緋想戦記Ⅱ   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第三十三章・『鋼の翼』 私の計算は完璧です ええ そうですとも (配点:β)~

「お嬢様! 此方へ!!」

 加納に手を引かれ、息を荒げ、汗を流しながら必死に駆ける。

 ひたすら前を向き、時折聞こえる背後からの咆哮は聞かなかったことに……。

「出来るかあーーー!!」

 振り返れば犬型の大型戦闘魔獣が此方に向かって突撃してきており、周囲の物を全てなぎ倒している。

あんなものに捕まったら一瞬でお陀仏だ。

「なんか、謎の、デジャヴ、が!」

 小田原に来たのは初めてだし、小田原で追い掛け回されるのも初めてだ。

だがなんだろう、この懐かしさ……。

これでメイドが出てきたら完璧やねー。

「お嬢様! 現実逃避している場合じゃありません!!」

「は!?」

 いかん、思わず思考がパラレルワールドに行っていた。

「というか! なんか近くなってない!?」

「向うは獣ですから、人間よりも速いと判断します」

「冷静な解析有難う!!」

 というかヤバい。

 もうすぐそこまで来ている。

 魔獣が爪を振り上げ、此方の背中を狙い……。

━━あれ、滅茶苦茶痛いんやろうな!!

 振り下ろされた。

 その瞬間、横道から顎剣が飛来し、敵の脚を貫く。

 バランスを失った敵はそのまま前のめりに倒れ、それと同時に半竜が飛来した。

「悪逆必滅! 神罰必受!!」

 横から半竜の体当たりを喰らった魔獣は白目を剝いて吹き飛び、遠くの家屋に激突した。

 それを見届けると目の前に不転百足が着地し、此方を見る。

『あら? タイミングが良かったみたいね?』

「あ、ああ! 助かったわぁ……。あともうちょいでドックフードになるところやった」

『東側はだいぶ落ち着いて来たから中央の援護に向かう途中でね。西も何かあったみたいだしそろそろ反撃かしら?』

 その言葉に答えたのは半竜だ。

「中央さえ取り戻せれば反撃に移れるであろうな。だが問題は……」

━━あの船やわなあ……。

 仮に通神網を取り戻し、敵の地上部隊を押し返してもあの船が存在する限りいくらでも押し返される可能性がある。

『空港の方、襲撃してきている武神を片付けたら曳馬が離陸するらしいわ』

「……危険では?」

 加納の言葉に成実は頷く。

『危険だけど、このまま何もしないよりはって判断ね。曳馬離陸と同時に北条の艦隊や機鳳隊、そして空戦可能な人員はあの船を攻撃する予定よ』

 ふと先ほど走ってきた方を見れば戦闘人形達が此方に向かって来ており、結構な数だ。

「成実よ、半分は貰おう」

『Jud.、 じゃあ私は右を貰うわ』

 成実とウルキアガは互いに頷きあうと突撃を開始する。

 それを加納と共に見送ると「私らは劇場地区まで逃げるとしよか」と言い、大通りを駆けだした。

 

***

 

 敵の包囲を突破し、空港に到達すると里見・義康は空を見上げた。

 上空では地摺朱雀とアイオーンが戦闘を行っており、地摺朱雀の方がやや不利のように見える。

━━直ぐに助勢するぞ……!!

 アマテラスに格納庫へ向かうように指示を出すと前方から黄色の旗を掲げた集団がやってきた。

「里見の襲名者殿か!!」

 甲冑を来た男がこちらに頭を下げ、此方も慌ててアマテラスから降りると頭を下げる。

「地黄八幡殿、よくぞ御無事で!」

 男━━北条綱成は「あの程度、我らが敵ではない」と笑い、空港正門の方を指さした。

「我らはこれより正門前にいる敵に止めを刺すところだが……そちらは?」

「“義”の回収に。地摺朱雀の援護後、中央広場に向かう予定です」

「此方は小田原城門前に向かう! 武運を祈る!」

 駆けだした綱成達に「そちらも!」と伝えるとアマテラスに跨り直す。

「あともう少し、頼むぞ!」

 アマテラスが吠え、一気に加速した。

そしてあっという間に格納庫に辿り着くのであった。

 

***

 

 格納庫に辿り着くとアマテラスに礼を言い、そのまま飛び降りると駆け出す。

 そして中に入ると左手を外した“義”が佇んでおり、その足元には何人かの技術者たちが資材を動かしていた。

「“義”を動かすぞ!!」

 そう伝え、足元に駆け寄ると技術者の一人が「左手、修理の為に外してんぞ!!」と大声を上げた。

「右手があれば十分だ!!」

 戦えれば良い。

 今は一機でも多く味方な必要なはずだ。

 近くのリフトに乗り、上昇すると“義”の肩に飛び乗る。

すると先ほどの技術者が“義”の正面の壁を指さした。

「だったら短いの持っていけ!! 片手なら太刀より脇差の方が良いだろうからな!!」

 正面に立てかけられている武神用の脇差を一瞥すると「了解した!!」と返し、“義”の横顔を見つめる。

「さあ、行くぞ!」

 

***

 

 地摺朱雀は落下していた。

 地面に一直線に落ち、激突する寸前で飛翔器を展開させて体勢を立て直す。

そして倉庫と倉庫の間を飛翔すると上空が光った。

「右に避けろ! 地摺朱雀!!」

 十字路で咄嗟に右に曲がると周囲の倉庫を流体砲撃が貫き、爆発が生じる。

そのまま直進し、前方の開けた場所に出ようとした瞬間、影が降ってきた。

「……!! 防げ!! 地摺朱雀!!」

 上方を向き、両腕で正面を防御すると衝撃を受けた。

 蹴りだ。

 敵が急降下を行い、蹴りを放ってきたのだ。

 衝撃を受けた地摺朱雀は地面に背中から激突しそうになるが、飛翔器を最大に展開させ加速することによって持ち堪える。

そしてそのままの体勢で開けた場所に出ると上体を起こし、着地した。

 対して敵は蹴りを放った直後に変形を行い、急速に離脱する。

━━厄介さね……!!

 普段は機鳳型に変形し、高速移動を行いながらの砲撃。

 隙が出来れば変形して近接攻撃を仕掛けてくる。

 機鳳型の時は凄まじい速度で移動しているため攻撃を与えられず、接近してくるのは最低限の為反撃の機会が現れない。

━━少しでも軽くしないとダメそうさね。

 残っていた左腰のスカートを外すと飛翔し、移動を再開する。

『お手伝いが必要ですか?』

 表示枠に“曳馬”が映り、彼女に苦笑を送る。

「必要ない……て言えればいいんだがね、そうも言ってられないさね」

『でしたらこの案はどうでしょうか?』

 “曳馬”から送られてきた作戦を見ると頷く。

「やってみよう」

『では準備してお待ちしております』

 表示枠が閉じられると上空を見る。

 敵は依然として上空を旋回しており、此方の隙を窺っている。

━━さて、まずはおびき出さないとな……!!

 踵を返すと敵に背を向け飛翔する。

 敵が流体砲撃を放ってきたので即座に倉庫地区の道路に飛び込むと誘導を切り、逃れた。

━━そうだ、そのままついてきな!!

 上方から此方を追尾する敵を確認しながら曳馬が停泊している港へ向かう。

このまま素直について来てくれれば……。

「そうはいかないってかい!!」

 敵が急降下した。

 此方と同じ高度。

地面から五メートルと無い距離を保つと道路を一直線に飛行してくる。

 この先は道が細くなっている。

 敵の横幅なら激突する。

だが敵は速度を落とさず逆に加速した。

そして翼から流体の刃を出すと邪魔な両横の倉庫を薙ぎ払っていく。

━━追いつかれる!!

 そう判断すると空中で体を捻り、敵に正面を向ける。

そして近くの倉庫に壁を突き破り、飛び込むと立てかけてあった資材を掴んだ。

 そのまま横へ跳躍し、大通りに出ると構える。

 先ほど地摺朱雀が突き破った穴から敵が現れ突撃を仕掛けてくる。

それに対して資材を横に薙ぐが敵は空中で変形しながら此方の上を通過し、背後に回った。

「!!」

 背後から拳を突き出されそれに対して上体を捻りながら避ける。

 だが拳の先端が地摺朱雀の胸を掠り、僅かに装甲が砕けた。

「振り払え! 地摺朱雀!!」

 左肘を引き、敵の胴を穿とうとするが再び空中で変形し此方の背後に回る。

━━器用な奴さね……!!

 この強引な変形と軌道、やはり無人機か。

無人の高性能武神。

そんなものを開発し、量産しようとしている<<結社>>は一体何者だ?

━━余計な事考えている場合じゃないさね!!

 背後に回った敵は手の甲にある鉤爪で此方を抉ろうとしている。

 一発食らう事を覚悟で反撃に出よう。

そう覚悟した瞬間、横の通りから蒼の武神が飛び出し、飛び蹴りを敵に食らわした。

「“義”!? 里見・義康かい!!」

『Jud!! どうやらいいタイミングだったようだな!!』

 左手の無い“義”は此方の横に着地すると脇差を構える。

 蹴り飛ばされた敵は空中で姿勢を整え着地するが蹴られた箇所が歪み、わずかに火花を散らしているのが見える。

「どうやら速度の為に装甲を犠牲にしているみたいさね」

『なら、当てれば勝ちだな』

 敵は此方を一度睨み付けるように見ると変形し上空を逃れる。

それを見た義康は『速いな』と呟いた。

「あれを足止めする必要があるさね。里見・義康、手伝ってもらうよ」

 

***

 

 地摺朱雀が曳馬の停泊している方向へ、そして“義”はやや迂回するように移動を開始すると上空で様子を窺っていたアイオーンβは地摺朱雀の方を追跡し始めた。

━━狙いはあくまで地摺朱雀か……。

 敵の目的は四聖武神の情報収集、あわよくば捕獲か破壊と言ったところだろう。

 眼中に無いというように此方を無視されるのは少し癪だが、今の状況では好都合だ。

『……一撃与えられれば良い。その為のチャンスはあいつ等が作る。

だから私は……』

 信じて待とう。

 そう頷き、加速した。

なるべく物陰に隠れながら目立たないように、かつ急ぎつつ目的の場所に向かう。

そう曳馬が停泊している港へ。

 

***

 

 曳馬の甲板上で自動人形たちが慌ただしく動いていた。

 小田原のシステムが完全に落ちてしまったため船を固定しているアームなどは人力で外さなければいけなく、一部はしょうがないので壊して強引に動かしている。

「“曳馬”様、指示にあった即席弾頭の準備が出来ました」

「では直ぐに両舷の単装砲に装填をお願いします」

 「Jud.」と自動人形は頷き艦内に駆け戻ってゆく。

 それを見届けると表示枠を開き、直政と通神した。

「直政様、此方の準備は完了しました」

『Jud.、 こっちはあと三分くらいで着くさね!』

 東の方を向き、視界を拡大すると地摺朱雀が上空からの攻撃を避けながら此方に向かってくるのが見える。

 それから北東の方を見れば“義”も向かってきているのが見えた。

━━順調だと判断します。

 あとは此方が砲撃のタイミングを間違わなければ良い。

まあ、それに関しては大丈夫だろう。

私の計算は完璧だ。ええ、そうですとも。

「…………今から演算をしなおしますか」

「ひ、“曳馬”様! 時間が足らないと判断します!!」

「私がこの程度の計算に時間を掛けるとでも?」

 口答えしてきた自動人形に半目を送ると「な、何でもありません!!」と頭を下げてきたのでよろしい。

━━ふむ、計算しなおすとなると色々と芸術的評価などを狙ってみたくなりますね。

 やはりギリギリのタイミングで敵を攻撃する“映画的演出”が良いだろうか?

 いや、それはベタか?

「あの、“曳馬”様?」

 ここは冷静に、万全に構えて出来る自動人形(おんな)を演出するべきか?

「あ、あの!」

 ええ、そうですね。

私は知的冷静完璧無欠キャラで売り込んでいますから、ここは冷静に敵を迎撃しそれからドヤ顔で“私TUEEEEEE!!”演出をするべきだと判断します。

 さて、そうなると砲撃のタイミングだが……。

「“曳馬”様!?」

「なんですか? 今計算中を……」

「もう来てます!!」

 自動人形が指さす先、地摺朱雀が此方の上方を通過し、それをアイオーンβが追撃している。

その様子を確認して一言。

「あ、撃ってください」

 砲撃した。

 

***

 

 曳馬から放たれた砲弾が空中で爆発し、中からネットが飛び出すのを直政は見た。

 だが。

━━ちょっと遅くないさね!?

 タイミングがズレ、ネットが敵を捉えず、落下する。

 だが一発目に続けて即座に二発目が放たれ、二発目のネットはアイオーンβの全身を覆った。

『こんな事もあろうかと二発目を用意しておりました。流石は私と判断します』

 謎のドヤ顔をする“曳馬”の背後で自動人形たちが抗議の表情を浮かべている。

向うも色々大変そうだ。

主に上下関係で。

「まあ、何はともあれ」

 ネットを食らったアイオーンはもがき、背中の翼から放つ流体刃でネットを引きちぎり始めている。

「今だ!! 里見・義康!!」

 曳馬の後方から“義”が飛び出し、脇差を腰の辺りで構えながら突撃を行う。

 敵の懐に一気に飛び込み相手の胴を脇差で貫くと敵は苦しむように装甲を軋ませる。

『!!』

 上体を捻った敵は翼を“義”に向け流体の刃を放つ。

それに対して“義”も上体を逸らし避けると距離を取った。

『浅いぞ!!』

「こっちで何とかするさね!!」

 空中で体を捻りながら急旋回を行い、敵を正面に捉えると一気に加速する。

 ネットを引き千切り、此方の体当たりを避けようと敵は下がり始めるが。

「遅い!!」

 地摺朱雀は手を伸ばしアイオーンβの胴に突き刺さった脇差の柄を握る。

「引き千切れ!! 地摺朱雀!!」

 突進の勢いでそのまま脇差を押し、敵の胴を砕いていく。

 装甲が砕け、内部の部品が外へ飛び散り、一際大きな音と共に胴が破裂した。

そして中心から左腋腹にかけて裂かれたアイオーンβはゆっくりと大地に墜落してゆき、倉庫の上に落ちると天井を突き破り、消えた。

『仕留めたか?』

「ああ、あれは致命傷さ……」

 直後アイオーンβが墜落した倉庫から大爆発が起こり、慌てて“義”と共に急上昇を居行う。

爆発の衝撃と熱風と共に金属の破片が宙に舞い散り、幾つかが地摺朱雀の装甲にぶつかる。

そして炎に包まれる倉庫一帯を見下ろしながら額に浮かんでいた汗を拭った。

『…………自爆、か?』

「機密保持ってやつだろうね。まったく、抜け目の無い」

 敵の目的が情報収集ならまんまとしてやられたわけだ。

 もし、あの機体が量産されるなら今回よりも遥かに手強くなっているだろう。

━━まあ、今は考えても仕方ないか……。

 曳馬の方を見てみればどうやら拘束用のアームの解除が完了したらしく、周囲に仮想海を展開させ始めている。

 敵は依然として上空に存在している。

未知の技術を持つ航空艦。

だがこのまま守勢に回り続けているのは武蔵(私たち)らしくない。

「ちょっと脅かしてやるとするかい」

 

***

 

 <<方舟>>の艦橋で椅子に座りながらアイオーンβが自爆したのを知るとノバルティスは深くため息を吐いた。

「やはり量産型ではこれが限界かね?」

 地摺朱雀に積まれているという例の能力を見てみたかったが思わぬ邪魔もあり、その目的は達成できなかった。

━━いや、神格武装級武神二体を相手に良く戦った方かね?

 βからのデータは既に受け取っている。

 地摺朱雀と“義”の基本スペックは把握できたため今後の開発に活かしていけるだろう。

「さて……」

 戦況は此方が不利になり始めているが“目的”の達成まではあと少しだ。

 彼女が目的地に到着するのと同時に此方も撤退し、作戦を次の段階へ移行させるとしよう。

━━出来る事なら不確定要素をここで削っておきたかったがね。

 徳川、武蔵、鍵の少女。

これらを削り、計画の障害を取り除いておきたかったが逆に此方が主力を負傷させられた。

この事が後々どう響くかはまだ分からないが……。

━━まあそれは現場の人間に任せるとしよう。私たちは上から観察するのが仕事だ。

 さて、そうなると中央に固執するべきでは無いかもしれない。

 今中央広場には不確定要素が集まっている。

それらを排除しようとし、これ以上傷口を広げるよりもさっさと撤収してしまうのが賢明だ。

「夢美君。そろそろ撤収したまえ。目的は十分に果たした」

 地上で戦っている夢美にそう通神すると彼女は首を横に振る。

『まだγのデータを取りきって無いわ。あともう少ししたら撤退する』

「深入りはしないように。君の代えはあってもγの代えはないのだからね」

『……ふん。分かってるわ』

 通神を断つと「やれやれ」と苦笑する。

━━若いねえ。

 岡崎夢美。

 非常に優秀な人物だがやはり経験が浅い。

自分では冷静のつもりだろうが、かなり戦いに熱中してしまっている。

それが命取りになり、γを失わなければ良いが。

 「さてと」と思考を切り替えると立ち上がり、笑みを浮かべる。

「そろそろ撤収の準備を開始しようかね。敵に気取られないように戦闘人形と乗っ取った自動人形を突撃させ、その間に降下した兵士を回収する。

その後は……」

 大型表示枠に関東の地図を呼び出し、小田原から西の方を指さす。

「作戦の最終段階だ。最後の最後で詰めを誤らないように注意深く行こうとしよう」

 「了解(ヤー)」と部下たちが頷くと降下した部隊に指示を出し始める。

それを見ながら口元に笑みを浮かべた。

「楽しみだねえ。果たして少女は救世の鍵となるのか、ああ、実に楽しみだ」

 そう表示枠に映る比那名居天子を見るのであった。

 




空港での戦いの終わり。次の部隊は再び中央広場へ。
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