緋想戦記Ⅱ   作:う゛ぇのむ 乙型

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~最終章・『霧中の行き手』 進む者 帰還する者 (配点:嵐の予感)~

 

 紅い夕空の中、真紅の巨船が航行していた。

 巨船の周りには幾つもの飛空艇が随行しており、辺りを警戒している。

 西の方角から白銀の武神が現れた。

 アイオーンαだ。

 アイオーンαは一度巨船の上空を旋回すると甲板に着地する。

そしてその肩から三人の人物が飛び降りた。

「いやあ、最後の最後でしてやられたねえ」

 三人を出迎えるようにノバルティスがそう言うと“白の巫女”が首を横に振る。

「これで構いません」

「ほう?」

「概念核を入手した事によって彼女は今後活動を活発化させていくでしょう」

「それが逆に狙い目になると?」

 巫女は頷く。

ノバルティスは目を細めると「成程」と笑みを浮かべた。

「概念核を計画通り奪取できてもよし、敵に奪われても別の手を打つからよし。

ふむふむ、常に先を見て行動するのは良い事だねえ。

それに今回の戦い、非常に有益な物だった。

奴らや徳川の戦力を測る事ができ、戦闘記録からアイオーン量産計画の目途もついた」

行動の時は近い。

 次に我々がすべき事は……。

「基地に戻りましょう。例の物の完成を急がせましょう」

 あれが完成した時、彼女と決着を着ける。

そしてその時は比那名居天子も一緒だろう。

 蛇は舞台に上がった。

 最後の歯車が填まり、世界は動き出したのだ。

そしてその動きを管理するのは。

「私たちです」

 真紅の方舟がステルス障壁を展開し、夕焼けに溶けてゆく。

 蛇は再び潜んだ。

獲物をしとめる為に、その牙を休ませ、次なる戦いに備える。

 

***

 

 関東連合領北東部に存在する宇都宮城。

 夕闇に沈む城の一室で表示枠越しに二人の人物が面会していた。

 一人は中年の男だ。

着物を来た男は険しい表情を浮かべたまま相手と視線を交わす。

 もう一人は表示枠に浮かぶ流体の少女だ。

 彼女の首には“SPEER-03”という文字が記されている。

『今回の件で理解できたはずです。迫りくる終末に対して対抗できるのは我々だけであると』

 少女がそう言うと男が顔を顰める。

「わしに何を望む?」

『今は何も』

「……なに?」

 少女は感情の読めない眼で男を見た。

『広綱殿は我々に情報の提供を行ってください。

そして来るべき時に備え、決戦の時には我々に呼応してください』

「お前たちに協力するとは約束できんぞ?」

 広綱と呼ばれた男の言葉に少女は頷く。

『構いません。何故ならば、貴方は必ず正しい道を選ぶと確信しているからです。

では、私はこれにて。共に終末を乗り切りましょう』

 表示枠が閉じられ、薄暗い部屋に静寂が訪れる。

その中で広綱は大きくため息を吐き、天井を見上げた。

「石田・三成。ふん、襲名元と同じくいけ好かない奴よ。だが……」

 広綱は立ち上がり、背後の襖を開ける。

そして廊下に出る前に一度だけ部屋を振り返った。

「世を救うのはどちらか。今しばらく様子を窺う必要があるか」

 襖が閉じられ、部屋から明かりが途絶えた。

 

***

 

「えー、戦勝を祝いましてー……え? 別に勝ってない?

いいじゃん! 勝ったことにしちゃえばさ!!

というわけで、かんぱーい!!」

「「かんぱーい!!」」

 青髪の河童の乾杯の音頭と共に、小田原城 城門前では宴会が行われていた。

 小田原城だけでは無い。

襲撃によって被害を受けた小田原の町からも祭りの音楽や人々の笑い声や歌声が聞こえてくる。

 今回の戦いで関東連合側にかなりの犠牲者が出た。

それでも生き残った者達は明るく振舞い、未来を信じて手を取り合う。

 そんな様子を城壁の上から比那名居天子は見ており、自分の白くなった一部の髪を弄るとため息を吐く。

「はあ……これ、どうしよう……。やっぱ染めるかなあ……」

 意識が戻ったのは輸送艦が小田原の空港に到着した時であった。

 起き上がるのと同時に凄まじい疲労感と気持ち悪さが込み上げてきた為、トイレに駆け込んだ。

そしてガラスを見た時、自分の髪の一部が白くなっていた事に気が付いた。

浅間曰く“恐らく体内の流体が大きく狂って、それが身体に影響したのだと思います”との事で、更にそのあと“いつ死んでもおかしくなかったんです!! 今後、あんな無茶はしないように!!”と一時間近く説教を受けた。

当分の間は術式の仕様などを禁止され、安静にした方が良いらしい。

ちなみに明日は駿府から八意永琳が飛んでくるため、説教の延長戦が待っている。

……逃げたい。

━━ま、まあ、あれよ! ちょっとおしゃれに見えると言えば見えるし!!

 髪の事は明日、永琳の説教が終わった後に訊こう。

 そう思っていると横に誰かが立ち、紙コップに入った暖かい緑茶を渡してくる。

「みなさんのところに居なくていいのですか?」

 「いいのよ」と言うと衣玖から紙コップを受け取る。

そして一口飲むと、体が少し温まる。

「というか、さっきまで一緒に居たの。そしたら安静にしてろと言われている人間に酒を飲ませようとするは、セクハラしようとしてくるは……」

 ちなみに浅間がそのあと来て、全員叱られていた。

私が飲まされようとしていた酒は浅間が全部飲んだのは言うまでもない。

 その光景を思い浮かべたのか、衣玖はくすりと笑うとともに眼下に広がる祭りの灯りを見る。

「……あれから敵はどうなったの?」

「怪魔の方は関東連合がリヴァイアサン型を追撃しましたが、途中空間移動され逃したそうです。<<結社>>の方も同様に此方の追跡を振り切り、行方をくらませました」

 どちらも仕方がない事だ。

怪魔はあの空間移動をされたらどうしようもないし、そもそも関東連合の艦隊ではリヴァイアサン型と戦えなかっただろう。

 <<結社>>の方は奴らの母艦には高性能のステルス障壁がある。

それを展開されたら見つけるのは困難だ。

「私たち、前回からやられっぱなしよね」

 P.A.Odaには大敗し、<<結社>>には逃げられ、怪魔には概念核を奪われた。

その代わりに得たのが世界の秘密の一部と新しい謎では割に合わない。

 私にとって今回最大の衝撃は緋想の剣がこの世界で創られたという事だ。

 今後、敵と戦っていくためにもこの剣について調べた方が良い。

だが緋想の剣についての記録は少なく、あったとしても幻想郷にある自宅の書庫だ。

「進んでも、進んでも、霧の中。たまに不安になるわ。私たちは何も成せないんじゃないかって」

 思わず弱気な事を言ってしまう。

 それを取り消そうと口を開きかけると衣玖が「そうでもないですよ」と言った。

「え?」

「確かに私たちは五里霧中で動いているかもしれません。ですが、必ず何かを成してきました。

浜松では前に進むことを決め、伊勢では他者と相対し乗り越えることを知り、筒井では共に戦うことを学び、あの撤退戦では私たちは改めて前に進む決意と団結を実感しました。

そして今回は……」

 衣玖が指さす先。

門を挟んで反対側に北条・氏直とノリキが居た。

「人に幸いをもたらせるなんて、素敵な事だと思いませんか?」

「なんか、小さいわねー。小さいわ。でも、悪くない。いいえ、良いわ」

 衣玖は頷く。

「これからも私たちは世界を肯定していきましょう。そして肯定を積み重ねた先に道が拓けるかもしれません」

 もし、“白の巫女”達が世界を否定する事によって救済するというのなら、私たちは世界を肯定して救ってみせる。

今回は世界の秘密を知り、ある男女に幸いをもたらし、そしてまだ途中だが私たちは再起した。

今は、それで良い。

 ふと下を見ればトーリたちが集まっており、此方に手を振っていた。

 一度衣玖と顔を合わせ、それから頷くと笑顔で手を振りかえす。

 私たちはようやく舞台に立った。

この物語をどう動かしていくのか、それは私たち次第だ。

「行きましょう!」

 衣玖の手を取り、駆けだす。

 霧の中で見つけた希望を胸に、私は、私の居場所に向かった。

 

***

 

 山頂にあるとある城の天守に一人の男が居た。

 織田信長だ。

 彼は天守から闇に沈んだ美濃の山々を見ている。

「鼠か?」

 そう信長が言うと頭上から「ちゅーちゅー」と茶化すような少女の声が聞こえる。

そして天守の手摺に黒の少女が着地した。

「ふむ、鼠かと思えば邪龍であったか」

「失礼しちゃうわー。こんな美少女捕まえて」

「クク、借り物の体で言う言葉ではないな」

 信長が笑うと驪龍も笑う。

そして互いに視線を交差させると信長は訊いた。

「我が首を獲りに来たか?」

「獲って欲しいの?」

「信長が首を欲するなら命がけで来い」

 驪龍は「いやいや、なんでそう余裕そうかなー」と呆れると手摺の上に座る。

「今日は警告。あなたが“白”に協力しているのは知っているわ。別にそれは構わない。うん、許してあげる。

でもね、警戒はしておきなさいよ?」

「ほう?」

「あいつ、あなたが思っている以上に性格悪いから。深入りすると大火傷するわよ」

「火は強ければ強いほど良い。物事を変えるには一度すべて焼き尽くし、その上に新たな理を敷くべきだ」

「その結果、自分が焼かれても?」

「無論」

 二人は視線を逸らさず、互いの感情をぶつける。

やがて驪龍の方が折れたらしく、視線を逸らしてため息を吐いた。

「まあいいわ。最後は私が勝つのだから」

 そう言うと彼女は立ち上がる。

「一つ訊こう」

「何かしら?」

「お前は何を目指し、何を欲する?」

「そんなの……」

 驪龍は言いよどむ。

だが僅かに間を開けると狂気を感じる笑みを浮かべた。

「私を否定したモノ、全部壊して穢してあげる!!

その時が来たら信長、あなたを迎えに来るわ!!」

 驪龍が手摺から飛び降り、闇に消える。

その様子を見届けると信長は小さく呟いた。

「吉乃よ。それは紛い物ではなく、真の貴様の意思か?」

 だがその質問に答える者は居なかった。

 

***

 

 驪龍は暗黒に広がる水面に着地すると「ふぅ」と息を吐いた。

 今日は色々刺激的な日だった。

“白”や比那名居天子との戦い。

概念核を得れたこと。

そのアッパーなテンションで彼に会いに行ってしまった事。

「吉乃……」

 とても懐かしい響きだ。

 私の人生の中で最も暖かかったころの響き。

そして奪われた響き。

 息を大きく吸い、甘美な記憶を振り払う。

「比那名居天子は乗り越えたわ」

 あの状況で彼女たちは生き延びた。

反省しよう。

頭のどこかで彼女たちが自分の脅威にはならないと考えていた。

だが、違う。

 彼女は脅威だ。

 私の道を阻む最大の障害となるかもしれない敵だ。

 故に……。

「此方も備える必要があるわ」

 完全勝利をするためにももっと力が必要だ。

 そしてその一つは既に出来た。

「期待しているわよ? あなたたち」

 水面から多数の百を超える人型が現れた。

皆、一様に黒い仮面を被り、黒のインナースーツを着ている。

男も女も子供も老人も、皆、生気を感じなかった。

 これが新たな戦力。

私の傀儡たち。

 だがこれだけじゃ足りない。

もっと衝動的で、破壊的な力が居る。

それは……。

「お母様、此方の準備は全て整いましたわ」

 暗闇から一人の少女が現れた。

 自分と同じ顔、同じ瞳。

一つ違うのは彼女の髪は灰色に輝いている事だ。

髪と同じく灰色で染まったゴシック調のドレスを着た少女は流れるような丁寧な動きで頭を下げる。

「あら、四号ちゃん。全部終わったの?」

「いい加減、名前を付けてくださいな。……ええ、すべて滞りなく。

侯爵閣下の説得には少々骨が折れましたが、今は完全に私の事を信用しておりますわ」

 「それにしても」と四号(仮)は言うと眉を顰めた。

「あの少女を回収するためだけにこんな大がかりな事をしますの?」

「あの子だけの為じゃないわ。彼らの実践テストも兼ねるつもり」

 傀儡たちを指さすと四号(仮)は「成程」と目を伏せた。

こいつらは人に似せて作った人ならざるもの。

次の行動でどのくらい役に立つか分かるだろう。

「次、貴女に指揮を任せるわ。例の彼と彼女を連れて行きなさい」

 そう言うと四号(仮)は驚いたように目を丸くした。

「私が管理していいのですの?」

「ええ、その為に貴女を作ったのよ?」

 四号(仮)は少し沈黙すると口元に笑みを浮かべ、「光栄な事です」と頭を下げた。

 さて、これで次の行動の準備はだいたい整った。

あとは火がつくのを待つだけ。

「私はその時まで休むわ。英国での件、任せたわよ」

 そう四号(仮)に伝え、水に沈んで行く。

 そんな此方の背中を見ながら四号(仮)は更に深く頭を下げた。

「ええ、お任せ下さい。

━━━━お母様に代わりまして、すべて、私が上手く管理してみせますわ」

 その金色の双眸に怪しい光を輝かせている事には気が付かなかった。

 

***

 

 早朝。

 濃霧に包まれた海を一隻の航空艦が航行していた。

 赤の装甲を持つ航空艦の側面には英国の紋章が刻まれており、甲板には聖連の旗が掲げられている。

 外界調査船マーシャル。

 不変世界の外を調査することを目的とした船であり、船員の殆どは英国出身者だったが一部は三征西班牙やT.P.A.Italia出身の者も乗っている船である。

 外界調査は最近になって行われ始めた。

 様々な国が不変世界の外へ向かったがその全てが外洋で濃霧に遮られ、成果を出せずに戻ってきていた。

 霧が晴れ、マーシャルが青空の下に出る。

「大陸だー!!」

 甲板にいる誰かが叫んだ。

 それによって艦内から船員たちが次々と飛び出し、遠くにある大陸を見るが。

「…………やっぱり駄目かぁ」

 新大陸のように見えた大地は英国の者にとって馴染みのあるものであった。

 二つの半島が飛び出たような形。

 薩摩だ。

 マーシャルは霧の中を彷徨い、気が付けば戻っていたのだ。

甲板に居た船員たちは「またか」と失意に沈み、一人一人と船内に戻っていく。

「やはり我らの知らぬ力が働いているか」

 船内から一人の男が出てきた。

 男は茶髪に白髪の混じった中年であり、その立ち振る舞いや気配から只者では無い事が分かる。

「こ、これは宰相殿!!」

 船員たちが慌てて敬礼を行い、宰相と呼ばれた男に道を開ける。

 それに「よい」と男は敬礼を止めさせると船首に立ち、徐々に近づいてくる薩摩を見る。

「この目で見て確信した。我々には退路などない。あの地で何としてでも生きなければいけない」

 終末を逃れる為、外界に逃げる案は非現実的だろう。

ならば終末に対抗するしかない。

だが、今の英国は複雑な政情によって急激に動き出した世界についてはいけない。

ならば……。

「やはり、膿は出すしかあるまい。例え出血を伴ったとしても」

 男は振り返り、船員に指示する。

「女王陛下に伝えよ。ギリアス・オズボーン、まもなく帰参すると。そして━━」

 鉄血宰相オズボーンは口元に笑みを浮かべ、強い意志の炎が宿った瞳で英国を見る。

「━━嵐に備えよ、と」

 外界調査船がゆっくりと英国へ向かう。

英国の空は暗く、嵐の到来を予想させるのであった。

 

 

 

 

 

━━━━さて、始めるとしよう。

 




第一部・完!! 次回からは外伝、英国編となります!!
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