緋想戦記Ⅱ   作:う゛ぇのむ 乙型

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~第六章・『赤十字旗の下で(Ⅵ)』~

 

 桜島に造られた臨時発着場。そこに飛空艇が着陸すると直ぐに軍用の導力トラックに乗せられた。

 噴火が収まったとはいえ、噴煙はまだ上がっているし火山ガスも所々で出ている。

 徒歩での移動は危険なので乗り物で移動するらしい。

導力トラックに乗り、数分移動すると火山麓にある臨時基地のような場所に到着した。

トラック内で貰ったレインコートとマスクを着用すると外に出る。

「うわ、凄い灰……」

 エリオットは灰色に染まった基地内に驚愕の声を上げる。

 噴火後、ロンドンにも灰が積もったが此処ほどではない。

僅かに建物などに付着する程度であったが、ここは雪のように積もり、足が沈む。

基地の中で働いている兵士や科学者達も防護服などに身を包んでいるのが見える。

「スカーレット家の方々ですか!」

 そう言って近づいて来たのは黄色いレインコートを羽織った兵士だ。

「はい、スカーレット家紅美鈴及び特科クラスⅦ組九名です!」

 兵士は表示枠を操作し、一人一人の顔を確認すると「確認しました」と頷いた。

「ではご案内いたします。足元が悪いので気を付けて下さい」

 兵士が先頭に立ち歩き始めるとそれに続く。

 歩きながら基地内部を観察してみると基地はやはり即席のものらしく大量にテントが張られている。

遠くのほうには物資などを入れていると思われるコンテナが置いてあり、その近くには見覚えのあるものがあった。

「……機甲兵」

 エレボニア内戦で貴族連合が使用した人型兵器。

コンテナの傍にあったのは内戦の時に見たのと全く同じものだ。

「ああ、あれですか。旧式の機甲兵を作業用に使っているんですよ。あと、いざという時の防衛戦力としても」

「防衛戦力……ですか?」

「ほら、ここって貴族派領に近いじゃないですか。先月も十回以上貴族派の飛空艇が接近してきて、こっちの飛空艇が緊急出撃してますし“もしも”の時の為に必要ということですよ。もっともここの戦力じゃ時間稼ぎ程度しか出来ないでしょうけど」

 兵士の言葉に驚愕した。

 彼はごく自然に貴族派と戦う可能性があると言った。

正規軍と貴族派が対立しているのは知っていたがここまで明確だとは思わなかった。

「あの、こんな事を聞くのもどうかと思うのですが、貴族派と戦いになると思いますか?」

 そう訊くと兵士は立ち止まり、困ったような笑みを浮かべた。

「そうですねえ。そういう雰囲気はあります。内戦以降燻っていた何かが大きくなっている、というのですかね? 皆、覚悟してますよ。ここにいる全員、守りたいものはありますからね」

 兵士の言葉にリィンは沈黙した。

 守りたいものの為に戦う。

それは当然だ。

だが、敵にもそれはある。

 戦争で戦うのは心の無い悪鬼や怪物ではなく、同じ人間。

彼らも何かを守る為に戦っているのだ。

━━英国が進むために血を流す必要はあるのか……。

 今の俺にはまだ分からない。

だから此処に来たのだ。

そしてもし、ここでも答えを得られないのであれば……。

「着きました」

 兵士の言葉に下げていた頭を上げると大きな鉄の門があった。

「おーい! 門を開けてくれー!! スカーレット家の御客人だ!!」

 門の横にある制御室の兵士に先導してくれた兵士が手を振ると、鉄の門が警報を鳴らしながら開いてゆく。

そして開いた先にあったのは……。

「洞窟?」

 山の麓にある巨大な洞窟。

そしてその中にある大きな見た事の無い金属で出来た扉。

これが……。

「“遺跡”ですか。ですが、これはまだ生きている……?」

 そう言うエマにフィーが「そうなの?」と訊く。

「はい、えっと以前英国内の遺跡を見学したのですがその時は完全に沈黙、遺跡は死んでいました。ですがこの門からはまだ流体の流れを感じる……。

生きた遺跡が見つかったのですね?」

 その言葉に美鈴は頷いた。

「ええ、その通りです。中に入ると驚きますよ。きっと」

 先導してくれた兵士に礼を言うと美鈴は歩き始める。

それに皆は続くのであった。

 

***

 

 扉の前に来るとその大きさに圧倒される。

 白い金属に刻まれた幾何学的な文様。

その全てから紅い流体光が漏れている。

これだけの大きさを必要とする“何か”が存在したという事だろうか……。

 美鈴が扉に触れると扉は地響きを鳴らしながら開いてゆく。

そして「行きましょう」と躊躇無く扉の中に入って行くので慌てて続いた。

 扉の中に完全に入った直後、感じた違和感。

まるで別の世界に入ったかのような感覚。

その感覚は当たっていた。

「これは……!?」

 扉が閉まると暗かった内部が明るくなる。

 瞳に映ったのは異次元だ。

 長い金属の廊下。

 廊下の両側は歪んだ光に包まれており、宙には何かの残骸が浮かぶ。

廊下の終点には巨大な建造物が存在しており、あれが遺跡の中枢だろう。

「これは一体……なんだ……?」

 ユーシスは信じられんと言うように首を横に振り、他の皆も唖然としている。

ただエマだけは表情を険しくし「境界が、歪んでいる」と呟いた。

こちらの反応が嬉しかったのか美鈴は笑みを浮かべると「説明しますね」と言う。

「ここは元々流体が交差する土地だったらしくて、その真上に遺跡があったみたいです。

遺跡で爆発が起きた際に流体が崩壊、それによって不変世界とその“裏”が繋がりかけたみたいです」

「そ、そんなことありえるのか!?」

 マキアスの問いに答えたのはこの事態を誰よりも先に察したエマだ。

「ありえます。地脈が暴走した場合凄まじい負荷が一帯に掛かります。その結果、空間が不安定になることはありますが……“裏”というのはどういう事ですか?」

「説明は歩きながらで」

 そう言い歩き始めた美鈴に続く。

「これはつい最近、富士消失の場に居た英国大使からの報告で判明した事ですが━━」

 

***

 

 美鈴の話はどれも信じ難いものであった。

 崩落富士消失の原因。古の竜。この世界が監獄の檻である事。そして、差し迫る脅威。

ただ事ではないとは覚悟していた。

だがこれは予想の斜め上を行きすぎだ。

「……信じ難いですが、信じるしかないんでしょうね。現に証拠が此処にある」

 この遺跡は“境界”に存在しているらしい。

 不変世界とその裏の監獄、その間に落ちてしまっている。

「じゃ、じゃあ、ここ危ないんじゃないですか?」

 エリオットの言うとおりだ。

此処が“境界”なら何かの拍子で監獄側に落ちてしまう可能性がある。

「今のところは大丈夫だそうです。ギリギリの所で安定しているそうですから。ただ、もう一度何か大きな力が加わったりしたら……」

 直後、空間が振動した。

 通路が揺れ、空気が振れ、空間が歪む。

「…………!!」

 胸の痣が疼いた。

 凄まじい力。

 それが突如現われ、この一帯に干渉している。

「あ、安定しているんじゃなかったのか!?」

 マキアスの言葉に美鈴は冷や汗を浮かべながら頷く。

「その筈です! でもこれは……!!」

「ええ、居ます! 遺跡の奥に“何か”が!!」

 遺跡の奥から感じる凄まじい気配。

危険だ。引き返せ。

本能が警鐘を鳴らすが……。

「フィー、委員長、エリオット、マキアス。四人は戻って基地の人たちに知らせてくれ! 美鈴さん、俺たちは遺跡に行きましょう!!」

 この中では通神が繋がらない。

援軍を呼ぶ必要が有るだろう。

そして何をしているのかは分からないが、時間稼ぎをする人員も必要なはずだ。

 フィーはそんな此方の意図を理解し「了解(ヤー)」と頷き、駆け出した。

それに続いて残りの三人も駆け出すのを見ると、遺跡に向かうメンバーで顔を見合わせ走り出す。

 遺跡に近づけば近づくほど分かる。

この先に居るのは“異物”だ。

何かがおかしい。力は感じる。だが妙に“軽い”。

 遺跡の門だったと思われる建造物を通り抜け、広場に出ると━━居た。

 黒い鬼が二体。

 仮面に宿る紅き六つの光を輝かせながら此方を見ていた。

 

***

 

『ほう?』

 そう言ったのは大鬼の方であった。

 体長三メートルを超える大鬼は極東風の黒き甲冑を身に纏い、頭部には長い角を生やした兜を被る。

顔は口の部分だけを露出した鎧と同色の物を装着しており、紅い六つの光が興味深そうに光る。

━━戦鬼だ。

 左腕に巻かれた数珠、右手に持つ槍。

 戦の鬼を想起させる男は此方を見ると『これはどういう事だ?』と首を傾げた。

『ここには誰も来ないはずだったんじゃねーのか?』

 そう鬼が問うのは並び立つもう一人の鬼。

 戦鬼と同様に極東風の黒き甲冑を身に纏い、狼の頭部のような兜を被る長身の男。

戦鬼と違い落ち着いた雰囲気の狼は戦鬼と同型の仮面越しに此方を観察する。

『どうやら魔女殿の企みらしい』

『成程なあ。お嬢はこいつ等がここに来る事を知っていたというわけか。こいつら、あれだろ? お嬢が気に掛けている……』

『特科Ⅶ組。半分しかいないようだが』

「……な!?」

 なぜ俺たちの事を知っている!?

いや、そもそもこいつ等は……!!

「何者ですか!! ここは英国の許可無く立ち入って良い場所ではありません!!」

 美鈴がそう怒鳴り前に出る。

 そんな彼女の様子に笑ったのは戦鬼だ。

『英国の許可、なあ? ここはお前らの物じゃないだろう。もっとも俺たちの物でもないが。持ち主は何処かに雲隠れしたみたいだからな』

『“紅天”、上手く逃げたものだ』

「……あなた達」

 こいつ等はここの持ち主を知っている。

 という事は正体は限られてくる。

『まあ、あれだ。もう直ぐここは無くなるんだから誰の物かとか気にする必要なねーだろ』

「どういう意味だ!」

 ユーシスが剣を鞘から抜き、構える。

それに続いて皆も武器を構えた。

『そのままの意味だ。この遺跡は我々の側に落とさせてもらう』

 やはりそうだ!

 今の狼が言った言葉。

 我々の側。

 そんな事を言えるのは……。

「怪魔か」

 そう呟くと戦鬼の方が喉を鳴らした。

『あんな連中と一緒にしないでくれよ。俺たちは所属は同じだが違うモノなんでな』

 戦鬼が前に出て此方と向かい合う。

 それだけで伝わった。

この敵は凄まじく強い。

全身からあふれ出る異常な覇気。

背筋が凍り、全身に冷たい汗が浮かぶ。

『こいつ等の相手は俺がやる。それがお嬢の望みなんだろう?』

『ああ、魔女殿は試す気だろう。彼らにとっては不運な事だな』

 『ハハ、違いない!』と笑うと戦鬼が槍を構えた。

『さて、そっちは色々困惑しているだろうがすまねえな。これも上からの指示だ。お前たちが“盤外の歯車”になれるか見極めてやる』

━━来る!!

 敵の目的は分からない。

だがこいつは俺たちを殺しに来る!!

だから!!

「みんな、来るぞ!!」

 全員覚悟を決めた。

 それを満足そうに見ると戦鬼は腰を落とした。

『行くぜ! 課外授業!!』

 直後、巨躯が迫った。

 

***

 

 敵が突進してくるのは予想していた。

まずは様子を見るために散開し距離を取る。

そのつもりだった。

「━━なぁ!?」

 速かった。

 一度の跳躍で数百メートル、それを一秒以内に。

 大地を蹴った戦鬼は次の瞬間には此方の背後に回りこんでおり。

『おせえぞ!!』

 次の瞬間には背後から凄まじい衝撃を受け、吹き飛ばされた。

 衝撃波だ。

 敵は此方の背後に回り込むと槍を振るった。

槍の刃は誰も切り裂かなかったが変わりに凄まじい衝撃波を放ち、前方の六人を吹き飛ばした。

 手加減された。

 最初の一撃で此方を殲滅できたはずだ。

 地面を転がりながら着地すると直ぐに起き上がる。

『受身はちゃんと出来たな? 今ので死なれたら困る。お嬢に怒られちまうからな』

 今のは油断していたお前たちへの警告だ。本気で来い。

そうこの戦鬼は伝えたのだ。

「美鈴さん、ラウラ、ガイウス、三人は前衛を頼みます。俺とユーシスは中衛。アリサは後衛を頼む」

「分かったわ!!」

 もう様子見などしない。

最初から全力で行く。そうしなければあっと言う間に潰されてしまうだろう。

守勢に回らず、一気に攻勢に出る!!

「行くぞ!!」

「「応!!」」

 

***

 

『ほう?』

 戦鬼は敵が突撃してきたのを見て感心した。

 圧倒的な暴威を前にした時、人は守勢か無謀な攻勢になりやすい。

だが彼らは違った。

攻勢だが互いに連携し、いつでも守りあえる動き。

 実に冷静だ。

 それなりの修羅場は潜ってきたという事だろう。

 まず来るのは三人。

 二人はまだ未完成の気。一人は完成された気。

 先手は完成された気を持つ中華娘だ。

 此方の眼前に飛び込み、腰を落とすと高速の連打。

打撃は全て別の方向から、面を圧殺するように放たれる。

━━足止めか。

 一撃目は受けてみた。

 実に重く、響く攻撃だ。

流石のこの体もこれを何度も喰らえば損傷するだろう。

よって。

『オォ!!』

 迫る拳を槍で弾いた。

 激突する拳と槍。

その都度重い衝撃が手に伝わる。

 そこで敵は終わらない。

 右側から一閃が放たれた。

 槍だ。

 十文字槍の先端が此方の首を狙い放たれる。

さらに……。

「せあ!!」

 左脇腹目掛けて大剣が迫る。

槍は急所をピンポイントに、大剣は相手の動きを止めるために。

実に良いタイミングで放たれた。

 さて、どうする?

 今、自分は拳を弾くために槍を突き出した状態。

両側からの攻撃は弾けない。

ならば。

『力押しも策の一つ!!』

 右足を上げ、大地に大きく踏み込んだ。

それにより凄まじい衝撃が生じ、三人の敵は僅かに動きが遅くなる。

その間に顔を逸らし槍を避け、左腕で大剣を弾く。

『さあ、今度はこっちの番だ!!』

 狙うのは大剣を持つ少女だ。

 この三人の中で自分に“通る”可能性があるのは中華娘とこの大剣の少女。

中華娘は仕留めるのに梃子摺ると判断し、まだ未熟な方を狙った。

 槍を腰の辺りで構え、高速、いやもはや目に見えぬ速度で連続して突き出す。

「!!」

 大剣少女が己の武器で槍を弾いた。

いい反応だ。

咄嗟に危険を判断し、大剣を縦に構えて防御した。

 だがそれでは駄目だ。

 防ぐならこじ開ければ良い。そして自分にはそれが出来る。

 槍の先端を大剣の鍔に引っ掛け、引いた。

それによって敵の体勢は崩れるが……。

「この程度!!」

 敵は引っ張られた力を利用し、逆に踏み込んできた。

 そしてそのまますれ違い様に此方の肩を切りつけるが。

「やはり通らぬか!!」

『ああ、そりゃそうさ! この体は“特別”なんでなあ!!』

 並大抵の攻撃なら防ぐ。

「ならば、これならどうだ!! ジャッジメントボルト!!」

 直後、凄まじい雷撃が直撃した。

 放ったのは金髪の貴族だ。

金髪の貴族はアーツを放つと同時に突撃を開始してくる。

体に纏わり着く雷を振り払い迫ってくる貴族を迎撃しようとするが、此方の口を狙って槍が突き出される。

「俺はここだぞ!」

 回りこんでいた褐色の男が死角から槍を突き出して来たのだ。

咄嗟に顔を逸らした為、槍は口に当たらなかったが兜を穿ち、僅かに動きが遅れてしまう。

その間に貴族が踏み込んできた。

 手に持つ剣で此方の関節に次々と攻撃を叩き込む。

 刃は此方の関節の装甲を僅かに削っただけだが、此方に傷を付けたというのは評価点だろう。

それにこれで終わりな筈がない。

 貴族に続き、黒髪の剣士が突撃してきた。

 

***

 

 リィンはユーシスたちが作った僅かな隙を狙った。

 黒き大鬼は確かに凄まじいが一体だ。

波状攻撃を仕掛ける事によって敵の動きを潰し、敵を攻勢に回らせない。

 自分の攻撃も次の一手への布石。

 次の大技を当てる為の一撃を加える。

『なかなかの速度だな! だが、俺には見えているぞ!!』

 戦鬼が左の拳を振るう。

 拳の速度は尋常ではない。

風を切り、衝撃を肌で感じる。

このままでは敵に攻撃する前に横から打撃を受け粉砕するだろう。

だが。

「防ぎます!!」

 美鈴が前方、拳と此方の間に飛び込んだ。

そして真っ直ぐに自分の拳を敵にぶつけると相殺する。

その際に敵の拳を穿った美鈴の右腕の皮膚が裂け、血が吹き出る。

「リィン君!!」

「はい!!」

 彼女の心配は後だ。

ここで勝たなければ心配することも出来なくなる。

『いい連携だ! ならこれはどうだ!!』

 なんと戦鬼がそのまま前進してきた。

 左手で美鈴を押しながら槍を突き出し、放たれる突進。

戦車の突撃を想像させる威圧感だが。

━━いける……!!

 戦鬼の槍が此方の胸を貫こうとした瞬間、横へ跳躍した。

そして眼前を通過する戦鬼の右手首に刀を叩き込む。

 右手首に攻撃を叩き込まれ事によって戦鬼は槍を握る力を一瞬弱め、その隙にガイウスが敵の得物を槍で弾いた。

槍を手放してしまった戦鬼は感心したように此方を見た。

それと同時に仲間が戦鬼から離脱するのを確認すると叫ぶ。

「アリサ!!」

「ええ、行くわよ!!」

 戦術リンクによる意思疎通。

此方の考えはアリサに伝わっており、彼女は導力弓を構え、矢にエネルギーを収束させていた。

流体の光は極限まで収束され、そして。

「これが私の切り札! オーバールエネルギー全開!! ジャッジメントアロー!!」

 高出力の流体砲撃が放たれ、戦鬼を飲み込んだ。

 

***

 

 爆発が生じた。

 流体の光が爆ぜ、爆風と共に辺りを焼き尽くす。

眩い光の向こうに戦鬼は消えた。

しかし。

「リィン」

「……ああ、分かっている。この程度で倒せるとは思っていないさ」

 ラウラは頷く。

 直撃は与えた。

 だが、あの戦鬼はまだ健在だろう。

故に油断せず、次の攻撃の準備を……。

 直後、黒い稲妻が生じあたりに漂う流体の光を吹き飛ばした。

「な!?」

 黒い稲妻と共に表れたのは戦鬼だ。

 鬼は全身に黒い稲妻を纏い、そして、無傷だった。

『驚いたぜ。まさか兵装を使わされるとわなあ』

「……無傷ですか」

 美鈴が唾を飲み込む。

 あれで倒せるとは思っていなかった。

だが無傷だとも思っていなかったのだ。

 驚愕し、さらに警戒する此方に戦鬼は笑う。

『まあ、そうがっかりするな。お前たちは俺に傷を負わせられなかったが、予想以上だったんだからな』

 そう言うと黒い稲妻が鬼の左腕に巻かれている数珠に収束される。

あの黒い稲妻がアリサの一撃を防いだという事か。

 戦鬼は『おや、俺の武器は?』と辺りを探していると砕けた槍を発見する。

それに溜息を吐くと『まあ人間の武器じゃこの程度か』と首を横に振った。

『さて、お前さんたちは一応“合格”だ。だがそれじゃあいけねえ。ぎりぎり“合格”できた程度じゃこれから先、生き残れねえ』

 『だから』と鬼は笑う。

今までの、友人に語りかけるかのような口調ではなく、はっきりとした敵意を持って。

『ここまでは“素体(おれ)”のテストだ。だからここからは“兵器(おれ)”のテストを受けてもらうぞ!』

 戦鬼が右腕を掲げると空間が歪み、槍が現われた。

いや、それは槍なのか?

刃は戦斧のように幅広く暴力的で、見た事の無い黒色の結晶石で出来ていた。

槍の長さも異常で体長三メートルを優に超す鬼よりも遥かに長い。

 一目で危険だと理解した。

 全身が警鐘を鳴らす。

 逃げろ。あれは駄目だと。

『さあ、生き延びてみせろ!! 我が刃は全て断ち切る冥府の光!! “黒糸威(クロイトオドシ/われ)”に喰われて共に奈落の底へ堕ちようぞ!! <<対竜兵装>>開放!!』

直後、槍に黒き稲妻が宿り、全てを断ち切る冥府の光が叩き込まれた。

 




桜島に到着したリィンたち。そして彼らの前に立ちはだかる脅威。
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