緋想戦記Ⅱ   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第三十四章・『赤の天才少女』 鋼に意思を宿して (配点:γ)~

「“非統一魔法世界論”ねえ……」

 冷房の効きすぎた会議室の中、私は一人俯いていた。

 周りの男たちは皆、私を好奇や軽侮の目で見ており、中には同情の目で見る者までもが存在した。

「岡崎教授。君の論文は良くできている。流石は最年少で教授になれただけはあるね。

だが……」

 その言葉の続きは予想できた。

「題材にしている物がおかしい」

 言おうとした事を先に言われた男はやや目を丸くし、その後に頷く。

「“この世には統一原理では説明できない力が存在しており、全てを魔力で統一出来る世界、その逆の世界、色々混在している世界も存在する”。

成程、実に面白い。ファンタジー話として聞けばだがね」

 「いいかね?」と男は続ける。

「この世界で説明できない物は無い。魔法や魔術といった物は昔の、まだ科学技術が発展していない時代の人間が発見した解析できない事象の事だ」

 火がそうだ。

 火が何故生じるのか分からなかった時代の人間にとって火は一種の魔法のようなものだっただろう。

古代には多くの魔法が存在した。

だが科学技術発達とともに魔法は原理に変わり、気が付けば“統一原理”などという物が提唱され、信じられるようになってしまった。

「ですが未だに魔法は存在しています。その中には我々の原理で解明できない本当の魔法がある可能性があります」

「確かにこの世界にはまだ解明できていない事象が多くある。

だがね? 夢美君? 我々に無理だとしても後の時代、更に技術が発達した時代ではそれも“原理”になっているだろうね」

 

***

 

「ああ!! 腹立つ!! あのおっさんども!!」

 大学の廊下を苛立ちながら歩き、思わず大声で叫ぶ。

 教室から生徒たちが此方を窺うが直ぐに“なんだ、岡崎教授か”と興味を無くした。

 まったく! あの老人たちは頭が固すぎる!!

 彼らの頭の中には“科学技術で解明できないことは無い”という大前提が出来てしまっており、その大前提から外れたものを認めようとしない。

 研究者たる者、柔軟な思考が重要だというのに!!

 私はありとあらゆる事象があると信じている。

科学、化学、物理学、生物学……そして魔術や平行世界。

そういった様々な物が存在しているからこそこの世界は動いているのだ。

「……やっぱりはっきりとしたデータを取れなかったのが痛いわね」

 ここ最近は平行世界の研究を中心に行っている。

 この世界は空間に浮かぶシャボン玉のような物であり、他にも似たような世界が存在している。

その世界は私たちに似たのもあれば働いている概念そのものが違う世界もある。

それぞれの世界にはその世界特有の波長があり、互いに影響し合っている。

 そういった波長を調査していたところ、この世界に近い場所に幾つか存在していた可能性が出てきた。

“出てきた”と言うのはその世界が既に消えてしまい、残滓のような物しか計測できなかったからだ。

━━何か一つでも残っていれば“非統一魔法世界論”を証明できたのに!!

 ああ、もう。

どれもこれも“統一原理”など愚かな理論を提唱した奴が悪い!

過去に戻れるなら亡き者にしてやろうか!?

「いや……そうするとタイムパラドックスが……」

 小さく呟きながら歩いていると大学の本館から別館に入るための渡り廊下に出る。

 そこからは中庭が見ることができ、木の下のベンチで黒い帽子を被った少女と金髪の外国人らしい少女がともに昼食をとっている。

 青春だ。

 ああ、私の青春。どこに行ってしまったの?

「研究一番!」

 邪念を振り払い、旧館に入った。

 

***

 

 旧館三階、その一番奥の突き当りに岡崎研究室は有った。

 所々に錆がある思いドアを開けると物が散らかった非常に狭い部屋が目に入る。

部屋の奥には机が二つとパソコン二台があり、まるで監獄のようだ。

「お、帰ってきた」

 机に私物を広げ、パイプ椅子に座った少女が此方を向く。

 北白河ちゆり。

岡崎夢美の助手にして、唯一の研究室メンバーである。

「どうだった……ってその顔見れば分かるか」

 ちゆりの横、自分の椅子に座るとため息を吐く。

その様子にちゆりは苦笑すると「あ、そうだ」と一通の手紙を取り出し、此方に渡してきた。

「なにこれ?」

「教授宛の手紙だぜ。差出人は……IAIの大城・一夫だってさ」

「……誰よそれ?」

 手紙を受け取り裏面を見れば確かに大城・一夫と書いてある。

IAIと言えば奥多摩にある大企業だ。

食品から家電製品まで幅広く取り扱っている企業であり、この研究室も幾つかIAI製の物を利用している。

「IAIが教授になんの用だ?」

「どうせ引き抜きでしょ? この私の天才頭脳を狙って」

「あー、まあ、教授が頭良いのは認めるぜ? 万年窓際研究員だけど」

 笑顔のまま立ち上がりパイプ椅子を持ち上げるとちゆりは「た、たんま!!」とドアの方に逃げる。

とりあえず持ち上げたパイプ椅子を下ろし、手紙をシュレッターに掛けるとちゆりは驚き「いいのかよ?」と訊いてきた。

「いいのよ。知らない奴からの手紙は無視する主義なの」

 手紙がシュレッターの中に完全に消えるとデスクと向かい合い、パソコンの電源を付ける。

 そんな事より研究だ。

 もしかしたら最初に見つけた世界以外にも平行世界があるかもしれない。

「ちゆり、今度長野県行くわよ」

「……へ? 旅行?」

「違うわ。知り合いから長野県にいわゆる霊力が集まっているボロ神社があるって聞いたからそこに向かうわ。

何か魔術や平行世界の手掛かりがあるかもしれないし」

「オカルトかー」とため息を吐くちゆりを睨み付けると彼女は慌てて「が、頑張ります!!」とガッツポーズをとった。

 ちょっと生意気だが割と頼もしい助手に小さく笑みを浮かべるとパソコンに画像を映す。

 先ほど話したボロ神社。

それを見ながら“本当に何か手掛かりが手に入ればいいわね”と思うのであった。

 

***

 

「叩き潰しなさい!!」

 腕部に内蔵した大杭(パイルバンカー)を射出し、足元に居る敵を潰そうとするが敵は散開し避けた。

 杭が大地を穿ち、地面が抉れ、周囲に岩が飛び散る。

 その衝撃を利用し茶髪の遊撃士が足元に飛び込み、右足首の関節に打撃を叩き込んだ。

━━小癪な!!

 この程度でγは破損しない。

だが蚊のようにチクチクと刺されては気分が悪い。

 頭部に備え付けられた対人用の機銃で敵を撃つ。

弾幕を遊撃士達は抜けると黒髪がγ背後の建物の壁に足を掛け、跳躍を行って腰の関節に斬撃を叩き込んだ。

━━一体何が目的かしら!?

 こんな事を続けても意味がない。

それは敵も分かっている筈だ。

まるで此方を挑発するような……。

━━…………そうか!!

「リアクティブアーマー、展開!!」

 リアクティブアーマーを展開した瞬間、直上から炎の柱が降った。

辺りを炎が包み込み、熱で近くの建物が炎上し鉄は融解する。

「炎の上位アーツ!! やってくれるわね!!」

 アーツを放ったのは<<殲滅天使>>だ。

判断が一瞬でも遅れていれば私はγの肩の上で消し炭になっていただろう。

<<殲滅天使>>は此方を挑発するように笑うと足元に飛び込み、連続攻撃をつま先に当てる。

攻撃が装甲に当たるのを確認すると彼女は跳躍し、距離を取り「その厄介なの、長くは使えないみたいね」と言った。

 その言葉に内心舌打つ。

 彼女の言った通りリアクティブアーマーを長時間展開する事は出来ない。

 オリジナルのγならそれが可能であったが、この機体は動力炉を改造した流体エンジンを搭載し全体的な出力が減っている。

その為リアクティブアーマー以外にも武装が幾つか変更・削除されているのだ。

 その例の一つとして動力炉から砲身までを直結させて放つ流体砲撃が行えなくなっている。

また、装甲も僅かにオリジナルに比べて薄くなっているが……。

「ただの劣化品で終わらせないのが私よ!!」

 γの背部装甲が開き、内部から十字型の浮遊砲台が現れる。

 全部で十個の砲台の内五台から砲撃が放たれ、周囲を爆撃した。

「あぶな!?」

 三人の敵はそれぞれ此方を囲むように散開し、それを砲台たちが追撃する。

これらは浮遊し自動的に敵を攻撃する防衛装置だ。

この兵器を使う事によってこのγは死角を補う事が出来る。

━━まあ、まだまだ問題もあるのだけどね。

 敵を追撃していた砲台がその動きを突如止め、此方に戻って来る。

それと入れ替えで待機していた残りの砲台が敵を追い、戻って来た砲台はγの背中に収納された。

 これらの砲台は本体からエネルギー供給を受けられない為、この様にして充電しなければいけない。

 もっと小型で大容量のバッテリーが開発できれば良いのだが……。

 黒髪の遊撃士が反転し、此方に向かってくると砲台たちが一斉に砲撃を行う。

空から降り注ぐ流体砲撃を掻い潜りながら黒髪の遊撃士は「クロノドライブ!!」と加速アーツを使用しγの股下を通り抜ける。

 γを盾にされた砲台は動きを止め、その間に黒髪の遊撃士が右足首の関節に何度も斬撃を叩き込む。

「踏み潰しなさい!!」

 そう指示を出し、右足を上げた瞬間に残りの二名が物陰から飛び出す。

「エステル!!」

 <<殲滅天使>>がそう声を上げると茶髪の遊撃士が頷き、その場で止まった。

そして彼女は棍を下の方で持つと突き出し、その棍の先端に<<殲滅天使>>が乗った。

「いっけえーー!!」

 そのまま右足を軸とし回転を行い、十分に加速を付けると<<殲滅天使>>を此方に向けて放つ。

 遠心力を得た<<殲滅天使>>は此方に一気に上空に飛び、浮遊砲台達の間に飛び込むと体を捻りながら大鎌を大きく振るう。

 鋼が砕けた。

 五つの砲台は瞬く間に砕き、断たれ大地に落ちる。

 敵の勢いは止まることなく此方の頭上に出ると大鎌を構えた。

「しまっ……!?」

 γは片足立ち状態。

いや、そもそも両足とも地に着いていても此方の命令から迎撃では間に合わない。

 大鎌の刃で肩から断たれる。

そう思った瞬間、突如γが後方へ加速した。

「!?」

━━なに!?

 驚いたのは敵だけでは無く、自分もだ。

突然γが後ろへ跳躍し、後方の建物を砕きながら着地して行く。

 得物を逃した<<殲滅天使>>はそのまま落下していくが、地面で茶髪の遊撃士に受け止められ助かる。

「…………」

 自分は後ろへ跳躍するように命令していない。

ではなぜγは突然動いたのか、それは……。

 

***

 

「あの子……生きてるわ」

「え?」

 地面に下されたレンはそう呟くと建物に半分埋まったγを見上げる。

「今の、あの子の意思で彼女を守ったわ」

「それって……つまり」

 エステルの言葉に頷くとゆっくりと息を吐き、武器を構えなおす。

「アイオーンシリーズには人工知能が搭載されているけど、あのγは他のと少し違う……そんな気がするの」

 γが主を咄嗟に守った時、一瞬だけ<<パテル=マテル>>の姿と被った。

━━やり難いわね……。

 あれは<<パテル=マテル>>じゃない。

むしろ仇の模造品だ。

その事は理解している筈なのにどうにもやり辛くなった。

━━彼女は気が付いているのかしらね?

 自分の機体が“特別”になりつつある事に。

「……だからと言って手加減はしないわ」

 自分に言い聞かせるように言う。

 エステルもそれに黙って頷き武器を構えた。

 

***

 

「は? 人工人格を作る? 人工知能じゃなくて?」

 <<方舟>>の格納庫の中で未完成のγを見上げながらちゆりはそう眉を顰めた。

「ええ人工知能のさらに上、人格を作るのよ」

 「んー……」と腕を組み唸るちゆりに「何か不服でも?」と聞くと彼女は「それ、<<パテル=マテル>>に対抗してって事か?」と訊いてくる。

「……それもあるわ。<<パテル=マテル>>には確かに人格が形成されていた。

魔術と科学の結晶。それを私の手で再現する……いや、更に昇華するのが私の目標よ」

 魔導科学。

それをこの世界で見つけ、いつか元の世界に戻った時に再現できれば……。

「一応聞くだけ聞くけど、何か反論は?」

「じゃあ言うだけ言うぜ。兵器に人格とか搭載しない方が良いんじゃないかってね」

「はい、聞いたわ。で、ちゆりの意見はスルーね」

 「はいはい」と苦笑するちゆりに此方も笑みを送るとまだ光の灯っていないγの目を見る。

 兵器に人格を搭載すれば不確定要素が生まれる事になる。

だが嘗てオリジナルのγと<<パテル=マテル>>が交戦した時、<<パテル=マテル>>は主を守る為に性能が遥かに上のγと相討ちになった。

 可能性を否定しない。

それが私のスタンスだ。

だからこの子にも可能性を与え、その結果を見届けてみたい。

「まあ、まずは完成させるところから始めないとね」

 そう言うと口元に笑みを浮かべ、強く頷いた。

 

***

 

 γが建物からゆっくりと出てくるのと同時にヨシュアが此方に合流し「あと少しだと思う」と言った。

 γが大きく右足を上げ、一歩前に出ると地響きと共に建物が崩れる。

 敵に目立った損傷は特になく、逆にこちらはそろそろ体力も内燃排気も辛い。

だが……。

「今までの仕込み、そしてさっきの強引な跳躍による負荷。そろそろ決め時だね」

 ヨシュアの言葉に頷く。

 肩に乗っている岡崎夢美からは見えないだろうが、私たちにははっきりと敵の損傷が見える。

あともう一押しで逆転もしくは勝利できるかもしれない。

「最後の一手、私がやるわ。ヨシュアとレンは援護をお願い」

 二人が頷くと三人で巨大な敵と相対する。

敵は強大だ。

だが此方には心から信頼できる家族が居る。

「さあ! みんな、行くわよ!!」

 掛け声と共に敵に向かって突撃を開始した。

 

***

 

「迎え撃ちなさい!!」

 残った五つの浮遊砲台を展開し、更に肩に装備されているミサイルポッドのハッチを開く。

出し惜しみはしない。

残る力を全て攻撃につぎ込み、敵を粉砕する。

 浮遊砲台による砲撃が開始されると三人は三方に分かれ、黒髪の遊撃士が右へ、<<

殲滅天使>>が左、そして茶髪の遊撃士が正面から来る。

 砲撃をすり抜け迫って来る敵を迎撃するため全方位にミサイルを放つと茶髪の遊撃士がエニグマを構えた。

「アダマスシールド!!」

 三人を障壁が多い、ミサイルの爆発を防ぐ。

そして爆炎の中から黒髪の遊撃士が飛び出し手に持っていた双剣を浮遊砲台に投げつけ、二機が破壊される。

更に今度は<<殲滅天使>>が飛び出し、大鎌をブーメランのように投げると三機を砕いた。

━━やってくれる……!!

 浮遊砲台を一気に無効化された。

 だがまだ此方にはミサイルや対人用の機銃。

そして格闘専用の武器がある!!

 茶髪の遊撃士が最後に飛び出してきたのを視認すると機銃を放つが、遊撃士は棍を自分の前で回転させ弾丸を弾きながら突き進んでくる。

そのまま彼女はアイオーンの股下に入ると急ブレーキを掛け、腰を落とすとγの右足首に棍を突き出す。

「いっくわよー!! <<真・烈波無双撃>>!!」

 一度目の突きが弾かれると即座に次の突きへ。

高速の連続突きを叩き込み続け、そして最後に体を捻り、回転力を掛けて打撃を放った。

 凄まじい振動がγの肩にまで響き、焦りと共に大声を上げる。

「無駄な事を!! 蹴りなさい!!」

 γが左足を上げ、蹴りを放とうとした瞬間に異変は起きた。

 何かが砕ける音。

それに続いて生じる振動。

そして最後にはγの体が大きく揺れた。

━━何が……!?

 突如バランスを崩したγは前のめりに倒れ始め、完全に倒れる前に両膝を着いて姿勢を安定させた。

 何が起きた!?

 先ほどの音と衝撃、何かが砕けた。

「まさか……」

 目を見開きγの足首を見てみれば足首の関節に大きな亀裂が生じており、亀裂の内部からは火花と煙が噴き出ている。

━━あいつら!! 同じ個所を……!!

 重装甲のγにとって関節部は弱点だ。

だがそれでも普通の武神に比べて耐久値は高くちょっとやそっとの事では破損しない。

 ではなぜこのような事が起きているのか。

理由は簡単だ。

 敵はひたすら同じ個所を攻撃してダメージを蓄積していたのだ。

 だが彼らの攻撃だけでここまでダメージを受けない。

━━そうか……あの時、無理な着地をしたから!!

 γが私を庇うために行った跳躍。

それによって足首に大きなダメージを受けてしまったのだ。

そしてそのまま戦闘を再開し、先ほどの一撃が止めとなった。

━━なんて馬鹿な事を……!!

 敵の狙いは明白だった。

なのに気が付かなかったのは自分がいつの間にかに冷静さを失っていた証拠だ。

 後悔するのは後だ。

今は兎に角立て直しを……。

「チェックメイトよ」

 目の前に死神を降りた。

 白い衣服を身に纏った死神は黄金の瞳で此方を見据え、大鎌の刃を此方の喉に軽く当てる。

「…………あ」

 死ぬ。

 殺される。

 その事に鼓動が跳ね上がり、言葉に詰まる。

 ここで終わり? こんな呆気なく?

━━いや、でもこんなもんか……。

 色々と悔いはあるが受け入れるしかない。

目蓋を閉じ、諦めの笑みを浮かべると鎌が動くの感じられる。

「あ、イチゴ食べたかったな……」

 死神によって終わりが告げられる。

そう思った瞬間、ちゆりの声が響いた。

『ちょぉぉぉぉっと、まったあああああああああ!!

交渉だ! 交渉しようぜ!!』

 

***

 

「……交渉?」

 夢美の右方に浮かぶ表示枠に映った金髪の少女に怪訝そうな表情を送ると金髪の少女は頷いた。

『ああ! 交渉だ! “封龍柱”の停止方法を教える!! だから教授を殺すのを止めてくれないか!!』

「ちゆり! あんた、何を言って……!!」

『教授は黙っててくれ!!』

 『どうだ!?』と強く訊いてくるちゆりに対してしばし沈黙するとエステルたちの方を見る。

 二人は頷き、それに「甘いわね」とため息を吐くと大鎌を敵の首から退かした。

 ほっと胸を撫で下ろすちゆりに一瞥すると改めて夢美と向かい合う。

「……何よ」

「敵に向かってこんな事を言うべきじゃないのでしょうけど、帰ったらこの子を労わってあげなさい。

この子、ずっと貴女を守ろうと必死に戦っているんだから」

 γは先ほどからずっと此方を睨み付けていた。

 主を害する事は絶対に許さない。

この鋼鉄の巨人はそう示している。

「岡崎夢美。この子は“生きている”。

もしそれが貴女にとって大切な事ならヨルグというお爺さんを探しなさい。

そして彼と会って何かが掴めたら身の振り方を考えるといいわ」

 そう言うとγの肩から飛び降り、エステルたちの近くに着地する。

 このγが今後どうなるのかは岡崎夢美次第だ。

だがなんとなく良い方に行く予感がした。

それは彼女とγに自分と<<パテル=マテル>>を重ねたからかもしれない。

「……本当に、甘くなったわね。私」

━━でも、これでいいのよね? <<パテル=マテル>>?

 そう心の中で訊きながら跪くγを見上げるのであった。

 

***

 

 ちゆりが遊撃士達に“封龍柱”の停止方法を送るのを表示枠越しに見ながら岡崎夢美はγの肩の上で体育座りをしていた。

「あんた、只じゃすまないわよ。上の連中にどう処分されるか……」

『あー、その件なんだが多分大丈夫だぜ?』

「は?」

 ちゆりは苦笑すると頷く。

『どの道“封龍柱”は停止する予定だったから、まあちょっと予定を早めただけだからなあ。

あ、ちなみに博士には許可とってあるぜ。

博士曰く“そのγを失うのは非常に勿体ない。試作品の柱一本とγなら安いものだろう。ちなみに柱を停止するとちょっとしたサプライズがあるよ!”との事。これ、完璧に教授の事、考えてないよなー』

 『流石マッドサイエンティスト』と親指を立てるちゆりを見てどっと疲れが押し寄せる。

━━あー、格好悪い……。

 一人で粋がって、負けて、見逃されて。

穴があったら入りたい。

「……帰ったら修理してあげるからね」

 此方をずっと見ているγに対してそう呟くと僅かにγが頷いたような気がした。

 しかし<<殲滅天使>>が最後に言っていた言葉。

“ヨルグに会え”か……。

 ヨルグ老人についてはある程度聞いている。

私とγがどうしていけばいいのか、本当に彼に会えば分かるのだろうか。

『あ、ちなみに』

「なによ?」

『例え処分される状況でも、私は教授を守ったぜ』

 『だってな』と笑みを浮かべる。

『私は教授の事を一番信頼している世界で一番の助手だからな!』

「ば、ば……!?」

━━馬鹿じゃないの!?

 ちゆりの恥ずかしい言葉に思わず俯く。

 まったく、まったく、本当に恰好の悪い。

こんな恰好が悪いままではちゆりの教授として示しがつかない。

 立ち上がり、背筋を伸ばすと強気な表情を浮かべる。

「さあ! あいつらに情報送ったら帰るわよ!!

γの修理に今後の改良の考案、やる事はいっぱいあるんだからね!!」

 見下ろした先、<<殲滅天使>>と目が合う。

 次に会う時は敵か味方か。

それはまだ分からない。

ただ今は兎も角……。

「ふん! 天才教授様のご帰還よ!!」

 




前半は本編に絡まないちょっとしたクロスオーバー。次回はロイドや天子たちの戦いへ。
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