荒れ果てた大通りを歩きながらトーリ達は辺りを興味深そうに観察していた。
最初に見た時は暗かったため良く見えなかったが、上空に出て明るくなると区画ごと違いがある事が分かる。
今歩いている区画はどうやら以前は何かの貯蔵庫があったらしく円形状の建造物が幾つも存在している。
「……補給基地といったところか?」
ノリキの言葉に正純は頷く。
「恐らく竜達の武器などもここで作られていたんだろうな」
あの白い巨大艦もここで建造されたものだろうか?
━━いや、あれだけの艦を建造するような施設は此処に無いな……。
他にもここと似たような土地が存在するという事か?
彼らがどのような世界でどのような生活をしていたのか非常に興味がある。
彼らが迫りくる滅びに対してどう対抗したのかもだ。
そう正純が思っていると先頭を歩くトーリがペースを落とし、最後尾を不機嫌そうな表情でついてくるデュバリィに顔だけ向ける。
「なあなあ」
「…………」
「おーい!」
「…………」
「実は胸当ての下、スカスカだろ?」
「本当にもう! ぶちのめしますわよ!!」
「おー、やっと反応した」とトーリは笑うと歩いて来た方向を指さす。
「あの白いのってどんな奴なんだ?」
「……情報を聞き出そうとしていますの?」
「んー、半分そうで。残り半分は純粋な好奇心」
トーリがそう言うとデュバリィは呆れたようにため息を吐き、少ししてから話し始めた。
「彼女については私も良く知りませんわ」
「ん? そなのか?」
「ええ。もともと接点が少なかったですし本人も自身の事をあまり語りませんから」
「ただ……」と言うとデュバリィは初めてトーリと視線を交わす。
「危うい、と感じますわ」
「危ういですか?」と訊くホライゾンにデュバリィは頷く。
「彼女の言動や思想は矛盾しているというかなんというか……。救済を掲げる割には他人や自分自身に興味を持っていない感じですわ。
そんな彼女が唯一執着しているのが二つの言葉」
「それは?」と訊ねる。
「“使命”と“復讐”、ですわ」
「…………」
あまりいい感じは無いなと思う。
彼女の行動原理が“使命”の為の“復讐”なのか、“復讐”の為の“使命”なのかで大きく変わって来る。
前者ならまだ対話は可能だ。
“使命”を優先しているなら己にとって最善の行動を選択して行く。
その中には他者との結託もあるし、“使命”以上の最善があれば検討する可能性がある。
だが“復讐”が優先なら彼女は“復讐の使命”を果たすまで止まる事は無いだろう。
ましてや長い年月を経て腫瘍の様に広がった恨みならば……。
「喋りすぎましたわね」とデュバリィは目を伏せるとそれっきり口を開かなくなる。
そのまま暫く道なりに進んでゆくと十字路に出た。
ホライゾンが右の方を見ると「おや?」と驚きの声を上げる。
「どうした?」
そう訊くとホライゾンは十字路の右、崩れた四角い建物の前に落ちている物を指さした。
それは我々にとってとてもなじみ深いものであり……。
「“悲嘆の怠惰”!! こんなところに吹き飛ばされていたのか!!」
そう驚いているとホライゾンが“悲嘆の怠惰”に駆け寄り、持ち上げる。
「ふむ。どうやらあの黒裸族に存在を忘れられていたようですね。結局敵に渡っても要らない子扱いの様で」
***
・立花嫁:『宗茂様、宗茂様! 大丈夫です! 宗茂様が使っていた時は輝いていました!!』
***
━━なんというか……。
大罪武装を取り戻したというのになんか全然嬉しくないなー。
そう思っている正純の前でホライゾンは取り戻した“悲嘆の怠惰”を片手で何度か振ると上空を見上げる。
「さて、家出武装の一つを取り戻したわけですし行きましょうか」
「行くって……どこに行きますの」
デュバリィの質問にホライゾンは頷く。
「それは勿論、試し射ちにです」
***
歪み、荒れ始める空を関東連合の機鳳隊や武神隊が固まって移動していた。
向かうのは遺跡上空で円環状になっているリヴァイアサン型怪魔。
あの巨大な怪魔を攻撃し、少しでも遺跡で戦っている武蔵勢の為の時間を稼ごうとしている。
『武神隊と機鳳隊は敵航空戦力を突破し、リヴァイアサン型に攻撃を加える!!
魔女隊は遺跡で戦っている仲間の援護だ!!』
先頭を飛翔する里見・義康の言葉に後続が『Tes!!』と返す。
前方で怪魔の群れが動いた。
リヴァイアサン型を守るように布陣していたドラゴンフライ型やワイバーン型が一斉に動き出し、此方に向かってくる。
『艦砲射撃、来るぞ!!』
後方からの声と共に武神隊と機鳳隊が一斉に散開し、数百の流体砲撃が横切った。
砲撃は敵の群れを焼き払い陣形に大きな穴を開ける。
『行くぞ!!』
“義”が加速し、それに続いて地摺朱雀と伊達の武神隊も突撃を開始する。
武神隊が狙うのは敵後方に居るクラーケン型怪魔の生き残りだ。
武神隊が一気に敵に接近し、格闘戦に持ち込むとその隙に機鳳隊がリヴァイアサン型に向かい始める。
「マルゴット!!」
「Jud!!」
クラーケン型に張り付きレンチを叩き込んでいる直政にマルゴットは手を振るとナルゼと魔理沙と共に遺跡に向かって降下を始める。
途中で此方に怪魔の一群が向かって来たが二度目の艦砲射撃によって吹き飛ばされた。
「おー、今の山形城かな!?」
「多分そうね! まったくあの狐、ノリノリじゃない!!」
「なあ! 最上・義光ってどんな奴なんだ!!」
魔理沙にそう訊かれるとナルゼは「そうねえ」と少し首を傾げ、答えた。
「餌付けの天才よ」
「……んー?」
「ミトっつぁんのママンがイケイケ系なら最上・義光はヒヤヤカ系に見せかけたノリノリ系かなー」
「要するに曲者だな!」
大体そんな感じ。
そうマルゴットは苦笑した。
というか武蔵(うち)の関係者で曲者じゃない人はいない気がする。
「……なんだ?」
「どうしたの!?」
「いや……なんか、渦が……!?」
魔理沙がそう言いかけた瞬間、渦の中から何かが放たれた。
「!!」
咄嗟に三人は散るが、渦から放たれた物体が横切った衝撃で魔理沙がバランスを大きく崩して墜落した。
「マリやん!!」
急ぎ助けに行こうとすると背後から何かが横切り、魔理沙の許に向かう。
「あれは……」
***
「う、うおおお!?」
体勢を大きく崩し、機殻箒から振り落とされそうになる。
操縦桿を思わず手放し仰け反る。
━━やべえ!!
慌てて足で機殻箒を挟もうとするが間に合わない。
落下を覚悟した瞬間、操縦桿から離れた手を誰かが取った。
「え?」
視界の中で靡く白と紅の二色。
自分が良く見慣れた色だ。
「ちょっと! ボケっとしてないで何とかしなさい!!」
霊夢だ。
冷や汗を掻いている霊夢にそう怒鳴なられ、慌てて体勢を立て直すと操縦桿を握る。
「お前、どうしてここに!? というか、無事だったのか!?」
「あんまり無事じゃないわよ!! でも何もしないのは性分じゃないから、飛んできたわ!!」
霊夢の表情にはどこか翳りがある。
それで何かがあったのだと察すると「話は後にしよう」と伝える。
━━てか、さっきの攻撃は……!?
空を見上げると渦の中から何かが出てきた。
「機竜!?」
機竜だ。
漆黒の機竜が渦から飛び出し、マルゴットたちを襲撃していた。
━━怪魔が機竜を使役しているのか!?
『マリやん、そっちは任せた!! こっちはあの機竜の相手をしてるから!!』
『というかなんか、あの機竜。知らないのに知ってる気がするのよね』
二人からの通神が閉じられると霊夢と顔を見合わせる。
目で「どうするの?」と訊いて来たので笑みを浮かべると頷く。
「任せろって言ってるんだから任せるさ! 私たちは……」
眼下に広がる浮遊砦。
その中心で幾つもの光が交差していた。
***
「きゃあ!?」
エステルは吹き飛ばされると床を転がった。
そのまま上手く体勢を立て直すと膝を着き、即座に武器を縦に構えた。
すると。
「っ!!」
柄に漆黒の刃が激突し、凄まじい衝撃を受ける。
その衝撃を利用して立ち上がり、後方へ跳躍するが。
━━二人目!!
自分を先ほど攻撃した敵の背後からもう一人現れる。
それに対して棍を突き出すが。
「この……!!」
棍が遅延し、敵はそれを容易く避け迫って来る。
一か八かで体当たりを行おうとすると横からヨシュアが飛び込んできた。
二人目の敵は飛び込んできたヨシュアの迎撃に向かいその間に息を整えて武器を構えなおした。
「これはかなり厄介ね!」
敵は全部で十一人。
本体は戦場中央にある概念核の上に立ち、戦いを楽しそうに観戦している。
なんとか分身を突破し本体に攻撃を加えようとしているが、敵の連携と能力によって阻まれる。
「分身の持っている歪みは本体より弱いわ!」
天子が分身の一人と攻防を繰り広げながらそう大声を上げる。
━━本体より弱いって言っても……!!
先ほどの、最初に攻撃してきた分身が突撃してくる。
敵が放つ突撃からの横なぎを棍の柄で上手く流すとそのまま下の先端で敵の横腹を穿とうとする。
しかしそれも遅延によって威力が軽減され敵を少し吹き飛ばす程度だ。
━━どんなに僅かでも遅延されたら攻撃のタイミングや威力が全部狂うわ!!
武器が目に見えて遅延する事は少なくなったがそれでも攻撃の都度僅かに隙が出来る。
分身とはいえそれを見逃してくれる敵ではない。
敵が再び突撃してくる。
それに対して此方も突撃し、敵が斧を突き出してきた瞬間に棍を地面に突き立て跳躍する。
棒高跳びの要領で敵の頭上を越えるとヨシュアと交戦していた分身の上に移動し、棍を分身に叩き付ける。
━━当たった!!
棍は敵の頭蓋を穿ち、そのまま地面に叩き付ける。
頭蓋が割れる嫌な感触が手に伝わり、嫌な気分になる。
そのままヨシュアの横に着地するが……。
「分身も再生するのか……」
分身の頭がゆっくりと再生していき、立ち上がる。
「は!!」
まだ再生しきっていない敵の胴に棍を叩き込み、遠くへ吹き飛ばす。
くの字に折れ曲がった敵は再生を行いながら立ち上がろうとするが、歪んだ。
「え?」
分身の周囲の空間が徐々に歪んでゆき、一際大きく歪むと分身が消えた。
その様子を見てヨシュアは「成程」と呟く。
「どうやら分身は再生や能力を使いすぎると消滅するみたいだね」
「だったら消耗戦に持ち込んで!!」
ヨシュアが頷く。
一つ突破口が出来たかもしれない。
その事を皆に伝えると戦闘を再開した。
***
「んー」
概念核の上に立ちながら驪竜は眉を顰めながら唸った。
思ったより敵がやる。
すでに分身が二体ほどやられており、いつの間にか守勢に回っていた筈の敵が攻勢に回りつつあった。
理由は幾つかある。
一つ目は剣を持っている比那名居天子。歪みが見えるせいで上手く戦っている事。
二つ目はこちらの動きを良く知っている“白”。歪みには手古摺っているようだが互角に戦っている。
三つ目はアマテラス。どうやらあの犬は直感で此方の歪みを察知してるらしく分身二体を相手にしても凌ぎきっている。
四つ目は単純に敵の連携が上手い事。友情やらなんやらは大っ嫌いだがこうも上手く連携されると少しだけ認める。
そして五つ目。というかこいつが最大の原因なんだが……。
「あの女、チートよ! ゲームだったら使った当初は俺TUEEEEで楽しいけど途中で飽きるタイプだわ!!」
乱入してきた<<鋼の聖女>>>は此方の分身を三体相手にしても互角以上に戦っている。
最初の分身を撃破したのも彼女だ。
残り八体。
敵は分身の隙を突こうと何度か此方に向かって来ている。
━━相手してやってもいいんだけどねえ……。
正直メンドイ。
あと少しで穴が開くのだ。
分身で時間稼ぎしておけば此方の勝ちなんだが……。
「念には念を、か」
一応守りを固めておこう。
そう決断すると渦に向かって手を掲げる。
「はーい、みなさん!! おっかわっりでーす!!」
直後渦から力が再び流れ込み、分身が二十人増えた。
***
「まじで言ってんの!?」
そう天子は驚愕した。
敵が増えた。
一人や二人ではない。
一気に二十人もだ。
凌ぎきれるか!?
いや、かなり厳しい!!
今までギリギリで戦っており、ようやく勝ち目が見えてきたところだったのだ。
そこに二十人も分身が増えたら……。
「そんな……!」
衣玖が動揺した。
その隙を突いて五人の分身が衣玖に迫る。
━━この……!!
気質弾を叩き込みながら駆け出し、衣玖の前に飛び出す。
そして背後にいる衣玖を突き飛ばすと迫る五人と相対した。
「五対一……これは厳しいかもね!!」
覚悟を決め、緋想の剣を構えた瞬間、上空から流体の砲撃が放たれ眼前を焼き払った。
流体砲撃を避けた二人が此方に迫るが。
「邪魔だっての!!」
突如敵の一人の横に現れた巫女が蹴りを横腹に叩き込む。
最後の一人は強襲が不可能だと判断すると突撃を止め、後方へ跳躍した。
「おー、ナイスタイミングだったみたいだぜ!」
「魔理沙に……博麗霊夢!!」
目の間に紅白と白黒が着地すると白黒の魔女は驪竜を睨み付けた。
「やっぱり私の勘違いじゃなかったか」
そう言うと魔理沙は機殻箒の砲門を敵に向ける。
「飛騨襲撃の時、この黒い奴の写真を撮っただろ? あの時、どこかで見たことがあるような気がしたが……」
「ちょっと、不良天人。あれ、あんたの何よ?」
「なにって……キャラデザパクリね」
「否定しないわ!」と驪竜が胸を張ると思わずその場でコケそうになる。
「……で? 勝ち目あんの?」
話題を振っておいてスルーした霊夢は敵の分身を見ながら言う。
「正直絶望的ね。敵が無限に分身を呼べるならどうしようもないわ」
「いえ。それはありえません」
そう言ったのは“白の巫女”だ。
“白の巫女”を見た霊夢は憤りの表情を浮かべる。
だが一回深呼吸をすると感情を落ち着かせ、“白の巫女”に訊ねた。
「今すぐにでもあんたを叩きのめしたいところだけど、私はこの状況でそう言う事をする馬鹿じゃないわ。博麗霊夢は我慢強い女だもの」
「え?」と魔理沙が驚くと霊夢がキッと睨み付ける。
それから振り返ると訊ねた。
「それで、ありえないってのはどういう事かしら?」
「概念を使えば消耗します。あれだけの分身を同時に、しかも二十体も召喚すれば彼女はかなり消耗する筈です」
「でもピンピンしてるぜ?」
敵は余裕そうだ。
やせ我慢をしているという雰囲気でもない。
何故あれだけの分身を召喚しておきながら、まったく消耗していないのか?
━━……そうか。
多分、あれだ。
皆には見えて無くて自分にだけ見えているもの。
空の渦から驪竜に向かって伸びる黒い光の帯の様な物。
あれが自分の思っているものだとしたら……。
そう考えていると一つの通神文が入った。
それを読んで決意する。
「一つ、賭けてみない?」
***
アリアンロードは一人、敵の正面に立った。
前方には二十九体の敵。後方には戦友たち。
二分だ。
二分間時間を稼げればよい。
「あら? 一人で相手にする気?」
「はい。貴女程度私一人で十分です」
「言うわねえ」と敵の本体は喉を鳴らして笑うと指を鳴らす。
それと同時に分身が動いた。
左右から五体ずつ。
上空から更に五体だ。
まず右へ跳躍した。
敵の気勢を削ぐため槍を地面に叩き付け、衝撃波を放つ。
右の分身たちは衝撃波によって足並みが乱れ、その間に今度は左側に一気に跳躍。
左側の分身たちの間に飛び込むと右足を軸に回転し、槍で薙いだ。
「三十秒」
左の分身たちは能力を使う前に吹き飛び、遠くで転がる。
あとは上空の五体だが。
「!!」
咄嗟に頭上に盾を構え、振り下ろされた三つの斧を受け止める。
残り二体の分身は此方が盾で攻撃を受け止めている間に両横が迫ってきた。
━━加速を使い落下のタイミングをずらしましたか!!
「一分!!」
“ならば”と盾を持つ手を離し、後方へ跳躍する。
それを追って二体の分身が来るが、着地と同時に再び前方へ跳躍した。
槍を突き出し、狙うのは盾を攻撃しそのまま地面に着地した三体の分身の内の一体。
中央にいる分身の顔面を突き刺した。
口の中に入った槍をそのまま右横へ動かし、頭部を引き千切ると右にいた敵の脇腹を殴打する。
そして腕を引き再び構えると残る一体に対して高速の突きを放った。
その時、槍に遅延を受けるが。
「一分三十秒。遅延を受けるのなら、その遅延を受けても回避できない速度で攻撃を行うだけです」
強引に突き出した。
遅延によって槍は僅かに遅れるが、もともと凄まじい速度だったため、敵は避けることが出来ずに胸を貫かれる。
三体目の分身が崩れ落ちるのを確認すると再び後方へ跳躍し、敵の出方を窺う。
「いやいや、あんた本当に人間? というか! その強さ、どちらかというと悪役である私側にいるべき存在じゃないの!?」
驪竜は驚きの表情を浮かべているが、余裕は失っていない。
まだ何か彼女にはあるのだろうか?
一抹の不安を感じたが、とりあえず今は。
「二分。ではお願いします」
直後、背後から戦友たちが飛び出し、敵に向かって突撃を始めた。
***
「はい?」
驪竜は目の前で起きた事に唖然としてしまった。
<<鋼の聖女>>が一人で前に出た時点で何か企んでいると思ったが、これは……。
「馬鹿なの?」
馬鹿正直に正面突撃だ。
前衛も後衛も。
その場にいた全員が此方に向かって突撃してきている。
破れかぶれの特攻か?
いや、何かおかしい。何かあるはずだ。
分身たちに指示を出し突撃してくる敵を取り囲むと攻撃させた。
群がる分身に対して敵たちは必死に攻撃を交わし、走り続けるが。
「足並み、乱れてきているわよ!!」
近接戦闘に慣れている前衛に比べ後衛は分身の斧を避けるたびに送れている。
一人、バランスを崩した。
銃を持った銀髪の女だ。
そこに分身の一体が飛び込み、斧を振るう。
「はい、一名様さよーならー」
斧の刃が女の腹に当たり、そのまま叩き斬った……と思われたが。
━━こいつら!!
「く!!」
女は無事だった。
ただ地面を転がっただけで直ぐに立ち上がる。
そして額に汗を浮かべながら強気な笑みを浮かべた。
「“アダマスガード”、一度だけ物理的な攻撃を無効化するアーツよ!!」
「それだけじゃないわ!」と続けたのは茶髪のツインテール女だ。
「全員にダメージ軽減のアーツ、“ラ・クレスト”を重ね掛けしているから、そう簡単には倒れないわよ!!」
思わず舌打ちする。
だがそれがどうした?
敵は自ら死を長引かせるようにしたのだ。
だったら望み通り徹底的に嬲ってやろうか?
━━あれ、ちょっと待ってよ? 剣の担い手は何処?
突撃してきた中に比那名居天子と“白”が居ない!
そう気が付いた瞬間、何もない所から突然剣の担い手が現れた。
━━空間移動!? いや、姿を消していたのか!!
確かそういうアーツがあった筈だ。
既に天子は間近に迫っており、分身たちを呼び戻す事は出来ない。
「貰った!!」
天子が剣を振るい、此方の顎下を狙う。
「お前! どうしてそれを……!!」
避けれない。
そう、避けれない。
でも私は守られる。何故なら━━。
口元に笑みを浮かべた。
歪み切った喜びの笑み。
何故、喜ぶのか?
だってこれは私の危機では無く、彼女の致命的な失敗だからだ。
・━━□□は□を愛する。
掠れた声が響いた瞬間、天子の進行方向の地面が割れた。
「!!」
それによって天子は攻撃のタイミングが崩れ。
「お・し・ま・い!!」
此方から飛び込み、反撃を放つ。
そして斧が振り下ろされ、天子の右肩が断たれた。
右肩から腕を失った天子はよろめき、その場に座り込む。
勝った。
どうみても致命傷だ。
仮に耐えられたとしても次で殺す。
「ふふ、惜しかったわねえ。どうしてあの事を知っていたのかは不思議だけど、まあいいわ。体をくれた誼だし、一思いに殺して……!?」
気が付いた。
どうしてこいつは血が流れていないんだ!?
右肩は完全に断たれている。
だというのに血の一滴も出ず……。
「詰めが……甘いのは……昔から、変わりませんね」
「お前!?」
天子の姿が変わってゆく。
青かった髪は白色に。衣服は白のインナースーツで右肩の断面は機械のものである。
“白の巫女”だ!!
━━やられた!! こいつ! ここで概念を……!!
という事は本物の天子は!?
視界の左側で青と緋の色が駆けた。
***
━━行けるの!? いや、行かせる!!
自分に掛かっていた対象の姿を消すアーツ“ホロウスフィア”が消えたのを確認すると跳躍の速度を速めた。
次の着地まで約二秒。
着地の感覚は無い為、視覚と直感が頼りだ。
今は雑念を払え。
敵の使った謎の技だとか、囲まれている仲間とか、あそこで体張った白いのとかどうでもいい!!
創作術式“無所有処”。
体の感覚を遮断する事によって限界を超えた動きを行う術式。
今の自分には肌に当たる風の冷たさや足に伝わる床の硬さなどない。
何もない所にいるような感覚。
酷く不安だ。
でも、今はその不安を上回る信頼と、期待を知っている!
右足で着地した/着地したと判断した。
あともう一跳躍で敵の懐に飛び込める。
だが違う。そっちじゃない。
私が狙うのは。
着地と同時に右足のつま先で地面を蹴り、再度跳躍。
向かうのは斜め上。
敵と渦を繋ぐ一本の帯!!
「切り拓け!! 緋想の剣!!」
剣を振るい、帯を切り裂く。
流体の光が帯の切り口から溢れだし、爆ぜる。
それによって体が虚空に吹き飛ばされるが。
「よっと!!」
亜空穴を使って現れた霊夢が此方を受け止めた。
それと同時に“無所有処”を解除し、背中に人の温かみを感じる。
「へえ? あんた、人を信じるとか出来るようになったんだ?」
「天人たるもの、常日頃から己を磨いているものよ」
そう言うと霊夢は笑い、此方も笑みを浮かべる。
地上を見れば分身たちが一斉にその形を崩し、消え始めている。
そして驪竜は憤りの表情で此方を見上げていた。
「やっぱりね……。あれだけの分身を召喚するには相当量の内燃排気が必要なはず。
でも“白の巫女”曰く、今のあいつにそれだけの力は無い。
という事は……」
「どっからか力を手に入れているって事ね」
霊夢の言葉に頷く。
恐らく敵は地脈から吸い出した流体の一部を己の排気として使用していたのだ。
だから力の供給源を断たれた今、彼女は自分の分身を維持できなくなった。
これで障害は取り除かれた。
なら次は……。
「あとは任せたわよ!! ホライゾン・アリアダスト!!」
***
「Jud!!」
階段下からホライゾンは飛び出すと“悲嘆の怠惰”を構えた。
隣りには全裸が立ち、互いに一度だけ視線を交わすと頷いた。
砲口を向ける先は上空の大渦。
その中央目掛けて。
「では復帰一発目。祝砲という事で。
━━掻き毟りなさい、“悲嘆の怠惰”」
次の瞬間、“悲嘆の怠惰”より黄金の砲撃が放たれた。
砲撃は空を掻き毟り、渦へと向かう。
そして収束をしていた流体の塊に激突すると、爆ぜた。
黄金の光が富士上空を覆い、拡散が始まった。
次回いよいよ崩落富士の戦いラスト!!