緋想戦記Ⅱ   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第五十一章・『収束の光』 私たちは知っている 本当に強いという意味を(配点:信じるという事)~

 漆黒の機竜を引き付け、遺跡外周を飛行していたマルゴットは黄金の掻き毟りが天へと昇って行くのを見た。

 掻き毟りは大渦の中心、流体の塊に激突し爆ぜる。

「やば!!」

 直後、凄まじい衝撃波が来た。

 黒嬢にしがみ付き、何とか振り落されないように耐えると体勢を立て直す。

「ガっちゃん!! 大丈夫!?」

「ええ! なんとかね!」

━━機竜は!?

 慌てて自分たちを追撃していた機竜を確認すると黒の塊がUターンを始め、遺跡の中心に向かっていくのが見えた。

「私たちを追うよりもご主人の守りを優先したみたいね」

 あの機竜を数分間引き付けていただけだが分かる。

あれとまともにやり合ったら相当厳しいだろう。

「ねえ、ガっちゃん。ナイちゃんの予想が当たっているなら同じこと考えているよね?」

「そうね。きっと同じことを考えているわ」

 あの機竜。

 私たちだけを執拗に追って来た謎の敵。

私たちはあれを知らないけど、知っている。

「ファフニール……」

 ナルゼの呟きに頷く。

「次は絶対に、私たちで決着つけよう」

 それがきっとあの機竜の望んでいる事だから。

 

***

 

 “悲嘆の怠惰”の超過駆動を受けた流体の塊はその形を急速に崩し、辺りに浮かぶ岩に溢れ出た流体を叩きつけはじめていた。

 既に黒の大渦は消えたが、それに代わって七色の光が空を包む。

 その光景に皆、息を呑んでいると驪竜は忌々しげに眉を顰めた。

「やってくれたわね」

 収束中の流体に余計な力が加わったせいで失敗した。

最早世界に穴を開けることはできず、まもなくこの一帯が収束していた流体の爆発によって吹き飛ぶだろう。

 敵の狙いは最初からこれか……。

 此方の分身を無くし、渦への守りが薄くなったところで大罪武装の一撃を加える。

━━“悲嘆の怠惰”が無くなっていた事に気が付くべきだったわ!!

 正直便利なサブウェポン程度にしか考えていなかったので無くなったことに気が付いていなかった。

それにしても本来の持ち主が使うとあそこまで威力が上がるとは……。

 最後の最後で詰めを誤った。

 いま物凄く腹が立っており、こいつら全員嬲り殺しにしたいが……。

「火遊びしすぎて火傷したらいやよね」

 あの爆発に巻き込まれたら流石の私でも一溜りもない。

 ここは無理せず痛み分けに終わるように。

近くにいた“白”を蹴り、遠くへ吹き飛ばすと声を上げる。

そしてそれに敵が気を取られている隙に。

「ファフニール!!」

 眼前に漆黒の機竜が着地した。

 機竜は着地と同時に黒色結晶に埋まっていた概念核を口に含み、回収する。

手ぶらで帰るつもりはない。概念核一つ入手できれば今回は十分だろう。

「しまった!!」

 警察官の男が動こうとするがそれよりも早く機竜の背中に飛び乗る。

「今日のところは引き分けって事にしてあげる!!」

「この! 待ちなさいよ!!」

 天子が此方に向かってくるが彼女に笑みをうくる送るとファフニールが飛翔を開始した。

緋想の剣、そしてその担い手。

今回で分かった。

彼女は私にとって最大の敵となるだろう。

「あなた達もさっさと逃げた方がいいんじゃなーい?」

━━まあ、間に合わないでしょうけど!!

 ファフニールが遺跡を離れ、リヴァイアサン型に向かい始めた。

小さくなってゆく敵に振り返り、呟く。

「これで生き延びたらちょっと本格的に対策を練った方がいいわねえ……」

 

***

 

 驪竜を乗せた機竜が離れ、リヴァイアサン型怪魔が動き出したのを見ていると浅間からの通神が入った。

『そちら、どうなっていますか!?』

「見ての通り何とか敵の企みを阻止したところですわ」

 別の問題が現在進行形で大きくなっているが、これは今から逃げればなんとか……。

『ミト、これから話すことをよーく、落ち着いて聞いてくださいね?』

「あの、智? それってどのくらい深刻な話ですの?」

『神様がミトと天子のオパーイを大きくしてしまったぐらい深刻です!』

「どういう意味ですの!! 天子よりはありますわ!!」

「おい、こら!! そこの狼!!」

 「まあまあ」とエステルがなだめると浅間に訊く。

「それで、話って? なんとなく想像つくけど……」

 『Jud.』と浅間は一回深呼吸すると笑顔になった。そりゃもう、やけくそのちょーいい笑顔だ。

『ぶっちゃけ私たちもうお終いです』

「「ぶっちゃけすぎだろう!!」」

『えっとですね。流体の放出が予想以上に激しいんです。このままだとあと数分で崩落富士一帯が文字通り消滅します。ジュって感じです。もう一瞬でエンドです』

 それを聞くとホライゾンは冷や汗を掻きながら“悲嘆の怠惰”を抱いた。

「あの、もしかして爆発までの時間が早まったのはホライゾンが━━いえ、“悲嘆の怠惰”が“勝手”に最大出力の超過駆動を放ったからでしょうか?」

『流体の収束が限界点に達していた為、放たれる流体量が凄まじいことになっていたんです。まあ、最後のあれがもうちょっと弱めだったら脱出の時間ぐらいはとれた気がしますが……』

 皆が沈黙する。

それからホライゾンに視線が行くと彼女は“悲嘆の怠惰”を格納空間にしまった。

「まったく、迷惑な大罪武装ですね!」

「「見苦しいな! おい!!」」

「というか、ツッコみいれている場合じゃないわ!」

 エリィがそう言う。

だけどなあ……。

「今更間に合わねーんだろ?」

 トーリの言葉に再び皆が沈黙した。

それから魔理沙が「さてと」と機殻箒に跨る。

「私はワンチャン、逃げられるな!!」

「私も亜空穴で逃げられるかもしれないわね」

 二人がそれぞれ逃げようとするので衣玖が魔理沙をノリキが霊夢を拘束した。

「あ、こら! なにすんだ!!」

「ちょっと離しなさいよ!!」

 拘束された二人の肩を正純が掴むと。

「死なばもろともだ!!」

 いろいろヤバいのに相変わらず馬鹿をやっている仲間を見ながら天子は考えていた。

 この状況、どうにか打破できないか。

だがどうやって?

━━考えろ! 考えるのよ!!

 放出され始めた流体を止めることは出来ない。

 だったら……。

━━受け止める?

 緋想の剣は気質を収束させ、操ることが出来る。

それを利用して溢れ出た流体を集め、制御する。

「……何を考えているかは分かりますが、お勧めしません」

「…………」

 “白の巫女”がそう此方に向かって言った。

「緋想の剣ならば暴走する流体を制御できるでしょう。ですがその場合、比那名居天子、貴女が耐えられません。

自信の許容内燃排気貯蔵量を超えれば死にます。そして剣の制御をしていた貴女が死ねば我々も終わりです」

「でも、今の所打開できそうな手はこれしか思いつかないわ」

 “白の巫女”と視線を交わす。

 他に手はなさそうなのだ。

時間も無い。

やるならば今すぐやるべきだ。

「ん? どうしたァ? アマ公? うんうん、おお!! ナルホドなァ!!」

 アマテラスと何か会話したイッスンがアマテラスの頭の上で跳ねる。

「アマ公からの提案だァ! 天人ネーちゃんが流れてくる流体を制御してアマ公とオイラに流す!

そんでもって、流れてきた流体を今度はオイラたちが」

「流して、私たちで受ける。そう言う事ですわね!」

 アマテラスの内燃排気貯蔵量は相当な物だ。

それに合わせてこの場にいる全員が受ければ……。

「浅間!」

『……成功の可能性は低いですが、やりましょう。此方で天子に流れる流体をアマテラス様経由で全員に分配するようにします!!』

「そういうことでしたら」と頷いたのはアリアンロードだ。

彼女は一歩前に出ると一礼する。

「私も協力しましょう。この場を乗り切るのは我々にとっても最優先事項です。デュバリィ」

「はい。私も異存はありませんわ」

 此方も霊夢が「やれやれ、無茶苦茶ね」と呆れているが全員協力してくれるようだ。

あとは。

「貴女も手伝って」

 沈黙している“白の巫女”に言う。

 これを乗り切るにはここに居る全員の力が必要不可欠だ。

だから。

「お願いします!」

 頭を下げた。

 必死に。プライドなんてどうでもいい。

ここで死んだら何もかも終わりなんだ。

背後から「総領娘様……」と衣玖の声が聞こえる。

暫く目をつむって必死に頭を下げていると“白の巫女”が「……分かりました」と呟いた。

「私も様々な打開策を考えましたがこれが一番成功率が高そうです。いいでしょう。この賭け、乗りましょう」

「ええ! 任せなさい!!」

 頭を上げ、胸を張る。

そして皆を見渡した。

「みんなの命、私に預けて!!」

「「Jud!!」」

「「応!!」」

 

***

 

 天子は黒色結晶の足場の中央。

ちょうど概念核があった個所に立った。

その背後にはアマテラスとイッスンが。

さらにその後ろに他の面子が待機している。

 頬に感じるのは冬の肌寒い風では無く、熱い流体の熱。

 既に付近に浮かんでいた岩は全て消滅しており、放出していた流体が遺跡の表面にぶつかって各所が赤熱している。

 眼前に広がる流体の光は今にも爆発し、全てを焼き払おうとしているように見えた。

『こちらで危険だと判断したら連結を解除します』

 表示枠に浮かぶ浅間に頷く。

 やる事自体は単純だ。

 まず私が緋想の剣で流体を収束させ、アマテラスに流す。

アマテラスは受け取った流体を他のメンバーに回す。

 問題は一つ。

 何処まで耐えられるかだ。

 まずは仲間たち。

その次にアマテラス。

そして最後に自分の順で流体が溜まってくる。

━━ようするにゴリ押しってことよね……。

 我ながらとんでもない方法を思いついたものだ。

だが、やるしかない。

 深呼吸を行い、心を落ち着かせる。

 迷うな。

 今迷えば、仲間を殺す事になる。

ゆっくりと息を吐き、一度目を瞑ると覚悟を決めた。

そして目蓋を上げると。

『来ます!!』

 上空の塊が爆発した。

 凄まじい光と共に流体の津波が押し寄せ、全てを焼き払おうとする。

それに対して緋想の剣を構え、先端を向けると。

「全てを紡げ! 緋想の剣!!」

 

 

・━━全ては/世界は/剣に収束する。

 

 

 直後、緋想の剣の刀身が砕けた。

 迫る流体の光が剣の柄に収束して行き、全身に凄まじい衝撃を得る。

「っくぉのお!!」

 後ろへスライドする体を何とか踏み込み止める。

 流体を受けた体への負担は痛いなんてものではない。

全身の毛細血管が沸騰するような感覚と常に頭を金槌で殴られるかのような頭痛。

 一瞬で意識が薄れるが倒れるわけにはいかない!!

━━集中……させて……!!

 意識を剣に集中させ、流体の流れを制御する。

 濁流を制し、流れを整え━━。

「浅間ぁ!!」

『流体分配を開始します!!』

 流体が自分を通してアマテラスへと流れた。

そしてその流体はアマテラスから仲間たちへ。

 それによって自分が楽になるなんて事ない。

 押し寄せる津波を制御しなければいけないのだ。

それまでに自分の体がもつのか……?

「まよ……うな……!!」

 自分のやるべき事だけに集中しろ!!

それ以外は考えるな!!

 そう思い、叩き付けるように来る流体の光を睨み付けた。

 

***

 

━━なんて衝撃だ……!!

 そう正純は思った。

 自分もアマテラス経由で流れてくる流体を受けている。

だがそれによって内から圧迫するような感覚を生じていた。

 二分で額に汗が浮かぶ。

 三分で呼吸が荒くなり、時折音が遠のく。

━━意識を保て! 本多・正純!!

 私はまだ楽な方なんだぞ!!

 一番先頭で流体を受けている天子がもっとも辛いはずだ。

だから……。

「!!」

 一際大きい衝撃を受けた。

それによって一瞬意識が飛ぶ。

そしてその直後浅間の『正純! 解除します!!』との声が聞こえた。

それに「まだ私は大丈夫だ!!」と言いたかったが声が出ない。

「くそ!!」

 何かが外れたのを感じた。

 自分とアマテラスを繋いでいた何かが外れ、凄まじい解放感を得る。

本来ならこれは喜ばしい事だが……。

「すまない!!」

 悔しさのあまり拳を強く握りしめる。

 自分以外にもトーリとホライゾンが同時に外されたらしく、二人とも天子の方を見ていた。

 三人外れた。

 それだけでどれだけの負担を残りのメンバーに与えるのか……。

━━いや、今はただ信じるだけだ!!

 比那名居天子は私たちの命を預かると言った。

ならば私たちは安心して彼女に自分の命を預ける。

そういった連帯感が今この状況では必要だ。

だから。

「頼んだぞ、比那名居!!」

 

***

 

 遺跡に向かって飛ぶ輸送艦の甲板上で浅間は全員のバイタルを確認していた。

 少しでも此方で危険だと判断したら連結を解除する。

だがそれは自分の選択で天子の負担を重くするという事だ。

 冷や汗を掻く。

 表示枠には三色でそれぞれのバイタルが示されていた。

 天子が黄色、その後ろのアマテラスが緑、さらにそこから繋がるほとんどが赤色になっていた。

皆、そろそろ限界だ。

 まだ余裕があるのはアマテラスと同じように緑色のアリアンロードと黄色の“白の巫女”だ。

残りは内燃排気の貯蔵量の限界に達しつつあり、連結の解除を準備する段階だ。

『智、私のはギリギリまで繋げておいてくださいな』

「…………」

 ネイトからの言葉には答えない。

限界を超えた場合、体を流れる流体の管理が維持できなくなり身体に何らかの悪影響が出る。

さらに悪化すれば死に至るのだ。

天子が仲間たちの命を直接預かっているなら、自分は間接的に預かっている。

 喉が妙に乾く。

先ほどから何度も唾を呑んでいる。

━━落ち着きなさい、浅間・智。

 皆、最善を尽くしているのだ。

だから私も。

「ミト! 接続を切ります!!」

『智!?』

 ネイト以外の赤く点滅していた全員の接続を切る。

それによって今流体を受け止めているのはアリアンロード、アマテラス、そして天子だけだ。

 放出されている流体は三分の一が無くなっているが、予想より吸収のペースが遅い。

このままでは……。

「天子、貴女を信じます!!」

 

***

 

 昔の事を思い出した。

 天界に来て数十年が経った。

 周りから見下されていた私は必死に努力し、力を得た。

その結果、孤独を得た。

 信頼を得るための力は何時しか己を孤立させ、心を武装するための力となっていた。

 ある日、父に呼び出された。

 理由は単純だ。

 私の陰口を言っていた奴を懲らしめてやったのだ。

 ただ、まあ、ちょっとやりすぎた。

最初は驚かすつもりだったのだが、そいつは私を怒らせた。

“地上人上りが。娘の程度がこれなら父親も同じように品の無い人なんでしょうねえ”

 自分は武装して守っていたが自分以外を攻撃されたら以外にも脆かった。

 そいつに色々とし返したら後日鬼の形相を浮かべた父に首根っこを引っ張られ、執務室に連れて行かれた。

「それで? どうしてあんなことをした?」

「…………」

「だんまりか……。まあ、何があったのかは大体聞いている」

「じゃあ、私が悪くないと思っていますよね?」

「いや、お前が悪い」

 父はそう低い声で言う。

「確かに私も家族の事を悪く言われれば怒る。

だがな、その怒りのまま行動してはいかん。感情のまま行動しては獣と変わらん。

我々は人、いや理性を持つ天人だ。天人たる者常に平静で、解脱していなければいけない」

 よく言う。

 天界に住む者は皆、解脱しており、心清らかだと言うが嘘だ。

多くが堕落し、好き放題に生きている。

天界に空きがあるのを地上に知らせないのも天人特有の傲慢さからだ。

自分たちの土地が狭くなるのを嫌がっている。

この事を地上の妖怪が知ったら怒るだろう。

 不貞腐れながらそっぽを向いていると父が訊いてきた。

「天子よ、お前は何故力を付ける?」

「……? それは、総領家が舐められないようにするためです。

強ければ他人から見下されることは無い。そうでしょう? お父様」

「では訊く。強さとは何だ?」

「それは……妖力とか神力が高いとか、剣の技術があるとか……」

 父はその言葉を黙って聞いている。

聞いているだけで一度も肯定しない。

その事に何故か焦りと、怒りを感じると黙ってしまった。

「…………」

「天子よ。もし、お前が本当に強くなりたいと思っているなら、本当の力を見つけろ」

「本当の力? それはなんですか?」

 そう訊くと父は笑い、首を横に振った。

「それは人から教わる事では無く、自分で気が付くものだ。

そしてそれに気が付いたとき、お前は本当の意味で強くなる」

 その時の私は父の言葉の意味がよく分からなかった。

だけど、今は……。

 

***

 

「━━様!!」

 声が聞こえた。

 凄く心地よい、聞きなれた声。

「━━娘様!!」

 思えば彼女との出会いが私を変えた切っ掛けだったのかもしれない。

あれ? 私は、今?

「総領娘様!!」

 意識が急激に戻る。

 正面には莫大な流体の輝き。

背中には温かく優しい三つの感触。

「あ……」

「総領娘様!! よかった! 意識が!!」

 はっきりと自分の状況を理解すると同時に気張った。

危なかった。

どうやら自分は少し意識が遠のいていたらしい。

もし、気絶していたら……。

「ごめん……」

 そう言うと、後ろから「ちげーだろ?」と言うトーリの声が聞こえる。

「今、おめえが言うべきは謝罪の言葉じゃないだろう?」

 自分は衣玖とトーリ、そしてホライゾンに支えられていた。

そうだ。私が今言うべき事は……。

「ありがとう」

 三人が頷く。

「浅間様、あとどのくらいでしょうか?」

『半分以上は消えました。でも……』

「ここまでですね」

 アリアンロードが片膝を着くように崩れ、息を荒げる。

 これであとはアマテラスと自分だけ。

だがまだ迫る流体は半分も残っている。

━━だめ……なの?

 こんなところでか?

 ここまで来てか?

 ようやく色々分かり始めてきたのだ。

こんな中途半端なところで終わりたくはない。

 焦り、怒り、悲しみ、様々な感情が胸の中で渦巻く。

 どうにかしなきゃ。

 なんとかしなきゃ。

でも、どうやって?

考えれば考えるほど絶望が押し寄せる。

僅かでも希望が無いか。必死に考えていると突然頭の中に声が響いた。

『私に一つ、考えがあります』

「え? 誰!?」

「そ、総領娘様?」

 今の声、誰も聞こえていないのか?

いよいよ幻聴まで聞こえてきたか。

これは本格的に駄目かもしれない。

 そう思っていると、スカートの裾を引っ張られた。

「?」

『私です』

 引っ張られた方を見る。

そこには光り輝くわんこが居るだけで……えっと、つまり?

「お前か」

『はい、私です』

「…………………え!?」

 いやいやいや!? あんた、喋れたの!?

『いえ。今こうして話しているのは天子さんと流体で繋がっているからです』

「あー、成程……っは!?」

 周りの視線が痛い事に気が付いた。

 ホライゾンと衣玖が「天子様、衝撃で頭をやられてしまったのでは?」、「いえ、もともとちょっと痛い……じゃなくて変わっていたところがあるので」と此方を見て小声で話している。

 で? 考えって?

『私の流体許容範囲が超え次第天子さんは残りの流体を全て一か所に収束してください。

私が溜めこんだ力を全て解放し、流体を結界で覆い、結界内で爆発させます。今の流体量なら何とか可能な筈です』

 ……無茶を言うわね。

『無茶は承知です』

 確かに最初に比べて押し寄せる流体の量は半減したがそれでも凄まじい量が残っている。

それを操作し、一か所に収束させろだなんて無茶もいいところだ。

 何秒必要?

『十秒。それで十分です』

 十秒間流体を抑える。

成程、ますます無茶だ。今、流体を流す管理だけでも凄まじい負荷が体に掛かっているというのに、今度は受け止めて収束させろというのだ。

 無茶苦茶だ。無茶苦茶だが。

「上等」

 いいわ、やってあげる。逆に訊くわ。あんたの方は出来るの?

 そう訊くとアマテラスは一回大きく吠えた。

『上等』

 だったら……。

「さあ、今回最後の大仕事よ!!」

 

***

 

 流体を更に流しているとアマテラスが一際大きく輝き、繋がりが消えた。

 勝負の時だ。

 流体を流す管理から受け止める管理へ変え、そして。

『天子!? 何をしているんですか!? そんなことしたら……!!』

「まかせ……ときなさい……よ!!」

 緋想の剣を更に上空へ突き出し、此方目掛けて押し寄せてくる流体の動きを変える。

その直後、途轍もない痛みが来た。

「……っがぁ……っ!!」

 視界が一気に赤く染まる。

 息が出来ない。血が煮えたぎり、全身が痛む。

痛みの余り意識が途絶え、次の瞬間には痛みによって意識が戻る。

それを何度も繰り返し、自分が何処にいるのか、いや、存在しているのかすら分からなくなる。

『やめてください!! このままじゃ!! トーリ君、ホライゾン、衣玖……誰でもいいから天子を止めてください!!』

 止めなくていい。

 そんな言葉は出ない。だが。

「!!」

 緋想の剣を持つ手にトーリとホライゾン、そして衣玖の手が添えられた。

「俺はここに居るぜ。いや、俺だけじゃない、ホライゾンや衣玖さん、ここに居る全員がお前と一緒にいる。

どいつもこいつもこんな無茶な作戦に文句一つ言わねえでお前について来ている。

なんでだと思う?」

 トーリは笑う。

「そんなの簡単さ。皆、比那名居天子って女が好きなんだよ。お前が俺達になら命を預けられると思っているのと同じように、俺らもお前になら命を預けられるって思っている。

胸張れよ。こっちを頼れよ。お前はもうそれができる。

お前が気絶しそうになったら、そうだなあ、オパーイ揉んでやる。いやだろぉ、無い乳揉まれるの……あ、揉むと大きくなるって話もあるな。うーん……」

 ホライゾンが変なところで悩み始めた馬鹿を殴る。

「まあ、なんだ。そう言う事だから、おい! お前ら!!

天子がなんか馬鹿な事し始めたから、俺らもこいつと一緒に馬鹿になろうじゃねえか!!」

「「Jud!!」」

「「応!!」」

 トーリの掛け声と共に仲間たちが私の周りに集まり、支えはじめた。

その中には<<結社>>の騎士もいるし、“白の巫女”も「信じられません」と文句言いながらデュバリィに引っ張られて参加している。

 まったく、この男。殴られた直後の、なんだか陥没した顔じゃなければ格好良かったというのに。

 でも、これが私たちらしい。

 どんな不条理にも“らしさ”を持って乗り越える。

だったら私は。

「あんたら……全員……、私を支えなさい!!」

 皆が力強く答える。

次の瞬間、流れを変えた流体の収束が開始された。

 それによってさっきよりも更に強い痛みが来るが。

「それが……なんだって……いうのよ!!」

 光が収束して行く。

 それと同時にアマテラスが前に飛び出て、体に纏っていた光を空に目掛けて放ち始めた。

アマテラスが放った光は薄い膜の様に広がり、収束している流体を覆って行く。

 収束が甘い。

 あと一歩だ。

 だがもう自分が何をしているのかも分からなくなっていた。

 倒れる。倒れる。倒れる。倒れる。倒れる。倒れて、たまるか!!

目を見開き、いつしか緋色に変わっていた流体の塊を睨み付ける。

そして力いっぱい、大声で叫んだ。

「みんなを守って、緋想の剣!!」

 直後、眼前で流体の爆発が起きた。

 

***

 

 膜の中で起きた爆発は一気に広がり、外へ飛び出そうとする。

それを膜が受け止め、抑えようとした。

 衝撃波が来る。

 凄まじい衝撃波が遺跡全体を殴りつけ、各所で崩壊と崩落が始まる。

爆発はまだ止まなかった。

 緋色の光が白の膜を引き千切ろうとする。

 だが白の膜は耐えた。

 下にいる守るべきもの達の為、慈愛の光が破壊の光を吸い込んでゆく。

 狼の遠吠えが響き渡る。

 慈母の守りが流体の爆発を縮小させて行き、そして消滅させた。

 後には雲一つない青空が残った。

 

***

 

「やり……ましたの?」

 全てを吹き飛ばそうとした破壊の力は消滅し、穏やかな冬空が戻ってきた。

 終わった。

 爆発を食い止め、全員助かった。

その事を実感すると。

「やりましたわー!!」

 自分じゃない「ですわ」口調が抱き付いてくる。

「え、えと?」

「正直駄目かと思っていましたが、やりましたわ!!」

 ああ、ええ、そうですわね。

 あの、貴女のせいで私が喜ぶタイミングが無くなってしまったのですけれども……。

 デュバリィは目の前で暫く飛び跳ねながらはしゃいでいるが、突然真顔になり。

「は!?」

 物凄い勢いで後退った。

そして「なに勝手に近づいてますの!!」とキレる。

━━ああ、この人……うちならカモですわね……。

 現にホライゾンが「何ですか、この面白生物」と目を輝かしてデュバリィを見ている。

兎も角乗り切った。

天子とアマテラスには負担をかけてしまった。

 アマテラスは息をきらせ、耳を折り畳みながら伏せており、アマテラスが「まだ寝るなよォ」と話しかけている。

それから天子は……。

「総領娘様!!」

 天子が後ろへ、力なく倒れた。

それを慌てて衣玖が受け止める。

「……息は、ありますね。でも直ぐに検査と治療を……え?」

「どうしましたの?」

 衣玖に受け止められた天子を見て驚愕した。

 外傷は無い。

だが、ちょっと白くなっていた。

青く美しい髪の一部が白色になっている。

これは一体……?

 次の瞬間、足元から衝撃が来た。

「なんだ!?」

 正純がそう驚きの声を上げると、“白の巫女”たち<<結社>>組が此方から距離を取る。

そして“巫女”が正純の言葉に答えた。

「この一帯の流体が消滅しました。それによってこの遺跡を浮かばせていた装置も停止したのでしょう」

 つまり?

「落下します」

 振動は徐々に大きくなって行き、下を見れば遺跡が外周から崩れ始めている。

それを見て表示枠に呼びかけた。

「智!!」

『Jud!! 間もなくそちらに到着します!!』

 遠くを見れば一隻の輸送艦が此方に向かって来ている。

 なんとか落下前に脱出できそうだが……。

「そっちは、どうする気?」

 エステルの問いにアリアンロードが答える。

「既に準備しています」

 そう言った瞬間、眼前に白銀の武神が突如現れた。

中世の騎士を模ったかのような武神。

それは何もない所から突如現れた。

━━空間移動!?

「アイオーンα!!」

 ロイドの言葉に皆が一斉に構える。

 どうする!? 輸送艦をこれで襲われたら一溜りもないぞ!!

「ご安心を、共に戦った直後に刃を交えるつもりはありません」

 そう言うとアリアンロードはアイオーンαの肩に飛び乗る。

それに続いてデュバリィと巫女も飛び乗り、此方を見下ろす。

“白の巫女”が此方に向かって言った。

「比那名居天子に伝えてください。次に会う時、その時が貴女にとっての決断の時です」

「それはどういう意味だ!!」

 ヨシュアの言葉に巫女は答えない。

 アイオーンが離陸を始めた。

「じゃあ、私から一言!!」

 霊夢が上から見下ろす巫女を睨み付け、伝える。

「私は絶対にあんたのやろうとしている事を台無しにしてやるわ!!

博麗霊夢という女を敵にした事、後悔しなさい!!」

 アイオーンが離れた。

白銀の武神は飛翔器を展開すると、一気に加速し離れてゆく。

それから僅かに遅れて輸送艦が到着した。

 

***

 

 輸送艦は黒色結晶の足場にいた全員を回収すると急速離脱を行う。

そして遺跡から五キロほど離れた瞬間、遺跡が一気に落下した。

もとにあった場所に戻るように。

空いた巨大な穴に墜落し、凄まじい衝撃と共に大地を捲り上げ、土埃を天高く舞い上げる。

 その光景を輸送艦の甲板上から皆は見ていると正純が顔を顰める。

 今回も負けだ。

 私たちはこの世界の秘密の一部を知る事が出来たが概念核を怪魔に奪われた。

<<結社>>、怪魔。

何れも此方を凌駕する力を持った敵。

私たちはそれと今後、それらと戦っていかなければいけない。

━━だが、これでまた大きく世界は動くな。

 今回の異常事態は直ぐに不変世界中に知られるだろう。

我々はついに明確な脅威を見つけた。

この脅威に対抗するためにもまずは……。

「東側諸国を纏める為の交渉会議か」

 諸国は今回の件を交渉材料として使ってくるだろう。

それに対する対策を考えておかなければ。

━━まあ、まずは休息だな。

 甲板では仲間たちが疲れ果て、休息をとっていた。

なにせ、世界を救ったんだ。

今日一日ぐらいは休んでもいいだろう。

 そう思い、正純はゆっくりと右舷甲板の手摺に背凭れ、座るのであった。

 




崩落富士の戦いの終わり。そして次回はついに第一部最終回!!
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