緋想戦記Ⅱ   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第四十八章・『終焉の阻止者達』 まだ何も分かっていない。だから……。 (配点:止めてみせる!!)~

 

 初めは僅かな振動であった。

 すこし揺れたかと思う程度の振動は徐々に大きくなって行き、ついには立つことも難しくなってくる。

━━何事で御座るか!?

 遺跡入口で結晶化怪魔と交戦していた二代たちは異変を察知し、敵を警戒しながら急ぎ遺跡入口から距離を取った。

その直後、大地が割れた。

 大地に亀裂が走り、割れてゆく。

亀裂からは三色の流体光が溢れだし、空へと昇ってゆく。

「退くぞ!!」

 “銀”がそう言うと皆は頷き、撤退を始める。

 その時に遺跡の入り口を振り返れば蠍型の怪魔が山を登っていくのが見えた。

 

***

 

━━これは一体……!!

 光に包まる崩落富士を見て先代は息を呑んだ。

 何が起きているのかは分からない。

だがこれはきっと良くない事だ。

そう巫女の勘が告げる。

『地脈の暴走です!! 上位三属性が暴走しぶつかり合って地脈から溢れ出ています!!』

 浅間神社の巫女の言葉に冷や汗が流れる。

「このままじゃこの一帯が吹き飛ぶわね」

『Jud.、 此方も既に避難を開始しています。そちらも撤退してください』

「ええ、怪魔たちをどうにかしたら……」

 そう言っている最中に怪魔たちが一斉に引き始めた。

陸にいる怪魔たちはあちこちにできた亀裂に飛び込み、空にいる個体は崩落富士上空へと退いて行く。

「な、何が起きているんだ……?」

 兵士たちがその光景に固まる。

 退いた? いや、これは……。

「自分たちを地脈と一体化させて暴走を激化させるつもりね!! 綱成!!」

『分かっている!! 既に輸送艦隊が降下を開始している! 急ぎ撤退しろ!!』

 間に合うか!?

 暴走した地脈は今にも爆発しそうになっている。

 今から艦隊が全速力で離れても爆発に巻き込まれる可能性が高い。

━━怪魔の狙いは崩落富士の破壊だというの!?

 兎も角今は……。

「総員、てっ……」

「先代様!! リヴァイアサン型に動きが!!」

「!!」

 兵士の言葉に崩落富士上空を見ればリヴァイアサン型怪魔がその体を曲げ始め、円を作り始めている。

その光景を見てもう一度綱成に通神をしようとすると一通の通神文が届いている事に気が付いた。

 

***

 

 白の巨体がゆっくりと体を曲げる。

 崩落富士を囲むように曲げるとリヴァイアサンは巨大な顎を開く。

そして眼前にある自分の尾を口の中に入れると喰らいついた。

 自分の尾を喰らったリヴァイアサンは円環状となり、体から生える幾つもの羽を大きく展開した。

その直後、変化が生じた。

 白かった体色は頭部と尾から黒色に変化していき円の内側の体表から幾つもの黒色の結晶石が伸びてゆく。

まるで一つの装置の様に竜は変形すると竜は沈黙した。

 それから少しすると再び異変が生じた。

 地脈から溢れ、崩落富士を覆っていた流体が一斉に上へ伸びリヴァイアン型怪魔の内側中心で収束し始めた。

 流体は極限まで収束し、その光を徐々に暗いものへと変えてゆく。

 そして、歪んだ。

 天が荒れ狂う海のごとく歪み、その歪みの中から何かが溢れはじめる。

 それと共に崩落富士全体に亀裂が走り、砕けた。

 崩落富士を形成していた岩石は宙に浮き、周囲の大地も砕けて浮遊して行く。

山が完全に消滅すると地下から現れた物がある。

 遺跡だ。

 巨大な砦のような遺跡が浮かび上がり、地上から千メートルあたりで固定される。

そして遺跡に地表にある建物が次々と砕け、大地と同じように浮遊するのであった。

 

***

 

「崩落富士周辺に展開していた全航空部隊との交信途絶!!」

「時空崩壊、なおも拡大!! このあたり一帯の地脈が吸い上げられています!!」

 けたたましく警報の鳴る<<方舟>>の艦橋の中でノバルティスは笑みを浮かべながら崩落富士上空を映す表示枠に食い付いていた。

「おおおおお!! 素晴らしい!! 向う側が見えるかもしれない!!

もっと近づいてみたまえ!!」

「これ以上近づくのは危険です!! 吸い込まれる可能性があります!!」

「ぬう……では、無人の観測機を出したまえ。地上部隊の方はどうなっているかね?」

「既にほとんどが飛空艇に搭乗し撤収を終えています。アリアンロード様は巫女殿の援護に向かうとの事です!!」

━━第七柱が現場に向かうのであれば、そちらは彼女に任せてもよいかね?

 あの遺跡で何が起きているのかは大体予想がつく。

初戦は敵がリードした。

だがこのまま勝ち逃げはさせない。

━━というかここで勝たれたら此方は何もかもお仕舞だからねえ。

「念の為αの発進準備をしておいなさい。もっともα一機が加わった所でどうしようもないだろうがね」

 この状況を覆せるのは二人だけ。

 一人は自分たちと共に行動している“白の巫女”。

もう一人は徳川に居る比那名居天子。

「これが鍵の少女にとってどう影響するのか、そちらも注目だね」

 そう言うと部下たちに降下部隊の回収を命じ、艦橋の椅子に深く腰掛けた。

 

***

 

「う、ん……」

 目が覚め、頬に冷たい感触を得た。

 辺りは騒がしく、何やら空気もおかしい。

━━あ、れ……? 私は……。

 どうしたんだっけ?

 確か遺跡内の神殿で驪竜と名乗る自分とそっくりな少女と戦い……。

「そうだ!! それから何かが起きて!!」

 慌てて立ち上がると驚愕する。

 遺跡の様子が一変していた。

 高かった建造物は殆どなくなり、残骸が広がっている。

更に空はまるで真夜中の様に暗く……。

「…………!!」

「こ、これは? 総領娘様、ご無事ですか!?」

「私たちは吹き飛ばされたのか」

 近くで倒れていた仲間たちも皆次々と起き上がると辺りの惨状に驚愕し、そして空を見上げると固まった。

「なによ、あれ……」

 空が歪んでいた。

 空間と空間が激突し、轟音と共に少しずつ歪みが広がっている。

 終末。

何故かそんな言葉が脳裏を横切った。

 あの穴が開ききった時、この世界は終わる。

そんな確信があった。

「あれは……深淵です」

「あんた……」

 建物の残骸の陰から“白の巫女”とデュバリィが現れ、皆が構える、

だが二人は此方に敵意を向けず、ただ空を見ていた。

「あの時、一体何が起きたの? そして今、何が起きているの?」

 そう訊ねると“白の巫女”はゆっくりと視線を空から此方に向け、話し始める。

「“碧天”様から既に聞いているでしょうがこの世界は牢獄です。かつて古の竜達は死力を尽くして戦いました。

その結果どうにか勝利しましたが敵を滅ぼすには至らず、敵を深淵と呼ばれる世界に封じ、深淵の蓋としてこの世界を牢獄にしました。

ですが先ほどの戦いによってこの世界に穴が開き、深淵にいる敵が解放されようとしているのです」

“白の巫女”はそう言うと槍を取り出し、此方に見せるように槍を持っている腕を突き出す。

「この武器の事を我々は概念武装と呼んでいます。

嘗ての大戦の際、強大な敵に対抗するため竜達が開発した兵器。

竜達の持つ概念の力を増幅させる事が出来ます」

「その武器同士が激突したからこうなったのか?」

 そう訊ねるロイドに“白の巫女”は頷く。

「砦はこの世界の地脈の集中点の真上に存在し、非常に深淵に近い場所に存在していました。

迂闊でした。まさか敵が概念武装を持っていたとは……。

私の槍と彼女の斧、そして比那名居天子。貴女の剣がそれぞれの概念を放出した事により地脈が暴走してしまったのです」

「……え?」

 皆が驚愕した。

当たり前だ。なにしろ今彼女は緋想の剣の事が概念武装であると言ったのだ。

「こ、この剣は代々天界の総領事家が受け継いできたものよ!?」

 だから概念武装なんていう訳の分からない物じゃ……。

「その武器がどこから来たのか、知っているのですか?」

「それ……は……」

 分からない。

 何せこの剣についての記録は全て消されてしまっているのだ。

「その剣は古の竜達が最初に創った概念武装であり、竜達の王である“極天の頂”が使用していたものです。

最後の戦いの際“極天の頂”は敵と相討ちとなり、その剣も行方不明になっていました」

「もともとお前たちの世界の武器が幻想郷に流れ着いた、という事か?」

 “白の巫女”は頷く。

 そんなの。そんなのそう簡単に信じられるか!

色々と衝撃的な事が発覚し続けて混乱してくる。

 そんな此方の様子を案じてか衣玖が話を変えた。

「三つの概念が激突し、地脈が暴走したという事は分かりました。

ではそれが今起きている事とどう関係があるのですか?」

「彼女の狙いは地脈を暴走させ、その力を使ってこの世界に穴を開ける事です。

あの巨大な怪魔が何らかの装置となって暴走した地脈から流体を吸い上げ、収束させました。

そして極限まで収束した流体は辺りの空間を歪め……」

「穴を開け始めている、というわけか……」

 とんでもない事が起きている。

私たちはまだ何も分かっていない状態で世界の危機と対面してしまっている。

「手は……」

「?」

「何か、手はあるの?」

 “白の巫女”と仮面越しにしっかりと視線を合わせる。

「色々と混乱してるし、あんたにはもっと訊きたいこととか言いたいことがあるけど、やらなきゃいけない事は分かってる。

私と同じ顔した馬鹿がとんでもない事をしでかそうとしている。

私はそれを止めたいし、止めなきゃいけない!

貴女もそうでしょう?

何を企んでいるのかは知らないけど、ここであいつに台無しにされたくないはずよ。

だから……!!」

 一歩前に出て、胸を張る。

「協力しましょう」

 そう言うと正純が此方の隣に立つ。

「徳川はお前たち<<結社>>のやり方を決して容認しない。だが今、この時は休戦と共闘する事を申し入れる」

 正純の言葉に“白の巫女”が躊躇っているとデュバリィが一歩前に出た。

「共闘の申し入れ、受けますわ」

「デュバリィ」

「この事態を収束させるのが最優先事項ですわ。その為には敵とも手を組む必要がある。そうですわよね」

 デュバリィの言葉に“白の巫女”はゆっくりと頷いた。

 その様子に皆が顔を見合わせるとロイドが質問する。

「この状況をどう打開する?」

「彼女、驪竜の最終的な目的はこの世界に大きな穴を開け、深淵にある自分の本体を開放する事です」

「本体?」

「我々が先ほど交戦したのは敵の一部のような物。本体は深淵にて封じられています。

もしこのまま本体が解放された場合、この世界は破壊され、彼女は他の世界を蹂躙し始めるでしょう」

 皆が息を呑むと“白の巫女”が続ける。

「ですが幸い穴はまだ開いていません。空間を歪めるために敵は地脈から吸い上げた流体を極限まで収束させています。

そこが狙い目です」

 「狙い目?」とエリィが首を傾げるとヨシュアが「なるほど」と頷く。

「流体を極限まで収束させるにはただ力を吸い上げるだけでなく、綿密なバランス管理が必要な筈だ。

もしそこへ外部から予想外の力が加われば……」

━━そうか! 収束のバランスが崩れ、流体が凄まじい勢いで放出される!!

 だがそれにも問題がある。

まず一つ目は。

「加える力はかなりの物でなきゃいけない」

 あの流体の塊を崩壊させるには相当の威力がある攻撃を撃ち込まなければいけない。

例えば。

「私の“全人類の緋想天”なら行けるかしら?」

「そうですわね。あれの威力は大罪武装の超過駆動並ですし、加える力としては十分だと思いますわ」

 火力の面では何とかなりそうだ。

そうなると次に問題なのは……。

「放出された流体がこの一帯を吹き飛ばすまでの時間ですね。脱出は可能なのでしょうか?」

 ホライゾンの言うとおりだ。

 上空で収束している流体が爆発したらこの一帯は吹き飛ぶだろう。

流体の塊が崩壊するまでにいったいどれだけの時間があるのか……。

「たとえどれだけ厳しかろうとやるしかないわ」

 此方の言葉に皆が覚悟を決めた表情で強く頷いた。

「やると決めたなら直ぐ動こう。私とホライゾン、そして葵はここに残り地上のみんなと連絡する。ノリキ、護衛を頼めるか?」

「Jud.」

 残る人員を決めると “白の巫女”がデュバリィの方を向く。

「デュバリィ、貴女も連絡要員としてここに残ってください」

「……本調子でない私がついて行っても足を引っ張るかもしれませんしね。悔しいですが、従いますわ」

「お、あんたは残るのかよろしくな!!」

 そうトーリが近づこうとした瞬間、デュバリィが足で線を引いて下がった。

「そこから一歩でも足を踏み出したら容赦しませんわ。このケダモノ!!」

 ああ、うん、許してないよね。あんなことされて。

 兎も角、これで何をすればいいのかが分かった。

突然訪れた世界の危機に対してこの場にいるもの全員が団結する事を決めた。

 ならばあとは。

 神殿があった方向を向くと天に向けて黒い結晶の階段が螺旋状に伸びていた。

その頂上には階段と同じ巨大な黒い結晶の足場があり、そこで敵は待ち構えているだろう。

━━さあ、行くわよ。

 ほぼ同時に歩きだし、決戦の場へと向かうのであった。

 

***

 

 仲間たちが階段に向かったのを見届けるとトーリは「さて」と歩き始めた。

「ちょっと、そこのケダモノ! どこに行きますの!!」

「ん? あー、ちょっと探検しようかなって」

「探検って」とデュバリィは半目になるとトーリは笑みを浮かべる。

「ここにずっと居たってしょうがねーだろ? だからなんか使えるものねーか探そうかなって」

「珍しくトーリ様が正論を言っていますね。いざという時の護衛もいますし、探索するのは悪くないと判断します」

 まあ、確かに。

 連絡は歩きながらでもできる。

だがなんか、この男(ケダモノ)の言葉に賛同するのは嫌だ!!

というか共闘関係になければ先ほどの無礼に対して仕返しができたのに。

━━しまった!! このケダモノを仕留めてから停戦すべきでしたわ!!

 だが今更言ってもしょうがない。

ここはささやかな反抗で。

「私は行きませんわ!」

━━どうですの! 言ってやりましたわ!!

 そう胸を張ると全裸と自動人形が顔を近づけあい小声で話す。

「えー、あの子なんかノリが悪くなーい?」

「きっと胸に似て器が小さいんですね。お可哀想に」

「そこ! 聞こえてますわよ!! あと胸は関係ありませんわ!!」

 く! なんかこの人たち物凄くやり辛い!!

小田原で戦った妖夢はまっすぐで好感が持てたというのに!!

「何を言われようが私はここから動きませんわ!」

「ん。じゃあしょうがねえ。俺たち行ってくるから」

「え?」

 全裸が歩き始め、彼の仲間たちもついてゆく。

「あ……」

 途中で自動人形が振り返って頭を下げた。

「ではデュバリィ様。一人で留守番をお願いします」

「あの」

 彼らは此方を放置して行ってしまう。

それに思わず体が動き。

「待ちなさい! わ、私を置いていくとは何事ですの!!」

 駆け出して追いかけてしまった。

 

***

 

 遺跡上空に広がる黒色結晶の足場の中央に驪竜は居た。

 彼女の前には黒色結晶石の台に埋め込まれた概念核が存在しており、彼女はその表面を指で触れた。

「ふふ、今のところは私の勝ちみたいね? “碧天の頂”?」

 あともう少しでこの世界に穴が開く。

 穴が開いたらまずはこの概念核を本体に持ち帰り、取り込もう。

━━本当だったらもっと早くにこの概念核を手に入れられたのにねえ。

 今から数年前、休眠中だった“碧天の頂”を強襲し、概念核を奪おうとした。

だがその時の自分は体をまだ此方の世界に送れておらず、手下の怪魔だけで攻撃した。

その結果“碧天の頂”を活動停止までに追い込んだが概念核を奪えず、その後に来た人間どものせいで富士一帯を封印されてしまった。

 あの時、核を手に入れられて入れればもっと早く活動を再開できただろう。

「あと二個ぐらいかしら?」

 自分の本体は嘗ての戦いで消耗してしまっているため力の回復が必要だ。

だから竜王の概念核を取り込み、自分の力とする。

━━力を取り戻したら“あいつ”ともおさらばね。

 今は“あいつ”の方が力を持っている。

だが本来の力さえ取り戻せれば“あいつ”と手を組む必要もない。

あの忌々しい目玉を食いちぎってやったら手近な世界から取り込んでやろう。

そしてその後はあの人と……。

「その為にも……」

 振り返ると階段を上って敵がやってくる。

 “白”と剣の担い手、そしてその仲間たち。

どうやら私に対抗するために手を組んだらしい。

無駄な事を。

 “この場所では私に勝てない”

その事に気が付いていないのだ。

━━ちょうどいいわ。一網打尽にしてあげる!!

 ここで“白”も剣の担い手も殺せば最早私の道を阻む者はいなくなる。

 笑みを浮かべ、外套を翻す。

「ようこそ、終わりの地へ。ここは私たちの戦いに相応しい。そうは思わない?」

 そう言うと漆黒の概念武装を取り出し、向かい合った相対した。

 




崩壊する世界。戦いはいよいよ佳境に……!!
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