突如現れた蠍型怪魔は尾を垂直に上に伸ばすと大地に叩き付けた。
そして大きく唸り声を上げると此方を正面に捉える。
━━新型の怪魔で御座るか……。
見た目は蠍をそのまま巨大化させたような姿であり、体色は他の個体と同様に白色だ。
だがこの怪魔は他とは違う事が分かる。
まず体だが、怪魔は普通ゴム状の皮膚に覆われている。
しかしこの個体は全身を甲殻で覆っているのだ。
そして何よりも……。
「……顔がある!!」
怪魔の正面。
そこには苦悶を浮かべる人面の様なものが埋め込まれていた。
顔つきの怪魔は以前天子たちが遭遇している。
その時は巨人の様な怪魔だったというが。
「ミトツダイラ殿!! ここは拙者たちに!!」
今は考えている場合ではない。
敵は着地によって僅かに隙が出来ている。
その間に何人かを遺跡の入り口に突入させる事が出来る。
「Jud!!」
向うも同じことを考えていたらしく此方が声を掛けるころには第五特務が姫と王、そして正純を連れて走り始めている。
更にそれを援護するように天子たちも動き始めている。
「ァ、ァァアアアア!!」
遺跡の入り口に向かい始めた第五特務を狙おうと怪魔が動き始めるが横から砲撃を喰らい、怪魔が動きを止める。
その隙を突いて敵の背後に回り込み、正面には宗茂が立った。
更に両側面に忍者と銀が回り込み敵を囲むと蜻蛉スペアを構えた。
「さて、拙者たちが相手で御座るよ!!」
***
「……ん?」
遺跡の入り口に到着し、中に入ると直ぐに違和感を感じた。
外とは違う何か異質な雰囲気。
巨大な洞窟の奥からあふれ出る気の様な物。
「どうかしましたの?」
隣に立っていたミトツダイラに声を掛けられ、軽く首を傾げながら答える。
「なんか、変な感じがして。えっと、まるで世界が変わったかのような」
『こちらで確認したところどうやらその洞窟は通常とは違う地脈の流れ方。属性が働いているようです』
表示枠が開き、浅間がそう言うとホライゾンが質問した。
「属性とはまたRPG的な。この場所では具体的にどのような事が起きるのでしょうか?」
『この世界の地脈には四つの属性がありまして、通常では地・水・火・風の属性が働いています。
パチュリーさんの魔術やメアリの精霊術などはこれらの属性精霊の力を借りたものですね。
えっと、それでその洞窟なのですがどうやら四属性に加えて別の属性が働いているようです』
「俺達の世界でも似たようなことがあった。古い遺跡には上位三属性、時・幻・空の属性が働いているんだ」
ロイドの言葉にゼムリア出身組が頷き、浅間が『上位三属性と照らし合わせてみます』と頷く。
違和感はそれか。
剣によって気質を操っているため属性の変化には敏感なのだ。
「んで? 別の属性があるとなんか問題なんか?」
『何が起きるのかが分からないというのが問題ですね。そこは完全に未知の領域です。
属性がどのように影響を及ぼすのか不明です。
ですので皆さんの状態を此方で常にモニタリングしておきます』
「分かった。浅間、博麗先代と連絡をとっておいてくれ。
この遺跡の状態の事を関東連合が把握しているのか知りたい」
正純の言葉に浅間は『わかりました』と答えると表示枠が消える。
浅間の言った通りならこの先は危険な場所かもしれない。
だが。
「進もうぜ」
馬鹿がそう言って歩き出し、皆もそれに続く。
ここまで来た以上後戻りは出来ない。
この先に何が待ち構えていようが私たちは進むだけだ。
皆がそう思いながら洞窟を下って行くのであった。
***
曳馬甲板に着地したトロイメライが腕を動かし始めるのを見るとパチュリーは急いで起き上がった。
敵は旋回をしながら腕を振り回し、横に薙いでくる。
━━不味い!!
腕の直撃コースに起き上がる最中のティオが居た。
慌てて甲板に手を付け、魔術を発動させる。
「エメラルドシティ!!」
ティオの前に四本のエメラルドの柱を召喚すると敵の横薙ぎを止めようとする。
白い鋼とエメラルドの柱が激突し、衝撃と共にエメラルドの柱が砕け散った。
「!!」
その衝撃でティオが後ろへ吹き飛び、甲板から落下する。
「天狗!!」
「分かってる!!」
落下したティオを追いかけはたてが飛び出し、空中でティオをキャッチした。
彼女が無事であることを確認すると安堵のため息を吐く。
トロイメライが大きな足を動かし、此方を正面に捉えた。
敵は古代兵器一機。
対して此方は……。
「四人がかりかしら?」
「いえ、六人がかりです」
艦内から機関銃を手に持った“曳馬”と人形を連れたアリスが現れ、さらにはたてとティオが甲板に戻る。
皆で敵を囲むように動くと敵との距離を取り、動きを止める。
そのまま暫く沈黙しているとトロイメライが動いた。
向かい合っていた此方を狙った突進。
それと共に甲板上での戦いが開始された。
***
━━向うは向うで任せるしかないか。
地上から曳馬甲板を見上げるとミュラーは抜刀する。
そして正面から迫って来る巨影を睨み付けた。
飛来してきたトロイメライ同様、正面から来る機体も所々損傷しているようだ。
恐らく此方に来る前に怪魔と交戦していたのだろう。
それは此方にとって幸いな事だ。
万全な状態のあの機体の性能は知っている。
少しでも損傷していてくれれば戦いやすくなる。
「さて」
余計な事を考えている場合ではないな。
ゆっくりと息を吐き、意識を向かってくる敵に集中させる。
今、自分は陣地の外に一人立っている。
陣地の中で戦えば通神設備が破壊される危険性がある。
故に広いこの場所で戦う事を決めたのだ。
まずは足を止める。
敵をこのまま突撃させるわけにはいかない。
トロイメライが迫って来た。
5(フュンフ)。
剣の柄を両手でしっかりと握りしめ、体の正面で構える。
4(フィーア)。
敵との距離感をもう一度測る。
3(ドライ)。
敵は間近に迫っている。大きく息を吸い、いつでも動けるように左足の踵を上げる。
2(ツヴァイ)。
敵は眼前だ。凄まじい飛行音と衝撃を肌で感じる。初動はゆっくりと体を動かし。
1(アイン)。
横に動いた。敵の左側面に回り込み剣を振るう。
「ここだ!!」
穿った。
トロイメライの飛翔器。その付け根を穿ち、砕く。
飛翔器を砕かれた敵は空中でバランスを崩し地面に墜落して転がる。
そして数百メートル先の地点で土埃を舞い上げながら停止した。
「う、わ。本当に止めちゃいましたよ!?」
「これがヴァンダール流……。お見事です」
陣地の中からアデーレと妖夢、そしてレンが飛び出し敵を囲む。
「まだこれからだ」
墜落によってダメージを受けたようだがトロイメライは立ち上がり武装を展開させ始めている。
「あのまま壊れておけば面倒じゃないのにね」
レンがそう軽口を叩くとアデーレも笑みを浮かべる。
「まあまあ、私たちの活躍の場が出来たという事で」
「未熟な身ですが全力でこの敵を討ち果たします」
頼もしい仲間たちの言葉に頷くと剣を構えなおす。
さあ、やるぞ。
「英国大使護衛ミュラー・ヴァンダール。参る!!」
名乗ると同時に動き出し、トロイメライも迎撃を開始した。
***
前線指揮を執りながら浅間神社の巫女からの連絡を受けた先代は眉を顰めた。
浅間神社の巫女の報告によると遺跡内部で上位三属性が発生しているらしく、武蔵勢がそんな遺跡への突入を開始した。
━━いったいどういう事……?
以前は遺跡に上位三属性など発生していなかった。
怪魔の出現に関係しているのか?
それとも別の何かか……。
「先代様! 敵が来ます!!」
術式盾を持ちながら前進していた兵士の内の一人がそう大声をあげ、部隊の動きが止まる。
前方を見ればクーガ型の敵群が此方に向かって来ており、中にはドラゴン型も数体混じっている。
「全員、停止!! 射撃部隊、構え!! 陰陽術師隊、行け!!」
部隊後方で待機していた博麗神社から合流した陰陽師たちが一斉に鳥型の式神を放ち、流体の鳥が空に舞い上がる。
そして敵群の直上に行くと体の一部を分離し、落下させた。
分離した体の一部は流体の爆弾となり怪魔たちを爆撃して行く。
「撃ちなさい!!」
動きが一瞬止まった所に射撃部隊による一斉射撃を叩き込むと多くの敵が倒れた。
だが。
「突破してきます!!」
敵の数が多い。
爆撃と射撃だけでは倒しきれないのだ。
射撃部隊は即座に二回目の一斉射撃を放つと後退し、入れ替わるように近接戦闘部隊が前に出る。
「ド、ドラゴン型はちょっときつくないか!?」
「馬鹿野郎!! 根性だ、こんじょ……うおおおお!?」
ドラゴン型の怪魔が術式盾に体当たりし、何人かが吹き飛ばされる。
敵がそのまま一直線に此方に向かってくるのを視認すると構えた。
「『筋力強化・剛』!!」
跳躍を行い、ドラゴン型の頭上へ。
そしてそのまま踵落としを放つと敵の上部を穿った。
頭上から攻撃を受けた敵は地面に叩き潰され、そのまま動かなくなる。
倒れた敵の背中に着地すると此方を見て「さ、流石です」と言っている兵士たちに指示を出す。
「立て直しなさい! 陰陽術師隊と射撃部隊はドラゴン型に集中攻撃! 近接戦闘部隊はクーガ型の排除!!」
「「Tes!!」」
リヴァイアサン型の一撃によって一時は士気が大幅に低下したが武蔵勢が遺跡に到着した事や空軍の奮戦によって立て直し、部隊は最高の状態だ。
━━この調子を続けなければね。
敵には数で劣っている。
士気が低下してしまえば一瞬で戦線は崩壊するだろう。
そうさせないためにも……。
「暴れさせてもらうわ!!」
そう言うと敵の中に飛び込んだ。
***
驪竜は機竜隊の追撃を振り切るとリヴァイアサン型の頭部に着地した。
最初の頃は機竜どもをなぎ倒すのが楽しかったがこう引っ切り無しに来られると面倒臭くなってくる。
最後に五機ほど潰したのでその場から離脱し、休憩できそうな場所に戻ってきたのだ。
「あー、疲れた。あれね、ここ最近運動していなかったから鈍ってるわ」
そう笑いかけるが相手からの反応は無い。
リヴァイアサン型怪魔の額に立つ真っ白な少女。
自分が作り出した人間型の怪魔はただ戦場を眺めているだけだ。
うん、少し無口に作りすぎたか?
いや、でもおしゃべりは面倒だし色々と厄介そうだしなあ。
人間ベースの奴一号はちょっと馬鹿すぎた。
今は出雲・クロスベルの方でお留守番中だ。
二号は遺跡入口にサプライズプレゼントとして置いておいたがあれは兵器として特化させたからそもそも知性が無い。
で、三号がこの娘なんだが……。
━━ちょっと“与えすぎた”かしら?
人格形成時に壊れてしまったらしい。
まあ他の個体よりも高性能で知能もあるからこうやってリヴァイアサン型の制御ユニットにしている。
さて、休憩を終えたらどうしようか?
何か忘れているような……。
「うーん」と唸って考えていると三号ちゃんが下を指さした。
下? 下になんかあったっけ?
「あ゛!!」
ヤバい。
概念核取りに来たんだった。
“白”の奴はもう遺跡に入っているだろう。
三号曰く緋想の剣の使い手も遺跡に入ったらしい。
「思い出した事だし、さっさと行こうかしら」
それにしても“白”と緋想の剣の使い手、そして自分が揃うのか。
これはもしかしたら……。
「ここで出来ちゃうかもねえ」
そう口元に笑みを浮かべるとリヴァイアサン型の頭部から飛び降り、崩落富士に向かうのであった。
***
洞窟の中は関東連合によって舗装されており思ったよりも歩きやすかった。
壁には蛍光灯が設置されており長く巨大な洞窟を延々と照らしている。
洞窟の広さは竜族が二人並んで歩けるぐらいであり、この遺跡へと向かう道を作ったのが巨大な存在であることが分かる。
「いったい、どこまで続くのかしら?」
「遺跡は富士山の中心にある筈だ。結構歩いて来たから、そろそろだと思うけど……」
エリィとロイドの会話を聞きながら緋想の剣の柄に左手で触れる。
ここに来てから妙な感じが続いている。
緋想の剣を通じて流れてくる気というか力。
それが徐々に強まっているのだ。
「……出口か?」
先頭を歩いていたノリキの言葉を聞き、全員が前を見る。
坂の先に洞窟の出口の様な物が見え、金属の様なタイルが蛍光灯に照らされて見える。
誰ともなく駆け足になり坂を下り始めると出口がはっきりと見えて来た。
「これは……」
空洞だ。
崩落富士地下に存在する巨大な空洞。
天井は見ることが出来ず。空洞の面積は数十平方キロメートルほどありそうだ。
そして何よりも驚くのが……。
「これが……遺跡?」
空洞には巨大な建築物が幾つも存在していた。
そのどれもが金属の様な物で出来ており、表面を青い流体のラインが走っている。
「それで、概念核ってのはどこにあるんだ?」
「まあ順当に考えたら……」
真っ直ぐ指差した先、空洞の中央に巨大な神殿の様な物が存在していた。
***
神殿の入り口に近づくとその巨大さに驚く。
屋根は遥か上でありここからでは見ることが出来ない。
「一体いつ建造されたのでしょうか?」
神殿の柱に触れながら衣玖がそう呟く。
「かなり前の遺跡の筈だけれども、まったく朽ちていない。
僕たちの知らない技術が使われている事は確実だろうね」
「それってリベル=アークみたいな?」
「うん」とエステルの言葉にヨシュアが頷くとホライゾンが「おや?」と立ち止まった。
「ん、どしたよ? ホライゾン? もしかしてトイレか!! トイレなのか!?
……うご!?」
「トイレなら小田原でスッキリ済ませました」と馬鹿の顔にストレートパンチを叩き込んだホライゾンは自分の表示枠を指さす。
「通神が出来ません。皆様はどうでしょうか?」
「え? ほ、ほんとだ!?」
皆、通神をしようとするが繋がらない。
ロイドがARCUSを開いて使ってみるが繋がらなかったらしく首を横に振った。
「なんでェ? 何が起きてんだァ?」
「通神障害か? 例の属性とやらのせいで」
「どうする?」と顔を見合わせているとアマテラスが神殿の入り口に向かって歩き出し、唸り声を上げる。
「いる。二人だ」
イッスンの言葉に全員が緊張し、武器を取り出す。
「……行きましょう」
目の前にある巨大な扉。
その前に全員が立つと扉が低い音を鳴り響かせながら開き始めるのであった。
***
扉が開かれると皆は一斉に神殿の中に飛び込んだ。
外観と同様に神殿内部は巨大であり、大きな広場の様になっていた。
内壁は材質不明の白い金属が青く光っており、天井には幾つもの流体のラインが走り幾何学的な紋様を浮かべている。
いったい何のための施設なのか……。
そう思っていると正面で動く二つの姿があった。
「…………!!」
台座の様な場所の前に立つ二人の女。
一人は騎士だ。
確か妖夢と戦ったという<<結社>>の騎士、デュバリィ。
そしてもう一人は……。
「やはり来ましたか」
鼓動が跳ね上がった。
以前一度だけ、伊勢海戦の前日に見た姿。
白く長い髪。
紅い瞳の仮面。
全身から異質な気配を放つ少女。
“白の巫女”がそこに居た。
「ようこそ、剣の担い手。滅びし竜の砦、約束の地へ」
そう“白の巫女”は仮面越しに笑みを浮かべた。
新年あけましておめでとう御座います。本作もようやく(?)世界の謎に触れ始めてきました。今後もまだまだ続きますが、どうかこれからもよろしくお願いいたします。