ウルトラマンジード ベリアルの子ら   作:ヨアンゴ

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第四話「選んだ道」Bパート

 

 

 

「――ルカ!」

 

 フワワに手を振って。姫様、などと呼んでくれた相手の前で、腹の虫を鳴らす醜態を晒したルカは。逃げるように星雲荘のエレベーターに向かったその瞬間、切羽詰まった兄の声を聞いた。

 振り返ったその時。決死の形相のリクに、ルカは横合いへと突き飛ばされた。

 

「お兄ちゃ――っ!?」

 

 まず、兄の突然の行動に驚き。ついで、その理由となる光景を見て、ルカは息を詰まらせた。

 フワワの――石化魔獣ガーゴルゴンの口が、開いていた。

 その中に収まっていた、大きな瞳。その恐ろしい単眼を中心に、凄まじい勢いでエネルギーが迸っていた。

 一瞬。ルカが純粋な地球人であったなら、可聴域を越えていただろう高周波の励起音が走り、そして――

 

 兄に突き飛ばされたルカが、重力に引かれて落ちるよりも早く。ガーゴルゴンの――フワワの魔眼から放たれた光線が、丘を両断した。

 

 射線上にあった、星雲荘のエレベーターと……妹を逃すので精一杯だった、リクの姿をも呑み込んで。

 

「あっ……あぁあああああああああああああっ!?」

 

 突然の理不尽に。ルカは涙とともに絶叫した。

 その慟哭が、大地との衝突で遮られると同時。ルカは、人としての姿を捨てる。

 フワワの真下、広い足場となる草原に存在位置を補正して、光量子情報体として保存されていた、本来の姿を解き放つ。

 輝きとともに出現した培養合成獣スカルゴモラの大角は、光線を撃ち終えたばかりのガーゴルゴンの胸の谷間、その中心を起き上がりざまに打ち据えて。芯を捉えた宇宙怪獣の巨体を、何百メートルも打っ飛ばした。

 

「(フワワ、おまえっ! 何で、よくもお兄ちゃんを!?)」

 

 悲しみと、怒りとを込めて。ガーゴルゴンの巨体が大地を揺らし、山を崩す大音声を掻き消す勢いで、スカルゴモラは咆哮する。

 その敵意の視線を一身に浴びながら、ガーゴルゴン――ルカがフワワと名を与えた魔獣は、倒れていた体をゆっくりと起こした。

 

〈見事な一撃でございますね、ルカ様……流石はベリアル様の娘〉

「(聞かれたことに答えろぉっ!)」

 

 痛打で微かに弱った様子を覗かせながらも。未だ図々しく、星雲荘の通信を利用して喋るフワワに対し。スカルゴモラは込み上げる憎悪のまま、その身を滾らせた。

 両の拳を打ち合わせたのを起点にして。その振動に七対の角が共鳴し合うかのように、全身をスカル超振動波で包み込む。

 全方位。近づくだけで敵の組成を分析し、作用し易い振動数の超音波を浸透させ、物質の結合を破壊する。僅かに制御を誤った余波が、今も山肌や大地を爆ぜさせる必殺の態勢を前にして、フワワは焦る様子もなく告げた。

 

〈素晴らしいお姿ですが……忠言致します。それでは先に、ご自身の手で大切な兄君を喪うことになりますよ? ルカ様〉

「(何を言って……っ!?)」

〈フワワの言う通りです、ルカ。誘爆の恐れがあるその技は、一旦解除してください〉

 

 会話に割り込んできたのは、レムの声。

 

〈リクはまだ、生きています〉

「(――っ!?)」

 

 思わぬ希望を告げられ、スカルゴモラは言われるがままに全身の励起状態を解除した。

 直後、視界に投影されたのは、ユートムの撮影したリアルタイム動画――そこに、映し出されていたのは。

 

「(お兄ちゃんっ!?)」

 

 ルカを突き飛ばした姿勢のまま、停止して。その全身を石に変えた、兄リクの姿だった。

 そういえば。ここに着くまでの間に、レムが言っていたことを、スカルゴモラは思い出す。

 

〈先程お伝えしたように。石化魔獣ガーゴルゴンの最大の武器は、その別名通り、魔眼から放つ石化光線です。微かですが生命反応が確認できる今、リクは石に変えられてもまだ、生きています〉

 

 レムの報告に。敵を眼前にしてなお、思わず全身の力が抜けるほどの安堵が、スカルゴモラの裡に生じた。

 だが――石と化した兄は、してやられたという無念と、それでも妹を守れた微かな達成感とを浮かべた表情のまま、固定されて――無事を喜ぶ妹に向かって、微笑みかけてくれることもない。

 

〈その通り。ですので、無差別に暴れられては、その手で兄君を砕くことになりかねません。そうなってしまっては、見るに耐えかねるご不幸だと――〉

「(――黙れ。フワワ、何でこんなことをした)」

 

 通信機越しにフワワが囀るのを、スカルゴモラは怒りを載せた思念で遮った。

 

「(おまえがいきなり攻撃してきて、お兄ちゃんを石にして、何が見るに耐えないだ!? 何を考えてこんなことをしたのか、言ってみろ!)」

〈畏まりました、ルカ様〉

 

 どれほど凄んでみても。スカルゴモラの射程外にいるフワワは、既に痛みも引いたのか。優雅に一礼しながら、怖じける様子もなく答えを述べる。

 

〈予想はしておりましたが、やはりジード殿下はベリアル様の跡を継がぬと……改めて、ご本人様の意思を確認できましたので。ならば、我らにとってその男は、主君の仇に他なりません〉

「(おまえ……っ! やっぱり、騙してたんだな! お兄ちゃんの優しさにつけ込んで……っ!)」

 

 憤怒とともに、一歩前へ。詰め寄るスカルゴモラに、フワワは続ける。

 

〈如何にも。どれほど恨みを募らせようと、ベリアル様に勝利するほどのジード殿下に、私如きが真っ向より敵う道理はございません。ならば騙し討ちを選ぶのは当然ではありませんか〉

「(この……っ!)」

〈……では、何故。即死ではなく、石化させたのですか?〉

 

 怒りの余り。もはや思念ですら言語化の追いつかなくなっているスカルゴモラに変わって、レムが詰問を続けた。

 

〈あなたの石化は解除できます。リクの命を狙うというのならば、何故そのようなリスクを背負う必要があったのでしょうか?〉

「(――っ!)」

 

 レムの言葉は、フワワの本心を問うと同時。逆上したスカルゴモラの頭を冷やさせるための効果を持っていた。

 

〈リクを人質に――あなたは交渉を企てている。違いますか、フワワ?〉

〈……まぁ、そんなところだな〉

 

 ベリアルの子らに対するのとは違う、やや粗野な口調で、フワワはレムの追及に首肯した。

 それから、フワワはもう一度、ルカに対して向き直り――心なし、残忍に笑いかけた、ように見えた。

 

〈ただ、一つだけ宣言しておきましょう。その石化を解くつもりはありません――この先、未来永劫〉

「(――おまえぇっ!)」

 

 その宣告に、スカルゴモラの怒りは再び臨界に達した。

 大地を揺るがしながら、フワワ目掛けて突撃する。こいつの意志なんか関係ない。力尽くで、兄を呪縛から取り戻す――!

 そんなスカルゴモラに対してフワワは、両肩の蛇頭から光線を放つことで迎撃した。

 か細い二条の稲妻光線が、スカルゴモラの肉を灼く。見た目に反して強烈な光線に突撃の勢いを落としながらも、憎しみが痛みを凌駕して、スカルゴモラの進撃は止まらない。

 すると、フワワの両肩の蛇頭が伸びた。距離を詰めて光線の威力を上げるつもりか、と察しながら、しかし反撃のチャンスでもあると、超振動波現象を励起させようとする。

 だが、伸びた頭はスカルゴモラから距離を保ったまま。牽制をしつつも、本体への直進を許すような軌道を描き――そして、スカルゴモラの背後へ抜けようとした。

 

〈ルカ。フワワの狙いは、リクの身柄です〉

「(――っ!)」

 

 レムの助言に、スカルゴモラは方向転換。蓄えていたエネルギーをそのまま灼熱の吐息に変換して、口腔より発射。左肩の蛇頭の胴を灼き切り、墜落させる。

 続けて、右の頭部に対し尾を閃かせる。それ自体が巨岩となった丘の上、倒れたリクの石像を狙っていた挙動が、標的に届く寸前、横からの痛烈な一撃で強引に軌道変更させられる。

 だが、なまじ距離を取らせたのがまずかった。それ以上の追撃が届かなくなったのを目にして、スカルゴモラとしては兄を守るため、後退することを余儀なくされる。

 

〈……本当にお見事ですね、ルカ様〉

 

 残った右の副頭から、なおも破壊光線を浴びせて来ながら。フワワはそんな風にルカを評する。

 

〈最初の一撃と言い、ベリアル様の遺伝子を受け継がれた素晴らしい才覚です。兄君の像を預からせて頂こうかと思いましたが、このまま欲を掻いては仕損じそうですね〉

 

 そんな言葉を境に、フワワは右の頭を引っ込めた。

 

〈ここは一度、退かせて頂きましょう〉

「(逃がすか――っ!?)」

 

 再び前に出ようとしたスカルゴモラを止めたのは、鈍い衝撃だった。

 ――先程、灼熱の破壊光線(インフェルノ・マグマ)で半ばから断ち切った、フワワの左肩の頭部。本体から切り離されたその先端が、なお自律して動き、スカルゴモラの右足に噛み付いて来ていたのだ。

 

〈それでは失礼致します、ルカ様。どうか、次にお目通りの叶う時にも御健勝で〉

 

 別れの言葉を残し、フワワ本体が黄色い光を球状に展開する。

 文字通り足止めをしていた頭を、超振動波で弾けさせ。念入りに踏み殺したスカルゴモラが睨みつけた時には、その球体は凄まじい勢いで離陸していた。

 

「(あぁっ、この、このぉっ! 逃げるな、逃げるなぁっ!!)」

 

 自分も、兄のように飛べたなら。ウルトラマンの飛行能力が、この身にも宿っていたのなら。

 ――だが、そんな力はスカルゴモラにはなく。憎い影が、一瞬でこの星の空よりさらに遠くへ消えるのを、為す術なく見送るしか、ルカにできることは何もなかった。

 

「(あぁあああああああああああああああああああああっ!!)」

 

 地団駄を踏むスカルゴモラの咆吼は、光瀬山の峰を貫き。夜、眠りに就こうとしていた星山市の人々を恐怖させる大音声として、辺り一帯に響き渡った。

 それでも、音を伝える大気、その層の遙か外まで離脱したフワワには。その憤怒と無念の叫びさえも、一切が届きはしなかった。

 

 

 

 

 

 

〈……やはり、星雲荘の設備でも、リクを元の状態に戻すことはできません〉

 

 あの後。迎えに来たライハとペガの助けを借り、リクの変化した石像を星雲荘まで持ち帰り、分析を試みたルカだったが――レムの返事は、何の希望もないものだった。

 

「そん、な……解除できるって、レム、言ったじゃない……っ!」

「――ルカ、落ち着いて」

 

 思わず、システム中枢に詰め寄ろうとしたルカの肩を、ライハが優しく抱き止める。

 だが、そんなライハの表情もまた、暗く沈んでしまっていた。

 ライハにまた、そんな顔をさせてしまったことも悲しくて、悔しくて――ルカは立ち尽くし、思わず溢れた涙を拭う。

 

「レム……どうすれば、リクを助けられるの?」

〈ガーゴルゴンによる石化は、あの魔眼による特殊能力です。魔眼を破壊すれば、その個体に石化させられた者を元に戻すことができます〉

 

 耐えられないように問うたペガ。それに対するレムの返答は、ルカが既に聞かされていた情報だった。

 

「でも……あのガーゴルゴンは今、大気圏外に居るんでしょう?」

 

 泣きじゃくるルカの頭を撫でてくれるライハが、代わって目下最大の問題に言及した。

 

〈はい。光瀬山の高度四百キロメートル上空に、その存在が確認できています〉

 

 レムが告げる事実は、ルカたちを絶望させるのに充分だった。

 高度四百キロメートルの宇宙空間。そこに、ルカの手は届かない。

 仮に星雲荘――ネオブリタニア号で向かったとしても、スカルゴモラにはそこで戦う術がない。

 

「……ネオブリタニア号だけで仕掛けるのは、無謀?」

〈そもそも現在、戦闘行為が可能な状態ではありませんが……仮に万全でも、作戦目標を達成できる可能性は、百万分の一未満です。ネオブリタニア号の装甲でも、ガーゴルゴンの石化光線には対抗できません〉

 

 ペガの問いかけへ、究極超獣から受けた損傷の残るレムは、絶望的な答えを投げ返した。

 

〈機動性で劣る上、こちらの回線に割り込めるガーゴルゴン――フワワの感覚器官が相手では、先手を取ることはできないでしょう。石化光線への対抗策がないことはありませんが、実現には準備に一月以上必要となり、その間、フワワに気づかれずに済むのかという問題も発生します〉

 

 淡々と、判断材料となる事実を――不可能という結論を選ぶしかないような言葉を、レムは並べ立てた。

 

〈AIBにも、既に状況は伝えてあります。ただ、時空破壊神ゼガンもネオブリタニア号同様、前回受けたダメージの修復が完了しておらず、戦線投入が不可能です〉

 

 つまり――地球は、詰んでいた。

 この瞬間、ウルトラマンジードの守る地球は、石化魔獣ガーゴルゴン・フワワにより、制圧された。

 咄嗟の状況下、リクが我が身よりも、妹の無事を優先したために。

 兄自身と、兄が守ってきた世界。伊賀栗家や、AIBや、スイさんの居る、ルカが笑って過ごせる居場所にしようとしてくれたこの地球が。他ならぬルカが居たために、かつてない危機へ陥ってしまった。

 

〈ですが、フワワにはリクの身柄を利用して、交渉したい事柄があるようでした〉

 

 ゆっくりと、胸の内を淀ませていたルカの耳に、忘れかけていた事実をレムが流し込んだ。

 

〈内容の予想はついています。我々だけで対処するなら、その時が最大のチャンスとなるでしょう〉

 

 絶望に沈んでいた仲間たちを鼓舞するように、レムは告げる。

 

〈……とはいえ、そもそも正攻法は、手に余るなら救援を求めること。光の国に向けて、SOSの発信を準備しています〉

 

 それから、さらにわかり易く、かつ、勝算の大きな策をレムが述べることで、星雲荘の中に希望が戻り始めた時だった。

 

〈――ルカ様。この声が、お耳に届いておりますか?〉

 

 新たな声が、中央司令室に通信として響いたのは。

 思わず、ライハの腕を抜け出して。ルカは声を張り上げた。

 

「フワワ!」

〈……今もその名でお呼び頂けること、心より嬉しゅう存じます〉

「ふざけるな……っ!」

 

 怒りに燃えながらも、ルカはその呼び名を変えようとは思わなかった。

 他の誰でもない。ガーゴルゴンという種のどれでもない。兄を裏切ったのは、ルカがフワワと名付けたこのガーゴルゴンなのだと、強く心に刻んでいたから。

 

〈――要件は何ですか、フワワ〉

 

 興奮するルカに代わって、レムが交渉の矢面に立った。

 

〈口を挟むな、報告管理システム如きが〉

〈レムです。ルカがあなたをフワワと名付けたように、リクが私にくれた名前――それが今の私の識別コードです。元軍団長とはいえ、謁見しているわけでもないのに、一戦力に過ぎないあなたがベリアルの姫と直接、細々と話すのが適切だとでもお思いですか? まずは私が話を預かり、ルカに報告します〉

 

 ……姫はやめて、とは、流石に口を挟む気にはならなかった。恥ずかしがって話を止めているような場合でも、気分でもない。

 

〈……良いだろう、レム。ルカ様をよく補佐するのが、今の貴様の役割というわけだな〉

〈私のマスターは、あなたが石にしたリクです。ルカの力となることは、彼の願いの一つですから〉

〈そうか。では、おまえもよく聞くと良い――私がその気になれば、いつでもジード殿下の命を吸い尽くせるということを、肝に命じてな〉

「――っ!」

 

 早速の脅しに、ルカは息を呑んだ。

 石となった兄は、星雲荘の設備でバイタルチェックを続けている。まだ、生きていることは間違いないが、それは――本来、石にした相手のエネルギーを吸い尽くすというガーゴルゴンの食性が、実行されていないからに過ぎないことを、レムに聞かされ知っていたから。

 

〈ルカ様にお伝えしろ。地球時間で六時間後、先程の場所へお迎えに上がると。それに応じてくだされば、兄君は石のままでも、この先も生き永らえることができるとな〉

〈――やはり、そういうことですか〉

「……どういう、意味?」

 

 レムが引き受けてくれていた交渉に、ルカは思わず口を挟んだ。

 

〈ルカ様……ベリアル様のご息女で在られる御身にこそ、我らテラー・ザ・ベリアルの新たな盟主となって頂きたいのです〉

 

 そんな疑問に、フワワは丁寧な答えを返した。

 

「……え?」

〈ベリアル様という象徴を喪ってから、我らの統率は大いに乱れました。特に、星人どもは喧々囂々。誰が軍を率い、仇討ちに向かうのか。そも、ベリアル様の仇とは言え、ご子息で在られるジード殿下に刃を向けるべきなのか。そうして分裂している間に、光の国と言わず方々から反撃を受け、個々では逃げ延びるしかないほどに落ちぶれた始末〉

 

 自業自得としか思えない話を聞かされることで、ルカにも徐々に、話の流れが読めてきた。

 

〈そんな中、現れたのが御身です。ルカ様。ベリアル様の血を受け継ぎ、ジード殿下とは異なり、叛逆者でもない。貴方様が新たな象徴、怪獣女帝として君臨してくだされば、我らはかつての栄光を取り戻すことができる! 父君であるベリアル様の無念を、晴らすことができるのです!〉

「そんな勝手な話――知らないよ! 私はベリアルのことなんか、死んで当然って思ってるんだからっ!」

〈ルカ様……いえ。そのような環境で育っては、ベリアル様を悪く思うのも当然でしょうね。ですが、私とともに来てくだされば……父君がどれほど偉大な御方であられたのか、じっくりと教導して差し上げましょう〉

「ふざけんな……っ!」

〈フワワ。言った通りでしょう。要件をまず私が預かる方が、適切であると〉

 

 ベリアルに対する侮蔑と拒絶。それを目の当たりにして、一方的な哀れみを見せるフワワの、余りの身勝手さに。暴発寸前のルカと入れ替わるようにして、レムが再び割り込んだ。

 

〈現状、そちらの手札はリクの命だけ。一方的な脅しだけで、このように本人が拒否している要求を、そう簡単に呑ませられると本気で考えているのですか?〉

 

 最大の切札と言える交渉材料を手にしているフワワに対し。しかしレムは、それでは足らないとばかりに詰め寄る――おそらくは、さらなる情報を引き出すために。

 

〈……ルカ様が兄君をお慕いしていることは、私にもよく理解できている。貴様のマスターでもあるその命だけで、こちらの要求を通すには足りると思うが?〉

〈どうでしょうね。最悪、リクが死んでも、光の国ならば蘇生することも可能かもしれませんので。まだ充分、拒否を検討する余地はあります〉

 

 とんでもないレムのハッタリに、ルカたちは揃って息を止める。

 かもしれない、なんて。そんな可能性止まりの保険で、兄の命を危険に晒すなど。ルカには到底認められない。

 だが。今、そのことを声に出してレムに抗議すれば――つけ込まれる弱味を強調するだけになってしまうことは、理解できていたからこその、沈黙だった。

 そんなこちらの心理が、どこまで読まれているのか不明なまま。フワワはレムの挑発に応えた。

 

〈ならば……このまま、この星に残り続ければ危険であることをお伝えしてくれ。先程ノワール星人に関して話した情報は、全て真実なのだ〉

 

 音声が引き続き流されていることには、気づいているのかいないのか。レム相手には初めて見せる真摯な口ぶりで、フワワは告げる。

 

〈我が軍団が壊滅した今、奴らからルカ様をお守りする組織力を確保するには、ベリアル様の後継者として、数多の並行宇宙に散らばった兵を集めて頂く必要がある。……高慢な星人どもを束ねるには、血筋という権威が不可欠なのだから〉

〈なるほど。そこで怪獣であるルカを指導者に擁立することができれば、そのままあなたや、怪獣全般の組織内での地位向上にも繋げられると、そういう目論見ですね〉

 

 ルカを案じるようなフワワの言い分を、レムはそう切って捨てた。

 

〈貴様――! たかがシステム如きに言わせておけば……!〉

〈あなたの主張はわかりました。私はルカに、光の国への救援要請を提言するでしょう。仮にリクの命を奪われても蘇生できるよう、そしてノワール星人の侵略に備えるために〉

〈ほざけ。管理者気取りで、ヒューマノイドばかりを厚遇するウルトラマンどもが、本当にルカ様のために駆けつけると思うのか!? 無節操に数多の並行宇宙に活動範囲を広げて、勝手に手一杯になっているような連中が……その星の文化であると、ノワール星人のような奴らを捨て置く連中が、本当に頼りになるとでも……貴様、それでも元は我が軍の船か!?〉

〈どうでしょうか。例えば地球人は、ウルトラマンが怪獣を倒さない、何をやっているのだと、不満を感じているようですが――厚遇しているように見えるのは、主観の問題かもしれませんよ〉

 

 必死さを滲ませたフワワを、なおもレムが煽る。

 

〈それは、ジード殿下とルカ様を指しての言葉か!? 地球の蒙昧な猿どもめ……!〉

〈どうでしょう。少なくともリクは、保護を求めたあなたのことも守りたいと、そう言っていましたから〉

 

 心なし。機械的なレムの返答が、やや早口になったように聞こえた。

 

〈……ジード殿下に、そのような甘さがあるから。私がベリアル様の仇討ちを完遂することになったのだ〉

 

 フワワが、絞り出すように応えた後。沈黙が星雲荘の中を漂ったのを受け、レムが問いかける。

 

〈……以上で終わり、ということでよろしいでしょうか。ならば回線を閉じさせて頂きますが〉

〈待て――光の国への救援信号など出してみろ。その時には地球ごと、貴様も石に変えてやる〉

〈……ルカも、ですか?〉

〈やむを得まい。本来のお姿を運ぶのは少々骨だが、説得に応じて貰えぬのであれば、強硬策で連れて行くまで〉

 

 告げてから。レムが微かに言い淀んだ様子に気づいたように、フワワは含み笑いを漏らした。

 

〈そうか……そうだったのだな。私も手緩い。人質の数が足りなかったということか〉

〈もう撃つつもりですか?〉

〈さあな。貴様には随分と苛立たされたが……だが、このまま撃てば、貴様も同時に光の国へSOSを送るのだろう? それから地下にいらっしゃるルカ様を、貴様の中から掘り出すのも手間だ。……ただ、貴様が次元間通信を行えば、私にもわかる。それを踏まえて、ルカ様にお伝えしろ。兄君の生存を望まれるのなら、私とともに来るように、と。お気に召さないのなら、いらっしゃってからどうぞこの眼をお潰しくださいとな〉

 

 そう言い残して、フワワからの通信は終了した。

 

「め……めちゃくちゃ怒らせちゃったよ!?」

 

 開口一番。ペガが、レムの対応にそう抗議した。

 

〈ですが、あちらの弱味も見えました。どうやらルカを石化することにも然程の抵抗はないようですが、スカルゴモラの状態では、運ぶだけでも苦労するため、可能であれば避けたいと――〉

 

 ペガの批難を軽く受け流し、レムは言う。

 

〈聞いていた通りです、ルカ。どう考えますか?〉

「……明日、フワワに会うよ」

 

 ルカの返答に、ペガとライハが勢いよくルカを見た。

 

「そこで、フワワの目を潰す。それで、お兄ちゃんを助けてみせる……!」

「で、でも……リクだけじゃない。ゼガンも、ネオブリタニア号も、戦えないんだよ!? ゼロや、他のウルトラマンだって居ないのに……!」

「――お兄ちゃんは、何度もそんな中で戦っていたんでしょ?」

 

 ペガの不安に返しながら、ルカは背後に安置された兄の石像へと向き直った。

 

「私が……フワワに気を許しすぎて、お兄ちゃんを油断させたのに。私を庇って、お兄ちゃんは石にされた。……だから、私が代わりに戦わなくちゃいけないの。たった一人でも、お兄ちゃんがそうして来たみたいに」

「ルカ……」

 

 決意を表明するルカに、ペガは押し黙った。

 その肩を、ぽんと叩いたのは、ライハだった。

 

「ルカは一人じゃないわ――まだ、私たちが居るもの」

「ライハ――!」

「言ったでしょ。あなたの手伝いをするために、私はここにいるの」

 

 ライハのくれた、暖かい言葉に。まだ、どこか虚勢を張っていたルカは、その空ろだった意気の中身が、確かに充たされるのを感じた。

 

「レムも、ペガも。協力してくれるわよね」

 

 ライハの呼びかけに、残る仲間たちも賛同を示した。

 全ては、リクを取り戻すために。星雲荘は、今許される全力を、ここに尽くすことを決めた。

 

 

 

 

 

 

 それから徹夜で、レムが有する限りのガーゴルゴンという怪獣の情報を読み漁り。映像記録を参照して、ひたすら対策を重ねていたところ。

 気がつけば、フワワの指定した時刻まで、残り一時間を切っていた。

 光瀬山へ向かう前に、腹が減っては戦はできぬ。眠れていない分の体力も補うように、ルカは買い溜めしてあったレトルトのハンバーグを、一気に三つ平らげた。

 

「……本当は、ね」

 

 そんな食事の準備をして。隣で一緒に御飯を食べながら見守ってくれていたライハが、ふと口を開いた。

 

「結局、私には、あなたたちみたいな強い力がないから。レムみたいに、頭が良いわけでもないし……」

「ライハ……」

「ごめん、私に気を遣わせてる場合じゃないんだけど。でも……全部、あなたたちに背負わせちゃって。申し訳なく思う」

「そんなことないよ、ライハ」

 

 急に、珍しく気弱な様子を見せたライハに。今度は自分が励ます番だと、ルカは小さく首を振った。

 

「だって背負うも何も、これは元々、私たち兄妹の問題。なのに、ライハたちは少しでも軽くしようって、手伝ってくれてるんだよ?」

 

 フワワの狙いはベリアルの仇討ちと、その血筋の回収。狙いは完全にリクとルカだけで――仮に、レムを例外としても。それ以外の地球上の他の全ては、ただ巻き込まれただけに過ぎないのに。

 本当は、リクが石になったことで、ルカの心は孤独に折れてしまいそうだったけど――ライハは、情けなく泣くばかりのルカを、優しく抱き締め、励ましてくれた。

 先んじて心配してくれたペガも、こうして戦う力を蓄えるための御飯を用意して、体の芯から温めてくれた。

 ルカの世界の中心は、リクだとしても。ルカの居場所になってくれるのは、リクだけではない。

 その事実を、改めて感じられたからこそ。ルカはまだ、絶望せずに居られるのだ。

 

「お兄ちゃんの戦いを、ずっと見てきたライハたちが一緒に考えてくれたから。フワワへの対策だって……必勝法は見つからなかったけど、それでも、色んなことが考えられたし」

 

 安心して貰うための決定的な言葉を用意できなかったことに、少し語気を弱めながらも。ルカは彼女の目を見て、力強く宣言する。

 

「だから、心配しないで。私が必ず、お兄ちゃんを元に戻してみせるから!」

「……うん、それもお願い。だけど、ルカ。あなたも絶対、無事に帰ってきて」

 

 ライハがそう、祈ってくれるのに。ルカは胸がいっぱいになる心地だった。

 

「ろくに力も貸せないのに、わがまま言ってごめんね。だけど……」

「わがままなんかじゃないよ。ありがとう、ライハ」

 

 ライハが、心から告げてくれた願いに。ルカもまた、心から御礼を述べた。

 

「そうだ」

 

 ただ、心配してくれるのは嬉しくとも。この先もずっと、ライハに無力感を覚えていて欲しくはない――そう考えたところで、ルカは一つ閃いた。

 

「ライハ。私が帰ってきたら教えてよ、カンフー! そしたら私、いっつもライハの力を借りて戦えるし……この先、ノワール星人が私を攫いに来ても、格好良く返り討ちにできちゃうかも!」

 

 拳を突き出したルカの提案に、ライハは少し目を丸くしていたが――やがて、ふっと口の端を持ち上げた。

 

「そうね……約束しましょう。帰ってきたら、弟子にしてあげる。だから……絶対無事に、戻ってくること」

「うん、約束する!」

「……びしばし(しご)くから、そのつもりでね。ルカ」

 

 最後、ライハの付け足した注意喚起に、少し肝が冷えたような心地にもなりながら。食事を終えた二人は、ごちそうさま、と揃って手を合わせた。

 

「ルカ、気をつけてね」

「うん。ありがとう、ペガ。ご飯、美味しかったよ」

「半分レトルトだけどね……よかったら今度、コツを教えるよ」

「やった! お兄ちゃんの好きな料理とか知りたいな」

 

 恥ずかしがって、一人影の中で食事を行っていたペガ。彼とそんなやり取りを交わしたルカを、優しく見守ってくれていたライハは。そっと、レムに呼びかけた。

 

「レム。ルカのサポートをよろしく」

〈任せてください、ライハ〉

 

 答えたレムの出現させた転送用のエレベーターに乗り込んだルカは――決意の眼差しで、石化したままのリクを見た。

 

「……行ってくるね、お兄ちゃん」

 

 必ず、兄の笑顔を取り戻す。

 この名とともに、託された数多の願いを背負い、そう決心して。ルカは、臆することなく戦場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 暁に――明るい星が、堕ちて来る。

 培養合成獣スカルゴモラ――本来の姿に戻って待ち構えていた、ルカの前へ降り立った輝く球体。それは地上に激突する寸前に(ほど)けると、中から三つ首の宇宙怪獣を出現させた。

 

〈――本日もご機嫌麗しゅう、ルカ様〉

「(ううん。全然良くないよ、フワワ)」

 

 地球を踏みつけるようにして正体を現したフワワに向かって、スカルゴモラは不機嫌のままに睨みを返した。

 ガーゴルゴンには強靭な再生能力が備わっている――その生態は既に承知していたが、昨日焼き切った左肩の頭部も、胸に刻んでやった角の痕も、何事もなかったかのような万全の姿をフワワは取り戻していた。

 

「(おまえのせいで、今もお兄ちゃんは石のままだ。絶対、元に戻させて貰う――!」

〈やはり――大人しく付いてきては頂けませんか……〉

 

 嘆く素振りを見せながらも。流石に抵抗を予想していたのだろうフワワは、重心を下げ、二又の尾が揺らめく臨戦態勢を見せていた。

 ……光瀬山の周辺は、既にAIBが政府に働きかけて封鎖している。昨夜のスカルゴモラの咆哮が呼び寄せた一般社会の調査――という名の、無自覚な自殺志願者が踏み入ることはない。

 そうして余人を排した決戦の地で、互いに前傾姿勢となった二体の怪獣が向かい合っていた。

 

〈ですが、その意志の強さもまた、ベリアル様の血の顕れでしょう。私は喜ばしく思います〉

 

 そうして、魔眼こそ晒さずとも。残忍に笑うかの如く口を開いたフワワは、甲高い獣の吠え声を漏らしながら、通信機越しには気取って喋り続ける。

 

〈その頑なさも、ベリアル様の偉大さをご理解くだされば――父君が果たせなかった、全宇宙の支配者となる大望を今度こそ実現するための、確かな力に転じるでしょう。不肖の身で恐縮なれど、そのような御方を教育させて頂くのが楽しみでなりません〉

「(興味ないよ、宇宙の支配とか。私は留花、朝倉ルカ。この大地に根を張り、どんな困難にも留まって、花を咲かせる――そんな願いを込めて貰った、朝倉陸の妹だから!)」

 

 かつて、この場所で。リクが教えてくれた、この名に託された想いを、今度は自ら口にして。

 朝倉ルカとして生きること。それが、己の選んだ道だと告げるスカルゴモラの咆哮が、開戦の合図となった。

 

 培養合成獣スカルゴモラは、計十四本の角にエネルギーを送り込み、全身からあらゆる周波数の超音波を放射。対して石化魔獣ガーゴルゴン=フワワは、両肩の口から破壊光線を繰り出した。

 

 大気中において、光の屈折率は本来、空気の疎密性に左右される。スカルゴモラが全方位に発した音エネルギーによる圧力はある程度、光線への壁としても機能するはずだったが――音速では、光速には遠く及ばない以上、限度はある。反射率を解析して打ち返す調整ができない、球状へ拡散する超音波の出力では、収束された青い稲妻が、大気を掻き分けるのを止められなかった。

 

 結果として。フワワの初撃を甘んじて受けながらも、スカルゴモラは走り出す。

 

 ――石化魔獣ガーゴルゴンの生態には。ヘビ科の一部が持つピット器官にも似た、エネルギーの偏在を感知する能力を主として、周辺の状況を把握する特徴があるという。

 

 全身から超音波を発し、周辺の大気を熱している今のような状態なら、その正確な位置情報をフワワから隠す効果が期待できるとレムが唱えていたが――体の芯から頻繁に逸れる照射を見るに、その推測はおそらく、正解だった。

 フワワの放つ稲妻光線は強力だが、スカルゴモラもタフネスが自慢だ。防げずとも、ほとんど急所を外れているのなら、この威力だろうと無視することも難しくはない。

 

 このまま、敵がスカルゴモラを石化するのを渋る間に、この光線に耐え、肉弾戦へと持ち込んでしまえば。主たる感覚器官を惑わされている上、触れるだけで重傷を負うことになるフワワが、いくら再生能力に優れていようと。一気に優位へ立つことができる――!

 

 そんな狙いは、フワワもお見通しなのだろう。石化魔獣の、二股の尾が動いた。昨日、怪獣同士の激突で崩れた山から巨大な岩石を飛ばし、スカルゴモラを牽制しようとする。

 有効打を期待してのものではなく、距離を稼ぐため、一瞬でも視界を奪おうとしての攻撃を――スカルゴモラは、その主導権を奪い取ることで対処した。

 宙に浮かぶ岩石に、絶妙に調整した二種類の超音波を照射。固形の岩を激しく加熱して溶岩へと変えながら、吸収されない周波数の音波を猛烈な勢いで叩きつけることで、指向性を持たせて吹き飛ばしたのだ。

 

 音波の衝撃に、打ち返された溶岩が砕けたところで、既に熔解していれば大差はない。ショッキングヘルボールの応用技として、溶岩弾が降り注いだ。過酷な宇宙空間に耐えるガーゴルゴンといえど、質量と高熱を持った物体に纏わりつかれ、動きが鈍ることを避けたいのか、両肩からの射線がスカルゴモラ本体を外れて、溶岩弾を撃ち落とす。

 

 迎撃しながら、距離を稼ぐように後退するフワワに対して――スカルゴモラは、今が好機と全身のエネルギーを口腔へと集束した。

 

 接近戦に持ち込む、というのはフェイク。超振動波や、尾による攻撃の射程にはまだ届かない――そう油断しているだろうフワワの顔面ごと、忌まわしい魔眼を灼き尽くす!

 

〈……これでやっと。御身に触れられますね、ルカ様〉

「(――っ!?)」

 

 衝撃に、息が詰まった。

 意識外から下顎を貫く衝撃に、スカルゴモラが天を仰いだ時には。まさに発射準備を終えたところだった必殺の熱線、インフェルノ・マグマが、太陽に先んじて地を照らす、劫火の柱となって伸びていた。

 

 やられた、と気づいたその時には。スカルゴモラの喉輪を咥えたフワワの左の頭が、今度は猛烈な勢いで縮小した。

 

 溶岩弾を蒸発させたフワワの射撃は、右肩の頭だけで行われたものだったのだ。スカルゴモラが周辺へソナーのように展開していた超音波を、インフェルノ・マグマを放つために途絶した瞬間を狙い澄まし。発生した煙幕の中を潜って、密かに伸びていた左の頭がスカルゴモラの下顎を持ち上げ、必殺の一撃の射線を逸らしていたのだ。

 

 そうして、一度に大量のエネルギーを文字通り空撃ちさせられ、一時的に超振動波現象を起こせなくなった隙を衝いて。距離を詰めたフワワの右前脚が、猛烈な勢いでスカルゴモラを襲う。

 

 腕力なら。強大な膂力を誇る宇宙怪獣を、スカルゴモラはなお上回っていた。だが、スカルゴモラの左腕が一本なのに対して、フワワには腕の上に頭がある。故に二撃同時となった殴打の片割れは、スカルゴモラの防御を突破して、胴を強く打ち据えた。

 

「(――っ、この!)」

 

 打たれ強さは、スカルゴモラの長所だった。拘束を払い、反撃に右の拳を繰り出すが、しかしフワワの方が素早い。身軽に大振りの一撃を躱すと同時、翻った二股の尾が、またも二連の衝撃となってスカルゴモラの頭部を捉えた。

 

 一撃一撃ならば、スカルゴモラにとっては軽い打撃。だが時間差で襲い来る衝撃は、スカルゴモラの脳を的確に揺らしていた。

 視界の振れたまま、自らも回転する勢いを載せて尾を繰り出すが、まるで見当違いに山を崩すだけ。

 ならばと、体力の再充填が終わったのに合わせ、全方位にスカル超振動波を撒き散らそうとするが――フワワは既に、その有効射程を脱して、再び破壊光線を浴びせてきていた。

 

「(――っ、きゃああああああああああっ!?)」

 

 足元の定まらぬ不安定な状況で浴びせられた、最大出力の稲妻は。体力の削られたスカルゴモラを転倒させ、体の芯を狙う逃げ場のない痛みで、遂に悲鳴を上げさせるに至った。

 

〈惜しかったですね、ルカ様。最初の組み立ては悪くありませんでしたが……狙いが明白なのに、既に私へ見せた技での不意打ち頼みというのは、流石に(つたな)いですよ〉

 

 クスクスと。嘲笑うようなフワワの声が、通信機を通して直接スカルゴモラの頭に響く。

 言われてみれば、当然だった。何十年もウルトラマンや、数多の異星人との死闘を潜り抜け、怪獣たちを統率してきた高い知能と戦闘力を併せ持つ、百戦錬磨の怪獣軍団長。その裏を、所詮は生後一週間の小娘が掻こうなんて、そう簡単にできるはずがなかった。

 

 ……だからと言って、折れているような場合じゃない。

 ライハたちの想いにも、この背を押されているのに。

 何より、己にとって一番大切な人なのに。

 兄を取り戻すことを諦める理由なんて、この世のどこにも在りはしない――!

 

 そう、自らを奮起させ。光線を浴び続けながらも、スカルゴモラは立ち上がった。

 両手を握り、体の受けたダメージはまだ、大したものではないと自認して。再びフワワの方へと向き直る。

 

〈……平の宇宙警備隊員なら、既に三体は絶命するほどの攻撃を浴びせたのですが――〉

 

 その時、何かを引き千切るような。水っぽい音が渓谷に響いた。

 

〈流石はベリアル様の娘。このまま加減をしていては、今からでも日が暮れましょう〉

 

 振り向いたスカルゴモラが見たのは、中央の口を開き――兄を石に変えた魔眼でこちらを睨む、フワワの姿だった。

 

「(あ――っ、そん、な……)」

〈非礼のほど、何卒ご容赦くださいませ――この星に張られたという根を抜き易くする程度に、少々お命を吸わせて頂きます〉

 

 最早、この状況から、次の一手が覆せるはずもなく。

 フワワの魔眼から再び放たれた、黄色の稲妻を纏った青い閃光に晒されたスカルゴモラは――生きながら、自らの体が動かなくなっていく感覚に呑み込まれた。

 這い上がってくる虚無の気配に、スカルゴモラは必死に身悶えしながら逃れようとして……その微かな動きすら、叶わないという事実を悟る。

 

「(嘘、そんな、そんなっ! あぁ……ごめん、みんな……お兄……ちゃ……)」

 

 そして。最後に、満足な言葉を紡ぐことすらできず。

 ただ、培養合成獣スカルゴモラであった石像だけが、朝日の照らす光瀬山の麓に残されていた。

 

 

 

 







恒例の4話Bパートあとがき、という名の言い訳雑文。



当然のように、「ガーゴルゴンはピット器官にも似たエネルギー偏差の感知を主たる感覚器官としている」「左右の頭部は切断されても自律行動できる」「任意の対象の石化を解除できる」という話が出ていますが、この辺りは多分できそう、という本作独自の解釈でしかなく、公式設定ではありませんのでご了承ください。
もし今後公式の描写と矛盾した際には、個体差ということでお目溢しくださると幸いです。





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