んだ。
鈍い音と共に強化猟兵は吹き飛び、店の壁に激突して崩れ落ちる。
━━まったく! キリがありませんわね!!
武器の投下地点まで移動をしているが途中何度も敵に襲撃された。
鈴を守りながらの移動なので常に周囲を警戒し、敵が現れたら速攻で叩く。
「なんとか着きましたね」
途中の敵から奪った槍を持つアデーレの言葉に頷く。
「ええ、後は武器を待つだけ……」
「まえ、くる、よ!!」
鈴の言葉に構えると前方から戦闘人形と自動人形の集団が向かってきていた。
「うわ! あの数は無理ですよ!?」
「でもやるしかありませんわ!!」
敵の数は四十を超えている。
乱戦になれば鈴の身が危ない。
その事に冷や汗を掻くと表示枠が開いた。
『皆様の武器を射出しました。衝撃にご注意ください』
直後、前方が爆発した。
凄まじい衝撃が起こり、道路は砕け、戦闘人形や自動人形だったものが宙を舞う。
━━ば、爆撃!?
思わずそう思ってしまうかのような衝撃に驚いているとアデーレが苦笑した。
「あー、まあそうですよねー。あれ投下したら」
彼女が指差す先には青の機動殻“奔獣”が地面に突き刺さっており、その背中にはアデーレの槍や、銀鎖のタンクが積載されている。
アデーレは槍やタンクを地面に下すと奔獣の背中のハッチを開く。
「あ、第五特務の騎士服もありますよ」
騎士服を受け取るとアデーレは奔獣の中に入り、起動させる。
『よし、これで思う存分戦えますね。第五特務はここで着替えを?』
「いや……流石にそれは……」
『ですよねー』とアデーレが言うと鈴が「また、近づいて、るよ!」と敵の接近を知らせる。
前方を見れば戦闘人形の集団が此方に向かってきておりさっきよりは数が少ないとはいえ、十体ほどはいる。
即座に振り返れば後ろには川があり、小さな橋が架けられている。
「向うに渡りますわよ!!」
『Jud!!』
「抱えますわよ?」と鈴を持ち上げると橋に向かって走り出す。
その後ろを銀鎖のタンクを抱えたアデーレが続き、橋を渡りきると振り返る。
「アデーレ! 早く!」
『ま、まってくださーい!!』
機動殻は今から橋を渡ろうとしたところであり、その背後には敵が迫っている。
そしてアデーレが橋に足を踏み入れた瞬間、橋が爆ぜた。
「!!」
飛散する橋の破片から鈴を守るべく、近くの家屋の陰に隠れると先ほどまで自分が居た場所に柱が突き刺さった。
それからややあって低い音が空から鳴り響き、見上げればプロペラを付けた飛行兵器のような物が上空を通過していく。
━━<<結社>>はあんなものまで所有してますの!?
「アデーレは!?」
鈴を物陰に降ろし、慌てて橋に戻れば川の反対側でアデーレが一人立っていた。
━━分断されましたわ!!
『第五特務!!』
アデーレは銀鎖のタンクを此方に投げると槍を構え、敵の集団と相対する。
『ここは自分に任せて先に……!!』
***
・● 画:『あ、死んだわ。これ死んだわ』
・あさま:『アデーレ……この状況で一番言ってはいけないセリフを言ってしまいましたね……』
・貧従士:『ぬおおおお!? 思わずノリと勢いで死亡フラグを立ててしまいましたよお!?』
・○べ屋:『安心して、アデーレ! あんたが死んだら保険金が私に入るように設定したから!!』
・貧従士:『全然安心できませんよ!?』
・曳 馬:『ちなみに徳川データーベースによりますと、死亡フラグ上位ワードは「ここは俺に任せろ系」と「こんなところに居られるか系」と「ドヤ顔後、別にあれを倒してしまっても……系」だそうです』
・ホラ子:『徳川のデーターベースは一体どうなってるんですかねえ……』
***
『まあ、ともかくです!』と誤魔化すと第五特務たちの方を振り返る。
『こっちはこっちで何とかするので、そちらはそちらでお願いします』
そう言うとミトツダイラは少し沈黙した後、笑みを浮かべて頷いた。
「Jud.、 後で合流しましょう。今日は後で焼肉パーティーですわ」
『いいですねー』と視線を交わすと互いに頷きあい、ミトツダイラが走り出す。
鈴を抱きかかえ離れていく仲間の背中を見送ると槍を両手で構えた。
『さあて、ちょっと頑張りますよー!!』
騎士型の戦闘人形が大剣を振り下ろす。
それを正面から受け、弾くと槍で敵の胴を貫いた。
そのまま横へ引き千切り、倒れた戦闘人形を踏みつぶすと大声を上げる。
『さあ! 硬さ勝負なら誰にも負けませんよ!!』
その声と同時に残りの戦闘人形が一斉に動き出す。
***
「Herrlich!!」
黒嬢が弾丸を放ち、真紅の飛空艇のエンジンを貫く。
貫かれたエンジンは火を噴き、内部から破裂し、飛空艇は船首側から地面に墜落して爆発した。
「これで何機目!?」
「んー、十は超えたと思う!!」
小田原上空には無数の飛空艇が飛び交っておりいくら撃ち落としてもキリがない。
空港を押さえられているため機鳳隊の援護も望めず、現状飛空艇を迎撃できるのは自分たちだけだ。
前方を極太の流体砲撃が通り数隻の飛空艇が呑み込まれて爆散する。
それを見ながらマルゴットは近くを飛ぶ魔理沙に声を掛けた。
「マリやん! 持久戦になるっぽいからなるべく温存でー!!」
「ちみちみしたの苦手なんだよなー!!」
魔理沙は苦笑しながら攻撃を貫通弾による射撃とマジックミサイルに変更し、接近してきた飛空艇を強襲する。
「ともかく飛空艇を小田原城に接近させないようにしないとね」
並走するナルゼの言葉に頷き、小田原城の方を見る。
防衛システムも落ちているため小田原城の自動防御兵装は使用できない。
空から乗り込まれたらひとたまりもないだろう。
━━逆を言えば空さえ守ってれば敵の侵入ルートを絞れるって事だけどね……。
敵の陸上部隊は小田原正門を目指すはず。
あそこには橋があり比較的防衛しやすい場所だ。
今この戦況を打開すべくラッセル博士とやらが中央広場に向かっている。
それまで耐えれば何とかなるかもしれない。
━━それにそろそろ哨戒艦隊が戻ってくるはずだけど……。
「マルゴット!! 危ない!!」
咄嗟に急降下した。
先ほどまで自分の居た場所を流体砲撃が通過し、砲撃は空中で旋回すると此方に向かってくる。
「誘導弾!?」
ならばと道路に入り、地面すれすれを飛ぶと機首を上にあげ、垂直に上昇する。
此方を追っていた誘導弾はそのまま地面に激突し爆発を生じさせ、辺りの物を砕いた。
━━敵は!!
砲撃が来た方を見れば遠くに機械の鳥のような物が存在しており、敵はそのまま北の方角に向かっていく。
「……機鳳?」
「分かんない。でも……」
表示枠を開き、直政と通神を繋げる。
「そっち、ヤバそうなのが行ったっぽい」
『Jud.』と直政が通神を切り、此方も顔を見合わせる。
「とりあえずこのまま迎撃を……」
直後、背後に巨大な影が現れた。
「!!」
黒と金の金冠鳥がそこには存在していた。
***
船の錨を逆さまにしたような戦闘人形が右腕を撓らせ、打撃を叩き込んでくる。
それを左腕で受け止めると戦闘人形の右腕が破砕し、内部の部品が宙を舞った。
戦闘人形は距離を離そうとするがそれを追いかけ槍を突き出す。
『これで……ラストです!!』
胴の中心を穿たれた戦闘人形は中心から破裂し、砕け散る。
敵が完全に動かなくなったことを確認するとアデーレは安堵のため息を吐いた。
━━思ったよりも疲れましたー……。
周囲には戦闘人形達の残骸が散らばっており、その中心で青の機動殻は佇む。
最初の頃は十体ほどだったのだが途中で別の集団が合流し、結構手間取ってしまった。
奔獣に目立った損害は無いが、表面装甲は結構傷ついているだろう。
━━まあ、これで第五特務たちと合流できますね。
二人は恐らくこの先の劇場に向かったはずだ。
自分もどこかで川を渡って合流しなければ。
そう思い歩き出そうとした瞬間、凛とした声が響いた。
「ほう……あの数の差を覆すとは。中々だな」
『!!』
騎士が立っていた。
ハルバードを手に持つ、女騎士。
騎士は散らばる残骸を跨ぎながら此方と相対した。
━━これは……ヤバいかもですよ……。
自分は副長の様に戦闘万歳民族で相手の気を読むとかあまり出来ないが分かる。
この騎士は自分よりも圧倒的に強い。
━━間違いなく副長級……ですね。
一瞬「逃げるか?」と考えたがこの敵を相手に背中を見せるのは自殺行為だ。
「いい判断だ。逃げれば叩き斬っていた」
機動殻の中で冷や汗を掻きながら武器を構える。
逃げることは出来ない。
ならば全力で戦い、乗り切るしかない。
『武蔵アリアダスト教導院、従士アデーレ・バルフェットです』
此方の名乗りに敵は頷き、ハルバードを構える。
「鉄機隊が隊士。<<剛毅>>のアイネスという」
アイネスは腰を落とす。
「武蔵の従士よ。参るぞ!!」
一瞬であった。
敵は此方との距離を詰め、ハルバードを振るう。
避けれないと判断すると敵の攻撃を受け止めカウンターを狙う。
だが……。
『え……!?』
砕けた。
奔獣の腹部装甲。
ハルバードの一撃を受けた個所が砕け、体が一気に吹き飛ばされて家屋に叩き付けられた。
家屋の壁を砕き、柱が折れ、崩れ落ちる。
その土埃の中<<剛毅>>の騎士は再び此方との間合いを詰め……今度は左脇腹の装甲が砕かれた。