緋想戦記Ⅱ   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第三十二章・『魂魄の剣』 迷い 進み 繋ぐ剣 (配点:魂魄流)~

 冷たい風が吹く中、魂魄妖夢は正面に立つ騎士と相対すると状況を確認した。

 後ろには倒れている上半身だけの自動人形、正面には甲冑を身に纏った女騎士。

さて……。

━━どうしよう!?

 エステル達とはぐれた後、一人で屋台を回っていたら<<結社>>が襲撃してきた。

なので“曳馬”から武器を送ってもらい取りあえず敵の部隊を辻ぎ……いや、迎撃してまわっていたらこの場に辿り着いた。

 勢いで飛び出してしまったためこの後の事は特に考えていない。

 相手は<<結社>>の幹部。

自分の腕でどこまで通用するか……。

「……ふぅ」

 突如騎士が構えを解き、武器を下げる。

「?」

「準遊撃士と言いましたわね? 下がりなさい、今なら見逃して差し上げますわ」

「な……!?」

 予想外の言葉に思わず言葉を失い、腹が立つ。

「馬鹿にしないでください!! 確かに私は未熟者ですが臆病者ではありません!!」

「勇敢と蛮勇を履き違えてはいきませんのよ?」

 そんな事分かっていると相手に真剣な眼差しを送ると敵は諦めたようにため息を吐いた。

「仕方ありませんわね。一分だけ相手をして差し上げますわ」

 未だに此方を見下しているのに腹が立つが逆にこれは好機だと思った。

相手は油断している。

そこを上手く突けば……。

━━…………そうできないのが私ですよねえ。

 そういう所も含めて未熟なのだろう。

白楼剣を鞘に収めると楼観剣を両手で持つ。

「そちらも、慢心のし過ぎで足元を掬われないように」

 

***

 

 デュバリィは内心焦っていた。

 北条・氏照と相対している間に戦況が急激に動き、それに対応するために進軍しようとしていたのに邪魔者が入った。

 正遊撃士ならともかく準遊撃士如きに遅れをとるとは思わない。

だが変に粘られて足止めを食らえば此方が不利になるだろう。

 故に。

━━さっさと終わらせますわよ!

 とは言え油断はしない。

 今の自分は本調子ではない。

 まずは相手の出方を見てそれに対応する。

「!!」

 敵は太刀を鞘に収めると腰を落とし構える。

 あの構え、見覚えがある。

━━八葉一刀流? いえ、八葉に似た異界の剣術ですわね。

 あれは鞘から刀を引き抜いた時の加速を得て攻撃する高速の一撃。

確か居合という奴だ。

 敵が息をゆっくりと吐き出し、止める。

━━来ますわね!!

 直後、消えた。

「!?」

 本能的に危険を感じ、剣を正面に構えると衝撃を受ける。

そして突風が吹くと背後に敵が立っていた。

「…………見事ですわ」

「人符『現世斬』。我が流派の基礎です」

 考えを改める。

 既に先ほどまでの焦りや慢心は無い。

彼女は間違いなく剣の道を行く強敵だ。

 振り返ると目蓋を閉じ、頭を下げる。

「先ほどの言葉、失礼しましたわ。貴女の覚悟と決意、その太刀筋から拝見しました」

 頭を上げると剣と盾を構え、腰を少し落とす。

「━━鉄機隊が隊士、<<神速>>のデュバリィです。改めてお名前を伺いましょう」

「魂魄流見習い、魂魄妖夢━━━━全力で参ります!!」

 名乗りを終えると同時に両者は駆けだした。

 

***

 

 戦場を突風が吹き荒れていた。

 緑の風と鋼の風が混じり合い、その中心には誰も近づけない。

 火花が散った。

 鋼が穿ちあう音が幾度も鳴り響き、大地が揺れる。

 押されているのは緑の風だ。

 緑の風は果敢に敵を穿つが鋼の風はその全てを弾く。

そして一閃が放たれた。

「!!」

 緑の衣服の一部が風に舞い、妖夢は後方へ跳躍し滑るように着地する。

━━危なかった!!

 今の一撃。

反応が遅れていたら腹を裂かれていた。

 風が止めば視線の先には騎士が静かに佇んでおり、その威圧感は肌を刺す。

━━これが<<結社>>の幹部の実力……!!

 何度も攻撃を打ち込んだが微動だにしない。

それどころか此方が押され、致命的な攻撃を受けかけてしまった。

「一つ、訊きたいことがありますわ」

「……何でしょうか?」

「貴女の流派、魂魄流と言いましたわね? その見習いと。

今の戦いから貴女なら段位を貰っていてもおかしくないと思いましたが……、何故ですの?」

━━あ、私、段位貰えるんだ!!

 相手からの評価に思わず嬉しくなりにやける。

すると敵は「な、何をにやけてますの……?」とちょっと引いた。

慌てて表情を正すとどう説明しようかと悩み、言葉を選ぶようにゆっくりと口を開く。

「私の祖父━━つまり師匠はある日を境に突然失踪し、私は段位を貰えていないんです」

「そうでしたの……」

「ええ、本当にいきなりいなくなってね? それで何ですか?

いきなり向うから一方的に接触して来て、アロハ? は? なに? ふざけてるの?

いいからさっさと帰って来い!! あのクソジジイーーーー!!」

 思わず熱くなり叫ぶとデュバリィはまた引いて「く、苦労してますのね」と苦笑いをする。

「ま、まあとにかく。複雑な家庭環境と言いますか……」

 決まりが悪くなったので口ごもり、楼観剣を再び鞘に納める。

「もう一つ、貴女は祖父……剣の師をどう思っていますの?」

 そんな事決まっている。

「間違いなく最強の剣客。まさに剣聖。私の憧れであり、夢であり、乗り越えるべき壁です!」

「ふふ、ならば存分に力を発揮しなさい! 私が魂魄の剣! 見極めて差し上げますわ!!」

 頷くと同時に跳躍する。

 姿勢を低くしたまま、一度の跳躍で敵の懐へ。

そして鞘から楼観剣を引き抜き、高速の一撃を加える。

 火花が散った。

 敵も剣で此方の剣を穿ち、弾く。

 弾かれるのは想定内だ。

動揺せず、冷静に敵の横をすり抜け着地と同時に刀を下段に構え振り返る。

そして切り上げを行うが敵は此方の攻撃を読み、体を捻り盾を構えていた。

 刀が盾に弾かれ、両者の動きが止まる。

━━攻撃の手を止めてはいけません……!!

 この敵を相手に守勢に回るのは自殺行為だ。

多少無理をしてでも攻撃を続行する必要がある。

「転生剣『円心流転斬』!!」

 弾かれ傾いた体を利用し回転切りを放つ。

それだけではない。

回転切りの後、連続の斬撃を敵の盾に叩き込み続け相手の姿勢を崩す。

そしてそこへ飛び込み横への一閃を放った。

「……外れた!!」

 敵は体をくの字にするように曲げ此方の刃を避ける。

 刀の先が敵の鎧の胸前を掠り、空振る!!

「思ったより小さい!!」

「よ、余計なお世話ですわよ!?」

 そこからは敵の番であった。

 体を折り曲げた態勢で剣を振り下ろし此方の頭蓋を割ろうとする。

それを急停止でよけると鼻先を剣が通過し、前髪が数本持って行かれる。

その直後に来たのは六つの斬撃だ。

 凄まじい高速のため、六つ同時に放たれたかのような斬撃を後ろへ下がりながら避けるが右肩と左足、そして脇腹を掠られた。

「!!」

 服が切れ、血が散る。

 何とか反撃に出なくては。

そう思った瞬間、敵が剣を大きく振り上げる。

━━……何か来ます!!

 危険を察知すると全力で後ろへ跳躍した。

「<<豪氷剣>>!!」

 氷の棘が立った。

 デュバリィが剣を叩き込んだ地点を中心に地面から氷の棘が突き出され、此方を貫こうとする。

 迫りくる棘に楼観剣を叩き込み、割るとその衝撃を利用して更に距離を取る。

「属性剣……己の闘気を変換させましたか……」

 達人と呼ばれる人間は己の闘気を自在に操れると聞く。

今のはその一種だろう。

「どうしましたの? もう諦めてしまったのかしら?」

「いえ! まだです!!」

 まだやれる事は残っている!!

 

***

 

 デュバリィは敵が再び居合の構えに入ったのを見て身構える。

 この少女、確かに未熟だが光るものを持っている。

師の許で修業を続ければ間違いなく優秀な剣客になるだろう。

━━彼女の師匠が気になりますわね。

 魂魄流の師。

 恐らくは剣聖と呼ばれるであろう人物。

非常に興味があるが……。

━━来ますわ!!

 妖夢が動いた。

 再び一瞬で此方との距離を詰め、迫る居合切り。

確かに速い。

だが彼女の太刀筋には弱点があった。

あまりにも真っ直ぐ過ぎるのだ。

 太刀筋に彼女の性格が乗ってしまい非常に素直で気持ちの良い剣。

しかしそれはつまり動きを読みやすいという事になる。

━━どんなに速くても軌道が見えてしまえば……!!

 敵の刀の動きを予想して事前に動く。

 読みは的中し、敵は居合切りを大きく空振った。

「叩き込ませてもらいますわ!!」

 体を捻りながら敵の背面に回り剣を振り上げる。

だがその瞬間妙な感覚を得た。

 彼女の太刀筋。

 綺麗な剣閃から感じる気配。

これは……。

━━闘気!!

 直後、桜が散った。

 剣閃から桜の花びらが散り広がり辺りを包む。

 これは全て彼女の闘気が具現化したものだ。

「剣伎『桜花閃々』!!」

 闘気の爆発を全身に受け、衝撃で吹き飛ぶ。

━━やってくれましたわ!!

 ダメージ自体は大した事は無い。

問題は大きな隙を作ってしまった事だ。

 空中で体勢を立て直しながら地面の敵を見れば彼女はゆっくりと人魂のようなものを身に纏う。

 人魂は彼女の周囲を一周すると霧散し、再び収束を始める。

「あれは……!!」

 妖夢が二人立っていた。

 人魂が彼女の姿に変わり横に並ぶ。

「魂符『幽明の苦輪』!!」

 此方の着地と同時に二人の敵は踏み込む。

 左右に移動し、此方を挟み込むと斬撃を放つ。

 敵に対するために左の敵の攻撃は剣で受け、右の敵の攻撃は盾で受ける。

左の妖夢が切り上げてきた。

それには剣による下からの切り上げで対応を。

 右の妖夢が突きを放つ。

それには盾を傾け受け流して対応を。

 四秒、数十回の攻防を行うと人魂の姿が元に戻り、妖夢が驚愕の表情で距離を取る。

━━凌ぎ切りましたわ……!!

 今のは危なかった。

 何発かは食らう事を覚悟していたがどうにか無傷で乗り切った。

 妖夢は攻撃を完全に防がれた事に動揺し構えを緩くしており、それを好機と捉える。

━━精神的にはまだ未熟ですわね。

 攻撃を凌がれたのなら即座に次の行動に移る。

そうする事によって自分の優位を保つのだが、彼女はそこで動揺してしまった。

それがこの勝負の明暗を分ける。

「決着を付けさせて貰いますわ……!!」

 武器を構え、闘気を高める。

「さあ、行きますわよ!」

 高速移動による三体の実像分身。

三体同時の突撃を行い、高速の斬撃を浴びせ続ける。

 それを妖夢は必死に受けようとするが全身に傷を負っていき、最後にはよろめいた。

━━終わりですわ!!

 よろめいた敵の懐に飛び込むと刀身に闘気を流し込み、放つ。

「プリズム……キャリバー!!」

 闘気の爆発が生じ、前方がすべて吹き飛ばされた。

 

***

 

 戦いの決着を見た筧はゆっくりとため息を吐く。

 あの少女、あの敵を相手に良く持ちこたえたと言うべきだろう。

 此方としてはあの騎士の奥の手を見れたし、もうここに残る必要は無い。

さっさと引き上げて望月と合流するべきだ。

するべきなのだが……。

━━……何考えてやがる。

 吹き飛ばされ、倒れた少女。

それにゆっくりと近づく騎士。

 あれは関係ないことだ。

 藪を突いて鬼を出す必要は無い。

ないのだが……。

「よろしいので?」

「…………何がだよ?」

「あのままではあの方は死ぬと判断します」

「だろうな」

「よろしいので?」

「…………」

 沈黙し帽子を深く被る。

 自分たちは真田の忍びだ。

 あいつ等とは無関係。

だから死んだってどうでもいいんだが……。

━━あー、俺、こう言う所で半端者なんだよなぁ……。

 このまま見捨てるってのはどうも自分の性分ではない。

 そんな事を言ってるから“要らず”になったのだが、“要らず”だから手に入れたものもあるのだ。

「しょうがねえ! 少しだ! ほんの少しだけ協力して、あくまでもケリを付けるのはあの侍娘だ!」

「Tes.、 それでこそ筧様だと判断します」

 「言ってろ」と苦笑いすると火縄銃を取り出した。

 

***

 

 夢を見ていた。

 まだ自分が幼かったときの事だ。

 祖父に剣の稽古をしてもらい何度も木刀で叩かれ泣いた。

 祖父は厳格な人であった。

常に規律と清貧を念頭に置き、自他共に厳しく当たる。

それは主の幽々子様も例外ではなく、よく祖父に叱られて頬を風船のように膨らませていた。

 そんな祖父は自分にとって恐怖の象徴であったが、それと同時に尊敬の念を持っていた。

 両親は魂魄の剣を継がなかったため私は祖父に引き取られ育てられた。

 親でもあり、剣の師匠である妖忌はいつしか自分の中で絶対の存在となり、祖父の言ったことは何でも従った。

 そんなある日、祖父から妙な質問をされた。

「妖夢よ。もし、儂がお主に剣を継がせず自由に生きろと言ったらどうする?」

「え!? そ、それは、私が魂魄流を継ぐ資格が無いという事でしょうか!?」

「そうではない。ただの例え話だ。それで? 自由に生きろと言われたらどうする?」

 その時は酷く困った。

 私にとって祖父に従うのは絶対で、そして剣を継ぐのも当たり前だと思っていたからだ。

突然自由に生きろとか言われても困る。

 そう伝えると妖忌は微笑み、刀をこちらに渡した。

「この世に絶対と言う物は無い。どんな物にも綻びはあり、いずれ消えゆく。世と言うのは無常なのだ」

「では何故剣の道を学ぶのですか? どうせ無駄になってしまうのに……」

「無駄ではない。確かに儂やお前はいつかは消えて、誰にも思い出してもらえなくなるだろう。

だがな、だからこそ儂らは前に進むのだ。

常に思考し、前に進み、後に託す。そうすれば儂という名は消えても、儂の生き様と魂は同じ道を進む者によってどこかに残されるのだ」

 祖父は大きな手で此方の頭を撫でると頷く。

「妖夢よ。考えよ。

考えて、道を探して、自由に生きよ。それこそが魂魄の剣の道。

後世に残す、過去と未来を繋ぐ剣。

お前の生き様が、魂魄の剣となるのだ」

 

***

 

 目が覚めると視界いっぱいにぼやけた青が広がっていた。

 背中は冷たく、全身は酷く痛む。

━━あ、そうか……負けたんだ……。

 自分の刃は敵には届かなかった。

 敗者は大地に伏せ、勝者はそれを見下ろしている。

最早どうしようもない状況。

だが気が付けば楼観剣を強く握り締め、起き上がろうとしている。

 何故、立とうとするのか?

 立ってどうするというのか?

 そんな事、決まっている。

━━私は、まだ、何も成していません……!!

 師匠の言っていた剣の道を半分も理解していないし、道を切り開けてもいない。

 中途半端なのだ。

 未熟者なのだ。

だが、だからこそ、絶対に諦めない。

 この世界のどこかに師匠はいる。

彼に会い、乗り越えるまでは倒れられない。

 それに自分がここで尽きたら幽々子様はどうするのだ?

 あの人の世話を出来るのは自分しかいない!!

「見事な闘志ですわ。ですが諦めなさい。諦めて、降伏するのなら見逃して差し上げます。

私に再び挑むのは傷を癒してから良いでしょう?」

 それは魅力的だ。

だがそれでは駄目なのだ。

今だからこそ、意味があるのだ。

 此方の折れない闘志にデュバリィは感嘆の吐息を吐き、それから剣を振り上げる。

「仕方ありませんわね。暫く気を失ってもらいますわ」

 剣が振り下ろされ、幕が下される。

そう見えた瞬間、周囲で爆発が生じた。

「なんですの!?」

 爆発は此方を包み、土煙が辺りを覆う。

 誰かが前に立った。

 黒いコートを靡かせ、誰かは此方を見ると「一分だ」と口を開く。

「……え?」

「一分だけ時間を稼いでやる。そっからはお前の仕事だ」

 直後、銃声音が鳴り響いた。

 

***

 

 筧は火縄銃で土煙の中に居る敵を銃撃すると直ぐに位置を動かす。

 望月が爆破を続け、敵の視界を遮っているがそう長くはもたない。

 このあたりで良いかと思い足を止めた瞬間、強烈な殺気を感じて横へ跳躍する。

一閃が放たれた。

閃光は僅かに腕を裂き、血が流れる。

━━こっち見えてんのか!?

「その動き、忍びですわね。風魔の残党かしら?」

「さぁて、どうかな?」

 相対して改めてこの敵の強さが分かる。

隙が無いなんてもんじゃない。

少しでもミスをすれば此方の首が飛ぶ、そんな雰囲気だ。

━━だが、地の利はこっちにある!!

 この状況、まさに敵は死角だらけだ。

ならばここは自分の狩場だ。

 左足をずらし、重心を低くする。

 それに合わせて敵も動く。

━━ここだ……!!

 銃撃を放った。

 敵は盾でそれを防ぎ、反撃に出ようとする。

だが……。

━━“死角”! 取ったぜ!!

 背後から敵の突然銃弾が放たれた。

 死角からの不意打ち。

避ける事の出来ない不可避の攻撃。

 しかし直後に起きた事に目を見開いた。

「……まじかよ!!」

 高速で放たれる斬撃。

 飛び散る火花。

そして地面に落ちる二つに断たれた銃弾。

 敵は不意打ちの銃撃に反応し迎撃したのだ。

━━前の武蔵の副長といい、いい加減へこむぞ! 俺!!

 敵の踏み込みを見て危険を感じる。

 恐らく逃げきれない。

ならば何としてでも凌がなければいけない。

 そう覚悟した直後、土煙の中から望月が飛び出した。

「望月!?」

 望月は敵に飛びかかるように動き、デュバリィはそれの迎撃の為に剣を振るう。

 剣は望月の右肩を砕き、そのまま右膝関節から下を断つ。

だがその際に望月は爆砕を発生させ、敵をよろめかせる。

 土煙の向うに墜落する望月に「無茶しやがって!!」と声を上げるとその場を撤退する。

「嬢ちゃん! 一分稼いだぜ!!」

 その直後、光の柱が上がった。

 

***

 

 妖夢は楼観剣を上段に構え、刃に己の内燃排気と闘気を乗せて放っていた。

 青白く輝く流体の光は数十メートルまで伸び、周囲の大気が振動する。

━━なんでしょう? いつもと違うような?

 なんかやけに落ち着いている。

 怪我して、体力落ちて、色々と無駄な物が無くなっているからだろうか?

今目の前に見えるのは辺りを覆う霧と、地面一杯に張る水だ。

 とても静かで、無駄の無い空間。

 だけどどこか寂しさを感じる場所。

 ふと気が付く。

 自分の背後には霧が晴れた道が続いており、そこを通った覚えがない。

━━ああ、そうか……これが……。

 そう、“私”は通って無い。

だが他の人が、想いを託して繋げてきた人たちが作った道。

その最先端に私は立っている。

 だからこの先の霧を切り拓くのは私の仕事だ。

 何処に行ってもいい。

 大切なのは生きた道筋を残し、後に託す事。

━━だから、私は行きます!!

 この霧を払うために。

 魂魄妖夢という存在の道を残すために!!

「見えた! 魂魄の剣の一筋!!

断迷剣『迷津慈航斬・真打』!!」

 

***

 

「切り拓きましたのね!?」

 剣の道を行く者が抱える壁。

その一つをあの少女は今超えた。

 此方との戦いがきっかけか、また別の何かか。

兎も角あれは危険だ。

今までとは違う何か。

何としても止めなくてはならない。

━━まだ間に合いますわ……!!

 この距離なら発動前に潰せる。

 腰を落とし構えると跳躍を行おうとする。

「瞬迅……ちょ!?」

 地面から足を離した瞬間、足を掴まれ顔面から地面に倒れる。

「な、なんですの!?」

 慌てて顔を上げて足を見てみれば上半身だけの氏照が此方の足に組み付いており、“にやり”と笑みを浮かべた。

「━━氏テル、生キテル!!」

「あ! ちょ! こら! 卑怯ですのよーーーー!!」

 直後攻撃が叩き込まれる。

 光の刃は全てを包み込み、そして爆ぜた。

 




小田原崩し編もそろそろラストスパートです!
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